5
緒    言 発汗は運動時の主要な熱放散経路であり、その 反応は運動トレーニングによって改善される 2汗腺にはムスカリン性アセチルコリン受容体や α および β アドレナリン受容体があり、運動トレー ニングによる発汗機能の改善には主にアセチルコ リン受容体が関与すると従来から考えられてき 2。近年、私達の研究室では日頃から運動をよ く行って発汗機能が高い持久性運動選手では、β アドレナリン受容体阻害薬を局所に処置して漸増 負荷運動を実施すると発汗量が低下することを報 告した 1。この結果は運動選手の高い発汗機能に β アドレナリン受容体が関与する可能性を示唆し ているが、その詳細には不明な点が残されている。 運動時の発汗は温度に関連する要因(温熱性要 因)と温度に関連しない要因(非温熱性要因)の 影響を受ける。非温熱性要因として運動野の活動 に影響されると考えられているセントラルコマン ド、筋や腱の機械受容器あるいは代謝受容器など の求心性入力がある 7。体温上昇そのものは血中 カテコラミン濃度を大きく上昇させないことか 6、運動選手の β アドレナリン性の発汗は非温 熱性の入力によって引き起こされている可能性が ある。これを明らかにするためには、運動によっ て賦活する非温熱性要因を単独で刺激したときの 発汗反応を検討する必要がある。 以上のことから本研究では、運動選手の発汗機 能を支える非温熱性の発汗に β アドレナリン受容 体が関与しているのかどうかを明らかにする。非 温熱性発汗を観察する実験的な方法として 1 2 分間の静的運動や 2 3 分間の運動後阻血 PEMI)がある 7。掌握運動よりも膝伸展運動時 の血中カテコラミン濃度が増大すると予想される ため 8、本研究では、持久性運動選手がこれらの 運動を行ったときに局所的に β アドレナリン受容 体を阻害すると特に膝伸展運動時の発汗量が低下 すると仮説を立てた。 方    法 A.研究倫理 本研究は新潟大学人を対象とする研究等倫理審 * 新潟大学人文社会科学系運動と環境生理学研究室 Laboratory for Exercise and Environmental Physiology Faculty of Education, Niigata University, Niigata, Japan. 運動トレーニングに伴う発汗機能の改善機序 アドレナリン機構の役割天 野 達 郎 MECHANISMS OF EXERCISE-TRAINING INDUCED IMPROVEMENTS IN SWEATING FUNCTION: ROLE OF ADRENERGIC SYSTEM Tatsuro Amano Key words: β-adrenergic receptor, knee extension exercise, handgrip exercise, sweat rate, thermoregulation. 34 回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書 2017 年度 pp.56602019.4

MECHANISMS OF EXERCISE-TRAINING INDUCED ......ROLE OF ADRENERGIC SYSTEM Tatsuro Amano Key words: β-adrenergic receptor, knee extension exercise, handgrip exercise, sweat rate, thermoregulation

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • (56)

    緒    言

     発汗は運動時の主要な熱放散経路であり、その反応は運動トレーニングによって改善される2)。汗腺にはムスカリン性アセチルコリン受容体や αおよび βアドレナリン受容体があり、運動トレーニングによる発汗機能の改善には主にアセチルコリン受容体が関与すると従来から考えられてきた2)。近年、私達の研究室では日頃から運動をよく行って発汗機能が高い持久性運動選手では、βアドレナリン受容体阻害薬を局所に処置して漸増負荷運動を実施すると発汗量が低下することを報告した1)。この結果は運動選手の高い発汗機能にβアドレナリン受容体が関与する可能性を示唆しているが、その詳細には不明な点が残されている。 運動時の発汗は温度に関連する要因(温熱性要因)と温度に関連しない要因(非温熱性要因)の影響を受ける。非温熱性要因として運動野の活動に影響されると考えられているセントラルコマンド、筋や腱の機械受容器あるいは代謝受容器などの求心性入力がある7)。体温上昇そのものは血中

    カテコラミン濃度を大きく上昇させないことから6)、運動選手の βアドレナリン性の発汗は非温熱性の入力によって引き起こされている可能性がある。これを明らかにするためには、運動によって賦活する非温熱性要因を単独で刺激したときの発汗反応を検討する必要がある。 以上のことから本研究では、運動選手の発汗機能を支える非温熱性の発汗に βアドレナリン受容体が関与しているのかどうかを明らかにする。非温熱性発汗を観察する実験的な方法として 1~ 2分間の静的運動や 2 ~ 3 分間の運動後阻血(PEMI)がある7)。掌握運動よりも膝伸展運動時の血中カテコラミン濃度が増大すると予想されるため8)、本研究では、持久性運動選手がこれらの運動を行ったときに局所的に βアドレナリン受容体を阻害すると特に膝伸展運動時の発汗量が低下すると仮説を立てた。

    方    法

    A.研究倫理

     本研究は新潟大学人を対象とする研究等倫理審

    * 新潟大学人文社会科学系運動と環境生理学研究室 Laboratory for Exercise and Environmental Physiology Faculty of Education, Niigata University, Niigata, Japan.

    運動トレーニングに伴う発汗機能の改善機序―アドレナリン機構の役割―

    天 野 達 郎*

    MECHANISMS OF EXERCISE-TRAINING INDUCEDIMPROVEMENTS IN SWEATING FUNCTION:

    ROLE OF ADRENERGIC SYSTEM

    Tatsuro Amano

    Key words: β-adrenergic receptor, knee extension exercise, handgrip exercise, sweat rate, thermoregulation.

    第 34回若手研究者のための健康科学研究助成成果報告書2017年度 pp.56~60(2019.4)

  • (56) (57)

    査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2017-0323)。被験者には事前に口頭および書面にて説明を行い、書面にて研究参加の同意を得た。B.被験者

     陸上競技部に所属する中距離・長距離選手10名を被験者とした(年齢19.7 ± 1.5歳,身長168.6 ± 3.4 cm,体重59.1 ± 4.2 kg,体表面積1.67 ± 0.07 m2,最大酸素摂取量57.1 ± 3.4 ml kg- 1 min- 1)。被験者は全員非喫煙者であり、実験参加時に薬の処方を受けていなかった。C.実験手順

     実験は空調環境下の実験室で行った(気温25.0 ± 0.7°C,湿度56.7 ± 8.8%)。被験者は異なる日程で 2 回の実験に参加し、 1 日は静的掌握(IH)運動を、 1日は両側の静的膝伸展(KE)運動を実施した。実験参加前日の晩および当日 2時間前に水を500 ml以上飲むように指示した。実験室到着後、尿比重を測定した。その後体重および身長を計測し、 水循環スーツ (Allen-Vanguard, Ottawa, Canada)を着用した。水循環スーツに流れる水温は47℃とし、被験者は運動を開始するまで40~60分間安静を保持した。この加温により、安静状態でも発汗が認められるようになるため、非温熱性の発汗を評価しやすくなる3)。安静時に実験準備を行い、また、最大筋力(MVC)を測定した。安静状態での発汗が認められた後、βアドレナリン受容体の非選択的阻害薬である 1%濃度のプロプラノロール(Acros Organic, NJ, USA)をイオントフォレーシス法で前腕部(KE運動時)あるい

    は大腿部(IH運動時)に投与した。イオントフォレーシスは電気の力で電荷をもつ薬剤を皮膚に浸透させる方法であり、本研究では2.54 cm2の広さに1.5 mAの電流を 5分間流した(薬剤は陽極側)。コントロール部位として、反対の前腕あるいは大腿に生理食塩水のイオントフォレーシスを実施した。イオントフォレーシス部位およびその近位部に発汗カプセルを装着した(図 1)。近位部の発汗量測定は前腕あるいは大腿の発汗量の左右差を確認するために実施した。発汗カプセル装着後、更に安静を 5分間維持してカプセル内に循環する乾燥空気をフラッシュさせてからベースライン(BL)の測定を 5分間行った。運動は60%MVC強度の静的 IH運動もしくはKE運動を 1分間行い、運動終了 5秒前に上腕もしくは鼠径部にそれぞれ250 mmHgおよび180 mmHgの圧迫をして阻血を行った。大腿の阻血の圧については、痛みを引き起こさないことを考慮した。D.測定項目

     本研究では舌下温(Tor)、局所皮膚温(胸部,上腕部,大腿部,下腿部)、局所発汗量、血圧、心拍数を測定した。 Torと局所皮膚温は T型熱電対を用いて測定し、局所皮膚温から平均皮膚温(Tsk)を、Torと Tskから平均体温(Tb)を算出した。局所発汗量は換気カプセル法を用いて測定した。発汗カプセル内には乾燥窒素ガスを1.0 l min- 1で流した。カプセル内を通過した空気は湿度計で測定した(HMP60: Vaisala, Helsinki, Finland)。Tor、皮膚温、発汗量は

    図 1.前腕部および大腿部の発汗量測定部位Fig.1.Bilateral forearm and thigh wherein the local sweat rates were measured

    during the bilateral knee extension(left)and handgrip(right)trials. A and B(or E and F)indicate the locations wherein either propranolol or saline(control)was transdermally administered. C and D(or G and H)indicate the locations wherein the sweat rates were measured without any treatment. Arrows indicate the comparison made for the analysis.

    A B

    C D

    E F

    G HKnee extension Handgrip

    No treatment

    Propranolol or saline Propranolol or saline

    No treatment

  • (58)

    1 秒ごとに計測した(MX100: Yokogawa, Tokyo, Japan)。心拍数および血圧は非観血式連続血圧測定機で計測した(Finometer: Finapres Medical Sys-tems, Amsterdam, The Netherlands)。本実験とは別日に自転車運動時の最大酸素摂取量をダグラスバッグ法で測定した。E.データ解析

     BLデータは静的運動開始前 3分間の値を平均した。静的運動時および PEMI時の値としてそれぞれの最終10秒間の値を平均した。統計解析は 2要因の分散分析を用いた。発汗量以外の測定項目に関しては、 1要因の分散分析を行った。いずれの場合も、主効果が認められた場合には Turkeyの検定を実施した。なお、機器の不具合により心拍数と血圧測定は掌握運動では 5名のみ、膝伸展運動では 8名のみで行った。値は平均 ±SDで示

    し、有意水準は P ≤ 0.05とした。統計解析にはプリズムを用いた(version 6.02, GraphPad Software, San Diego, CA, USA)。

    結    果

    A.静的掌握運動時の大腿部発汗量

     IH運動時(P = 0.038)および PEMI(P = 0.041)時の大腿部発汗量は運動前と比較して有意に増大した(図 2)。しかし、薬剤処置の主効果(P = 0.628)や相互作用(P = 0.641)は認められなかった。イオントフォレーシス非処置部位に関して、左右差は認められなかった。B.静的膝伸展運動時の前腕部発汗量

     KE運動時の前腕部発汗量は安静時から有意に増加した(P = 0.001)。しかし、KE後の PEMI時における前腕部発汗量に有意な増加は認められな

    図 2.静的掌握運動時の大腿部発汗量Fig.2.Upper figure: sweat rates on the thigh at the pro-

    pranolol and control sites during static handgrip exercise and following post-exercise muscle ischemia(PEMI). Lower figure: sweat rates on the thighs at the proximal right and left legs without any treatment during static handgrip exercise and following PEMI.

    Values are presented as mean ± SD. n = 10 for both figures. * vs baseline(BL)for both sites(all P ≤ 0.041).

    Sw

    eat r

    ate

    on th

    e th

    igh(

    mg

    cm-2

    min

    -2)

    Handgrip

    PropranololControl

    BL

    0.4

    0.3

    0.2

    0.1

    0.0Exercise PEMI

    * *

    **

    LeftRight

    BL

    0.4

    0.3

    0.2

    0.1

    0.0Exercise PEMI

    図 3.膝伸展運動時の前腕部発汗量Fig.3.Upper figure: sweat rates on the forearms at the

    propranolol and control sites during bilateral static knee extension and following post-exercise muscle ischemia(PEMI). Lower figure: sweat rates on the forearms at the proximal right and left forearms without any treatment during bilateral static knee extension and following PEMI.

    Values are presented as mean ± SD. n = 10 for both figures. *vs baseline(BL)for both sites(all P ≤ 0.005). # vs exercise for both sites(P = 0.034).

    Sw

    eat r

    ate

    on th

    e fo

    rear

    m(m

    g cm

    -2 m

    in-2)

    Knee extension

    PropranololControl

    BL

    0.4

    0.3

    0.2

    0.1

    0.0Exercise PEMI

    LeftRight

    BL

    0.4

    0.3

    0.2

    0.1

    0.0Exercise PEMI

  • (58) (59)

    かった(P = 0.260,図 3)。薬剤処置の主効果(P = 0.690)や相互作用(P = 0.799)は認められなかった。イオントフォレーシス非処置部位の発汗量に関して左右差は認められなかった。C.循環および体温パラメーター

     IH運動および KE運動時の心拍数は安静時よりも有意に増加したが(それぞれ P = 0.013および P = 0.002)、PEMIには安静レベルまで低下した。平均血圧(MAP)はいずれの運動でも増加し(IH,KE それぞれ P = 0.042および P = 0.003)、PEMI時には安静時よりも高い値で推移した(それぞれP = 0.022および P = 0.006)。Tskは IH運動および運動後阻血時に安静時より増加したものの(すべて P ≤ 0.022)、KEではこの反応は認められなかった。Torおよび Tbは実験を通して一定であった。

    考    察

     仮説と異なり、本研究では局所的な βアドレナリン受容体阻害薬の処置は静的運動時および運動後阻血時の発汗量に影響しなかった。また、運動を実施する筋の違い(掌握運動あるいは膝伸展運動)も結果に影響しなかった。これらのことから、本研究における条件下では、運動する部位にかかわらず、静的運動と運動後阻血によって誘発される運動トレーニング者の非温熱性発汗に βアドレナリン受容体は関与しないと考えられる。

     静的運動やそれに続く運動後阻血法は従来の非温熱性発汗に関する研究でよく使われている7)。特に、静的運動時にはセントラルコマンド、筋機械受容器、筋代謝受容器が統合的に発汗などの自律神経反応を引き起こし、運動後阻血時には筋代謝受容器活動が独立してそれを引き起こすと考えられている7)。活動筋の大きさはカテコラミン濃度に影響することから8)、本研究では運動選手の高い発汗機能の 1つの特性として、特に両脚の膝伸展運動時の非温熱性発汗に βアドレナリン受容体が関与すると仮説を立てた。しかし、実際にはβアドレナリン受容体阻害薬処置部と非処置部の発汗量に差がなかったことから、従来から用いられている手法(静的運動,運動後阻血)によって引き起こされる発汗反応に βアドレナリン受容体は関与していないと考えられる。 サルでは副腎を取り除いてアドレナリンが分泌されない状態で運動を行うと、運動時の発汗が消失する9)。ヒトとサルの汗腺の種類は全く同じではないものの、この知見は体液性の調節によってアドレナリン受容体がより刺激される可能性を示唆している。静的運動時のカテコラミン分泌には活動筋の他にも運動時間も関与すると考えられ、実際に、両脚の静的膝伸展運動を20%MVC強度で 5分間実施すると血中アドレナリンやノルアドレナリン濃度が上昇する8)。発汗に関する研究で

    表 1.静的運動時および運動後阻血時の生理的反応Table 1.Physiological variables during static exercises and post-exercise muscle ischemia.

    Handgrip

    HR(beats min-1)n = 5

    MAP(mmHg)n = 5 Tor(°C) Tsk(°C) Tb(°C)

    BL 71 ± 14 91 ± 7 36.89 ± 0.36 34.67 ± 0.30 36.39 ± 0.16Exercise 84 ± 13* 115 ± 13* 36.87 ± 0.43 34.91 ± 0.31* 36.43 ± 0.21PEMI 69 ± 14# 110 ± 11* 36.91 ± 0.46 34.86 ± 0.28* 36.45 ± 0.26

    Bilateral knee extension

    HR(beats min-1)n = 8

    MAP(mmHg)n = 8 Tor(°C) Tsk(°C) Tb(°C)

    BL 71 ± 12 89 ± 8 36.99 ± 0.22 34.53 ± 1.07 36.55 ± 0.27Exercise 96 ± 16* 131 ± 23* 37.04 ± 0.22 34.66 ± 1.10 36.62 ± 0.22PEMI 69 ± 14# 114 ± 14* 37.09 ± 0.23 34.74 ± 1.18* 36.68 ± 0.25

    Values are presented as mean ± SD. HR; heart rate, MAP; mean arterial blood pressure, Tor; oral temperature, Tsk; mean skin temperature, Tb; mean body temperature, PEMI; post-exercise muscle ischemia. *, vs baseline(BL)(all P ≤ 0.022). #, vs exercise(all P ≤ 0.006). n = 10 unless otherwise indicated.

  • (60)

    は 1~ 2分間のプロトコルが一般的ではあるが、より長い時間の運動を行うことで非温熱性要因由来のアドレナリン性の発汗を観察できるかもしれない。また、βアドレナリン性の発汗を自転車運動時のヒトで観察した先行研究では同時に体温上昇を伴っていた1)。体温上昇によって運動時のカテコラミン分泌量は相乗的に増大することから4)、温度入力(深部体温上昇)と非温熱性入力の相互作用がアドレナリン性発汗には必要なのかもしれない。また、本研究で観察された発汗量は βアドレナリン性の発汗を報告している先行研究1)の半分程度であり、薬の影響を受けるほどその程度が大きくなかった可能性などもある。これらの点を踏まえ今後の検討が必要ではあるものの、従来からよく用いられている方法による非温熱性発汗にβアドレナリン受容体は関与していないという点は本研究で得られた重要な知見である。 研究の限界として、本研究では βアドレナリン受容体が本当に阻害されているかどうかを確認できていないことがある。しかし本研究で用いたイオントフォレーシス法は阻害を確認している先行研究とほぼ同様であることから5)、その有効性が推測される。また、採血によって本当に血中アドレナリンやノルアドレナリン濃度が増加していたのかどうかも確認できていない。最後に、KE運動後の阻血時には発汗量が安静時より増大しなかった。これは、阻血のカフ圧が上腕阻血よりも低かったことが関与していると考えられる。昇圧反応から推察すると、筋代謝受容器を刺激することはできていたものの、それは発汗を引き起こすほど大きくなかったのかもしれない。 結論として、少なくとも本研究における条件下では、イオントフォレーシスによる βアドレナリン受容体阻害薬の投与は活動筋(腕あるいは下肢)の違いにかかわらず運動トレーニング者の非温熱性発汗反応に影響しないことが明らかになった。

    総    括

     本研究では、いくつかの研究の限界を伴っていたものの、持久性運動トレーニング者の静的運動時および運動後阻血時の発汗反応に βアドレナリ

    ン受容体が関与しないことが明らかになった。また、運動をする筋の違いもこの反応に影響しなかった。アドレナリンにかかわるメカニズムに限らず、運動選手の発汗機能がなぜ高いのかその仕組みを明らかにする研究を継続するとともに、研究成果を基に発汗機能が低い人への対応策(熱中症予防法)を検討することが重要だと考えられる。

    謝    辞

     本研究に参加していただいた被験者の皆様に感謝いたします。また、本研究に関する助成を賜りました公益財団法人明治安田厚生事業団に御礼申し上げます。

     本研究の成果は以下の論文として公表されました。 Amano T, Igarashi A, Fujii N, Hiramatsu D, Inoue Y, and Kondo N.(2018): β-Adrenergic receptor blockade does not modify non-thermal sweating during static exercise and follow-

    ing muscle ischemia in habitually trained individuals. European

    Journal of Applied Physiology, 118, 2669-2677.

    参 考 文 献

    1) Amano T, et al.(2017): Evidence for β-adrenergic modulation of sweating during incremental exercise in habitually

    trained males. J Appl Physiol, 123, 182-189.

    2) Amano T, et al.(2013): Characteristics of sweating responses and peripheral sweat gland function during passive

    heating in sprinters. Eur J Appl Physiol, 113, 2067-2075.

    3) Avila S, et al.(2012): Priming of the sweat glands explains reflex sweating in the heat. Int J Hyperthermia, 28, 19-23.

    4) Brenner IK, et al.(1997): The impact of heat exposure and repeated exercise on circulating stress hormones. Eur J

    Appl Physiol Occup Physiol, 76, 445-454.

    5) Buono MJ, et al.(2011): Localized beta-adrenergic receptor blockade does not affect sweating during exercise. Am J

    Physiol Regul Integr Comp Physiol, 300, R1148-R1151.

    6) Jimenez C, et al.(2007): Effects of passive hyperthermia versus exercise-induced hyperthermia on immune responses:

    hormonal implications. Eur Cytokine Netw, 18, 154-161.

    7) Kondo N, et al.(2010): Non-thermal modification of heat-loss responses during exercise in humans. Eur J Appl

    Physiol, 110, 447-458.

    8) Pawelczyk J, et al.(1997): Cardiovascular and catechol-amine responses to static exercise in partially curarized

    humans. Acta Physiol Scand, 160, 23-28.

    9) Robertshaw D, et al.(1973): Sweating in primates: secre-tion by adrenal medulla during exercise. Am J Physiol, 224, 678-681.