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The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

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Japan's first and only bilingual HR-focused magazine, published quarterly by The Japan HR Society (JHRS). This issue's theme: Selection and Staffing

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発行人からのメッセージ日本のHR ジャーナリズムを進め

「The HR Agenda」は前進するカビッティン・順 MBA/MS/HRMP

JHRSコミュニティ・ニュース第5回GOLDシンポジウムインクルージョンでイノベーションを進めるトビー・マレン弁護士

特集記事

障害者雇用:「慈善事業ではなく、チャンス」ステファニー・オーバーマン アネット・カセラス

HRは新規採用に関わるべきか?カビッティン・順 MBA/MS/HRMP

HRの最優良事例未来に備える:コカ・コーラ・アジアパシフィックはいかにして未来思考を持つローカルリーダーを育てたかラドスラヴァ・アンゲロヴァ

HRの道具箱日本の多国籍企業における海外駐在員選定の実践についてプランヴェラ・ザッカ博士

変革管理

ビジネスリーダーとしてのHR: 難解な心理学用語と奥義の無意味さを乗り越える

「The HR Agenda」

選抜と配属 リンクトインの利点に注目せよ 下坪久美子

ウォートンの知恵面接がその日最後になると可能性がしぼむ

HR法律相談雇用主が提供する無料健康診断でプライバシーが守られるか?ヴィッキー・ベイヤー弁護士

HRに聞け

妥当なバックグラウンドチェックと照会の実施について アンドリュー・マンターフィールド 松井義治(ヨシ)

コ ー チング潜在力を引き出し現実のものとする :風に揺れる竹のようにダニエラ・プロバーガー フロリアン・プロバーガー博士

論説人材競争では誰もが重要アネット・カセラス

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目 次

最新のHR情報を発信し、日本と世界のHRプロフェ

ッショナルの橋渡し役となって、人事・労務の事例、

一般慣行や体系的知識の普及促進を目的とする。

「The HR Agenda」 の使 命

May 9 2

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ビジネス・リーダーシップ・プログラム:2年間のローテーション経験

⃝ 身分を隠した集中的現場経験

–販売促進–顧客口座担当者–流通–製造

⃝ 組織に関する詳細な検討–コカコーラ社の財務的洞察力–コカコーラ社の運営モデル–競合する市場全体とトレンド

しっかりとしたコカ・コーラ社へのエントリー

コカ・コーラ社社員としての基礎教育を与えるための経験的学習と構造的

学習の組み合わせ

全員のための基礎的な部分(1か月)

⃝ 顧客対応/販売/商業的リーダシップ経験

–全国小売販売–現場での標準作業手順–地域販売–商業上の指導的地位

⃝ 製品供給実地体験

⃝ マーケティング/ブランド形成実地体験(CCNA)

⃝ BIGまたはKOグローバル展開ユニットと提携したグローバルローテーション(90日間)

中核のコカコーラ社ビジネス・ローテーション

コカコーラ社の組織を理解するコアとなる経験学習

実地体験に共通またはコアとなる部分(6か月間ずつ)

⃝ 財務

⃝ 戦略

⃝ IT

⃝ HR

⃝ 事業変革室

⃝ 顧客ケア

補足的コカコーラ社ローテーション

参加者の興味とビジネスニーズに基づく実施体験学習

個人ごとのユニークな内容(4か月間)

⃝ 最終任地とその任務への移行 (L4/部長レベル)

⃝ 最終任地はビジネスニーズと本人の業績、潜在力、関心に基づくべき

⃝ アジア太平洋市場における最終任地への移行に向けた準備

移行

プログラム参加者の最終配属および移行期間

個人ごとにユニークな内容

2013年7−9月号

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「The HR Agenda」はThe Japan HR Societyが出版する日本初かつ唯一の2ヶ国語人材(HR)専門季刊誌。制作はエイチアールセントラル株式会社(The Japan HR Society事務局)のエイチアール学習・出版部門。

発行人  TheJapanHRSociety(JHRS) [email protected] www.jhrs.org www.jhrs.org/hr_agenda

統括編集人 カビッティン・順MBA/MS/HRMP [email protected]

編集長 アネット・カセラス [email protected]

副編集長 岡本浩志澤田公伸ホープ・ドリエン

寄稿編集者 ステファニー・オーバーマン ヒルダ・ロスカ・ナルテア 翻訳者 澤田公伸サイラ・モリイ 野田牧人 デザイン・制作   ブーン・プリンツ デザイン担当 アネット・カセラス

広告セールス・ エイチアールセントラル株式会社マーケティング [email protected] および配布

編集補佐 マーク・スィリオ

編集局 エイチアールセントラル株式会社 (TheJapanHRSociety事務局) 〒108-0075 東京都港区港南2-14-14 品川インターシティフロントビル3階デスカットMB28号電話/ファクス +81(0)50-3394-0198+81(0)3-6745-9292

購読http://www.jhrs.org/hr_agenda/subscribeまで、オンラインでご注文下さい。

日本国内購読・デジタル版(最新号のみ):無料・プリント版(周年号)1冊:1,575円(税・送料込み)・年間購読-プリント版(周年号)1冊とデジタル版(最新号とバックナンバー):年間3,150円(税・送料込み)

・年間購読-デジタル版のみ(最新号とバックナンバー):年間1,575円(税込み)・大口注文:Emailで[email protected]に、氏名、会社名、住所、必要数、ご希望の支払い方法をお知らせください。私どもより、郵送料を含んだ見積書をお送りします。

海外購読・デジタル版(最新号のみ):無料・年間購読-デジタル版のみ(最新号とバックナンバー):年間1,575円(税込み)・大口注文:Emailで[email protected]に、氏名、会社名、住所、必要数、ご希望の支払い方法をお知らせください。私どもより、郵送料を含んだ見積書をお送りします。

広告掲載詳細をお送りしますので[email protected]までご連絡ください。

海外配送エージェント募集中:[email protected]まで連絡下さい。

「TheHRAgenda」とTheJapanHRSocietyのロゴは登録商標であり、TheJapanHRSocietyに帰属します。

©2013.TheJapanHRSociety 無断複写・転載を禁じます。

表紙イメージアネット・カセラスによるコンセプトを、ブーン・プリンツがデザインした。 READY FOR COMPETITION by Rnl, START YOUR BUSINESS by Ryanking999, START YOUR CAREER by Andresr, BUSINESS MAN READY TO RUN by Leolintang, CURVE OF RACE TRACK by Vichie81

画像の出典:BUSINESSWOMAN IN A WHEELCHAIR DURING A MEETING by Wavebreakmediamicro, SLOLVE DISMATCHINGPUZZLE by Eskaylim, Senior Businessman by Ardie Coloma, 5 O'CLOCK by Patrickmcelweephotography, MEDICALCHECK UP by Odua, BAMBOO WITH LEAVES by Okea, READY FOR COMPETITION by Rnl, START YOUR BUSINESSby Ryanking999, START YOUR CAREER by Andresr, BUSINESS MAN READY TO RUN by Leolintang, RACETRACK byElenathewise.

THE AGENDA®

Japan,s first bilingual HR magazine published by The Japan HR Society (JHRS)

お断り掲載した記事にある見解や意見は執筆した寄稿者、筆者個人のものであり、必ずしも「The Japan HR Society」の一般会員、事務局、アドバイザー、会友、後援者の立場や見解を反映したものではありません。本協会は、掲載された記事や広告に含まれるデータ、統計、情報の正確性、真実性につき、その全体もしくは一部に関し、責任を負いません。更に、掲載した助言、意見、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のより専門的な法的、財務的助言にとってかわることを目指したものではありません。

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本誌は、日本において、和英二カ国語によるHRジャーナリズムの草分けとしてユニークな存在であり続けているばかりではなく、世界のHR界に日本の存在を知らしめる出版物となっております。「The HR Agenda」は、8号まで発行し、和英2ヶ国語で記事104編を世に送り出し、国内外の7つの機関とメディア・パートナーシップを組み、日本HR界の思想的指導者やオピニオン・リーダーの参加を得て、本誌が提起したテーマについてパネル・ディスカッションを4回主催してきました。

「The HR Agenda」、予想外の船出をした大胆なイニシアティブ ご存知かもしれませんが、本誌は2011年3月11日の東日本大震災のほんの数ヶ月後に創刊しました。壊滅的混乱状況を理由に、創刊を遅らせるという選択肢もあり、そうしても理解を得ることが出来たと思いますが、私達は敢えてこの時期に創刊することを選択し、創刊号を日本と日本の人々に捧げ、世界に向け、「日本のHRプロは前進するという決意」を表明する機会としました(2011年7-9月号「発行者からのご挨拶:歴史的瞬間に立ち会いませんか」)。2年が経ち、私達は季刊誌としても、組織としても、その使命達成に向け、着実に歩み続けています。これまで、様々なHRの主要関心事を取り上げてまいりましたが、その中には、マクロ的な観点からの「日本の新しいグローバル・スピリット」(2011年10-12月号)と「リーダーとリーダーシップ」(2012年1-3月号)から、法律関係の「日本の雇用と法律」(2012年7-9月号)と「ガバナンスと倫理」(2013年4-6月号)、さらには前衛的なHRアプローチである「ハイパフォーマンス組織」(2012年4-6月号)、「多様性と包摂」(2012年10-12月号)、「HRビジネス・パートナリング」(2013年1-3月号)に至るまで、さまざまなテーマを含んでいます。(バックナンバーへのリンク)創刊以来、私達は、学界・産業界におけるHRの抜きん出た思想的指導者やオピニオン・リーダーにインタビューし、対談し、彼らの考え方を紹介してきました。知識管理の世界的権威、野中郁次郎一橋教授(2012年1-3月号)と多国籍HR論で有名な白木三秀早稲田大学教授(2011年10-12月号)、さらには労使争議解決の迅速かつ低コストな手段を提供する労働審判制度の立案に携わった荒木尚志東京大学教授(2012年7-9月号)をご紹介できたことは、我々の誇りとするところです。これらの学術経験者からの貢献に勝るとも劣らないのが、自身の考え方や発想、知識を気前よく読者に提供された、日本内外のHR実務家達からの寄稿です。こうしたHRのテーマは、リーダーシップ

本号で、季刊 「The HR Agenda」 は創刊2周年を迎えます。本誌は、日本初かつ唯一の和英二ヶ国語HR専門誌で、The Japan HR Society (JHRS) が、会員のみならず、日本および全世界のHRプロのために発行しています。

日本のHRジャーナリズムを進め「The HR Agenda」は前進する

発 行 人 からの メッセ ー ジ

カビッティン・順 MBA/MS/HRMP

TheJapanHRSocietyチーフ・コミュニティ・オフィサー

英語原文から翻訳

Rise Up, Japan!

THE PREMIERE ISSUE

Japanese HR:Unique and Transforming? 14

The New Manager 18

Background Screening in Japan 21

How to Master the

Deadly Art of Change 23

Listen Up! 25

On the Hunt and in Contol 26

and more...

Volume 1 Issue 1

ISSN 2186-277X

July-September 2011

JPY 1575 (tax & postage)

創刊号

日本式HRは 本当にユニークで、

変化しつつあるのか? 14

バックグラウンド・スクリーニング

調査の背景 17

管理職になるということ 18

「変化」という恐ろしい技を

どう習得するか 21

よく聞いて! 23

求職中のメンタルヘルス・マネジメント 24

その他...

がんばれ、 日本!

Volume 1 Issue 1

ISSN 2186-277X

2011年7−9月号(創刊号)

定価1575円(税、送料込み)

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2013年7−9月号

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の問題から、変革管理、コーチング、HR戦略、人事関係、HRコンプライアンス、人材と従業員管理まで、採用-雇用-雇用関係終了というHR価値連鎖全体に亘っております。「The HR Agenda」の各号にはコラムが掲載されています。代表的なものとしては、JHRS の動静を伝える「発行人からのメッセージ」、読者が、今、HR界で一番ホットなテーマについて中身のある見解を読むことのできる「特集記事」、読者からのHR関連の質問に、二人の回答者が回答し、日本的見解と海外の見解の双方を伝える

「HRに聞け」、法律の専門家からなるパネリストがHR関連問題に対する見解や助言を提供する「HR法律相談」、紹介に値するHRの優良事例を取り上げる「HRの最優良事例」、HRプロ向けに、有益で実用的なヒントを提供する「HRの道具箱」、さらには、新旧のHRプロにインタビューする「HRのマエストロ」があります。さらにはずせないのは、本誌編集長が日本におけるHRの質的向上に資することを願っての熟考を記した「論説」です。論説は、しっかりとしたリサーチを土台に、常に現状を問い直す、バランスのとれた見解を呈示していると、読者の賛同を得ています。絶え間なく前進を目指すHRプロにとって必読のコラムと申せましょう。毎号、こうしたアイディアがすべて盛り込まれている「The HR

Agenda」は、それ自身、既にHR界の思想的リーダーとなっており、それ故に国内外で高い認知を得ています。

「The HR Agenda」の将来像2013年1-3月号より、「TheHRAgenda」は、印刷媒体(ただ

し毎年の記念号のみ)、インターネット、HTML5、iOS(iPhone, iPad,iPod)、アンドロイド・タブレット、スマートフォンなど様々なフォーマットで購読可能になっています。本誌は簡単にダウンロード、プリントでき、興味のある方と共有できるようになっています(2013年1-3月号「有言実行:「TheHRAgenda」がハイブリッドに!」参照)。ページ・ビューやブックマーク、ダウンロード、シェア、さらにはフェ

ースブックやリンクトイン上の「いいね」の数が飛躍的に増えたことからみて、今のところ、この複数フォーマットによる配信は成功をおさめているようです。モバイル機器を活用するHRプロが増えるにしたがい、「The HR Agenda」も読者の行くところ、どこへでも付いていくでしょう。

カビッティン・順MBA/MS/HRMP:エイチアールセントラル(株)代表取締役社長、テンプル大学日本校非常勤講師を務め、20年以上にわたり人事のバリューチェーン全体に携わってきた。(多くが日本に特化したものである)人事に関する継続教育、知識の共有、最優良事例の活用を通じ、人事の課題を解決することができると強く信じている。経営学修士、経営工学修士、HR研究認定(コーネル大学)

さて、創刊3年目は、「選抜と配属」、「人材の機動性と外国籍者管理」、「HR2.0=HR情報システム」、「報奨・報酬とパーフォーマンス管理」と、HRにとってコアなテーマを扱うことにしています。このようなトピックに関し、寄稿をお考えの方(もしくはそうした方をご存知の方)は、寄稿募集要項をご覧いただき、「TheHRAgenda」という極めてユニークで画期的な試みにご参加下さい。思いのたけを書き、読者に影響を与えてください。ご意見を活字にさせてください。「The HR Agenda」は、同時に、国内外のHR関連会議やイベントのメディア・パートナーとしての機能を今後も続けて行きます。そうすることで、「The HR Agenda」をより広い読者層に届けるという戦略です。「The HR Agenda」を貴社HRイベントのメディア・パートナーにお考えの方、もしくはそういう方をご存知の方は、[email protected]までご一報下さい。

「The HR Agenda」の歩みは、まだ始まったばかりで、これからもどんどんと進化を遂げていきます。やるべきこと、書くべきこと、提唱すべきことが山ほどあります。今後とも、JHRSに課せられた日本におけるHRの進展という使命の達成、この国におけるHRジャーナリズムの発展に対し、読者各位のご支援、ご協力をお願いいたします。

フィードバックやコメントは、[email protected]までお寄せ下さい。

もし寄稿について考えをお持ちでしたらぜひお知らせください。「The HR Agenda」のメールアドレスである [email protected] まで電子メールをください。また当雑誌に関するご意見などフィードバックいただけるのを歓迎します。私どもは受理したメールについてはすべて掲載できるとはお約束できませんが、少なくとも返事を出すことはポリシーとしています。本誌で取り上げて欲しいトピックもお寄せください。

「The HR Agenda」革新的なプラットフォーム日本における最初の二ヶ国語による人事担当者向け雑誌として、「The HR Agenda」は 非常にユニ

ークな舞台(プラットフォーム)を提供しています。英語と日本語で書かれた資料を提供し、寄稿者から提出された文章もバイリンガル翻訳することで、純粋の2方向性を持った意見交換の場を提供します。過去150年ほどの間、日本はもっぱら西洋の知見を日本語に翻訳してきました。私どもは日本の声を国際的な舞台にも紹介できるような場を創造したのです。私どもの目的は物事の裏表や問題のすべての相を理解することにあります。私どもは日本と海外における読者の方々や、世界中のHRプロフェショナルや研究者、オピニオン・リーダーたちの間でオープンかつ誠実な対話を実現させ、それによってお互いの切磋琢磨を促すことを願っています。

思いのたけを書き、読者に影響を与えてください。ご意見を活字にさせてください。

みなさまの声が誌面を作ります!

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C O M M U N I T YN E W S Get to know the latest news and updates within the JHRS Community.

2013年7−9月号

今日ビジネス環境がますます多様化し、これまで以上の困難に立ち向かう中、「インクルージョンによりイノベーションを進める」を議論する第5回GOLDシンポジウムに、世界中から多くの聴衆が忙しいスケジュールをやりくりして集まった。

トビー・マレン弁護士マレン法律事務所

英語原文から翻訳

第5回GOLDシンポジウム

インクルージョンでイノベーションを進める

第5回GOLDシンポジウムが米カリフォルニア州ロサンジェルスにあるインターコンチネンタルホテルで2013年3月22日に開催された。およそ170人の参加者は「熟考し、更新し、改革する:インクルージョンでイノベーションを進める」というメッセージに考えを巡らせた。このシンポジウムには大きな影響力を持つリーダーたちが集まり、「ダイバーシティとインクルージョン」戦略の実施を通じて得られるビジネス上の利点についてそれぞれの洞察を示すとともに、21世紀に成功する革新的リーダーが必要なスキルを提供した。聴衆には、企業のエグゼクティブや銀行家、教育者やコミュニティーサービス活動家、メディア、学生を含む多様な分野の人間が集まった。「リーダーシップとダイバーシティのためのグローバル・オーガニゼーション(GOLD)」の創始者でエグゼクティブ・ディレクターの建部博子氏がシンポジウムの口火を切り、今日のビジネス環境がよりグローバル化・多様化しており、これまで以上に予測が困難となり、ユニークな問題に対処する必要があるとした上、聴衆に対し、「他人の反応を引き出すためアイデアをぶつけるように」と促した。基調講演で米国NPO法人コペルニク共

同創設者兼代表の中村俊裕氏は、「革新的な社会企業家から学ぶ教訓」をテーマに語り、困難な問題を抱えるコミュニティーにいかにして自分の組織がシンプルなテクノロジーを持ち込んでいるかについて説明した。彼によ

ると、ダイバーシティのある国ほどその力を利用する能力を持っているという。フレーザー・コミュニケーションズ社の社長兼CEOを務めるレネ・ホワイト・フレーザー氏は「女性エグゼクティブとの対話:インクルージョンとイノベーションのリンク」をテーマで語り、多様な従業員を抱えることは大切であり、ダイバーシティのある企業はより高いリターンを享受しているとの信念を語った。「グローバル環境とテクノロジー、労働者構成が変わった結果、企業は、革新的で競争力のある優位性を維持するため、ダイバーシティとインクルージョンを扱うパラダイムの確立に向け動かなければならない」とした上で、「私たちが変革のエージェントになる必要がある」と強調した。他方、デロイト有限責任パートナーシップ

の副議長でチーフ・インクルージョン・オフィサーのデボラ・L・デハース氏は、現在進行中の議論は重要であり、インクルージョンは「全体を覆う傘」だと説明した。また、顧客はダイバーシティを持ち込むことを私たちに期待しており、ダイバーシティこそがイノベーションを推し進めると強調した。シスコシステムズ合同会社の代表執行役員社長の平井康文氏は、革新的な環境を作り出すことについて話しし、イノベーションは人間によって創造されることやコラボレーションが重要であると指摘した。彼の言うコラボレーションのモデルは以下の3つのコンポーネントからなる。

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1. 従業員たちに共鳴する文化2. ビジネスのプロセス3. 企業構造を加速させることができる

テクノロジー

センター・フォー・ヒスパニック・リーダーシップ、の創設者であるグレン・リョピス氏は、個性を受け入れることが重要との信念を示した。彼によると、21世紀のリーダーに必要な6つのコアとなるスキルは次のようなものだという。つまり、1. チャンスを見極める能力2. 危機管理3. 諦めない精神力4. 探検心/革新性5. 遺産を残す思いでリードすること6. 寛大な目的を持って働く

米トヨタ自動車販売の副社長兼最高財務責任者のトレイシー・ドイ氏は、自分たちがグローバル経済の中にいることを認識すべきだと指摘した。彼女は、私たちが恐れずに不確定性を受け入れ、勇敢な行為に報いるほか、成功を祝い、新しいアイデアが歓迎される環境作りを求めた。また、彼女は、同僚の貢献を評価しチームワークを推奨し、個人とチームの両方で発展するためにリーダーができることを探すよう求めた。トヨタの成功はその人にあると彼女は説明した。GOLDブリッジ・ビルダー賞の受賞者に

はマリリン・ジョンソン氏、グラシエラ・メイバー氏、シスコ・システム合同会社ジャパンが選ばれた。午後からは三つのグループに分かれてさらに議論が続いた。

多世代との関わりで重要な才能を見い出せグラシエラ・メイバー氏は、若者が限界を押し広げ、障壁を取り除こうとする中、世代間に緊張状態があるように見られると言う。彼女によると、どの世代もそれぞれのスタイルを持っており、今日の若い世代はテクノロジーに精通し、すべてを今すぐに欲する傾向がある。メイバー氏は、世代間のコミュニケー

ションがカギであり、コミュニケーションが欠如すると過去の過ちを繰り返すことになる、と述べた。他方、エレン・チェン氏は、職場以外でボラ

ンティア活動に従事することで若い世代がスキルを培い、職場で得られる物とは違う経験を取得できると強調した。一方、デイジー・オージェ・ドミンゲス氏は、聴衆に対し、多くの新入社員は鋭敏で流動性あるアイデアを備えた企業家であると語った。彼女は、私たちが現在、世代間で学習している過程にあるとの見方を示した(2013年1-3月号ステファニー・オーバーマン記事照)。

障害ではなく能力が大切革新的なインクルージョン金子久子氏は、日本の大学では障害を持

った学生を入学させることが義務付けられていないと語った。障害を持った高校生が卒業後、大学で勉強するのに大変な障壁が待ち構えているのだという。障害を持ちながら大学教育を受けた学生が非常に少ないことから、障害者を雇用したい使用者は高卒者を採用しなければならない。障害を持つ労働者が直面する問題には、彼らが職場でテクノロジーの手助けを受けて、うまく機能しているにもかかわらず、周りの人々から蔑みの目で見られることも含まれる。米国では連邦法でも州法でも、使用者が、人種や宗教、性や年齢、障害や婚姻関係の有無、妊娠や疾患状況、セクシュアル・オリエンテーションや軍隊経験の有無、軍での地位などに基づいて従業員を差別することを禁じている。明らかな障害を持ちながらも十分資格を持った個人を保護する法律に基づき、使用者は、障害者を雇用することで過度の困難に見舞われることにならない限り、職務の本質的な機能をすべて安全に遂行する資格を備えているこれら個人を合理的に雇うよう試みなければならない。使用者は、これら従業員に対し、違法な差別を受けた場合には即座に報告するよう促し、その苦情に対して徹底的な調査を即座に実施しなければならな

い。雇用に関する苦情が起きないよう、米国では使用者が常に雇用法の改正に注意を払う必要があるのだ(本号特集記事「障害者雇用」参照)。

職場における女性のポテンシャルを最大限利用する:アジアからの視点岡村洋子氏は、質問することが歓迎されない文化圏から自分がやって来たと紹介した上で、イノベーションとダイバーシティが必要であると強調した。また、堀井紀壬子氏は日本の企業の中ではダイバーシティとインクルージョンに対するコミットメントはまだ見られないとした上で、いかに人間の力を利用するかが企業にとり極めて重要だと述べた。彼女は、経営陣に女性を含めること、ワーク・ライフ・マネージメント、障害を持つ従業員の採用を増やすことの3つの分野に焦点を当てるよう、聴衆に訴えた。GOLDシンポジウムはこうして再び、様

々な人生を送る人々を集め、今年のテーマであるダイバーシティでイノベーションを進めることにまつわる興味深い情報を多く提供する議論を可能にした。自分の職場でダイバーシティを実践するというコミットメントを熟慮する機会を聴衆に与えたと言える。

トビー・マレン弁護士:カリフォルニアで20年以上にわたり企業のビジネス支援を行ってきた。一般的な相談役として、マレン氏は、使用者が雇用関係の苦情で責任を負わないか、最小限にするよう手助けしてきた。日本語が話せ、米国に進出しようとする日本企業にもアドバイスしている。

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特 集 記 事2013年7−9月号

障害者雇用「慈善事業ではなく、チャンス」

ステファニー・オーバーマン アネット・カセラス「TheHRAgenda」

英語原文から翻訳

障害を持つ人は、仕事さがしに苦労する。そんな中、障害者のニーズに応えようとする企業は、次第に障害者を雇用することのメリットに気付き始めている。

「その人に出来ないことではなく出来ることに注目しさえすれば障害を持つ社員は、会社の収益に真の貢献ができるものだ」と、アクサ生命保険株式会社のチーフ・ダイバーシティ・オフィサーの金子久子氏は言う。金子氏の表現を借りれば、「慈善事業ではなく、企業にとってのチ

ャンス」として障害者に職場を提供することで、アクサ生命は、最も人気のある職場の一つとなることが出来たし、その障害者を積極的に雇用する姿勢に対して2012年度東洋経済ダイバーシティ経営大賞を受賞することが出来た。心身に何らかの障害がある従業員の能力をフルに活用することができる企業は、人材を上手く活用できていると見られる。日本には推定700万人の障害者がいるが、これは全人口の6%に相当する。日本の法律では、これまで企業は従業員全体の最低1.8%すなわち56人に1人障害者を雇用することが義務付けられていたが、2013年4月1日から、この法定雇用率が2%すなわち50人に1人に引き上げられている。障害者の雇用に関する政策は、マーサー社のGlobal Equality,Diversityand InclusionPractice(世界各国のダイバーシティ、統合雇用事情)によれば、国によってかなりまちまちのようだ。各国政府による規制は、障害者に対する差別を法律で禁じるものから、企業が雇用すべき障害者の最低人数規定まで、かなり幅がある。例えば米国では、障害者を差別しないことと、必要に応じて障害者に配慮することが、雇用主には義務付けられている。マーサー社によれば、従業員全体に占める障害者の法定雇用率が規定されている国でも、その割合には大きなバラつきが見られると言う。例えば、中国では1.5%、韓国では2%に過ぎないが、ドイツでは、従業員20名以上の企業の場合5%、フランスでも同じく6%、さらにイタリアでは従業員数により最大7%までの雇用が義務付けられている。

障害者雇用目標の設定株式会社ファーストリテイリングは、障害者の雇用に関し、自ら目標を設定している。同社は2001年、日本国内のユニクロ各店舗で、障害者に雇用機会を与える決定を下した。総務・ES推進部長の植木俊行氏は、この決定の実施にあたり、「各店舗で障害者を1名雇用するのがわが社の方針だ。プログラム発足当時、全国で500店舗を展開していた」と語っている。

「今日、障害を抱える従業員は国内のユニクロで

は7.19%を占めるにいたっている。」

10ページへ続く u

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植木部長は、障害者を登用するのは会社の義務であり、従って「各店舗では、店長が障害者の雇用に当たっている。これは義務であり、当たり前のことだ」としている。部長は続けて、「各店長には、雇用と並んで、障害のある従業員を支援し、指導する業務遂行援助者の役割を与えている。これらの活動は各店長の責任となっている」と語り、「コミュニケーションをとることが、最初は非常に難しかったが、成功や失敗の事例を全社で共有することにより、店長やスタッフが特別扱いではなく、配慮することが出来るようになった。現在は、障害のある従業員の勤務時間を本人の体力や能力を考慮して通常一日6時間から8時間としている」とのこと。植木部長によれば、障害者に配慮することは、当社で大事にしている考え方「気配り、目配り、心配り」を体現することにつながり、結局は障害を持つ従業員本人のみならず、店長や他の店員等、関係者すべての成長に繋がっているという。現在、「ファーストリテイリングには6万人の従業員がいるが、全世界で1,041人の障害を持つ従業員を雇用している。またユニクロの国内店舗数は850店舗だが、約97%の店舗で雇用している。現在、大型の店舗では、2名ずつ雇用することで、障害者雇用をより促進している。」今日、障害を抱える従業員は国内のユニクロでは7.19%を占めるにいたっており、これは、日本の法律が規定する最低基準を遥かに超えている。

障害を持つ従業員の定着障害のある従業員の定着に成功するには、関係者全員の努力が必要となる。アクサ生命の金子氏は、「障害者のニーズに対するわれわれ自身の感受性を高める必要がある」と説く。例えば、同社は視覚障害者と共に働くことにより「高齢化社会では、顧客にとっても従業員にとっても、商品を出来る限り判読しやすいものにする必要がある」ということに、気付かされたと言う。彼女はまた、アクサ生命では聴覚障害を持つ従業員とのコミュニ

ケーションを良くすることへの意識が高まったという、「聴覚障害者は異なる言語を使うので、文化も異なっている。私たちがもっと適応することが大切」と説明する。グラクソ・スミスクライン株式会社の四方ゆかり取締役人材本部長の説明によると、2011年に、ダイバーシティ、特に障害者にフォーカスした「ピープルプロジェクト」を開始している。このプロジェクトでは、「障害を持つ社員の職場での行動パターンを見て、どういう備品や設備があれば本当に助かるのかを考えた」と言う。ピープルプロジェクトではこうした問題点に対する改善の提案を行う。例えば、視覚障害者に情報を提供する音声システムが、社内のエレベーターの全てに設置されているわけではないことに気がついたのも、このチームだ。

「これはトップダウンではなく、ボトムアップによる改善だ。このチームの活動は非常に透明性が高く、成果は全従業員に共有されている」と同社ニュースレターの中で四方本部長は語っている。障害者雇用の大きな問題は、障害を持つ人の大学進学率が低い

ことだという。この状況の改善には、しばらく時間がかかり、障害者はなかなかビジネスキャリアの階段を登ることが出来ないでいる。同時に障害を持っているということは、その人の仕事と生活の優先順位に影響を与えうる。障害を持つ人の職業上の願いが、障害を持たない人と異なるかもしれないということだ。この状況を改善する試みの一環として、グラクソ・スミスクライン社は、障害を抱える人を対象にオレンジ・インターンシップ・プログラムを実施している。このプログラムでは、正規の職に就く前にインターンとしての職場経験を提供する。障害を抱える従業員を、他の従業員が上手く一緒に働いていける

よう手助けすることも、障害者の職場におけるチャンスを広げるためには極めて重要だ。前述の植木部長は、「ファーストリテイリング社では、社員は、例えば聴覚障害者と意思疎通するための手話等、新しいスキルを覚えるように努力している。聴覚障害のある社員が自分を表現できるようになれば、お客様にとっても同僚社員にとっても喜ばしいことだ。今、私の部の一人の特定の社員のことを思い出しているのだが、同僚の一人が何とかコミュニケーションをとろうと、アイ・コンタクトを使ったり、意識して正面で話し口の格好で言葉をあらわしたりした。その後、この聴覚障害を持つ社員とコミュニケーションをはかる社員が増えていった事例がある。会話によるコミュニケーションが可能でない場合、こうした形のコミュニケーションが非常に重要になってくる」と述べている。一方、金子氏によれば、アクサ生命では、障害のある同僚と職場を共にする社員は、そうでない社員よりも障害者雇用を支持する姿勢が多く見られるという結果が社内調査で出ているという。「障害を持つ社員と共に働くようになれば、90%近くの社員が、これは会社にとって良いことだと言う」と金子氏は言明する。

国別割当雇用 障害者の雇用

出典: マーサー社、フォルベス誌、NDA

0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8%

米国

イタリア

フランス

ドイツ

韓国

日本

ポーランド

中国

英国(割当て制度なし)

オランダ(割当て制度なし。目標は全体の2-5%)

以上は、在日英国商工会議所で今年3月に開催されたパネル・ディスカッション「ジェンダー以降のダイバーシティ:障害を持つ社員」における金子久子、植木俊行、四方ゆかり各氏の発言をまとめたもの。このパネル・ディスカッションでは、プライス・グローバル社代表スザンヌ・プライスが司会を務めた。

金子久子アクサ生命保険株式会社人事能力開発部部長、チーフ・ダイバーシティ・オフィサー

植木俊行株式会社ファーストリテイリング総務・ES推進部長

四方ゆかりグラクソ・スミスクライン株式会社取締役人材本部長

スザンヌ・プライスプライス・グローバル社代表

u 8ページから

Page 13: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

11

特 集 記 事

これは単なるイエス・ノーですまされない問いだ。HRが、新規採用に関わりたいなら、自ら果たすべき役割を見直す時期に来ている。単なる門番ではなく、雇用過程の助力者になるべき時を迎えている。

「HRプロは、新規採用の現場から撤退すべきだ。」HRやリクルートのプロがこれを読んだら、怒り心頭に発するはずだ。しかしひとまずプライドを脇によけ、この問題を客観的に考えてみると、上記の言い分にも一理あることが見えてくるはずだ。米国ヘッドハンター界の異端児、ニック・ココディロス氏は、自身のブログで、HRプロが新規採用プロセスから撤退すべき三つの理由を挙げている。

✓ 各専門部署の社員と比較すれば、HRプロはどの部署の仕事に関してもエキスパートとは言えない。従って、HRプロは、新規採用や候補者選び、面接、雇い入れの最適な管理者ではない。

✓ 社員を雇用する責任をHRに負わせれば、暗に、本来、雇用を司るはずの部署を、最適な人材を見出し、雇い入れ、訓練するという最も重要な責務から放免することになってしまう。

✓ 誰が採用されようが、書類処理されようが、雇い入れられようが、関わりなくHRには給与が支払われるので、HRにとっては問題ではない。雇い入れた社員と実際に机を並べるのはHRではないので、HRには利害関係がない。

私自身も、ココディロス氏の言い分には聞くべきものがあると思う。会社が複雑さの度合いを増すにつれ、HRも、自ら進んでか、いやいやながらかは別にして、単なる人事の門番の役割を任じるに至

っている。従って、ココディロス氏の言い分を簡単に無視するわけにはいかない。HRプロは、自らを見つめなおし、ココディロス氏の言い分に真正面から向き合うべきだ。HRプロが新規採用に今後も関わりたいなら、まず、ただ単にHR担当部署にいるという理由で雇用の現場に加えてもらっている現状を打破し、雇用の現場にいるべき権利を、自ら進んで勝ち取る必要がある。私自身はこれまでもずっと、雇用というものは、HRプロが会社に対して果たすことのできる最も重要な任務の一つであり、これからもそうあり続けるものと確信してきた。トップクラスの才能をどう見出し、彼らに会社に対する興味を抱かせ、どうやってその人材を確保するかに関するこれまで深く根付いた価値や行動をHRプロが乗り越える必要があるので、容易なことではないだろう。HRプロフェッショナルは、今、雇用の現場で自分が果たしている役割について、真剣に見直す必要がある。

雇用の現場に立ち会う権利を勝ち取れHRプロはまず、雇用過程の門番ではなく、助力者として機能す

ることから始めればよい。HRプロは、単なる事務、履歴書審査、面接管理の役割に甘んじてはいけない。ほかにもっと重要な仕事があり、こうした平凡な実務は臨時雇いにでも任せればよい。HRプロ達は、自分達が、雇用に至るプロセス・コントロールの一環として、経由すべき存在だという、ところてん式の考え方を乗り越

HRは新規採用に関わるべきか?

カビッティン・順 MBA/MS/HRMP

エイチアールセントラル株式会社社長

英語原文から翻訳

2013年7−9月号

Page 14: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

カビッティン・順MBA/MS/HRMP:エイチアールセントラル(株)代表取締役社長、テンプル大学日本校非常勤講師を務め、20年以上にわたり人事のバリューチェーン全体に携わってきた。(多くが日本に特化したものである)人事に関する継続教育、知識の共有、最優良事例の活用を通じ、人事の課題を解決することができると強く信じている。経営学修士、経営工学修士、HR研究認定(コーネル大学)

えないといけない。HRはむしろ、雇用担当部長や新規採用担当者が、面接、評価、検証から、最終オファーに至る、選抜プロセス全体に主体的に関与するよう仕向け、自らは質の保証の方に集中すべきだ。

HRは、各クラスで最善の人材を雇い入れるという考え方に根ざした、しっかりとした新規採用の方法論を社内に整備すべ

きだ。

HRプロには、「社員が企業にとって最も重要な資産なのではなく適切な社員が最も重要な資産なのだ」というジム・コリンズ氏(マネジメントに関する教祖的存在の作家)の主張に耳を傾けることが求められる。これが出来れば、HRは、雇用の場にとどまる権利の5割までを獲得することが出来る。端的に言って、生身の人間をある位置につけ、ちゃんと仕事をやってくれよと願うことは簡単だが、適切な人材を適切な職につけるというのは、これとは違ったことなのだ。結局のところ、企業はHRに活動ではなく結果を、言い訳ではなく解決策を、そしてまあまあの成果ではなく、最高の業績を求めているのだ。

これを実現させ、適材適所を実行するために、HRは、各クラスで最善の人材を雇い入れるという考え方に根ざした、しっかりとした新規採用の方法論を社内に整備すべきだ。具体的には、会社にとって最適な人材を見出し、その人材に社に関心を持たせ、最終的には雇い入れることを可能にする、以下の実績ある六つのステップを推奨したい。

ステップ1:まず、従来の職務内容説明書はやめ、それぞれの持ち場において、どうなれば成功と言えるのかを明確に示す包括的な職務プロフィールを開発すること。アメリカのヘッドハンターの元祖と目されるルー・アドラー氏(Lou Adler)は、「なぜ職務内容説明書を止めるべきか」

(“Why you must eliminate job descriptions.”)と題する文章の中で、なぜそうすべきかを見事に説明している。

ステップ2:人材調達計画を開発し、魅力的な求人案内・広告を作り上げる。人材のプールにちゃんとメッセージが届くよう、従来の手法に加え、(リンクトイン、ツィッター、フェースブック、ピン、ピンテレスト、等々の)新しいメディアや、ニッチ求人情報掲示板も活用しよう。相応しい人材が、自分の意思にしろ、受身にしろ、どこに集うかを把握しておく必要がある。求人広告を、周りの同種の広告から際立たせるよう、ユニークで目に付きやすいものにする工夫もいる。

ステップ3:面接に当たっては、これまでの行動や、目に見える証拠を重視しよう。過去の行動 (ないしは業績)は、時に誤った情報をもたらすこともあるが、やはり何と言っても、その人材のこれからの行動や業績を予想する上で最も有効な指標となる。

ステップ4:採用候補の行動プロファイリング評価と、身元照会、身元確認を実施しよう。プロファイリングに使えるツールは数多くあるが、この目的のためにはDiSC、DISCやMBTIは使用しないほうがいい。これらは有用な人材開発ツールであり、雇用ツールではないからだ。使ってしまうと、会社を訴訟に巻き込んでしまう可能性すらある(ダン・ハリソン著、“Best Practice in Talent Assessment”参照)。

加えて、採用候補にオファーを提示する前に身元照会、身元調査を実施するか、少なくともこうした調査にパスすることを雇用の条件にすべきだ。故ロナルド・レーガン大統領が、冷戦の最中に、「信頼しても検証を忘れるな」と言ったが、この姿勢が重要だ。そう、日本ですら、社員が嘘をついたり、自らの経歴等につき虚偽の申し立てを行ったりするケースが増えてきているので、HRのプロにも、採用候補を厳しく吟味する姿勢が求められる。

ステップ5:最適人材を採用し、採用過程を成功裏にまとめ上げる。採用過程をまとめ上げるのは、精密科学というよりは、一種の術に近い。まず、最適な人材を動かす動機は何なのか、機会なのか、会社なのか、チームなのか、上司や給与体系なのかを理解する必要がある。給与だけだということは、まずあり得ないということを肝に銘じよう。さらに、新規採用過程を始めから終わりまで、全て行うこと。過程の各段階で、採用候補に「こうだったら、どうだ」という質問を投げかけ、一種の「トライアル」をすることも大事。そうすることにより、採用候補の関心がどこにあるかを評価できるし、職をオファーした際に相手が拒絶する可能性を秘めた問題を予め洗い出すことができる。もう一度、繰り返すが、採用過程を成功裏にまとめるためのリクルート活動をすることが重要だ。

ステップ6:トランジション・コーチングやオン・ボーディングの役割をおろそかにするな。採用候補に職のオファーを行い、採用候補がこれを受け容れても、HRの仕事はそれで終わるのではない。リクルート過程には、雇い入れた社員が引き続き会社に留まるようにすることも含まれる。新人の社内におけるキャリア・プラン作りを積極的に支援し、後継者育成に関しても、新たに雇い入れた社員を考慮の対象とすべきだ。

さて、それでは、HRプロフェッショナルは、新規採用業務に留まるべきか否か。(読者のお考えをお聞かせ下さい。)答えは読者次第です。単なる履歴書審査、面接管理の役割に甘んずるのか、それとも、雇用の現場に立ち会う権利を主体的に勝ち取るのか。何もせず、現状維持を望むようなら、答えは明白だ。そんなHRなら、その存在そのものが雇用過程にマイナスとなる可能性が高いので、雇用の場から撤退すべきだ。

どうやって適切な才能を雇い入れるか。

Page 15: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

13

H R の 最 優 良 事 例

未来に備えるコカ・コーラ・ アジアパシフィックはいかにして未来思考を持つローカルリーダーを育てたか

コカ・コーラ・パシフィックにおける「未来に

備えた」組織の構築

現在の経済的・人口的に移り変わる世

界、不安定・不透明・複雑・曖昧な世界にお

いて、一つの事が明らかになってきた。それ

は、HR機能の戦略的価値を疑う声が少な

くなってきたことである。このことは、ある調

査機関のデータで、アジアと世界における

HR職の求人数が増えていることでも分かる。

HRによる価値の創造活動の中心は、会

社の収益性改善と共に、人材戦略を通じて

ビジネスチャンスをつかむ能力である。人

市場供給を超え拡大、成長するアジア市場に直面し、コカコーラ・パシフィックは「未来に備えた」グローバル・リーダー養成計画を進めるため革新的にならざるを得なかった。直接的な人材獲得モデルだけでなく、世界をリードする米国のMBAプログラムと連携したビジネス・リーダーシップ・プログラムをも通じて、グローバルな環境に適したローカルの人材開発計画を導入し、これまでに実績を上げてきたのである。

ビジネス・リーダーシップ・プログラム:2年間のローテーション経験

⃝ 身分を隠した集中的現場経験

– 販売促進 – 顧客口座担当者 – 流通 – 製造

⃝ 組織に関する詳細な検討 – コカコーラ社の 財務的洞察力 – コカコーラ社の 運営モデル – 競合する市場全体 とトレンド

コカ・コーラ社へのしっかりとした エントリー

コカ・コーラ社社員としての基礎教育を与えるための経験的学習と構造的

学習の組み合わせ

全員のための基礎的な部分

⃝ 顧客対応/販売/ 商業的リーダシップ経験

– 全国小売販売 – 現場での標準作業手順 – 地域販売 – 商業上の指導的地位

⃝ 製品供給実地体験

⃝ マーケティング/ブランド形成実地体験

⃝ BIGまたはKOグローバル展開ユニットと提携したグローバルローテーション(90日間)

中核のコカ・コーラ社ビジネス・ローテーション

コカ・コーラ社の組織を理解するコアとなる経験学習

実地体験に共通またはコアとなる部分

⃝ 財務

⃝ 戦略

⃝ IT

⃝ HR

⃝ 事業変革室

⃝ 顧客ケア

補足的コカ・コーラ社ローテーション

参加者の興味とビジネスニーズに基づく実施体験学習

個人ごとのユニークな内容

⃝ 最終任地とその 任務への移行

(L4/部長レベル)

⃝ 最終任地はビジネスニーズと本人の業績、潜在力、関心に基づくべき

⃝ アジア太平洋市場における最終任地への移行に向けた準備

移行

プログラム参加者の最終配属および移行期間

個人ごとにユニークな内容

ラドスラヴァ・アンゲロヴァコカ・コーラ社アジアパシフィックグループHRディレクター

英語原文から翻訳

材の配置・選抜・保持こそが、総合的人材管

理の根幹として、コカ・コーラ社がビジネス

に価値を呼び込む鍵なのである。

アジア諸国においては経済成長のペー

スに人材供給が追いついておらず、慢性的

な離職リスクを生み出している。地域にお

2013年7−9月号

Page 16: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

いて人材獲得競争が繰り広げられ、引き抜

きにも高い報酬が要求されるようになり、

ビジネスコストがかさみ、生産性のロスが

生まれ、最終損益にも影響を与えている。

このような状況において、私たちコカ・コ

ーラ社は、グローバルな思考を持ち長期保

持できるローカル人材を確保することに努

力を傾注してきた。ここで、私たちの主要な

人材配置と採用に関するソリューションの

うち2つを紹介する。

⃝ 人材養成―将来に向け自前の人材

供給機構の構築

⃝ 自前の人材調達能力の構築

「未来に備えた」組織の創造

2011年、私たちは北アメリカの事業

所と提携して、トップ級米国大学MBAコ

ースのアジア出身留学生を対象に、2年で

ローテーションするビジネス・リーダー・プ

ログラムへの募集を掛ける新しい採用シス

テムを立ち上げた。このプログラムでは、集

中的なコーチング・個人指導・開発経験を

通じて、留学生たちがコカ・コーラの本業に

おいて部門の枠を超えたローテ―ションを

体験し、会社のビジネスシステムに関する

理解とグローバルな批判眼を磨けるようデ

ザインされている。

この2年間のローテーション・プログラム

の最後に、参加者たちはアジアの事業所の

ひとつに任務を与えられる。

将来の組織リーダー候補者を養成する

ことは、企業の経営幹部が下す、将来に影

響を与える長期的視野に立った決断の一

つであり、それゆえ、私たちは「将来性」の

ために採用しているのであり、その決定プ

ロセスは骨が折れるものだ。上級幹部との

面接に加え、候補者たちはケース・スタディ

ー、プレゼン、チームリーダーシップの審査

を受けることになる。そこで彼らのパフォー

マンスの結果が報告され、このプログラム

とビジネスにおいて成功をもたらすような

重要な特性を持っているかが判定される。

その特性とは、関係を維持し、グローバル

な思考を持つ一方、戦略的思考、ビジネス

上の洞察力、学習能力、適応性、部下を率い

る能力と欲求、困難な状況に対処する能力

などである。

グローバルな思考を持つローカル・リーダ

ーを育て、ビジネスを成長させる

私たちは、将来の太平洋地域におけるリ

ーダーを、「ヒマラヤ」のようなコカ・コーラ

大学の代表的なプログラムにより人材ライ

フサイクル全体に渡り養成している。ヒマラ

ヤとは、グローバルなリーダーシップスキ

ルを備えた太平洋地域における高い潜在

能力を持つ人材の成長を加速することを目

的にした6か月間のビジネスおよび人材

開発プログラムである。このプログラムで

は21世紀のリーダーを養成するための3

つの中心的な成功要素、つまり、文化を超

えたリーダーシップ、ポジティブな影響力、

先見的思考に焦点を当てている。これには

Page 17: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

ビジネス・リーダーシップ開発プログラム

共通のリーダーシップ養成カリキュラム

ビジネス・リーダーシップ開発

部門の枠を超えて仕事をこなす

結果:私たちは何を開発しようとするのか?下記の資質を持つリーダーたち:

⃝ コカ・コーラ社のシステムに対する幅広い理解を持つ

⃝ 地元組織に対する深い理解を持つ⃝ 顧客を中心に据えている⃝ 自社のブランドに対する情熱を持っている(また

ブランドに対する深い理解)⃝ 揺るがないリーダーシップ/人を開発する能力

を持っている⃝ 戦略的でありまたビジョンに基づいた思考を持っ

ている⃝ 競争と市場の全体像を理解している⃝ グローバルな視点を持っている⃝ クリエイティブで革新的なリーダーであり、リスク

を進んで負う⃝ 人 を々リードし、変革を管理する能力を持つ

開発アプローチとして、ビジネス・プロジェ

クト、上級幹部とのシェアリングとフィード

バック、トレーニングが7割―2割―1割

で配分されているのだ。このリーダーによ

る触発と経験に基づく開発を組み合わせる

ことで、個人とビジネスにポジティブな影

響を与え続けることになるのだ。このプログ

ラム期間中、参加者が行うプロジェクト提

言の多くが、私たちの戦略的ビジネス計画

に持ち込まれ、トップからボトムまでの成長

を促す直接的な貢献を生み出している。

直接人材調達モデル

私たちの直接人材調達モデルは、ビジネ

スの利益性と効率性を高めるHRのもう一

つのソリューションであり、それによって雇

用の質が高まり、採用が従来より短い時間

で済み、費用もより低く抑えられている。私

たちの内部採用人材調達のエキスパート

たちは、欠員が出る前から人材を用意して

おくことに力を入れている。彼らはコカ・コ

ーラ社のビジネスと文化をよく理解してお

り、欠員を補てんする候補者の適性をうま

く判断することができるのだ。彼らは、労働

市場に雇用主のブランドを構築することに

も十分な実力と動機付けをもっている。こ

の社内の人材調達チームは、優れた多様な

人材プールを確保するために、ソーシャル

メディアほか、個人的また専門職としての

ネットワーク、人材市場に関する知識を備え

ている。

この運営モデルを開始して1年、会社関

係者、社外候補者から寄せられたフィード

バックはとてもポジティブなものであった。

「採用プロセスは効果的に実施されてい

る」との選択肢に賛同した採用部署のマネ

ージャーが70%近かったのに対し、「採用

プロセスがこの会社に対する自分の気持

ちが前向きになるような方法で実施され

ている」との選択肢に賛同する候補者は

94%に達した。もちろん、このいずれの指

標も100%になるまで終わりではないの

だ。

欠員を補充するまでの時間も大きく改

善した。過去には平均で80~90日かそ

れ以上かかっていたものが、64日までに

減った。現在の外部からの雇用数の70%

は会社が直接調達したもので、人材採用経

費も50%削減することができた。

しかし、もっと大切なことは、太平洋地域

の事業のために次の世代を担う多様な人

材を確保し、また育てているという自信を

私たちが持ったことだ。私たちはリーダー

を自ら創造しているのである。

ラドスラヴァ・アンゲロヴァ(ラジ):コカ・コーラ・ アジアパシフィック・グループにおける戦略的人事案件を統括する責任を持っており、コカ・コーラ社で働いて14年になる。入社前は、パリに本部を持つIBM欧州支社でHR総合職として務めた後、ウィーンにあった成長市場本部で働いてきた。

Page 18: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

16

読者の会社では駐在員選定は何をもとに行われているだろうか。グローバル戦略によるのか、短期的なビジネスニーズによるのか。海外駐在員の選定には明快さと透明性を考慮に入れなければならない。プランヴェラ・ザッカ博士によれば多国籍企業は、海外での成功に必要な事柄をより明確にし、候補者の能力を評価する客観的な方法を見つけると共に、選定する側の知識と技能を適切なものにしなければならないという。

May 9 2

013

H R の 道 具 箱2013年7−9月号

プランヴェラ・ザッカ博士株式会社ニコン人事部

英語原文から翻訳

日本企業を含め多国籍企業は、きわめて重要な海外赴任にベストな人材を派

遣できるよう、伝統的・倫理的なベスト・プラクティスに頼りながら、注意深く駐在

員を選ぶとともに、駐在員に対して彼らに期待している事柄を明確にしなけれ

ばならない。

上述したプロセスが機能するために、本人の企業に対する、また、効果的なパ

フォーマンスに対するコミットメントを強化するため、赴任先での役割は、赴任

者に対して明瞭にされ、また最終的にはっきりと説明されなければならない。

日本の多国籍企業による選定の実践について

駐在員の選定にまつわる倫理的関心を理解するため、早稲田大学の日本人リ

ーダー向けのグローバル・マネージメント・プログラムは、日本企業が用いてい

る選定の実践例を研究した。私たちの行った定性的で複合的なケーススタディ

ーは、2011年3月に実施したインドとタイで操業する日本企業9社に対するイン

タビューを含んでいる。これらの国で当時働いていた日本人駐在員たちに対し、

彼らの会社で用いられた選定の方法(たとえば、選定の基準や方法、ツール)と

ともに、赴任の役割と内容の明快さについて尋ねた。

この調査で得られた結果が示しているのは、回答者らが自分たちの役割が海

外での企業の成功にとり重要であると認識する一方で、彼らが赴任前にその役

割や赴任の戦略的重要性について明確にされていないことだった。

また、結果は、日本企業における駐在員の選定プロセスが組織的・戦略的では

なく、一般的に選定がむしろ会社の短期的ビジネスニーズに導かれていること

を示唆している。大抵、駐在員の選定は、本業やラインを管轄するマネジャーた

ちによって決定され、人事部の役割は周辺に押しやられている。企業が用いる選

定の基準やツールの数はとても限定的だ。用いられている主要な選定基準は、

日本の多国籍企業における海外駐在員選定の実践について

Page 19: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

技能やビジネス技法、英語の堪能さ、そして日本国内でのパフォー

マンスに置かれている。構造化された面接や筆記試験は用いられ

ていない。

長期的雇用関係における暗黙の契約

暗黙の契約理論の経済的フレームワークが、日本の多国籍企業

における海外駐在員の選定を支配している倫理の理解を深めるの

に役立つだろう。日本企業の雇用実践の特徴を従来から決定づけて

いる長期雇用の実践形態は、企業と従業員の間における暗黙の契

約に基づいている。この企業と従業員という当事者は、従業員の会

社に対するコミットメントと引き換えに、従業員の雇用保障(長期雇

用と収入の保証)が保証されるという不文律の合意を結んでいる。

長期雇用関係に関する暗黙の契約に基づき、日本の多国籍企業

は、前もって赴任先での戦略的役割や職務内容を明確にするより、

海外子会社の日々の操業における幅広い自由を駐在員に与えなが

ら、彼らが企業に最大利益を出すよう全力をあげることを期待して

いるのだ。

さらに、長期的雇用保障を規定している本社と駐在員の間におけ

る包括的な暗黙の契約の存在により、個別な短期赴任で役割を果

たし結果を出すことに対する期待は限定的なものとなる。それゆえ、

赴任先での不十分なパフォーマンスも、その駐在員の将来のキャリ

アに響いたり、重大な結果をもたらしたりはしないのである。

日本における雇用の特徴を補完するため、すべての多国籍企業

は、明快さと透明性の倫理を組み込んだ選定プロセスから利益を得

ることができる。そのようなガバナンスの倫理を含む人事実践は、技

術的かつビジネス技法の評価を確立することに加え、

1.赴任の役割の明快さ

2.透明な選定システムの確立

3.人間関係と異文化間の能力

を含んでいる。言うまでもなく、駐在員を決める責任を負った経営陣

やHRにいる者が選定を効果的に実施するため、明快さの倫理に

関する能力開発の機会を与えられることが必要だ。

より幅広い選定方法を用いることで、海外赴任にベストの人材を

見つけることができるかもしれない。

駐在員選定において、これらの倫理的考慮を加えることで、駐在

員の失敗で生じる財務コストやその他測定の難しいコストを減らす

ことになる。もっと具体的に言えば、企業とサプライヤー、または企

業と政府・顧客との関係が損なわれるかもしれないといった多国籍

企業が抱えるリスクを減らすことになるのだ。最後に、駐在員のモチ

ベーションや自信は、子会社の生産性と全体的な組織のパフォーマ

ンスに影響を与えつつ、向上する。これらの恩恵を得るため、日本の

多国籍企業は、明快さと透明性の倫理を、彼らのHRガバナンスと

駐在員選定の実践に組み込むことが必要である。

プランヴェラ・ザッカ:現在、ニコンで、グローバルHR開発に携わっている。彼女は早稲田大学から経済学博士号を取得している。

日本企業における駐在員の選定プロセス

が組織的・戦略的ではなく、一般的に選定が会

社の短期的ビジネスニーズに導かれている

Page 20: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

18

リック・ウィルモット氏は、HRが組織的成長と事業収益を引き上げる任務を直接引き受ける時期に来ていると強く信じている。ビジネスの使命達成に貢献するというHRの役割はきわめて重要であり、また緊急のものであるという。「経営はサーカスではない。空中ブランコの場合は下に安全ネットが設置されているので、本人は安全だとわかっている。しかし、ビジネスではそうはいかない。もしあなたがミスを犯してしまうと、人が傷つき、従業員たちが職を失い、顧客が対価に見合った物を得ることができず、株主も投資のリターンを得ることができなくなる」と彼はいう。「私たちは、誰もが認める実用的な日常生活での成果をすばやく出す必要がある。人々のお金と生活が懸かっているのだ」と。測定可能な結果を直接もたらす、もっと実生活に即した解決方法

を導き出すために、ウィルモット氏は、HR実践におけるパラダイムをシフトさせ、HR担当者が通常の人材管理任務を超えて、自分たちの専門性を戦略的で革新的な考え方に移行するよう訴える。組織における利害関係者すべてにまたがるHRの情報源やコネクションを基に、ウィルモット氏は役員会に進出するというHRの未来を見据えている。実際、彼のビジョンはHR重役がCEOになる日が来ることなのだ。「難解な心理学用語と奥義の無意味さを乗り越えて、問題の核心にまっすぐ進み、会社が成長しビジョンが達成されるのを支援する戦略と長期的イニシアティブをとるよう積極的に、独立心をもって前に進み出るHRの姿を思い描いている」と彼は言う。 

変 革 管 理

ビジネスリーダーとしてのHR難解な心理学用語と奥義の無意味さを乗り越えるエグゼクティブ・ウィズダム・コンサルティング・グループ代表リック・ウィルモット氏との対談

世界のビジネス界で競争がますます熾烈になる中、このような環境に挑戦する人事リーダーたちには、組織の成功を確実にするため、これまで以上の直接的で主要な役割を担うことが期待されている。戦略的ビジネスの改善に関する思慮深いリーダーであるリック・ウィルモット氏が、「The HR Agenda」との最近の対談で、HRから執行企業役員への道筋について議論している。この対談インタビューは、ウィルモット氏が主宰したグローバルHRエクセレンスに関する丸1日のワークショップが開催された後に、クアラルンプールで行われた。

リスクを負い、好結果をもたらす失敗に学ぶウィルモット氏は、これを実現するために、結果、成果、パフォーマンス、スピードに焦点を当てるようHRに要請している。彼はHRの成功を測る次の3つの要因を考えている。1.組織が結果を出すのを支援する文化を育む能力2.スタッフの効果的な雇用確保・惹きつけ・保持するシステムの実施3.スタッフのパフォーマンスを高めるための貢献

彼はHRの成功を計る評価指標として主要な実績を重視している。「私たちは個人でできない事を達成する必要がある場合、それを実現するため、仕組みを作る必要がある。いかなる組織でも人が最も重要な資産である。・・・HR重役はCEOの背後に全面的に機動力となり生産を行う文化とチームを創造する」と指摘する。ウィルモット氏はまた、HRのポジションの二重性を強調する。HRの第一のタスクは、人の間で最高のパフォーマンスを引き出しビジネスの目的を達成できるよう経営陣を補佐することである。「その仕事は企業の目標を具体的に挙げ、解決策を見い出し、必要な資源やインフラを特定し、予算増が必要か、またその投資回収期間を見極めることである」と彼は述べている。しかし、彼はHRが自分自身の方法で考え、他と違う意見を用意し、リスクを負うことも期待する。しかも、組織において革新や工夫、自己推進に取り組むと、時々、失敗することがある。「CEOとして、部下たちに権限を与え、彼らが後の好結果につながる失敗をしでか

2013年7−9月号

「The HR Agenda」

英語原文から翻訳

Page 21: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

すことを許さなければならない。部下に革新的なことに挑戦する能力を与えるのだ。彼らに失敗を許すのである。しかし、一度、失敗したら、その失敗から何を学び、次はどう計画を立てるか彼らから報告させる必要がある。そうすれば、彼らは同じ間違いを二度と繰り返さない。後に好結果をもたらす失敗は、喜ばしいことだ。」

HR戦略パートナーたちに最もよく見られる3つの特徴リック・ウィルモット氏はHRの貢献を価値あるものと見なし、HR重

役・部長やマネジャーたちは組織の中で最も高給取りの一人になるべきだ、と信じている。ここで彼が潜在能力を備えたHRパートナーに見る3つの特徴を紹介する。

1. 構造に対し洞察し、混乱に枠組みを与え、分析し、メスを入れ、そしてCEOが重要な中核的問題に焦点を当てられるようにサポートするための洞察力。「不要なものは削ぎ落とし、一点に絞った要点を提出できれば、あなたは私にとってすこぶる有益な存在となる。」

2. 真実を告げ、知性と意思をもち、CEOの考え方に挑戦すること。「私が言うことにすべて同意する者には敬意を払うことはできない。静かにしかも合理的で敬意を示しながら私に挑む者には最大の敬意を払う。」

3. 組織とそこに属する者たち全員に強烈な忠誠心を持つこと。「なぜなら、もし私の監視下では起きないような事柄が何か起こった場合、それで多くの者が職を失うことになるだろう。・・・私は従業員たちを守り、その雇用を維持するのに必要な利益を生み出す戦略を支援することをHRに期待している。」

リック・ウィルモットエグゼクティブ・ウィズダム・コンサルティング・グループ代表

リック・ウィルモットは組織のパフォーマンス、利益、生産性の改善を支援している。近刊に

『Executive Wisdomfor Human Resource Professionals』(HRプロフェッショナルのためのエグゼクティブ・ウィズダム)がある。

CEOとして部下に仕事を任せ成功につながる失敗を許すのだ。

時間のかからない重要な価値を提供する一方、HRが戦略的パートナーであるとの理解が未だ浸透不足

で、その中核機能の範囲内だけでとらえる傾向のもと、ウィルモット氏はHR専門家にアドバイスしている。「あなたがたは、用意された形で自分に物事が提供されると期待してはならない。自分が役に立つ要員であることを証明しなさい。私があなたたち無しではやっていけないと思うように」と彼は言う(サイドバー参照)。ウィルモット氏は、HRが組織の戦略的パートナーであるという考え方を主流化させるため、さらに多くの仕事が山積していることを理解しているが、同時に、今日、たとえ小さな変化でも起こすことが、この力を与える視点を前に進める上で大きなインパクトを与えることも信じている。「一日に1%の改善を目指せ」と彼は言う。また、このスローであっても確実な進展を起こせば、長期的に見ると事業をより成功に導くことが出来るのである。「組織がさらに成功すれば、自分たちの同僚、顧客、投資家を良くすることができる。また、これまで以上に研究開発に投資し、新製品を開発し、サービスを改善することができる」と彼は言う。HRの戦略的任務が働けば、収益性を改善し、経費を削減し、スタッフの定着率を高め、新市場を開拓することができる。そして、これらすべては、誰にとってもより安定し、報われる職場環境を提供することになるのだ。

Page 22: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

20

リンクトインの利点に注目せよ

『目的別リンクトイン活用術50』(下坪久美子著、秀和システム

刊)ではリンクトインを「プロフェッショナル同士の有意義な出会い

を手助けする」ツールと特徴づけている。個人が転職するのも企業

が採用するのも現場のプロフェッショナル同士の出会いで成立する

ものだから、時間と空間を超えてプロフェッショナル同士が出会える

機能は人材のマッチングに実に都合が良い。

 同書の第4章では、キャリアアップしたい個人にレジュメの書き

方などテクニックによる武装ではなく職業人としての等身大の自分

の存在感を発揮する必要性を提唱している。「こんな特色を持つプ

ロフェッショナルがここにいる」と主張して今までのネットワークの

外からコンタクトがあれば、企業の直接のスカウトではなくても注目

される何かがあったと評価できる。転職の意思を強調しなくても、ヘ

ッドハンターとの情報交換するほか気になる企業をフォローして採

用動向をチェックするなどプロフェッショナルのキャリアアップに必

要な情報を常にアップデートしておけるのだ。

 第5章では人材マッチングのもう一方の側面、採用する企業が

リンクトインを活用する利点にフォーカスしている。たとえば従来型

のジョブポータルサイトでは求職者のプロフィールの信ぴょう性を

証明する手段もなければ企業が職場のカルチャーを知ってもらう手

段がなく、採用した人材が職場に馴染むかどうかを面接前には知り

えなかった。一方で、リンクトインでは第三者による評価が個人や企

業の客観的でフェアな評価を可能にし、面接に臨む前から個人も企

業もレジュメ以外の個性や特色など等身大のプロフェッショナル像

が見える。ミスマッチの可能性を小さくしてから面接に臨める上、そ

もそも最初からたくさんの候補者を探し出す必要はないから時間と

コストのロスが少ない。

 企業が欲しい人材が求職者として名乗りを上げている人の中

にいるとは限らない。リンクトインは求職者だけが利用するサイト

ではなく、むしろ現職でいきいきと活躍している人材に企業からア

プローチできるのも画期的だ。現職で活躍している人ほど企業が欲

しい人材であることも多く、特殊な専門職ともなればなおさらだ。特

殊な人材の採用が必要になる事態にあらかじめ備えて、専門スキル

を持つ人たちとつながっておくという方法もある。

 キャリアアップや組織の補強など意志を持つプロフェッショナ

ルならば、今一度リンクトインでマッチングできる可能性を探っては

どうだろう。リンクトインそれ自体が積極的に人材をマッチングする

わけではないが、キャリアアップや人材登用したい当事者同士

を助けるのがリンクトインの役目だ。

選 抜と配 属

リンクトインの発端は、創設者リード・ホフマンが仕事上コンタクトしたい相手に出会うために知人のつてを頼った、という体験に基づいている。だからリンクトインは企業と人材の出会いをサポートする優れたツール、もっと絞り込むと採用や就職を手助けするツールと言ってもいい。

2013年7−9月号

下坪 久美子ビジネスライター兼HRコンサルタント

日本語原文による寄稿

下坪久美子:HRコンサルタント、ビジネスパーソンや

学生向けの「グローバル・マインドセット」トレーニング、

コミュニティー創造プロジェクトなど「クロス・カルチャ

ー」をキーワードに幅広く活動中。最新著書に「目的別

リンクトイン活用術50」(2012年秀和システム)。JHRS

の「Women in HR」リーダーとしても活動。

Page 23: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

21

面接がその日最後になると可能性がしぼむKnowledge@Wharton(ペンシルバニア大学ウォートン校)

応募者には残念なことだが、ウォートン校の新しい調査によると、

候補となる学生や求職者が競う相手は、自己をアピールする候補者

の集団全体だけでなく、たまたま同じ日に面接スケジュールを割り

振られた求職者たちの中でも自分を輝かせなければならない

のだ。

この調査報告書「日ごとの物の見方:10年間におよぶMBA選考面

接から得られた狭い括り(Narrow Bracketing)の証拠」でウォートン

校の運営情報管理を担当するウリ・シモンソーン教授

とハーバード大学のフランチェスカ・ジノ教

授が、有力または劣った候補者が続い

た後、一日の最後に面接を受けた

受験者のスコアがいったいどうな

るかについて研究を行った。

彼らの理論は、「狭い括り」と呼

ばれる現象が、一日の最後の

方で面接を受ける受験者

の面接結果にどう影響を

与えるかにあった。狭い

括りとは、同じような選

択肢が続いた場合にどう

なるかを考慮に入れずに

個人が判断を行う際に現れ

る。

5を最高とする5段階評

価で、優秀な候補者が続

いた後に同程度の能力を

持った受験者が面接を受

けた場合、より低いスコア

しか与えられなかったと

いうのだ。逆に、低い能力

を持つ候補者が続いた後

で面接に臨む受験者は、予

期される評価より高いスコア

面接担当者は全体の結果ではなく、面接日における些細で典型的と言えないサンプルに基づいて判断する傾向がある。しかし幸運にも、問題を解決するローテクで低リスクの対処方法がありそうだ。

を獲得することが多かった。この調査は9千以上の面接を対象とし

たものだ。

「もし面接担当者が4人に面接を行い、4人とも好結果だった

場合、この担当者は5人目の候補者がそれまでの候補者より劣って

いるだろうと考えるものだ」とシモンソーン教授は述べている。「もち

ろん、(受験者に対する)彼らの意見を直接知ることはできないが、

彼らがいかに受験者を評価したかは知ることはできる。担当者たち

が面接する受験者について知りうることを考慮に入れ

て調整を行った上で、(その5番目の受験者

に)低い評価を与えているかどうか私

たちは知ろうとしたのだ。実際、5番

目の受験者たちには低い得点が

付けられたのである。」

高得点を付けることへの抵抗感シモンソーン教授に

よると、仮説は、あるプ

ログラムについて限ら

れた割合の個人しか受

け入れられない場合や、

選考プロセスで少人数しか

次の段階に進めない場合、面

接担当者が最初の4人に高

得点を与えた後、5人目に

同じようにすることに抵抗

を感じるという。

「受験者の約50%に良

い評価を付けることが期

待されている面接担当者

は、ある面接日においてよ

い得点を50%以上または以

下の受験者に与えることに抵

2013年7−9月号

21

Page 24: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

抗を感じるかもしれない。それゆえに、すでに何人かの受験者が高

得点を得ている日に面接を受けることになった受験者は不利であ

る」とシモンソーン教授とジノ教授は書いている。

一連の判断に期待される全体結果を適用すると、この場合、大学

院プログラムに受け入れる受験者の割合が分かっていることによ

り、ある特定の日の判断において、面接担当者は、狭い括り行動を示

しているのである。

「その影響は無意識かもしれないし、かなり意識的かもしれな

い。候補者を連続で高く評価した場合、上司がその仕事を低く評価

するかもしれず、それを避けようとするかもしれない」とシモンソー

ン教授は言う。

ローテクな解決方法?シモンソーン教授は面接受験者にとっては、この研究結果がそれ

ほど戦略的助けにならないと述べた上で、「利用者にとってはここに

魔法が隠されているわけではない。誰が自分と競合するのか、また

自分の面接の順番をコントロールすることはできない」と言う。

しかし、企業または大学がこの狭い括りをコントロールすること

はできるだろうとシモンソーン教授は言う。彼は面接担当者が表計

算またはデータベース・ソフトに受験者のスコアを入力することで、

経時的に面接結果をモニターすることができ、その日の受験者の一

団に囚われなくなると説明している。

「全体の面接プロセスを監視する表計算ソフトは、面接スコアを

視覚的に表示でき、あるスコアが、面接で続いてもそれが自分の目

にパッと飛び込んでくることはない。それ自体人目を引くものではな

いが、ローテクの解決方法で、低リスクである」と説明している。

シモンソーン教授とジノ教授は次のステップとして、この狭い括り

効果に自分たちの提案する解決方法が効果があるかどうかを確か

めるため、実験室状況でのテストをするつもりだ。

編集者注: 本論考のより長い版(http://knowledge.wharton.upenn.edu)を参照ください。

「狭い括り」と呼ばれる現象が、

一日の最後の方で面接を受ける受験者の

面接結果に影響を与える

シモンソーン教授とジノ教授は「これら任意に作られた小集団が

専門家の判断に影響を与えてはならない」と付け加えている。「MBA

の受験者の評価がその年の受験者全体の構成により影響を受ける

可能性はあるが、ある日たまたま面接を受けることになった少数の

受験者たちの構成によって影響を受けてはならない。」

この現象は教育機関への入学だけにとどまるものではない。シモ

ンソーン教授は、同じようなダイナミクスが、銀行での融資申請や仕

事の採用面接など、個人が同様の判断を複数日に分けて行う場合

にも、発生すると仮定している(選考プロセスが従業員一人の採用

を決める場合には、この現象は起こりにくいが、候補者グループを絞

り込む早期の選考段階においては、この現象が関与する)。

Page 25: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

23

L E G A LC L I N I C

"Ignorance of the Lawis no excuse."

雇用主が提供する無料健康診断でプライバシーが守られるか?

労働安全衛生法では、事業者は労働者に対し健康診断を毎年行なわなければならないと定めている。この健康診断の目的は、従業員の健康が労働状況によってダメージを受けていないかを確かめることにあるが、従業員の中に健康に問題を抱えている者がいる場合には、その症状に応じて従業員の健康を守るために必要な手段を取ることも目的のひとつである。従業員の健康状態でどの側面を特に診断するかという基準は、従業員が普段からこなしている職務の内容によって違ってくる。専属産業医を雇うことが義務付けられている従業員1千人以上の企業の場合、健康診断の結果はその産業医が一手に管理し、従業員のプライバシーを守ると同時に、診断結果に関する適切なフォローアップが出来るようにアレンジされていることが多い。企業の人事部が診断結果を管理する場合もある。個人のプライバシーと個人情報保護法に関する人々の関心が高

まっていることから、雇用主の多くは、健康診断の結果を企業内で予め任命された個人または部署に開示すること、情報の使い方について承認することを盛り込んだ同意書への署名を従業員に求めている。

法律では、雇用主が任命した医師による診断を受けたくない従業員が自分で健康診断を受け、医師からの所見など健康診断を確かに受けたという証明書を提出することも認めている。つまり、従業員が毎年、健康診断を受けること自体は法律で義務付けられているものの、彼らが希望すれば、雇用主を通さずに診断を受けることもできるのである。ただし、従業員が自分で健康診断を受けた場合、雇用主に提供される情報が限られたものとなり、従業員の症状に応じ職場環境を改善するという雇用主の義務が緩和され、従業員自身が健康管理に十全の責任を持つことが求められるようになる。雇用主の中には、従業員が自分で選んだ医師の健康診断を受けた際にその実費を後で払い戻す雇用主もいるが、必ずしも義務付けられていない。払い戻す場合でも、その金額は、たいてい雇用主が任命した医師の健康診断で払う金額を基準としている。

日本では従業員に毎年、無料で健康診断を受けさせることが法律で雇用主に義務付けられているというのは本当か。もしそうなら、法律は、雇用主が診断料を支払ったのに、従業員が自分の診断結果を雇用主に知らせない権利も認めているのか。いずれにせよ日本での一般的な仕組みについて教えてほしい。 ――自分のプライバシーに関心を持つ従業員

質問:

回答:英語原文から翻訳

我らがエクスパートのご紹介

ビッキー・ベイヤー採用 、ベネフィット・プログラム、 解雇、退職、従業員関係、差別および ダイバーシティ、非競争、調査および懲戒関係

トビー・マレン米国でのビジネス、労使問題と雇用、不動産法律関係

大山滋郎会社法、知財権法

グラント・スティルマン国際組織および貿易に関する法律

お断り:筆者がここで述べているアドバイスや意見は一般的な情報を提供するのが目的で、専門的な法律アドバイスではありません。法律的なアドバイスが必要な方は資格を持った専門家に個別に相談してください。

人事関係の法律に関するご質問、エクスパートへのご志願は[email protected]までお寄せください。

L E G A LC L I N I C

ヴィッキー・ベイヤー弁護士:日本の労働法に関して20年を越す経験を持つ弁護士であり元法学教授。現在は在日米国商工会議所弁護士。加えて5年以上にわたり、日本以外のアジア諸国8カ国で、雇用法に関わる業務に携わってきている。ワシントン大学から法学士、ボンド大学から会社法と商法で法学修士を取得。

従業員が毎年、健康診断を受けること自体

は法律で義務付けられているものの、雇用主を

通さずに診断を受けることもできる

個人情報にまつわる意識が高まっている今日、このような毎年の健康診断を義務付けること自体がプライバシーの侵害だと見なす向きもあるだろう。しかし、この法律の意図するところは、保護者的な観点にある。つまり、雇用主には、従業員の福祉に責任を持ち、従業員の健康を積極的に管理することが期待されているのだ。また、雇用主は、従業員の健康に関する情報を、彼らの不利になるような雇用関係の判断に使用することがあってはならないのである。

2013年7−9月号

Page 26: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

24

A n d r e w& Y o s h i ’s

AskHRHelping you solve your people issues.

Ask Andrew & Yoshi: email us at [email protected]

妥当なバックグラウンドチェックと照会の実施について

これは個人情報へのアクセスが人々の関心を集めるようになっ

た現在、とても興味深い質問だ。雇用主と従業員の観点から2つの

分野があるだろう。

1. 従業員に関する情報を出すこと。例えば、融資を行っている

銀行から自社で働く従業員について照会があった場合を考

えてみれば良い。

2. 誰かに関する情報を入手すること。この場合、普通は雇用を

検討している相手に関する情報となる。

たいていの国では、どんな情報をどのように共有すべきか、すべ

きでないかなど個人情報の保護に関するガイドラインが存在する。

多国籍企業の多くも全従業員と共有する個人情報保護に向けたガ

イドラインを有しているが、企業内で十全に守られ、その内容が熟

知されるような明確な方針を持つことが企業にとり最優良事例とな

るだろう。

1つ目の分野(つまり従業員に関する情報を出すこと)に関する

私の考えは、ハイレベルな情報のみを対象とすべきで、個人的見解

を尋ねるような質問は避けるか、答えないようにし、イエスかノーで

答えるべきだということである。私自身のアプローチは、(尋ねられ

ている人物に)、その人について尋ねられていること、私がその質問

に答えるのを支持してくれるかを確認すべきだということである。私

の個人的見解では、雇用主と従業員の間で情報の守秘義務につい

て不文律の合意があり、この合意は常に尊重されるべきだというこ

とである。

2つ目の分野については、人事担当者の見地でいうと、これはよ

くあることだ。特定の個人に関する幅広い見方が出来るよう採用を

決定する際にバックグラウンドチェックや照会を行うのは良い慣行

だ。私自身のアプローチとしては、自分が知りたい内容をまず明確に

してから正しい質問をすることだと考えている。ある人物がどんなス

キルをまだ必要としているか、またどんな経験を持っているかなど。

それらの質問は、いつでも可能な限り個人的意見よりも事実に基づ

くものだ。私の目的は、面接を通じて私が目にした内容にあってい

るか自分でまだ答えが出ていない分野を探求することである。私と

しては電話でこれを行いたい。

他人から照会を受けた場合には個人的にバランスの取れた見解

を提供するようにしている。私が言える何か建設的なことがあるとし

たら「この分野についてもっと探求すべきではないだろうか」などと

言うことだ。つまり、採用手続きで何か影響を与えるような意見を言

うよりは、事実や模範を示したり、導いたりすることである。

もし、誰かの性格をもっと知りたいと思ったら、自分としては本人

の態度やスタイルを探求する心理的ツールを利用するだろう。時に

は専門家の手助けも求めることが多い。

この分野について最後に考慮すべきことは、多くの企業が現在、

従業員に関するバックグラウンドチェックの照会に対し、特に書面

による情報提供を拒否していることだ。その理由は(過去の経験とし

て)主に裁判に訴えられることを恐れてのことだ。やはり企業内で個

人情報に関する方針を確立させて、それを社内に十分に知らしめ、

そのガイドラインに沿って対処することを徹底させることが大切だ。

会社は採用過程において私立探偵や信用調査機関を利用すべきか?

H R に 聞 け

アンドリュー・マンターフィールド須田マンターフィ-ルドコンサルティング エグゼクティヴ・コーチ&シニア・コンサルタント人は「さらなる達成感を得たい」という願いをもち、かつ、その願いを実現する能力を持っている、と考える彼が目指すのは、クライアントそのひとが持つ価値・能力を見出し、クライアントが自信と輝きに満ちた毎日を送ることができるよう導くことだ。「ギネス®」「キルケニー®」、「スミノフ アイス®」などのブランドを所有する英酒類大手ディアジオ社での27年にわたる輝かしいキャリアの持ち主で、10年以上におよぶ人事部門そしてセールス部門での管理職在任中には、日本、オーストラリアそしてイギリスでの駐在をはじめ、アジア、ラテンアメリカそしてアフリカ地域を奔走し、当該地域における社の発展に貢献した。そのなかで、アジアの文化、特に日本の文化を背景とした日本特有の雇用問題や企業における問題などを深く理解するようになった。

アンドリューの見解:英語原文から翻訳

2013年7−9月号

Page 27: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

25

ご質問ありがとうございます。バックグラウンドチェックは80年

代、90年代は安全性と信頼性を特に必要とする組織(政府、官庁、警

察、病院、航空会社)で行われていたと思います。

9・11以降、活用する米国企業が増えてきており、今回2012年

度の米国の人材マネジメント協会(SHRM)の展示会場でもバッ

クグラウンドチェックサービスを提供する会社のブースが2007年に

比べてかなり目立ちました。

日本は、元々新卒採用を重視し、移民も少なく、バックグラウンド

チェックそのものを必要とする認識が米国よりも薄い国ですが、産

業構造が第三次産業へ大きく移行し、外資系企業も更に増加し、中

途採用も増加してきて、バックグラウンドチェックは探偵、興信所、バ

ックグラウンドチェック企業等を使いながらこれまで以上に増えて

きているようです。

私の人事制度導入に関する意思決定のポイントは、「目的の正当

性」、「その効果(企業へのベネフィットと社員へのインパクト)」、「方

法の妥当性・倫理性・透明性」です。

バックグラウンドチェックを採用している企業は、その組織や職務

の実情により様々な目的をお持ちだと思います。例えば機密事項を

取り扱う、信頼性を重んじ正しく物事を進めるなど職務に根差した

チェック目的から、他人と協働ができるといった性格的・企業文化的

なものまで様々でしょう。

バックグラウンドチェックの目的は明確で社員から見ても本当に

納得がいくものでしょうか?

次にチェックのインパクトですが、チェックを行うことによりどのよ

うな成果が会社にもたらされているのでしょうか?

逆にチェックを行っていることによりどのような不測の事態を未

然に防いでいるのでしょうか?

例えば、バックグラウンドチェックを行い、またISO9001も

取得しているが、不祥事が起きているのでは、チェックの効果が発揮

お断り:アンドリューならびにヨシの回答、意見、見解は個人のものであり、必ずしもThe Japan HR Societyやその会員、事務局、会友、支援者の全般的見解や感情を代表するものではありません。更に、アンドリューならびにヨシの回答、助言、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のより専門的な法的、財務的助言にとってかわることを目指したものではありません。

しきれていないのではないでしょうか(採用後の問題もありますが)。

もうひとつの重要なインパクトは社員と組織文化に対するもので

す。それらのチェックは社員、そして組織文化にネガティブな影響を

与えていないでしょうか?

最後に、やり方が妥当で透明であるかです。事前に対象者の理解

と承諾を得ていれば問題は少ないと思いますが、全く不透明な中、

勝手に個人的な情報を調べられる、調べた情報を会社の誰が見て

いるかをモニターされていないなら、方法的にも倫理的・人道的に

も妥当なものとはいえないと思います。

会社の行うすべての活動は会社の求める文化と成果を創り出す

ためにあり、そのやり方も企業文化に則ったものであるべきです。

ご質問の探偵や興信所の活用ですが、上記のポイントを真にクリ

アできていれば、問題は軽減されると思います。

最後に個人的な思いを述べます。私は、会社は社員との信頼を基

盤として成立し、ともに成長していくべきものだと思っています。探

偵や興信所の手を借りず他の手法で行うことができればベターで

す。盲目的に信じるというのではなく、採用過程で、会社に本当に必

要な人と合わない人の特徴をしっかりすり合わせることができれば

ベストです。只、必要最低限のバックグラウンドチェックを外部委託

するのは必要性と妥当性があれば、いたしかたないと思います。(当

然、入社後の仕組みの中で期待される人材に開発していく仕組み創

りも重要です。)

松井義治(ヨシ) HPOクリエーション 代表取締役社長12年間のマーケティング経験と12年間の人事と組織開発の経験をもとに、リーダーシップ開発と組織開発を専門とする。エグゼクティブコーチング、リーダーシップ開発、組織変革、マーケティング及び営業力強化などを通して、顧客企業のビジネス成果・組織の健康・社員の能力と士気の強化を支援。北九州大学外国語学部卒

(異文化コミュニケーション専門)、ノースウェストミズーリ州立大学経営学修士(MBA)。現在、ペッパーダイン大学にて教育学博士コース(組織変革専攻)を修了し博士論文執筆中。

ヨシの見解:日本語原文による寄稿

Page 28: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

26

コ ー チング2013年7−9月号

潜在力を引き出し現実のものとする

風に揺れる竹のようにダニエラ・プロバーガー 、ビジネス・コンサルタント&コーチ

英語原文から翻訳

フロリアン・プロバーガー博士 、医師、チベット学者

職場であれ生活であれ、自分の環境と調和するためには、安定性と適応性の両方が必要である。

好みと嫌悪、強さと弱さは人によりユニー

クなものである。人生の挑戦や生きる術(す

べ)は私たちの生まれつきの気質に従って生

きることによって成る。自然に逆らって生きる

ことは、さまざまな肉体的疾病だけでなく、ス

トレス、敵意、不満といった結果を引き起こし

うる。それゆえ、私たちは自分自身の本質を

見い出し、その本質を実現する責任があるの

である。

しかしながら、このような心の持ちようは、

日常生活でいつも簡単に実現する訳ではな

い。それどころか、しばしば実際に経験するの

は、自らの内側の資源(才能、大望、信念、戦

略)と外の世界(社会、組織、家族)が同期し

ないことである。しかし、個人とコミュニティ

ーを結びつけるプロセスに自分自身が意識

的に参加することにより、一人では達成でき

ないようなもっと偉大な何者かに変身するこ

とができるかもしれないのである。

漢方では、環境と調和を保ち健康的な生

活を送っている人間の理想的な状態を表現

するのに、竹のイメージが使われる。竹は2

つの本質的な能力を兼ね備えている。この植

物は強い幹からなる安定性を持ちながら、同

時に、風に合わせて動く能力、つまり適応性

も兼ね備えているのだ。

風に揺れる竹のイメージとともに、次の幾

つかの内省を行うことで、生活における個人

的、肉体的、精神的な潜在能力を見い出し、

それを開発することの重要性を強調したい。

これらの内省は、個人の内的成長を支援する

ための社会と組織への刺激策としての役割

も果たすはずである。

竹の根っ子は栄養を見つけるため頼るべき私たちの内部にある確実な基盤を意味す

る比喩である。

根について

自分は健康だと考えている人の方が、管理

職・専門職を担当していることが多いようだ。

ポジティブ心理学者であるマーチン・セリグ

マン氏は、彼のモデルPERMA(「ポジティブ

な感情」、「エンゲージメント」、「ポジティブ・

リレーションシップ」、「意味と達成」の頭文

字)の説明の中で、自分たちの才能を花開か

せる条件を要約している。それによると、私た

ちは、自分自身の最も深いところにある満足

感や達成感を導く条件について十分に吟味

しなければならない。まるで子供のように、

自分たちの価値観についていつも興味を持

ち続け、それを発見し、さらにそれを敬うこと

が大切なのである。私たちの価値観は、私た

Page 29: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

ちの内部の資源に目を開かせるドアを開け

るための鍵でもある。竹の根っ子は栄養を見

つけるため頼るべき私たちの内部にある確

実な基盤を意味する比喩である。

 自分自身の潜在能力を発揮しないこと

は、肉体的なレベルにも影響を与える。これ

らの効果は、漢方などの様々な伝統医学だ

けでなく、現代の臨床医学でも広く説明され

ているところである。

漢方によると、潜在能力や創造性を発揮

しないと内部の静かな敵意やフラストレー

ションが起こる。たとえば、この場合、肉体

的には中国医学で言う「肝气郁結(Liver-Qi

Stagnation)」という状態になる。この状態の

典型的な症状としては、舌の変色や口中の苦

味の増幅、頭や首すじの張り、肉体的接触へ

の不安、騒音や臭いへの過敏といったものが

出てくる。

これに対して勧められる治療法としては肉

体的なものと精神的なものの両方がある。潜

在能力を十全に解放するため、あまり規律に

縛られず、自分が食べたい食事をし、いろい

ろな香辛料を楽しむようにする。伝統的な針

治療を使い、肝臓と胆嚢に効くツボである肝

臓3 (太冲)および胆嚢34 (陽陵泉).を特に集

中して治療するのだ。

 

風に揺れる動きを意識する

風に揺れる竹。私たちが調和を経験しなが

ら、その範囲内で自分の最高の潜在能力を

発揮し、自分自身になるためには、その風の

本質、つまり環境を理解することが極めて重

要だ。本質と同化し、自分の知らない神秘を

発見するため、自分自身とその環境との間に

ある境界を引き上げる必要があるのだ。

安谷白雲老師は曹洞宗の祖、道元の「現成

公案」について次のように述べている。「『私

の考えでは』とか『私の意見では』などという

のは、人が仏の道にまったく達していないこ

とを示している。仏教とは、人に本来備わって

いる自然そのものに回帰する道なのである。

自分で獲得した感情に惑わされている間、人

はどうやって自分の本来備わっている自然を

悟ることができるだろうか」と。

人生における瞬間瞬間が私たちを正しい

道に歩ませなければならない。自分の個人

的、肉体的、精神的な潜在力を生き抜く努力

をすることで、私たちはより弾力のあるしな

ダニエラ・プロバーガー:日本に過去数年住み働いたことのある国際的なビジネス開発コンサルタントであり、コーチでもある。

フロリアン・プロバーガー博士: チベットと中国の医療に関する数多くの専門的著作を発表している著者である。

やかな人間になれる。私たちの個人的な義

務は、自分の根と幹に意識を向けて、自分と

他人に、責任を持って働きかけることができ

るようにすることである。

そこで、組織が効果的に挑戦すべきこと

は、それぞれの人間の気質がユニークなも

のであることを知った上で、それぞれの個人

の強さを見抜き、それらを組織的構造と職務

に調和させることである。内部から組織を強

化するとともに、革新的スピリットと生産性

を補強するため、組織は個人を包括的に認

知し理解する精神を生かす方法を実践しな

ければならない。

このカップルは現在、オーストリアのウィーンに住んでいる。

Page 30: The HR Agenda Magazine - July-September 2013 Issue 「日本語版」

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アネット・カセラス「TheHRAgenda」編集長

英語原文から翻訳

人材競争では

誰もが重要

論 説

今回の論説では、いわゆるパーソナル・タッチがいかに人材選抜プロセスを促進したり、逆に阻害したりするか、また、ソーシャル・ネットワークがどのようにして知人情報を、新たにビジネスに取り込んでいるかを検討する。

2013年7−9月号

工業化は労働力減少と相関関係あり世界中で起きた工業化は出生率の低下と相関関係がある。それ

を進めたのが、西洋的な共働き夫婦のライフスタイルであれ、中国の一人っ子政策であれ、また夫を人質に取るような日本の職業倫理であれ、国内総生産(GDP)にみられる工業化の進展は常に出生率の低下と相関している。皮肉な事にこれは、労働力の枯渇をも意味するだろう。現在の人口動態は、全く文字通り、日本の人口ピラミッドを逆三角形に向かわせるものとなっている(表を参照のこと)。二酸化炭素が進める夏の外気温上昇につれ、企業の採用部署もどんどん少なくなる人材を求めて競争をヒートアップさせるのだ。

ビジネスという戦場における血縁とガッツコカ・コーラのラディ・アンゲロヴァ氏も選抜と配属について吟味

している。本号別の記事で、彼女はアジア太平洋地域における「人材を巡る衰えることのない闘い」について述べている。同じ見方に立って、その競争力のある文化で闘いを挑んでいるのはコカ・コーラだけではない。しかし、ビジネスは戦場ではない。企業はその設立者の思考が生んだ産物かもしれないが、子供ではないのだ。そう、企業の生き残り策は従業員やその家族の生計に関心を置くのであるけれども、利益を守ることは生き死にの問題ではないのだ。企業

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昭和25年 平成62年

男性 男性百万 百万女性 女性

日本の人口ピラミッド上下逆となった世界

年齢

出典:総務省統計局;厚生労働省

人的ネットワークは、客観的な能力ベースの人材選抜

過程と面接官個人の人材判定を補う上で、有意義な主観的要素を提供するものとなっている。

はあくまでも生き物ではない。私たちが人材を採用するのは競争し、また協同するためであって、相手を殺すためではないのだ。世界各地において血統は、階級や家族の系統を通じて促進され、

自他の保護的境界線を定めるのに役立ってきた。財源と知識を獲得する権利は、チャンスと義務、コネと汚職を伴う拡大家族経営の複合企業において、外での尊敬と内での憤りで人をひいきもし、閉じ込めもしてきたのである。エスカレータ式に特定大学から一握りのエリートだけをほとんど排他的に採用している日本の大企業の採用の仕方は、今日、選抜のプロセスをもっとオープンなものにしたいと希望している者にとり難題を突き付けている。プロフェッショナルの階段を登るにつれ、汚職を排除し、雇用プロセスをこれまで以上に民主化するための努力が展開され、その結果、その複雑さにおいてDNAの組み合わせに匹敵する詳細な職務明細書と選抜基準が求められる時代の到来を早めた。求職者のこれまでの経歴と、その職が要求している能力の釣り合いを、また過去について証明されている実績の記録をマッチさせるために、非常に科学的な方法が使われるようになっている。(本号で選抜における透明性についてのプランヴェラ・ザッカ氏と、ベスト・イン・クラスの採用実践についてのカビッティン・順氏の記事をそれぞれ参照のこと)。ここでパラドックスが現れる。大局的に見て、工業化に伴う効率性を求めるメンタリティーは、労働力を再生産するだけではないという社会全世代の重要性を知らしめたが、家族の刺激と親近感を奪うことで、個人を輝きかせる「やりがい」を失わせたのだ。感情の欠けた、管理と命令に支配される企業文化は、職場内外における人間関係の親密さに社会全体の目を向けさせず、タスクに焦点を当て、目標の達成に労働者を方向づけたのだ。サッタール・バワーニ氏は本号で若い世代がこれまで以上に仕事に意味を、仕事と生活の間により適合性を見出そうとしていることを語っている。ベストの人材を惹きつけるために、企業はこのより大きな全体像を考える必要がある。職業価値観調査(グラフを参照)によると、特に日本では、収入よりもうまの合う同僚と一緒に働くことの方がインセンティブとして優先されている。しかし、客観的なチェックボックスの基準は私たちが働いている企業について低く評価している。

次の状況を思い浮かべてもらいたい。これは本当にあった話だ。就職希望者が時間よりも早く面接会場に着いたが、秘書は電話に夢中で、彼の到着に気がついていない。秘書は、「誰を雇うかはもう決まっているんですけど、一応、最低二人は面接しないといけないので、就職希望者の履歴書に目を通して、交通費を考えて、一番近くに住んでいる応募者を見つけたんです。」と言ったところで、彼に気付き、さらに一言二言付け加えて電話を切った。「ご用は何でしょうか」と秘書が聞くと、彼は「ええ、私がその近くに住んでいる応募者ですけど。」と答えるのだ。これはアメリカで起こった実話だが、一般的に日本では、これほど建前にこだわる必要はない。他国と違い日本では、杓子定規な茶番劇を経なくても、個人的な推薦で人を雇うことは十分に社会的に認められているからだ。個人的に知っていることや、そこから派生する信頼の方に重きをおくという世知が、日本にはある。どうなるかわからないなら、知っている候補者の方がいい、というわけだ。

競争からコネクションと信頼性へ最近、このような採用の現場に主観性を取り戻すわずかなシフトが起きている。コカ・コーラ・アジアパシフィックのアンゲロヴァ氏も、「現在の外部からの雇用数の70%は会社が直接調達したもの」と証言している。このゲームに参加し続けるために、ヘッドハンターたちはよりよいビジネスパートナーになるという手続きに付加価値を与える方法を見つけ出さなければならない。アンゲロヴァ氏によると、社内人材を活用するチームは使用者のブランドを構築するのにより動機付けされているほか、人々を気持ちよくさせる方法で取り扱うプロセスについて関心をもっているのだ。規模の大小を問わず、企業の多くは、採用に当たり、ソーシャル・

ネットワークや新しいメディアに依存する度合いを高めてきている。同僚、顧客、クライエント、業者との関係が、バーチャルな世界では目に見える形になるので、HRは、有力候補を絞り込むことができる。逆に網をもっと広げることも可能なので、人材を求めるレースにおいて、候補をふるい落としたり、排除する代りに、候補を増やすことも可能になる。採用におけるリンクトイン使用のいろはについては、本号掲載の下坪久美子著作の書評を参照してもらいたい。

奪い合いではなくウィン・ウィンでソーシャル・ネットワークは、知人情報をビジネスに新たに持ち込み、その利用は、もはや好みの問題というより、当たり前のことになってきている。こうした新たなコネ集団は、相互性と互恵性の強化を

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特徴としている。リンクトインは、「私達に何が出来るか、想像してみよう」を合言葉に開設10周年を祝ったが、この場合の「私達」は家族としての血の繋がりを土台にしたものではなく、知人関係をビジネスの世界で積極的に促すものだ。昨年、東京で開催されたGOLDシンポジウムで講演したレスリー・グロスマン氏が、個人的関係を土台にしたビジネス・ネットワークは、「そこに、自分にのために何があるか」よりも、「皆がそこから何を得ることができるのか」という特徴になってきていると説明している。

ステレオタイプが組織の人材受け入れを妨げていないか?

人材のプールが干上がっているにもかかわらず、人材競争では、誰もが重要なわけではない。なぜそうなのか。これは、人間の本性が、誰それはこういう人間だという思い込みから予断を与えられ、目を曇らされるようにできているからだ。読者の会社でも、ステレオタイプによって、採用が流れの悪いものになっていないだろうか。人間の脳と言うものは、人の性格や能力を判定する際、自然に情報をふるいにかけ、特定のものに集中するように出来ている。これは、脳への負担が過剰にならないよう、人間のDNAに書き込まれた遺伝的作用によるものだ。人間は、無意識にトレーニングを受け、重要だと思われる情報にズームインし、そうでないものを排除するようにできている。 「見かけと実際は違う」というフレーズを私たちはみな知っているし、

この警告を理解している。しかし、毎日の忙しさにかまけて自分たちの心の目に何度も繰り返されるメディアのイメージをやめさせるのは難しい。ステレオタイプ化で私たちの眼識能力は弱っている。社会が作ってくれる精神的整理棚を使った方が簡単だと思うだろうが、私たち自身が人材獲得レースのスタート地点とゴール地点を自分たちでもう一度設定し直すこともできるのである。

では、採用に大きな影響力を持つ社員の見方を導いているものは何なのだろう。読者もしくは読者の同僚がこの影響力を持つ人だった場合、とるべき最初のステップは、自分が育った環境と、自分がプロとして仕事に従事している環境とが決定的に違うことを認識することだろう。そこで、何を手放すべきか、また今ここにおいてまだ当てはまるものは何かと、自問する必要がある。

例えば下に挙げた様々なステレオタイプの中で、自然と受け容れてしまう傾向があるのは、どれだろうか。読者には、自分自身の思考プロセスを紐解いてもらいたい。ただ一回の事象を一般化しすぎているところはどこか、過剰に単純化されたメディア・イメージをもっと掘り下げられるところはどこかを見極める必要がある。誤りがちな認識行動により閉じられた可能性を開くには、どうすれば良いのだろうか。

1. 本当に、この女性応募者は、自分を主張できる自信と、わが社の販売チームにふさわしい迫力を持っているだろうか。

2. この応募者は聴覚障害者だ。社員全員が手話を習うことを期待できるわけがない。

3. 去年、中国人のマネージャーを雇い入れて失敗した。あの過ちを繰り返すリスクは冒せない。

まずやるべきは、我 自々身の盲点を探し出すことだ。つまり、何に気がつかないのか、あるいは、過剰なメディアによる焦点化の陰に隠れてしまっているものは何かを確認する必要がある。そうすることにより、もっと多くの情報にアクセスでき、更に、人の技術、経験、可能性を評価するやり方を、もっと意識的にコントロールできるようになる。

1. 性別:性別のステレオタイプを乗り越え、職場における女性の問題が本当はどこから来ているかを理解するために

「ダイバーシティとインクルージョン」(2012年10~12月号)を参照してほしい。

2. 障害:障害者を採用した場合に聴覚障害者と健常の従業員の間でコミュニケーション・スキルを通じて相互に有益だったというユニクロの植木俊行氏が紹介したものを含め、日本企業3社の経験について書かれた特集記事を読んでいただきたい。

3. 国籍:次号「人材の機動性」(2013年10~12月号)を見ていただきたい。そこで私たちは、時差や地理的モビリティが人々の愛国心や専門的所属意識にどのようなインパクトを与えるかについてみてゆく。

HRも、人を見る目の曇りを払拭し、既存の縦割り的考え方や行動を少しでも変化させていける可能性を持っている。つまり、可能性のある応募者を差別したり、排除したりするのではなく、これを受け容れることができるよう、手助けすることができる。

よい収入

うまの合う人と働く

重要な仕事をする

中国

中国

中国

ドイツ

ドイツ

ドイツ

日本

日本

日本

韓国

韓国

韓国

スウェーデン

スウェーデン

スウェーデン

米国

米国

米国

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出典:出典:世界価値調査(2005-2008)

ファーストチョイスセカンドチョイス

トップの人材をひきつける:あなたの会社への応募応募者はどちらを選ぶだろうか?

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注:国別に仕事を選ぶ際の基準としてその項目をファーストチョイス、セカンドチョイスとした人の割合

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アネット・カセラス:組織のリーダー養成、チームデベロップメントのコーチ兼コンサルタント。コーチ養成機関「CTI」と「組織学習協会(SoL)システム・パースペクティブ部会」で研鑽を積む。日本の大学でも「グローバル・マインドセット」や「コミュニケーション・インテリジェンス」に関するコースを受け持っている。英国国立レスター大学修士号取得。

誰もが同じ意図を持ってソーシャルメディアを利用しているわけではなく、リンクトインも万能薬ではないのだが、若い世代が自分のキャリアで追い求める精神の何かをそれは掴み取っているのだ。時代の気風は奪い合いからウィン・ウィンにシフトしている。リンクトインでつながりをリクエストするたびに、誰かのブログの「いいね」ボタンを押すたびに、誰かを支持するたびに、私たちは相互関係のある重要な集団に自らを引き入れているのだ。バーチャルな世界の可視性が、個人が築いた関係を保つので、次に直接その相手と会ったときには、その会合がより意義のあるものになる。つまり、交流を通じての信頼だ。今日、HRは、冷たい資格認定書に信用を加え、個人的面接の主観的評価を補完するために集合的な認知度を活用することができる。この人的ネットワークは、人材を直接手に入れるための単なる便利な人材プールである以上に、客観的な能力ベースの人材選抜過程と面接官個人の人材判定を補う上で、有意義な主観的要素を提供するものとなっている。

謝辞:C.ラマシュ、S.モルガン、C.デ・ウォルフ、D.佐々木、Y.左藤、J.クリスプ、J.シュナック、C.スチュワート、Y.高田、T.鳥山

倫理上のジレンマクイズ

答え2012年4−6月号

質問 1ビジネス上の贈答と饗応に関する方針

答えb. 米系の多国籍消費財

会社

質問 2勧誘お断り

答えa. 英国系の多国籍金融サー

ビス会社