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1 ISEP News Letter 2012. No.1 ピックアップ・レポート ○「エネルギー・環境に関する選択肢」の論点と問題点 ―日本のエネルギーシステムの抜本改革― (主席研究員 松原弘直) ○動き始めた電力システム改革―再エネ電力大幅拡大への期待― (主任研究員 船津寛和) ○IEA Wind Task 28 専門家会合「風力発電プロジェクトの社会的受容」 (研究員 古屋将太)

ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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ISEP News Letterは、四半期ごとにISEP会員を対象として発行する環境エネルギー政策研究所の活動報告です。

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Page 1: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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ISEP News Letter 2012. No.1

ピックアップ・レポート

○「エネルギー・環境に関する選択肢」の論点と問題点

―日本のエネルギーシステムの抜本改革―

(主席研究員 松原弘直)

○動き始めた電力システム改革―再エネ電力大幅拡大への期待―

(主任研究員 船津寛和)

○IEA Wind Task 28 専門家会合「風力発電プロジェクトの社会的受容」

(研究員 古屋将太)

Page 2: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■2012 年度第 1 四半期 活動概要

4 月 4/27 NHK復興サポートシンポジウム「福島発エネルギーシフト」:

所長の飯田がパネリストとして登壇

4/16 プレスリリース:地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会中間報告書に関

する意見書

4/17 ブリーフィングペーパー:原発を再稼働しなくても今夏の電力は足りる(関西電力版)

4/18 ブリーフィングペーパー:ドイツは自然エネルギーへのシフトを継続する

4/25 国会エネルギー調査会準備会スタート: 事務局を担当

4/23 ブリーフィングペーパー:原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる

4/27 プレスリリース:自然エネルギー固定価格買取制度がスタート地点に立ったことを評価

する

4/28 「脱原発をめざす首長会議」設立記念総会:

所長の飯田が講演

5 月 5/1 「自然エネルギー白書 2012」発刊

5/24 プレスリリース:eシフト声明-恣意的な「エネルギーミックス選択肢」

5/31 プレスリリース:エネルギーシナリオ市民評価パネル「エネルギー・環境のシナリオの

論点」

6 月 6/4 FIT制度による負担と投資について考えるワークショップ共催

6/9 MEEC in SAGA開催

6/10 MEEC in 若狭若者編開催

6/30 プレスリリース:REN21レポート「自然エネルギー白書 2012年度版」公表

Page 3: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■2012 年度第 1 四半期 活動レビュー

2012年 4月から 6月にかけての第 1四半期の ISEPの活動は、2010年から毎年

発刊してきた自然エネルギー白書の最新版の『自然エネルギー白書 2012』が発刊

され、3.11以降の自然エネルギー政策の激動の 1年を振り返りました。

また飯田が特別顧問を務めた大阪府市統合本部のエネルギー戦略会議では、ブリ

ーフィングペーパー「原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる」を参考に発言し、

関西電力の需給問題と再稼働に対して大きな影響を与えました。

ISEPが事務局を務める経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会の

有志委員を中心とした基本問題委員会自主的分科会は、国会議員の超党派の「原発

ゼロの会」とともに国会エネルギー調査会準備会を設置し、エネルギー政策の問題

を更に深めることを目指しています。

4月末には調達価格等算定委員会において買取価格が決まり、7月1日からは ISEPが制定まで10年間

携わってきた固定価格買取制度の買取が始まっています。原子力政策においては原子力安全規制委員会の設

置法が成立し、原子力行政の見直しがすすめられています。第2四半期は持続可能なエネルギー社会に向け

て、その具体化を大きく進める第一歩とすべく、引き続き研究・政策提言活動を展開していきます。

所長 飯田 哲也

■研究員からのコメント

日本の新たなエネルギー政策の議論や再エネ特措法、電力システム改革など大きな動きがある一方で、自

治体による取組みも進んでいます。京都府と京都市は 2012年 4月から大規模建築物の新築・改築時に自然

エネルギー導入の義務化を施行しています。

日本の自治体ではこれまで強力な自然エネルギー促進策がほとんど見られませんでした。首都圏の自治体

では 2008年ごろから大規模建築物の新築・改築時に自然エネルギーの導入が可能かどうかの検討を義務づ

け、報告書を提出させる制度を導入しました。一方海外ではスペインのバルセロナを皮切りに 2000年ごろ

から自然エネルギー義務化が広まり、スペインや他国の施策にも発展してきました。

京都府・京都市の制度では導入義務量は小さいものの、大きな意義があります。義務の対象は 2,000 平米

以上の建築物であり、導入義務量は太陽光発電ですと3kW 程度(年間 3 万 MJ 分)となります。自然エネ

ルギー導入のインセンティブを与える再エネ特措法とは異なり、この制度では大規模な建築物を作るのであ

れば自然エネルギー導入が当たり前となることが重要です。発電設備だけでなく太陽熱温水システムのよう

な熱利用設備も義務の達成手段として認められていることも大切です。京都の再エネ義務化制度は地球温暖

化対策条例の中に位置づけられており、3.11より前の 2010年に決定されていたことも特筆すべきであろう。

今後はバルセロナの例のように京都を起点として他の自治体に広まり、国の施策に影響を与えることも十

分考えられます。すでに東京都は「東日本大震災を踏まえた今後の環境政策のあり方について 答申」にお

いて自然エネルギー義務化制度の検討を明言しています。

国とともに自治体の最新の動向を引き続き追跡し、支援していきます。 主席研究員 山下 紀明

Page 4: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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「エネルギー・環境に関する選択肢」の論点と問題点 ―日本のエネルギーシステムの抜本改革―

主席研究員 松原 弘直

(1) エネルギー政策の抜本的見直し

3.11 の東日本大震災による福島第一原発の深刻

な原子力事故により、原子力政策はもとより、日本

のエネルギー政策全体の見直しが行われています。

2010 年に閣議決定された現行のエネルギー基本計

画を始めとして、原子力政策大綱、地球温暖化対策

およびグリーン成長戦略を大幅に見直すため、革新

的エネルギー・環境戦略を策定するとして、2011

年 6月には「エネルギー・環境会議」が内閣府に設

置されました(事務局:国家戦略室)。このエネルギ

ー・環境会議では、2011年 7月の段階で「原発への

依存度低減(脱原発依存)のシナリオ」および再生可

能エネルギーを始めとする「分散型エネルギーシス

テムへの転換」が大きな方向性として決まっていま

す。

その後、発電のコストを検証する「コスト等検証

委員会」が 2011年 12月に報告書を出し、これまで

経済性が他の電源に比べて優れているとされていた

原子力発電の発電コストが、事故のリスク等を考慮

すると現行の火力発電所と同じレベルまでコストが

高いと評価され、事故リスクやその保障金額を想定

すれば、さらに経済性が悪化することが明白になり

ました。

2011年 10月にスタートした経産省が事務局を務

める総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会で

は、エネルギーミックスの選択肢に関して検討が行

われましたが、最初の段階から 2030 年時点での原

子力などの電源ミックスの目標値が議論され、本来

的なエネルギーシステム改革の在り方や原子力発電

の根本的な問題点や差し迫った気候変動リスクおよ

び化石燃料などのエネルギー安全保障に関する議論

はほとんど行われない状況でエネルギーミックスの

「選択肢」の議論が先行していました。そのような

状況の中、基本問題委員会の有志の委員が中心とな

り、自主的な基本問題委員会が定期的に開催される

ようになり、そこで本質的な議論が行われる様にな

りました。

(2)「選択肢」の論点と問題点

2012 年 6 月に入り、これらの検討の場でのタイ

ムリミットが迫る中、基本問題委員会では「エネル

ギーミックスの選択肢の原案」が策定され、経済産

業大臣から 4つの選択肢が示された。それが、2030

年時点での原子力比率を「ゼロ」「15%」「20~25%」

とするシナリオと、社会的コストを反映した経済シ

ステムに任せて目標は定めないという 4つの選択肢

です。これを受けてエネルギー環境・会議では、以

下の 3 つの選択肢を国民に提示し、国民的議論を 8

月まで行うこととなりました。

① ゼロシナリオ:2030年までのできるだけ

早い時期に脱原発を実現

② 15 シナリオ:原発を 40 年運転停止基準

で廃止するが、原発を維持する。

③ 20~25 シナリオ: 原発の増設を行い、

将来的にも原発に依存する。

この「選択肢」の問題点は原子力比率を選択肢とし

たことで、脱原発依存を実現するには、いつまでに

脱原発を実現するかを、ロードマップと共に示すべ

きです。さらに、省エネルギーと再生可能エネルギ

ーを柱とする革新的エネルギー・環境戦略を策定す

ることが求められているのではないでしょうか。

【詳しくは】特集:新しいエネルギー政策の選択肢

http://www.isep.or.jp/library/3413

Page 5: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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動き始めた電力システム改革 ―再エネ電力大幅拡大への期待―

主任研究員 船津寛和

(1)電力システム改革の基本方針(案)

7月 13日に開催された「第 8回電力システム改革

専門委員会」において、電力システム改革の基本方

針(案)が提示されました。この基本方針案は、小

売全面自由化(地域独占の撤廃)、発送電分離(送配

電部門の絶対的中立性・公平性の確保)、送配電部門

の「広域性」の確保、「節電(需要抑制)」の供給電

源化、発電の全面自由化(卸規制の撤廃)、卸電力市

場の活性化、「電力」の枠を越えたエネルギーサービ

スの融合化・ボーダレス化、託送制度の見直し(計

画値同時同量の導入)などの非常に重要な方向性と

具体的手法を掲げており、画期的な方針案であると

評価できます。(基本方針案に残る若干の問題点に対

する意見書は別紙参照)

(2) 家庭を含む小売全面自由化

従来から、高圧・特別高圧の大規模な需要家は自

由化されていたため、新電力(PPS:特定規模電力

事業者)から電力を購入することが出来ましたが、

今後は家庭等の低圧需要家も自由化されます。私た

ち消費者は選択の権利を得たと同時に、持続可能な

エネルギーを選ぶ責任を負いました。原発や化石燃

料などの電力は買わない、再生可能エネルギーの電

力を買う、そのような消費者の力がエネルギーと社

会のあり方を決める時代となりました。

(3) 発送電分離(送電部門の中立化)

従来は電力会社が「発電」「送電」「小売」を 1社

で行ってきました。「送電網」は公共インフラである

ため、それが公平・中立的に扱われない場合には「発

電」「小売」での競争が阻害されます。「発送電分離」

には複数の段階があり、現在は「会計分離」です。

方針案では「機能分離(ISO 型)」「法人分離」の 2

案が示されています。機能分離とは送電網の所有権

は元の電力会社に残したまま、電力系統の運用を別

組織に分離するという方式であり、法人分離とは送

電部門を「別会社」(ただし資本関係は許容)にする

方式です。さらに所有権分離という段階があります

が、これは資本関係も失くすものであり全くの別会

社となります。

(4) 送配電部門の「広域性」の確保

従来、地域別の電力会社は地域内の電力バランス

を取ることだけを考えていました。再生可能エネル

ギーによる電力を拡大するために最も重要な改革が

「系統の広域運用」です。(同じく重要な優先接続・

優先給電は固定価格買取法ですでに定められていま

す)。1本の風車は風により止まったり回ったり出力

が大きく変動します(太陽光発電も同様)。しかし広

い地域で見ると多数の風車の変動はならされます。

またその変動は日本全国の大きな需要で吸収するこ

とが可能となります。これが広域化の効果です。

(5) 「節電(需要抑制)」の供給電源化

節電は最もクリーンな電源です。従来、需要側は

気ままに変動し、供給(電力会社側)がそれに追従

するかたちでバランスを取ってきました。これが高

コストで脆弱な電力システムを生んだ要因でした。

今後は、節電が発電と同じように価値あるものとし

て評価されます。さらに「節電」だけではなく、再

生可能エネルギー電力の変動を需要側で吸収(能動

化)することにより、さらに再エネを増やすことに

つながります。

再エネ電力のポテンシャルは天候や技術が決める

のではなく、制度が決めるものです。

Page 6: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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IEA Wind Task 28 専門家会合 「風力発電プロジェクトの社会的受容」

研究員 古屋将太

2012年 6月 14~16日にかけて、「風力発電プロジ

ェクトの社会的受容1」をテーマとする国際専門家会

合がスイス西部の小都市ビールで 開催されました。

この会合は、国際エネルギー機関(IEA)の風力発

電に関する研究タスクグループが 2009 年からおこ

なってきた作業を集約し、次の研究活動の構想を議

論するという趣旨で開催され、主催地のスイスをは

じめとして、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、

オランダ、イギリス、イタリア、 カナダ、日本から

研究者、政策立案者、事業者など 20 数名が参加し

ました。

日本からは、古屋将太(ISEP)、丸山康司(名古屋

大学)、馬場健司(電力中央研究所)が参加し、日本

国内の風力発電および自然エネルギー全般の社会的

受容について報告しました。3.11後、一般市民の自

然エネルギーに対する期待が高まり、固定価格買取

制の施行によって普及拡大の流れはできたものの、

プロジェクトが実施される地域レベルでは必ずしも

円滑に導入される仕組みが十分でないという状況が

あり、今後、それぞれ条件が異なる地域毎に支援政

策が必要であるという趣旨で報告を行いました。

各国からの報告の中でも印象的だったのは、デンマ

ークからの報告「行政と市民の媒介窓口としてのデ

ンマーク風力発電事務局」でした。デンマークは昨

年の政権交代前後から自然エネルギー、特に風力発

電のさらなる普及を推進する政策をとり、2020年に

は風力発電の電力に占める割合を 50%以上にし、エ

ネルギー全体では 2050 年までに脱化石燃料をおこ

なうと宣言しています。これを実現させるため、環

境省は 2012~15 年に 1,320 万デンマーク・クロー

1 http://www.socialacceptance.ch/

ネ(約 1億 7,000万円)の予算を充て、風力発電の

立地選定や法令対応、地域住民との合意形成の媒介

と な る 「 風 力 発 電 事 務 局 ( Wind Turbine

Secretariat)」を任命しました。5人で構成されるこ

の事務局は、風力発電の計画が地域住民との合意の

もとに進むよう、セミナーやワークショップを開催

し、計画予定地に地域住民と現地視察に行くなど、

全国をまわって関係者の意思疎通を媒介していると

のことです。また、そこから得られた知見を政府に

フィードバックする役割も担っています。

風力発電の国として知られるデンマークですが、よ

り野心的な目標を達成する上では、立地選定、風車

の大型化による景観の問題など、多くの課題に挑戦

しています。こうした国際会議の場を通じて先行す

る彼らの経験や知識に学び、日本での円滑な自然エ

ネルギーの普及に向けて活かしていきたと思います。

会合の様子

Page 7: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■プロジェクト報告

基本問題委員会自主的分科会・国会エネルギー調査会準備会

・ 基本問題委員会自主的分科会 経済産業省基本問題委員会ではエネルギー基本計画再策定に向けて、議論が行われています。し

かし議事運営や委員選定などが、従来の官僚主導型の事務局運営と変わらず、「脱原発依存」とい

う趣旨に合致するとは言えない議論が展開されました。こうした状況を打開するため、公正な議論

を求める委員が主導し、議論を行う場として「基本問題委員会自主的分科会」が設置されました。

自主的分科会では、原子力の技術的課題、経済・経営的課題、地域的課題、再稼働問題を議論し

たことに加えて、再生可能エネルギーの可能性、経済モデルの問題について議論しました。(詳し

くは ISEP News Letter 基本問題委員会特別号や ISEP USTREAM チャンネルなどをご覧ください。

・ 国会エネルギー調査会準備会

基本問題委員会自主的分科会と、国会にエネルギー政策を議論する場を設けるように求めている

超党派議連「原発ゼロの会」(参加議員は、近藤昭一、逢阪誠二(民主党)、河野太郎、長谷川岳(自

民党)、加藤修一(公明党)、山内康一(みんなの党)、笠井亮(共産党)、斎藤恭紀(新党きずな)、

阿部知子(社民党)など)とともに、国会エネルギー調査会準備会を4月末から開始しました。 テーマとしては原発再稼働問題、原発の技術的問題(原発危険度ランキング)、選択肢・国民的

議論の問題、電力システム改革、電源立地地域の課題、東電の経営問題など議論してきています。

自然エネルギー白書勉強会

今年 5 月、3.11 後の日本の自然エネルギーの動向をまとめた、「自然エネルギー白書 2012」(http://www.isep.or.jp/jsr2012)を発行しました。発行以来たくさんの方にご購入いただき、個人の学習用や企業や研究所の参考資料として活用されています。

そこでこの白書の内容をよりよく理解していただくため、ご購入いただいた方を対象に、6月 20日、27 日、この白書をテキストとした勉強会を実施しました。講師は白書の編者である ISEP 主席研究員の松原弘直が担当しました。

多くの方から参加希望があったため会場の定員がすぐ埋まってしまい、白書への関心の高さが伺

えました。勉強会では白書の概要説明と、第 1章「国内外の自然エネルギーの概況」に焦点を当てました。参加者の方からたくさんの質問が寄せられ、活気のある勉強会となりました。勉強会の模

様は ISEP ウェブサイトの映像アーカイブ(http://www.isep.or.jp/library/3334)でご覧いただけます。ISEPでは今後もこのような勉強会を実施していく予定です。 ISEP を通じてご注文いただくと、特別価格でご購入いただけます。会員の皆様には、ぜひお身

近の関心をお持ちの方々に口コミやブログ、facebookなどで白書をご紹介いただきますよう、お願い申し上げます。

Page 8: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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東日本大震災 つながり・ぬくもりプロジェクト

5月 4日には、未だ電気の復旧の見込みが立っていない石巻市尾崎地区唯一の造船所に 2.7kWの太陽光パネルを設置しました。5月中旬には、宮城県山元町のいちご農園に太陽熱温水器を設置支

援、6月末には宮城県気仙沼市大島に太陽光パネルを使った街灯約 40基を設置支援しました。 震災直後に緊急支援として始まったプロジェクト。6月上旬、宮城県南三陸町の民宿に東北や関

東からプロジェクト関係者 20人ほどが集まった座談会では、今後の活動についてさまざまなビジ

ョンが出ました。皆が必要性を唱えたのは、今回の経験を活かした次に災害が起きたときに対応で

きる体制づくりです。さらに、自然エネルギーを活用した

「仕事・雇用づくり」「町づくり」「環境教育」などを新た

にできた被災地東北内外のネットワークを活かして行っ

ていこう―皆の意見は概ね一致しています。11月 17日には仙台市でシンポジウムを行う予定です。今後もぜひ応援

よろしくお願いいたします。(事務局担当;氏家)

祝島自然エネルギー100%プロジェクト

今年 6月、プロジェクト賛同者から寄せられた寄付金によって、祝島の中心にある食料品店に新

たに発電能力 6kWの太陽光パネルが取り付けられました。店舗と自宅で使う電力をまかない(計7台の冷蔵庫を含む)、余剰電力を販売しています。この電力料金と売電収入は食料品店を通してプロジェクト実施主体の祝島千年の島づくり基金に還元されます。

店舗の外に取り付けられたメーターで、発電量を見ることができます。お子さんたちもおばあち

ゃんたちも、メーターの前を通るたびに「お!今○ワット発電してる!」と注目しているそうです。 祝島千年の島づくり基金では、島の中心の、島民みんなが訪れる店舗の電気が太陽光発電によっ

てまかなわれることは、祝島を自然エネルギー100%にするための大きな 1歩になると考えています。プロジェクトでは今後、漁船や、高齢化によって島に増える耕作放棄地へのパネル設置なども

計画しています。また、プロジェクト賛同者の方からの寄付プログラム「1%for 祝島」も実施中

です。詳細は、ウェブサイトをご覧ください。(祝島千年の島づくり基金東京事務局担当;渡邉)

今回取り付けられた太陽

光パネル

大島で太陽光パネルを設置

Page 9: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■インターンレポート

ロマン・シスラー

パリ第 9大学(Paris-Dauphine Univ)で経済学を学んでいる。エネルギ

ーファイナンスの分

野で 3ヶ月以内に経済修士学を取得予定

ローレン・メイ

コロンビア大学法科

大学院 2年生。アメリカテキサス州出身

日本のエネルギー政策と自然エネルギーの普及

に非常に興味を持っています。福島の原発事故を

きっかけに、私自身、より持続可能な世界のため

に行動していくことをはっきりと確信しました。

ISEPでの活動は持続可能なエネルギー政策を推

進するという私の目的にとって最良の方法です。

インターンシップ制度と主任研究員の山下さんの

指導のもと、私は日本の新しい FIT制度について

研究していますが、最も興味がある問題について

知識を増やせることをうれしく思います。私はイ

ンターンシップと同様に日本での生活もとても楽

しんでおり、卒業したら日本に定住することを計

画しています。

政策を勉強するため、5月初めにインターンとし

て ISEPに来ました。高校の時からずっと日本に

興味を持っていて、自分で日本語を勉強していま

した。大学3年生の時には関西学院大学に留学し

た経験もあります。

福島第一原子力発電所の事故の後、日本で少し

でも手伝いたいと思っており、ISEPのことを知り

ました。ISEPでは、色々な検討の会議に行く機会

があり、また、自然エネルギーや原子力について

の研究やレポートの翻訳などを行っています。

エネルギーについてほとんど勉強したことがな

い私にとって、ISEPでの 10週間は非常に勉強に

なりました。

■ ボランティアレポート 相澤 直美

テレビの番組制作を

昨年退職。現在は専

業主婦です

東日本大震災前には原発に不安を感じることは

あっても、事故がこの日本で本当に起きることなど

ないだろうと思っていました。それが現実に起こっ

て、自分も含めて普通の人々が不安を抱えながら生

活しています。何かできる事はないかと模索してい

て ISEP の存在を知りボランティアに参加し始め

ました。まだ2ヶ月と日は浅いですが ISEPの活動

に少しでもお役に立てれば幸いです。

Page 10: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■書籍紹介・書評

エネルギー進化論 著者:飯田哲也 筑摩書房(定価:819円)

発売日 2011年 12月

ISBN-10: 4480066438 ISBN-13: 978-4480066435

<書評> 本書は、3・11以降の日本のエネルギー政策に対する指針を、「第4の革命」とされる自然エネルギーに対

する欧州各国の取り組みや、日本における事例と問題点を紹介した上で提示しています。その中でも「電力

幕藩体制」としての「原子力ムラ」の内部で目にした光景や、自然エネルギーが普及しない複雑な日本のエ

ネルギー政策の問題点を、筆者の主観だけではなく、電力会社、官僚などそれぞれの立場や視点、思惑を取

り入れて非常にわかりやすく記述されているのは新鮮味があります。本書において最も主眼が置かれている

のは、世界的潮流となっている「地域分散型」エネルギーとしての自然エネルギーへの大転換です。日本に

おける現在の「中央管理型」のエネルギー体制から「地方分散型」のエネルギー体制への転換が実現しない

限りは既存体制への依存をし続けることになり、環境エネルギー革命は進展が起きません。そうならないた

めにも、地方から変化をしていくことがいかに重要なのかを、本書を通じて理解することができるでしょう。

北欧のエネルギーデモクラシー 著者:飯田哲也 新評論(定価:2625円) 発売日 2000年 3月

ISBN-10: 4794804776 ISBN-13: 978-4794804778

<書評> 「2050年までに日本の電力量全てを自然エネルギーで賄う」。大胆かつ戦略的な提言をする飯田哲也の原点

とも言える 1冊です。日本はテレビや携帯電話と同じくエネルギー分野でもグローバルスタンダードから取

り残されつつあります。著者が体感した環境先進国スウェーデンでは、いわば「日本の未来都市」といって

も過言ではない世界が広がっていました。市民自ら積極的にエネルギー形態を議論し、持続可能な社会構築

を模索していました。イチゴ摘みやジャガイモの生産地として有名なデンマークのサムソ島のかつてのエネ

ルギー自給率4%をその後10年間で100%にまで伸ばし、自然エネルギーだけで島の全電力を賄えるよ

うになりました。このようなケースは東日本大震災後の日本の地域分散型エネルギー供給システムのあり方

に大いに参考になるでしょう。単なるエネルギー戦略の方向性の示唆だけではなく、民主主義のあり方にま

で踏み込む名著ですう。「未来は予測するものではない、選び取るものである」。本書にはこの言葉を裏付け

る様々な情報が凝縮されています。

Page 11: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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エネルギーと私たちの社会―デンマークに学ぶ成熟社会 著者:ヨアン・S. ノルゴー 、ベンテ・L. クリステンセン 翻訳:飯田 哲也 新評論(定価:2100円) 発売日 2002年 4月

ISBN-10: 4794805594 ISBN-13: 978-4794805591

<書評> 1982年にデンマークで出版された原本は、当時の環境問題・エネルギーの分野における将来の発展のあり方

を議論しています。本書はそれに加えて 2001年に新たに 1章書き加えた合計 13章からなっていて、全体を

通して「高エネルギー社会」と「低エネルギー社会」という二つの選択肢を社会生活における様々な視点か

ら議論しています。「高エネルギー社会」とは経済成長を最重要課題とし、当時の生活水準を維持したまま消

費を促進し続け国民 1人当たりのエネルギー消費量がかなり多くなる社会を示しています。一方「低エネル

ギー社会」とは 1人当たりのエネルギー消費量がずっと低く抑えられ、同時に生活水準の改善が行われるが

下がるのではなく技術的な手段を用いて省エネルギーをしながら快適な生活を送る社会です。これらの選択

肢を議論する視点だが日常生活で利用する電力、家具・家電、自動車技術、住宅などの物質的なものから雇

用、サービス、政治などの分野まで対象としています。本書を読んで最も驚いたことは、現在から 30年も前

にデンマークではこれほど先進的な議論が行われていたことです。一方日本では今やっと将来のエネルギー

をどうするか多角的な視点から議論が行われています。本書から学べることは多いと思います。

地域主導のエネルギー革命 著者:倉阪秀史監修 本の泉社(定価:1800円)

発売日 2012年 6月

ISBN-10: 4780706564 ISBN-13: 978-4780706567

<書評> 千葉大学の倉阪秀史教授の監修による書籍で、ISEPからは主席研究員の松原弘直と顧問の竹村英明が執筆

に参加しています。本書には地域主導で再生可能エネルギーを導入するためのさまざまなヒントがちりばめ

られています。第1章では、再生可能エネルギーの現状と文脈をそれぞれ、地域、政策動向、地球温暖化の

観点からとらえています。第2章では、各再生可能エネルギーの導入状況や、ポテンシャル、技術的な側面

を含めた特徴など様々な観点から解説されています。第3章では、グリーンエネルギー証書やファイナンス

のスキームといったお金の流れに注目して書かれています。第4章では、再生可能エネルギーの地域からの

実践を焦点に、実際の取り組みを交えて書かれています。最後に補章では、固定価格買取制度の現状につい

て、1章の内容を補足して書かれています。本来、再生可能エネルギーは地域に根ざしたエネルギーである

ため、この点が今後うまく担保されることが望まれます。

Page 12: ISEP News Letter 2012年度 第1四半期

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■レポート紹介

4/26 「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会中間報告書に関する意見書」

4/17 「原発を再稼働しなくても今夏の電力は足りる(関西電力版)」

4/18 「ドイツは自然エネルギーへのシフトを継続する」

4/23 「原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる」

5/24 eシフト声明-「恣意的な『エネルギーミックス選択肢』」

5/31 エネルギーシナリオ市民評価パネル「エネルギー・環境のシナリオの論点」

6/30 REN21レポート「自然エネルギー世界白書 2012年度版」

ISEP News Letterは、四半期毎に会員のみなさまを対象として発行する環境エネルギー政策研究所の活動報告です。

認定 NPO法人 環境エネルギー政策研究所 〒164-0011 東京都中野区中央 4-54-11 TEL:03-6382-6061 FAX:03-6382-6062 Eメール:[email protected]