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15/07/27
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2015.07.27 吉村
IF: 10.742
はじめに 生体におけるミエリンの入れ替えはどのような周期や機構で行われているのか? 中枢においてはミエリンの分解や再形成がほとんど行われないのに対して、 末梢ではミエリンの入れ替えがそこそこ起こっている。 しかしミエリンは形成機構に比べて分解機構がほとんど分かっていない。 神経が何らかの障害を受けた場合も、脱髄とミエリン再形成が行われるが、神経切断においてはマクロファージによるmyelin phagocytosisが起こると言われていた。 (神経切断後5-7日で近位側のミエリンは40-50%は脱落する) Phagocytosisでミエリンが分解されるなら、SCはマクロファージに取り込まれる必要があるが、種々のデータをよく見るとミエリンの分解がSC内で起こっているということに気付いた。 過去の報告を調査しても、ミエリンがSC外に分離されてることを直接的に示すデータが出てこない。 仮説:SCにはそれ自体にミエリンを分解する機構が存在する 細胞内成分のバルク分解系といえばオートファジーであるため、これがミエリンの自己分解に関与しているのでは?
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オートファジーは細胞成分やオルガネラを分解するシステムである。
阪大吉森研HPより
SCの内部には、脂質二重膜でミエリンの断片や細胞質を隔離したオートファゴソームが存在している。
M: Myelin debris
SC membrane
APG membrane
C: Cytoplasm
Collagen fibrils
Fig. 2 P10マウスから坐骨神経(SN)を摘出し、 酵素消化で脱髄を誘導し、16h経過後に固定
Fig. 1 SCはオートファジーを行えるのか?
マウスSNを切断後、 異なる日数で遠位側を回収し、 オートファジー関連分子の 発現量変化を解析した。
Atg6
Atg18
遺伝子(A, 省略)および、B タンパク質の発現レベルを比較 ミエリンタンパク質の遺伝子発現は低下しているが、オートファジー関連分子の発現量が経時的に増加している。 C オートファゴソームのマーカーであるLC3-IIの発現量が増加し、基質であるNBR1の分解が亢進している。 他にもリソソーム阻害剤の添加や、摘出した坐骨神経でも確認を行ったが、何れもオートファジーが起こっていることを示す結果となった (D, E 省略)。
F GFP-LC3のトランスジェニックマウスから坐骨神経を摘出後、~10日培養し脱髄を誘導した。 GFP-LC3-IIの発現量が経時的に増加している。 坐骨神経に存在する細胞はオートファジーが可能であり、脱随時に劇的に誘導される。 まだシュワン細胞で起こっているとは言えない。
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Fig. 1
コントロールマウスの坐骨神経では、線維の内部にGFP-LC3の顆粒は認められないが、 切断したものではSCの細胞体の存在する周辺に多数認められる。
GFP-LC3マウスから得られたSCのdissociation cultureにおいても、MPZが発現した細胞において顆粒状のシグナルが認められる。 ミエリンタンパク質をオートファジーによって積極的に分解している
Fig. 3 オートファジーを阻害するとミエリンは分解されなくなるのか? A オートファジー阻害剤である 3-methyladenine (3-MA) Bafilomycin A1 (Baf) を摘出した坐骨神経の培地に添加した。 オートファジーを阻害、あるいはオートファゴソームの分解を阻害すると、MPZ、MBPの分解が有意に低下した。 Bでミエリンタンパク質の遺伝子発現量には変化がないことを確認している。
C Aと同様の実験において、SNをSEMで観察した。 オートファジーを阻害することによって、アクソンの本数に対してインタクトなミエリンが存在する割合が有意に増加した。 オートファジー阻害によるミエリン分解の低下を、 Dでは蛍光染色で、E-Gではdissociation cultureで確認している (省略)。
Lysosomal inhibitor↓
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Fig. 4 オートファジー不能 (Atg7-KO) マウスを用いて確認
阻害剤を用いた解析ではサイドエフェクトを否定できないため、オートファジー実行の必須遺伝子であるAtg7をMpz-Creとの掛け合わせで、末梢神経において欠損したマウスを作成した。 A, B オートファジーを行えないことで、障害後のミエリン分解が進まなくなっている。 C Dissociation cultureでも同様にMpzの細胞内での蓄積が認められる。 Fig. 3の阻害剤添加と比較して、さらに分解が滞っている。 D SEMでも同様にミエリンが分解されずに残存している様子が確認できる。
座骨神経
細胞
座骨神経
Mpz
Fig. 4
切断された座骨神経ではCEが増加しており、オートファジー不能マウスではその量が減少している。 脂質が全般に減少していることについては特に記述はない。 ミエリンはオートファジーによって隔離されただけではなく、その後分解されている。 ミエリン分画を回収する方法でオートファゴソームに包まれたミエリンが回収できるのか?
コントロールと切断した座骨神経をホモジナイズし、シュクロースグラジェントで遠心分離 ↓ ミクロソーム分画のみを除いたもの(F)と、ミエリン粗分画(G) をUPLC-ESI-MSで分析した。
ミエリンが分解されるとコレステロースエステル(CE)が増加することが知られている。 オートファジーによってミエリンが分解されたことを確認するために脂質組成をMSで解析した。
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Fig. 5 オートファジー欠損は神経の修復に影響を与えるのか?
障害を受けた神経では修復を行うためにc-jun依存的にrepair SCへの形質転換が起こることが知られている。オートファジーがこの機能に関与しているかを確認した。 A, B c-Junのシグナルやrepaire SCへの形質転換に関わる各種のタンパク質の発現量が変化した。 C, D オートファジー欠損マウスでは、神経修復に関わる各種の因子の発現量が減少した。
切断後に減少 切断後に増加
プロテオミクス
オートファジーはミエリンの分解のみならず、その後の神経修復にも影響を与える。
Fig. 6 Myelinophagyの分子機構を解析 A オートファジー実行の際にはinhibitorであるmTORの活性が抑制される。その上流と下流の分子のリン酸化が神経障害後に亢進している。 B, C しかしmTORの活性化や阻害はMPZの分解に影響を与えない。 mTORの活性化を誘導することが知られているNRGやInsuinを添加しても同様に分解を抑えられない。 C, D mTOR非依存的にオートファジーを誘導することが知られているCeramideやLithiumを添加した際には、ミエリンの分解が亢進した。 CeramideはJNK依存的にオートファジーを誘導するので、阻害剤を添加するとMPZの分解が低下する。
座骨神経
細胞
細胞
MyelinophagyはmTOR independent pathwayで誘導される。 E, F LC3-IIの発現量が増加することや、Atg7KOマウスではそもそもオートファジーが行えないのでCeramideやLithiumで影響が出ないことを確認している (省略)
上流 下流
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Fig. 7 JNK/c-Junとの関連をより詳細に解析。
C Charcot-Marie-Tooth disease (CMT, ミエリン形成関連遺伝子変異) モデルマウスであるC3マウスのSNでは、オートファジーが亢進している。 神経切断による障害時のみならず、脱髄疾患でも同様にMyelinophagyが起こる。 D 中枢神経でも障害時にはオートファジーが誘導されるかを確認するために視神経を切断した。 (左目眼球から3 mmの部分をカット) 視神経では障害時にオートファジーが亢進しない。 中枢神経でミエリンの分解が起こらない理由は、オリゴデンドロサイトがオートファジーによる処理を行えないからかもしれない。 C, D に関してはさらなる解析が必要。
培養座骨神経 C-Jun: c-fosやATFサブユニットタンパク質と二量体を形成し、転写因子AP-1として細胞増殖、分化、アポトーシス、癌転移など多様な機能に関与する。 JNK: c-Jun N-terminal kinase JNK inhibitor添加 (A) あるいはc-Jun KOマウス (B) いずれにおいても、オートファゴソームの形成が抑制された。 MyelinophagyにはJNK/c-Jun pathwayが必要である。
少し増えている?↑
まとめと考察 末梢神経の脱髄時にはSCが ミエリンを自ら分解する その分解機構はオートファジー である (Myelinophagy) MyelinophagyはmTOR非依存的 にJNK/c-Jun関与で行われる
阻害剤やAtg7-KOマウスを用いた解析でMyelinophagyが起こることは間違いないが、ミエリンはオートファゴソームに偶然包まれるのか、選択的なのかは不明。 さらに後者の場合はその分子機構は何か? 今回のモデルではmTOR非依存的にオートファジーが誘導されたが、ミエリン形成不全モデルであるTrember Jマウスでは、mTORを阻害するとPMP22の分解が亢進するという報告もあることから、全ての神経障害においてmTOR非依存的なオートファジーが起こるとは限らない。 JNK/c-Junを阻害することで末梢神経のMyelinophagyを抑制することができるかもしれないが、脱髄を抑制した方が神経再生が早くなるのか、反対に早くミエリンを処理した方が良いのかはさらなる解析が必要。 CNSの障害時にはオートファジーの亢進は見られなかったが、LC3-IIが存在しており完全には否定できない。これにも更なる解析が必要。
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コメント
mTOR非依存的であるなら、その上流と下流のpAKTやpS6の発現量増加は何を意味しているのか?JNK/c-Junに相関しているのか? オートファゴソーム内にミエリン断片が取り込まれ、分解されることは間違いなさそうだが、オートファジーの機能で「ミエリンをかじり取る」ことは難しそう。 ミエリンをまずは大きく断片化する他の機構があるはず。 著者らも同じ考えを持っているようで、それが模式図に暗に示されている。 オートファゴソームによるミエリンの隔離後に、真に分解が起こっているかは証明できていない。MSの結果からのみでは細胞質でのオートファジー以外での分解や、SCがその後にマクロファージによって分解された可能性が残る。 オートファジーを抑制すれば脱髄を遅らせることができるが、同時にその後の神経修復に関わるrepair SCへの形質転換も低下してしまうので、現段階では抑制と亢進のどちらが良いかという判断はできない。 末梢神経の脱髄全般でMyelinophagyが起こるのか? CMTマウスで確認を行っているが、このマウスのSCでオートファジーが起きていることを確認していない。