Title 馬蹄腎に発生した尿路結石に対するESWL治療経験

Author(s)大山, 哲; 浅井, 省和; 飴野, 靖; 阪倉, 民浩; 杉田, 治; 上水流,雅人; 坂本, 亘; 仲谷, 達也; 岸本, 武利; 前川, 正信; 飯盛, 宏記; 山本, 啓介

Citation 泌尿器科紀要 (1991), 37(12): 1627-1631

Issue Date 1991-12

URL http://hdl.handle.net/2433/117425

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿紀 要37：1627-1631,1991 1627

馬蹄腎に発生 した尿路結石に対するESWL治 療経験

大阪市立大学医学部泌尿器科学教室(主 任 ：前川正信教授)

大 山 哲,浅 井 省 和,飴 野 靖,阪 倉 民 浩

杉 田 治,上 水流 雅人,坂 本 亘,仲 谷 達 也

岸 本 武 利,前 川 正信

大阪逓信病院泌尿器科(部 長:早 原信行)

飯 盛 宏 記

大阪市立伊丹病院泌尿器科(医 長:山 本啓介)

山 木 啓 介

EXPERIENCE OF EXTRACORPOREAL SHOCK-WAVE

LITHOTRIPSY FOR THE UROLITHIASIS IN

HORSESHOE KIDNEY

Akira Ohyama, Yoshimasa Asai, Yasushi Ameno, Tamihiro Sakakura,

Osamu Sugita, Masato Kamizuru, Wataru Sakamoto,

Tatsuya Nakatani, Taketoshi Kishimoto and Masanobu Maekawa

From the Department of Urology, Osaka City University Medical School

Hiroki Iimori

From the Department of Urology, Osaka NTT Hospital

Keisuke Yamamoto

From the Department of Urology, Osaka Municipal Itami Hospital

At Osaka City University, 1,987 patients with urolithiasis have been treated by extra-corporeal shockwave lithotripsy (ESWL) during a four-year period. We treated 5 patients with horseshoe kidney and the obtained results were analyzed retrospectively. Three of these patients, who had a solitary stone could successfully be treated by ESWL as monotherapy. One who had multiple stones required transurethral lithotripsy after ESWL due to stone-street. The remaining 1 patient who had undergone heminephrectomy developed perirenal hematoma after ESWL, which spontane-ously disappeared without any specific treatment. We discuss the special care related to the use of ESWL in the horseshoe kidney.

(Acta Urol. Jpn. 37: 1627-1631, 1991)

Key words: ESWL, Horseshoe kidney, Urolithiasis, Perirenal hematoma

緒 言

馬蹄腎は尿路系 の発生異常に よる奇形 では しば しば

認 め られ,日 常臨床上遭遇す る機会 も多 くある.そ の

解 剖学的異常の ため,水腎症 ・尿路結石等を高頻度に生

じると考 えられてお り,従 来 の尿路結石摘 出の開腹手

術 に際 して も,合 併症は多い とされてい る.一 方,体

外 衝撃波 腎結 石破砕術(ESWL)は 上 部尿 路結 石症

に対 し,非 侵襲的 で有効な 治療法 であ り,当 科 で は

1985年7月 よ り開 始 し,1989年9月 まで 約4年 間に

1,987例 の治療を施行 した.使 用 した装置はDornier

HM-3で 衝撃波の発 生には電圧18～22Kvを 用いた.

今回そ の うち5例 の馬蹄腎に発 生 した結石 に対 して

ESWLを 行 った治療成績 と問題点について報告す る.

162$ 泌尿 紀 要37巻12号1991年

Table1.Characteristicsof5cases

CaseNo.性 別 年齢 結石の位置 大きさ 衝撃波数(mm)

最囎 圧 楠助手段 饗 瀦

1.K.S男54

2.M.T男57

3.S.K男58

4.Y.O男33

5.T.F男71

贈

贈

喝

15x121760

1300ioxio1400

20x152000

Max

37x25

多 数

27x8

140018001400

1600

19

1818

20

18zo20

18

(一)

(一 〉

(一)

2週問

6ケ 月

8ケ 月

TUL×3経 過観察中

(一) 治療継続中

症 例

Tablelに 全 馬 蹄 腎症 例 の 結 石 の位 置,結 石 サ イ

ズ,衝 撃波 数,最 高 電圧,補 助 手段,stonefreeま

で の期 間 を示 した.全 例 男 性 で あ り,平 均 年 齢 は54.6

歳 であ った.単 一 結 石 は 症 例1,2,3の3例 で多 発

結 石 は 症例4,5で あ った.補 助 手 段 を要 した のは 症

例4の み で,他 はESWL単 独 に て 治 療 可 能 で あ っ

た.

以下 に各 症 例 の術 前KUB,DIPを 提 示す る.

症 例1(Fig.1)

結 石 破 砕 は 良好 で 術 後2週 目のKUBでstone

frecと な った.

症 例2(Fig.2)

結石 破 砕 は不 良に て再 度ESWL施 行 し,初 回 治療

後6ヵ 月 でstonefreeと な った.1回 目と2回 目の

interva1は4カ 月 で あ った.

症 例3(Fig.3)

結 石 破 砕 は 良好 で 術 後8カ 月 目のKUBでstone

freeと な った,

症 例4(Fig.4)

本 症 例 は,ア ル コー ル誘 発 性rhabdomyolysis後 急

性 腎不 全 とな り,電 解 質 バ ラ ンスが 急 激 に変 化 した た

め高Ca血 症 を きた し,多 発 結 石 を 生 じた と考 え られ

た 症 例1)で あ る・ 現 在 まで に,ESWLを3回,TUL

を3回 施 行 し,ま だ 左 尿管 下 端 に 小結 石 片 を 認 め る が,

DIPで は 通 過 障害 は な く自然排 石 を 期 して現 在経 過

観 察 中で あ る.

っ ぎにESWL後 腎 被 膜 下血 腫 を生 じた1例 を示 す .

症 例5

患 者:71歳,男 性

既 往歴:1959年11月,右 腎 孟 切 石術,12月 左 半 腎 摘

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lr》Fig.1.

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A:KUBbeforeESWL

B:DIPbeforeESWL

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Fig.2,

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A:KUBbeforeESWL

B;DIPbeforeESWL

主訴=右 腰部鈍痛

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現病歴:約10年 前に右腎結石再発 を指摘 された が,無

症状 ・小結石のため外来 で経過観察 していた.最 近右

腰部鈍痛が 出現 し,結 石の増 大を認 めたため,ESWL

目的で当科 に入 院 となった.

入院時現症'血 圧150/70mmHg,脈 拍78/min,体

大 山,ほ か ・馬 蹄 腎 ・ESWL

温36.2℃,そ の他理学的所 見に異 常を認 めない.

入院時検査成績:尿,一 般検血,生 化学検査では特

に異常は認めなか った.ま た 出血凝固機能検査で も異

常は認めなか った.

Fig'5は 術前のKUB,DIPを 示す.結 石サイズ

27×8mmに 対 し1989年6月21日 持続 硬膜外 麻酔下 に

てESWLl8KV,1,600回 を施行 した.術 直 後 よ り右

腰部の疹痛 と腫脹を認 めたため腎被膜下血腫 の発生 を

駕

AB

Fig.3,A:KUBbeforeESWL

B:DIPbeforeESWL

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〃「物

参 ・ケ

筆

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AB

Fig.4,A:KUBbeforeESWL

B:DIPbeforeESWL

AB

Fig.5,A:KUBbeforeESWL

B:DIPbeforeESWL

1629

疑 いただちに超音波 検査を施行 した.検 査では,右 腎

後面周囲に10wdensityareaを 認め,腎 被膜下血腫

と診断 し,ベ ッド上安静,止 血剤投与,輸 液等 で経過

観察 した.そ の際の経 過図をFig.6に 示 す.Fig.7

は術 後3日 目に施 行 したCTで,腎 中極 か ら下極に

かけて後面に凸型のhighdensityareaを 認めた.

第6病 日頃 よ り尿量 も次第に減少 したため破砕結石片

に よるD-Jstent(DJ)閉 塞も考慮 し,DJを 交換

した.(な おDJはESWL術 前5日 前に挿入 されて

い る。)そ の際DJは 結石に より閉塞 していなかった.

また第10病 日の検査成績では,赤 血球数299万,Hb

9.2mg/dl,Ht27.7%0と 貧血状態を呈 し第11,12病 日

にそれ ぞれ400,200m1の 輸血を施行 した。その後保

存 的療法 にて経過観察可能で,貧 血 改善,解 熱,尿 量

回復を認 めた.Fig.8は 術後3カ 月 目のCTで,結

石片 を一部認め るも,腎 被膜下血腫はほ とん ど吸収 さ

れた.

考 察

馬蹄腎は尿路系発生異常に よる融合腎の中で最 もよ

く見 られ る型 であ り,発 生頻度は約0.25%2・3)と いわ

れてい る.原 因は腎臓 の発生異常で,胎 生4～8週 頃

に,骨 盤腔 内に ある両側腎原基 の上方へ の移動 と回転

が癒合 に より行われず,そ のため腎臓 の位置は低 く,

また腎孟尿管系は腎実質の前方 に位置す る.わ れわれ

の症例は全例が下 極で癒 合 して いる定 型 的 な馬蹄 腎

で,最 も多 く見 られる型 である.そ の合併症 として,

水腎症 ・尿路結石 ・感染症等を続発 しやす い.こ れ ら

は尿が停滞 し易いために起 こるとされ,そ の原因 と し

て峡部前方を下行す る尿管走行の異 常,血 管 による尿

管の圧迫,腎 臓 可動性 の減少,腎 孟尿管移行部の先天

的 峡窄等 々4・5)などがあげ られている.

馬蹄腎に発生 した結石 に対 す るESWLの 報 告 は

少 な く,そ れ らの症例数 も少 ない.Sanseverinoら6)

に よる と,馬 蹄 腎に発生 した結石に対 し1例 の部分サ

ソゴ状結石 と,1例 のUPJstenosisを 伴 った結 石

を除き,ESWLをfirstchoiceと して使用 し有効な

成績 をあげてい る.た だ し下 腎杯は馬蹄腎では非常に

前方 に位置 し,こ こに発生 した結石に対 しESWLの

際,ellipsoidか ら遠 くな り,破 砕が困難 となるこ と

を指摘 し,症 例 によってはESWLよ りPNLの 有

用性 を述べ ている.一 方,Jenkinsら7)やPuppo

ら8)はpronepositionで,馬 蹄腎な ど奇形尿路に発

生 した結石に対 し治療 し,正 常腎のそれ と同程 度の成

功 率をあげてい る.

今 回われわれは5症 例す べて,通=常 のposterior

positionで 行っ たが,症 例4,5を 除 き,他 の3例

1630

Fever

(Maz)「5C

　　　ヒ

ゴー

泌尿紀要37巻12号1991年

輸血 輸血

D-J交 換(10pml)(21gm1)

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15.000

W.B.C.

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3.000u.v.

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輸 液量

(ml)

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96101

(痢日》

Fig.6.Clinicalcourseofcase5

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Table2. Incidenceofperirenalhematomain

theliterature

　

血腫形成率 報告年 報告者 検査方法 機 租

24%1985KaudeMRI

0.66%1988KnappU .S

1%1989 東 CT

6.5%1989自 験例CT

HM一 置

HM一 皿

HM一 翼EdepLT-01

HM一 皿

ツFig.7.CTscanafterESWL

石 φ

讐b・ 瓢'・、

〃

Fig.8.CTscanof3monthsafterESWL

は自排可能であ った.先 に述 べた様 に馬蹄 腎では尿 の

停yfが 解剖的に起 こ りやす く,そ のためESWLに て

破砕良好であ って も,自 排 困難 となるか,自 排 まで長

期間要す ることが考え られ,Sanseverinoら は術後

3カ 月 目での評価 で,残 石を高率を認め ると してい る

る.ま たPuppoら はpronepositionで は残石発生

率を低下 させ,良 い成績を挙げてお り,こ れは よ り破

砕状況を良 くしている專に起因す るとしてい る.わ れ

われの成績 では正常腎に発生 した腎結石 と結石サイズ

だけで比較す ると術後3ヵ 月 目の時点 で残石 を高率に

認 める、 しか し単一 結石 症例 はわず か3例 で あ り,

disintegrationとeliminationの 評価 も不十分 であ

るが,通 常認め られる腎結石症例 と比較 し,成 功率 は

ほぼ 同程度 との印象を持 った.

つ ぎにESWL後 に発生 した腎血腫形 成 率 に っ い

て内外の代表的報告例9-n)を,Table2に 示 した.そ

大 山,ほ か=馬 蹄 腎 ・ESWL 1631

れそれ検査方法,施 行時期,血 腫 の診断基準が異な り

発生率 も0.66%か ら24%と 大 きく差 を認め る.当 科 に

おいて1989年10月 に無作為に抽出 したESWL施 行患

X31人 の術後2日 目のCTに よる検 査結 果 では,腎

血腫発生 と考え られた症例は2人,6.4%で あ ったが,

これ らはいずれ も臨床的には問題 とな らず輸血を要 し

た血腫形成例は今回の1例 のみであ った.(た だ し今

回の成績は腎お よび尿 管結石患 者 を 対象 とした もの

で,投 与SW数,左 右差,ESWL施 行 回数には差が

あ り今後 さらなる検討 を要す る.ま た今回提示 した症

例5は この検討 には含まれて いない.)Knappらio)

によると,そ の危険因子 として,コ ン トロール不良な

高血圧状態,感 染結石,お よび両側同時期 の治療等を挙

げてい る.し か し馬蹄腎が危険因子の1つ にな りうる

かを示唆す る報告は1例 もな く,PNL時 あ るいは開

腹手術時,血 管走行 の異常に伴 う易 出血性 の注意を促

す報告があるのみである.ま たESWL治 療 と同側腎

に既往手術がある場合,そ の発生に何等か の影響を与

えてい る可能性 も推測 され るが不 明である.一 方,単

腎に発生 した結石に対す るESWLの 成績については

い くつかの報告12,13)が見 られ るが,特 に合併症は認め

られていない.さ らに機種改良に より血腫 の発生率は

低下 している とい う報告 もあ るがその詳細は不明であ

り,今 後の解析 が待たれ る.

以上 よ り今回の症例特に症例5か らは,馬 蹄腎,手

術既往歴,単 腎等の個hの 因子 よ りも,そ れ らが重複

したために危険因子 とな り血腫が発症 した とも推測さ

れ る.つ ま りKnappら が指摘す る高血圧状態,感

染結石等 の血腫形成の危険因子は 今回の症例には含ま

れてお らず,ま た馬 蹄腎に伴 う尿路結石にはESWL

は有効 と思われ,馬 蹄腎 自体 が危険因子 とは考え難 い

か らである.し か しKnappら が指 摘す る危 険因 子

以外に も,先 天的奇形や手術既往等 の因子 も今回の症

例か ら危 険性 は示唆 され,今 後 の検 討 が必要で あろ

う.現 段 階では腎周囲血腫 に対す る予防法がな く,や

は り術後 の注意深い観 察 と早急な対応は不可欠 と考 え

られる.

結 語

当科におけ る馬蹄腎に発 生 した結 石に 対す るES-

WLの 治療成 績お よびそ の聞 題点を 中心に検 討 し報

告 した.

本論文の要旨は第129回 日本泌尿器科学会関西地方会にお

いて報告 した.

文 献

1)横 山 建 二,北 村 栄 作,岡 田 倫 之,ほ か:急 性 腎 不

全 を 伴 っ たrhabdomyolysisに お け るCa動 態

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cases.ClinRadiol25:107-114,1975

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6)SansevinoR,ViguierJL,MartinX,etal.:

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lithiasisinhorseshoekidney.In:Contro-

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porealshockwavelithotripsyinthepronepo-

sition:Treatmentofstonesinthedistalure-

teroranomalouskidnep.JUrol139:911-

915,1988

8)PuppoP,BottinoP,GerminalF,etal.:

Expracorporealshockwavelithotripsyinthe

pronepositionforstonessituatedanteriorly.

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9)KaudeJV,WilliamsCM,MillerMR,etal.:

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AJR145:305-313,1985

10)KnappPM,KulbTB,LingemanJE,etal.:

Extra-corporealshockwavelithotripsyin-

ducedperirenalhematomas.JUrol139:

700-703,1988

11)東 義 人,喜 多 芳 彦 久 世 益 治,ほ か ・尿 路 結 石

症 に お け るESWL問 題 点.臨 泌43:837-842,

1989

12)KulbTB,LingemanJEandCouryTA:

Extracorporealshockwavelithotripsyin

patientswithasolitarykidney.JUrol136:

786-788,1986

13)MarcellanFJR,ServioLIandDalmanMR:

Treatmentoflithothiasisinthepatientwith

asolitarykidney.EurUrol15:13-17,1988

(ReceivedonJuly13,1990/¥AcceptedonJuly18,1991/