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函数論(2014年度前期)川口周

京都大学理学研究科数学教室

2014年度前期の函数論(全学共通科目,2回生,理系向け)の配布資料をまとめたものです.見つけた誤植は訂正しています.また No. 10などにいくつか修正を加えました.図は手書きで入れていましたので,この pdfファイルには図は入っていません.

もともとは,練習問題とその略解を中心にするつもりでしたが,レジュメの部分もけっこう増えてしまいました.このウェブサイト用の pdfファイルでは,略解は削りました.

講義内容を決めるときには,工学部の受講者も多いと思っていたので(教室も吉田南キャンパスなので),理学部数学系向けのような講義計画はたてませんでした.しかし,5月ぐらいに確定した履修名簿を見てみると,思っていたよりも理学部の受講者がずっと多かったです.(140人くらいが登録していて,その7割以上が理学部生でした.それ以外には,工学部,総合人間学部,経済学部,医学部,薬学部の学生が履修していました.)そこで,数学的な論証はかなりきちんとしたつもりです(ただし,ジョルダンの曲線定理はもちろん(?)認めて,グリーンの公式(微分積分学続論の内容)の証明は概略しか述べませんでしたが).共通のシラバスにある内容をこなすだけで,かなり忙しく感じました.

—–

この函数論の講義を進めるにあたって,主に以下の本を参考にさせて頂きました.• 神保道夫『複素関数入門』岩波書店(全般的によく参考にさせて頂きました.複素線積分を区分的になめらかなもの曲線に沿うものに限って定義すること,コーシーの積分定理の述べ方,グリーンの公式に帰着させて証明する方法をとったことなどは,この本を参考にしています.)

• 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会(留数定理の定積分への応用の部分で,よく参考にさせて頂きました.Fourier変換型の広義積分を長方形の積分路をとって計算する方法などは,この本を参考にしています.)

• アールフォルス『複素解析』現代数学社• 野口潤次郎『複素解析概論』裳華房• 楠幸男『解析函数論』廣川書店

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追記:ウェブサイト用に,No. 1– No. 14の練習問題と復習問題の略解を削っています.

函数論 No. 1講義の説明,準備(複素数,複素平面,複素数列の収束)

函数論(2014年度前期)

学年:主として2回生,理系向け(全学共通科目)時間・場所:水曜 4限・共北 38

担当:川口周

シラバスより

1回生で学んだ微分積分学に引き続くものとして,複素1変数函数の微分積分学である複素函数論(複素解析)について講義する.理論の根幹をなすコーシーの積分定理と,そこから導かれる正則関数・有理型関数の基本的性質を中心に解説する.複素函数論は非常に美しく,その応用は数学の他分野だけでなく,物理学,工学,医学にまで及んでいる.本講義ではあくまで数学としての複素函数論を講義するが,将来様々な分野に進む学生が聴講することを考慮して,具体的な計算や応用についてもある程度時間を取る予定である.

講義の計画

複素関数 f(z)が z = z0 で微分可能(つまり,複素微分可能)であるというのは,実関数が微分可能であることと同じように定義される.しかし,複素関数では複素平面のさまざまな方向から z0 に近づくことができるので,複素関数の微分可能性は実関数の微分可能性よりもずっと強い条件になる(コーシー・リーマン方程式というものを満たす).そして,コーシーの積分定理という強力な定理が成り立つ.コーシーの積分定理は非常に広い応用を持つ.領域上で複素関数が微分可能であれば,何回でも微分可能になる.代数学の基本定理(複素数係数の n 次方程式は重複度を込めてちょうど n 個の複素数解をもつ)の

一つの証明を与えることができる.また,いくつかの実関数の定積分(∫ ∞

0

sinx

xdx =

π

2,∫ ∞

0

xm−1

1 + xndx =

π

n sin(mπ/n)(ただし,m,nは正の整数でm < n)など)を,複素線積分を経由して計算することができる.

具体的には,講義では次の内容を扱う予定にしている.

• 準備:複素数,複素平面,複素数列の収束• ベキ級数:収束半径,初等関数 ez , sin z, cos z, log z, zα の定義• 正則関数:複素関数の複素微分可能性,コーシー・リーマン方程式• 複素線積分,グリーンの定理,コーシーの積分定理,コーシーの積分公式• 正則関数の性質:正則関数の収束ベキ級数展開,正則関数は何回でも複素微分可能,コーシーの評価式とリュービルの定理,代数学の基本定理,一致の定理,最大値の原理,原始関数,モレラの定理

• 孤立特異点の分類,ローラン展開,有理型関数• 留数定理,実関数の定積分の計算への応用,リーマン球面•(時間があれば)偏角の原理とルーシェの定理,シュワルツの補題と単位円板上の双正則写像など

参考書

教科書は指定しないが,参考書を一冊は購入すること.函数論の本は非常にたくさんあるので,図書館や書店で見て,自分に合いそうなものを一つ選ぶとよいと思う.以下は一例(これらに限る必要はない)である.

2014年 4月 9日

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• 神保道夫『複素関数入門』,チャーチル・ブラウン『複素関数入門』,今吉洋一『複素関数概説』など.• アールフォルス『複素解析』(古典),野口潤次郎『複素解析概論』,高橋礼司『複素解析』,小平邦彦『複素解析』(絶版?),楠幸男『解析函数論』(絶版?)など.

4月 9日の講義のレジュメ(準備:複素数,複素平面,複素数列の収束)

• 複素数についての復習:i2 = −1となる数を虚数単位(imaginary unit)という.複素数は,z = x+ iy

(x, y ∈ R)と表される. xを実部(real part),yを虚部(imaginary part)といい,x = Re(z), y = Im(z)

で表す.|z| :=√x2 + y2を zの絶対値(absolute value)という.絶対値は三角不等式 |z+w| ≤ |z|+|w|

を満たす.z := x− iy を z の複素共役(complex conjugate)という.• 複素数の演算:複素数全体を Cで表すと,Cでは和・差・積・商の四則演算ができ,和と積について結合法則,交換法則,分配法則などを満たす(この事実を,Cは体をなすという).なお,実 2次正方行列(x −y

y x

)(x, y ∈ R)と,複素数 z = x+ iy の対応は演算を保つ.

• 複素平面:複素数は平面上の点によって表される.z = 0を複素平面において,原点を中心に実軸の正の部分から反時計回りに測ったときになす角度を θとすると,z = r(cos θ+ i sin θ) (r > 0, θ ∈ R)と表される.この形を,複素数 z の極形式(polar form)という.θ = arg(z)で表し,z の偏角(argument)という.argは z = 0に対して 2πn(nは整数)の不定性をもって定義される多価関数(1つの元に複数の値を対応させる関数)である.複素数の絶対値,複素共役,複素数の和と積には,複素平面における幾何学的な意味がある.

• 複素数列:複素平面上の 2点 z, w の距離は,絶対値 |z − w|で表される.複素数列 {zn}∞n=1 が z に収束するとは, lim

n→∞|zn − z| = 0となることと定義する.zn = xn + iyn, z = x + iy のとき,複素数列

{zn}∞n=1 が z に収束することは,その実部と虚部からなる実数列 {xn}∞n=1, {yn}∞n=1 がそれぞれ x, y に収束することと同値になる.これから,複素数列の収束列の和や積に関する性質は,対応する実数列の収束列の性質に帰着できる.

練習問題

問 1.1 (1) z2 = iとなる複素数をすべて求めて複素平面に図示せよ.(2) z3 = iとなる複素数をすべて求めて複素平面に図示せよ.

問 1.2 z, w ∈ C, z = wのとき,z + w

z − w=

|z|2 − |w|2

|z − w|2+ i

2 Im(zw)

|z − w|2を示せ.

問 1.3 z, w は相異なる複素数とし,いずれも 0 でないとする.このとき,複素平面において 0, z, w が正三角形の 3 頂点をなすことと,z2 − zw + w2 = 0 であることは同値であることを示せ.(ヒント:複素数に,ρ = cos

(π3

)+ i sin

(π3

)をかけることの幾何学的な意味は?)

問 1.4 a, b, c, d ∈ R は ad − bc > 0 を満たすとする.z ∈ C とする.このとき,Im(z) > 0 ならば,

Im

(az + b

cz + d

)> 0 を示せ.(これより,f(z) =

az + b

cz + dとし,複素平面における上半平面を H := {z ∈ C |

Im(z) > 0}とおくと,f(H) ⊆ Hである.さらに,f : H → Hは全単射であることも示せる.)

問 1.5 α ∈ Cは |α| < 1を満たす複素数とする.z ∈ Cとする.このとき,|z| < 1ならば,∣∣∣∣ z − α

1− αz

∣∣∣∣ < 1を

示せ.(これより,g(z) =z − α

1− αzとし,複素平面における単位円の内部を ∆ := {z ∈ C | |z| < 1}とおくと,

g(∆) ⊆ ∆である.さらに,g : ∆ → ∆は全単射であることも示せる.)

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函数論 No. 2ベキ級数

4月 16日の講義のレジュメ(複素級数,ベキ級数,指数関数 ez,三角関数 cos z, sin z)

複素級数• 複素級数

∑∞n=0 zn(zn ∈ C)が収束するとは,はじめから順にとっていった部分和 Sn := z0 + · · ·+ zn

のなす複素数列 {Sn}∞n=0 が収束することである.∑∞

n=0 |zn|が収束するとき,級数∑∞

n=0 zn は絶対収束(absolute convergent)するという.

• 命題 2.1 (1) 級数∑∞

n=0 zn は絶対収束すれば,収束する.(2) (優級数判定法(test by majorant series))級数

∑∞n=0 zn に対して,Mn ≥ 0 で,|zn| ≤ Mn

(n = 0, 1, . . .)かつ∑∞

n=0 Mn が収束するものが存在すれば,級数∑∞

n=0 zn は絶対収束する.(3) 級数

∑∞n=0 zn,

∑∞n=0 z

′n が収束するとき,

∑∞n=0(zn ± z′n) =

∑∞n=0 zn ±

∑∞n=0 z

′n,∑∞

n=0 αzn =

α∑∞

n=0 zn(α ∈ C)が成り立つ(4) 級数

∑∞n=0 zn,

∑∞n=0 z

′n に対して,wn :=

∑nk=0 zkz

′n−k とおく(Cauchy 積という).このとき,∑∞

n=0 zn,∑∞

n=0 z′nが絶対収束すれば,

∑∞n=0 wnも絶対収束し,(

∑∞n=0 zn) (

∑∞n=0 z

′n) =

∑∞n=0 wn

が成り立つ.上の命題は,実数の場合と同じように,あるいは実数の場合に帰着させて示すことができる.

ベキ級数•∑∞

n=0 anzn(an ∈ C, z ∈ C)をベキ級数(power series)という.

• 定理 2.2 ベキ級数∑∞

n=0 anzn に対して,次のいずれか一つが成り立つ.

(i) すべての z ∈ Cについて,絶対収束する.(ii) ある ρ > 0が存在して,|z| < ρにおいては絶対収束,|z| > ρにおいては発散する.

(iii) 0以外のすべての z について,発散する.この ρ をベキ級数

∑∞n=0 anz

n の収束半径(radius of convergence),円 |z| = ρ を収束円(circle of

convergence)という.(i), (iii)のときをそれぞれ,ρ = ∞, 0とする.ρ = 0のとき,ベキ級数を収束ベキ級数とよぶ.(収束円上での収束・発散は一概には言えない.練習問題 2.2参照.)

• ベキ級数∑∞

n=0 anzn の収束半径 ρを求める方法に次のようなものがある.(1) 1/∞ = 0, 1/0 = ∞と

約束するとき, 1ρ = lim supn→∞

n√|an|が成り立つ*1(Cauchy–Hadamardの公式).(2)十分大きな任

意の n に対して,an = 0 であり, |an||an+1| が n → ∞ で収束すれば,その極限は収束半径 ρ に等しい

(d’Alembertの判定法,係数比判定法).

ベキ級数の例:指数関数 ez,三角関数 cos z, sin z

• 指数関数(exponential function)をベキ級数 ez :=∑∞

n=0zn

n! で,三角関数(trigonometric function)をベキ級数 cos z :=

∑∞n=0(−1)n z2n

(2n)! , sin z :=∑∞

n=0(−1)n z2n+1

(2n+1)! で定める.これらはすべての z ∈ Cで絶対収束する(収束半径は∞である).

• 指数関数 ez は次の性質をもつ.(1) eiz = cos z + i sin z(Eulerの公式), (2) ez+w = ezew (指数法則),(3) z = x+ iy(x = Re(z), y = Im(z))のとき,ez = ex(cos(y) + i sin(y))(ez の極形式),(4)

ez = ew ⇐⇒ z = w + 2nπi(n ∈ Z)(周期性),(5)任意の z ∈ Cに対して,ez = 0.

2014年 4月 16日*1 有界な実数列 {bn}∞n=1 に対して,cn = sup

k≥nbk とおくと,{cn}∞n=1 は単調減少数列となる.この単調減少数列の極限 lim

n→∞cn

を,数列 {bn}∞n=1 の上極限といい,lim supn→∞

bn で表す.

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練習問題

問 2.1 次のベキ級数の収束半径を計算せよ.

(1)∞∑

n=1

(1 +

1

n

)n2

zn (2)∞∑

n=0

(2n − 3n) zn (3)∞∑

n=0

zn!

(4)∞∑

n=0

n3zn (5)∞∑

n=1

1

n

(1 +

1

2+ · · ·+ 1

n

)zn (6)

∞∑n=1

(n!)2

(2n)!zn

問 2.2 収束半径が 1 のベキ級数で,(a) 収束円 |z| = 1 のどの点でも収束するもの,(b) 収束円 |z| = 1 のどの点でも発散するもの,(c) z = 1では発散し,|z| = 1上のその他の点では収束するもの,の例をそれぞれ挙げよ.

問 2.3 命題 2.1(4)を証明せよ.

問 2.4 (1) cos z =eiz + e−iz

2, sin z =

eiz − e−iz

2iを示せ.

(2) 指数関数 ez の性質を用いて,実数のときに知っていた次の関係が,複素数でも正しいことを示せ(ただし,z, w ∈ Cとする).

cos(z + w) = cos z cosw − sin z sinw, sin(z + w) = sin z cosw + cos z sinw,

cos(z + 2π) = cos z, sin(z + 2π) = sin z, cos2 z + sin2 z = 1.

(3) 定義域が Rのとき,実関数 sinxの零点は {nπ | n ∈ Z}であった.指数関数 ez の性質を用いて,定義域を Cとした複素関数 sin z の零点は何か調べよ.同様に,複素関数 cos z の零点は何か調べよ.

問 2.5 実数 xに対して,双曲線関数 coshx, sinhxはそれぞれ,coshx =ex + e−x

2, sinhx =

ex − e−x

2で

定義された.

(1) xが実数のとき,cos(ix) = coshx, sin(ix) = i sinhxが成り立つことを示せ.(2) z = x+ iy を複素数とするとき,cos(z), sin(z)の実部と虚部を求めよ.(3) 任意の複素数 z について,| cos z| ≤ 1, | sin z| ≤ 1は成り立つか.

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函数論 No. 3複素関数の複素微分可能性,Cauchy–Riemann方程式

4月 23日のレジュメ(複素関数の複素微分可能性,Cauchy–Riemann方程式)

領域• 中心 α ∈ C,半径 r > 0の開円板を∆r(α) := {z ∈ C | |z − α| < r}で表す.• Dを Cの部分集合とする.Dが開集合(open set)であるとは,任意の α ∈ Dに対して,ある r > 0が存在して,∆r(α) ⊆ D となることをいう.D が弧状連結(arcwise connected)とは,任意の α, β ∈ D

を D 内の連続曲線で結べるときにいう(つまり,γ(0) = α, γ(1) = β となる連続な写像 γ : [0, 1] → D

が存在する).• Dを Cの部分集合とする.D が弧状連結な開集合のとき,Dを領域(domain)という*1.

複素関数の複素微分可能性,Cauchy–Riemann方程式• この講義で考える関数(複素関数)は,Cのある領域 D 上で定義された写像 f : D → C, z 7→ f(z)である.f(z)を領域D上で定義された関数とする.z = x+ iy とし,f(z) = u(x, y) + iv(x, y)と書く.実部 u(x, y)と虚部 v(x, y)は (x, y)の実 2変数関数である.

• f(z)を領域 D 上の関数とする.f(z)が点 z = z0 ∈ D で連続であるとは,limz→z0 f(z) = f(z0)となるときにいう.これは,z0 = x0 + iy0 と書くとき,u(x, y), v(x, y)がともに点 (x0, y0)で連続であることと同値である.f(z)が D 上で連続であるとは,Dの各点で連続であるときにいう.

• f(z)を領域D上の関数とする.f(z)が点 z = z0 ∈ Dで複素微分可能とは, limz→z0

f(z)− f(z0)

z − z0が存在

するときにいう.この極限の値を f ′(z0)で表す.点 z0 で複素微分可能ならば連続である.z は z0 にいろいろな方向から近づけるので,複素微分可能性は非常に強い条件である.実際,次の定理が成り立つ.

定理 3.1 f(z) = u(x, y) + iv(x, y)を領域 D 上の関数とする.z0 = x0 + iy0 ∈ D とする.このとき,次は同値である.(i) f(z)は z = z0 で複素微分可能である.

(ii) u(x, y), v(x, y)はいずれも実 2変数の関数として (x0, y0)で全微分可能であり,さらに,Cauchy–

Riemannの方程式∂u

∂x=

∂v

∂y,

∂u

∂y= −∂v

∂x,

を (x0, y0)で満たす.

• 例:複素微分の定義から,f(z) = zn (n = 1, 2, . . .)のとき,f ′(z) = nzn−1 となる.• f ′(z) = ux + ivx = 1

i (uy + ivy)である.(ただし,ux := ∂u∂x など.)

正則関数• f(z) を 領域 D 上で定義された関数とする.f(z) が (i) D の各点で複素微分可能であり,(ii) 導関数f ′(z)が D上の連続関数になるとき,f(z)を D 上の正則関数(holomorphic function)という*2.

2014年 4月 23日*1 Cの開集合 D が連結とは,D が2つの共通部分を持たない空でない開集合の和で表されないときにいう.Cの開集合について,連結であることと弧状連結であることは同値であることが知られている(「集合と位相」の講義の内容).そこで,領域を連結な開集合を定義しても同じになる.(連結な開集合として領域を定義することも多い.)

*2 実は,(i)の条件だけから,(ii)が成り立つことが導ける(時間が許せば,この講義でも触れたい).これから,正則関数を定義するとき,(ii)の条件をつけないことが多い.

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• 領域 D 上で定義された正則関数 f について,D上で恒等的に f ′ = 0ならば,f は定数関数である.

練習問題

問 3.1 C上の関数 f(z) = |z|2 について,複素微分可能な点 z をすべて求めよ.これから,f(z) = |z|2 はどんな領域 D 上でも正則関数にならないことを示せ.

問 3.2 f(z) = z3 とする.このとき,f(1 + 2i)− f(1 + i)

(1 + 2i)− (1 + i)= f ′(1 + ti)となる実数 1 ≤ t ≤ 2は存在しない

ことを示せ.(複素関数については,いわゆる「平均値の定理」は,そのままでは成り立たない.)

問 3.3 領域 D上の正則関数 f について,以下を示せ.

(1) 任意の z ∈ D に対して f(z) ∈ Rであれば,f は実数値の定数関数である.(2) |f(z)|が定数関数ならば,f(z)も定数関数である.

ヒント: (1)(2)とも(さらに問 3.4も)Cauchy–Riemannの関係式を用いる.(1) f = u+ iv とかくと,仮定より,D 上で v は恒等的に 0である.(2) u2 + v2 が定数である.

問 3.4 f(z) = u(x, y) + iv(x, y)を領域 D 上で定義された正則関数とし,u(x, y), v(x, y)は 2回連続微分可能とする(実は,正則関数は何回でも複素微分可能になるので,後半の仮定は不要である).このとき,D上で

∂2u

∂x2+

∂2u

∂y2= 0,

∂2v

∂x2+

∂2v

∂y2= 0

が成り立つことを示せ.(上の等式を,Laplace方程式といい,これを満たす関数を調和関数という.)

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函数論 No. 4正則関数の基本的な性質,収束ベキ級数の複素微分,log z と zαなど

4月 30日のレジュメ(後半部分は 5月 7日?)

No. 5からは,複素関数の積分(複素線積分)の話に入る予定.

補足• f(z) が点 z0 ∈ D で複素微分可能とすると,f(z) − f(z0) = f ′(z0)(z − z0) + o(|z − z0|) である.f ′(z0) = r(cos θ+ i sin θ)と極形式で表すと,複素数の積の幾何学的意味から,f は z0 のまわりの点を,f(z0)のまわりに(ほぼ)r 倍に拡大して θ だけ回転させて写すことが分かる.とくに,r = 0(つまりf ′(z0) = 0)のときは,z0 を通る2つの曲線の間の角度は,f で写しても変わらない(等角性という).

• f(z) = u(x, u) + iv(x, y)が領域D上で正則であることは,実 2変数関数 u(x, y), v(x, y)がD上で C1

級であり,Cauchy–Riemannの方程式を満たすことと言い換えられる*1.

記号 ∂∂z と

∂∂z

• f(z)を x, yの関数とみたときに,記号 ∂

∂zと ∂

∂zを, ∂

∂z:=

1

2

(∂

∂x− i

∂y

)と ∂

∂z:=

1

2

(∂

∂x+ i

∂y

)で定義する.このとき,Cauchy–Riemannの方程式は,∂f

∂z= 0と表される.また,f(z)が z0 で複素

微分可能であるとき,f ′(z0) =∂f∂z (z0)となる.

• ∂z

∂z= 1,

∂z

∂z= 0 と,∂z

∂z= 0,

∂z

∂z= 1 が成り立つ.例えば, ∂

∂z(znzm) = nzn−1zm,

∂z(znzm) =

mznzm−1 である.(あたかも z, z を独立な変数と思って微分した結果に等しい.)

正則関数の基本的な性質• 通常の実 1変数関数の微分の公式と同様に次が成り立つ(同じ方法で証明できる).

命題 4.1 (1) f(z), g(z)は領域 D 上の正則関数とする.このとき,その和,差,スカラー倍,積も D

上で正則になり,以下が成り立つ.(a) (f(z)± g(z))′ = f ′(z)± g′(z), (αf(z))′ = αf ′(z)(α ∈ C).(b) (f(z)g(z))′ = f ′(z)g(z) + f(z)g′(z).

(c) f が D 上で零点を持たないときは,1/f も D 上で正則になり,(1/f(z))′ = −f ′(z)/f(z)2.

(2) f(z)は領域 D 上の正則関数,g(z)は領域 D′ 上の正則関数で,f(D) ⊆ D′ を満たすとする.このとき,合成関数 g(f(z))は D 上の正則関数になり,(g(f(z)))

′= g′(f(z))f ′(z)となる.

• 複素微分可能の定義,命題 4.1を使うと以下が分かる.(a)定数関数 f(z) = cはC上で正則で,(c)′ = 0.(b) z は C 上で正則で,(z)′ = 1.(c) zn(n = 1, 2, . . .)は C 上で正則で,(zn)′ = nzn−1.多項式anz

n + · · · + a1z + a0 も C 上で正則で,(anzn + · · · + a0)

′ = nanzn−1 + · · · + a1.(d) 有理関数

anzn + · · ·+ a1z + a0

bmzn + · · ·+ b1z + b0は分母が 0でない z の範囲で正則.(e)以下でみるように,指数関数 ez は C上

で正則で (ez)′ = ez なので,合成関数 e(1+z2) も C上で正則で (e(1+z2))′ = (2z)e(1+z2) など. 

2014年 4月 30日*1 ここで,一般に R2 の開集合D 上で定義された実 2変数関数 g(x, y)が C1 級であるとは,D の各点で g は xと y について偏微分可能で,偏導関数 ∂g/∂x, ∂g/∂y がD上連続であることをいった.1回生の微積の内容より,R2 の開集合D上で定義された実2変数関数 g(x, y)が C1 級の関数ならば,g はD の各点で全微分可能である.

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収束ベキ級数の複素微分

• 定理 4.2 収束ベキ級数 f(z) =∞∑

n=0

anzn = a0 + a1z + a2z

2 + · · · + anzn + · · · を項別に微分して得

られるベキ級数を f1(z) =

∞∑n=1

nanzn−1 = a1 + 2a2z

2 + · · ·+ nanzn−1 + · · · とする.このとき,両者

の収束半径は等しく,収束円の内部で f ′(z) = f1(z)が成り立つ.• 系 4.3 収束ベキ級数は収束円の内部で正則である.さらに,収束円の内部で何回でも複素微分可能で

ある.さらに,収束ベキ級数 f(z) =∞∑

n=0

anzn について,an = f (n)(0)/n!(n = 0, 1, . . .)となる(ベ

キ級数展開の一意性).• 例:指数関数 ez,三角関数 sin z, cos z は C上で正則で,(ez)′ = ez , (sin z)′ = cos z, (cos z)′ = − sin z.

対数関数 log z,累乗関数 zα

• 指数関数の逆関数として対数関数を定義する.零でない複素数 z に対して,ew = z となる複素数 w はw = log |z| + i arg(z)と表される.ここで,arg(z)は z の偏角であり,2π の整数倍の不定性をもつ多価関数である.そこで,零でない複素数 z に対して,対数関数を log z := log |z|+ i arg(z)で定義する.log z は多価関数である.

• 多価関数は何かと考えにくいので,零でない複素数 zに対して,zの偏角の範囲を (−π, π]と限定したときの値を Arg(z)とおく.(つまり,−π < Arg(z) ≤ π ととる.テキストによっては,[0, 2π)の範囲をとることもあるので注意する.)そして,Log z := log |z|+ iArg(z)とおき,対数関数の主値(principal

value)という.Logは一価関数になるが,実軸の負の部分で連続性が失われる.• D0 := C ∖ (−∞, 0]を複素平面から 0と実軸の負の部分を取り除いた領域とする.このとき,Log z はD0 上で正則であり,(Log z)′ =

1

zが成り立つ*2.

• 複素数の累乗を,z, αを複素数(z = 0)とするとき,zα := eα log z で定義する*3.αが整数ならば,zα

は一意に定まるが,一般には,log z の多価性により,zα も多価関数になる.• 例:ii = ei log i = ei(i(

π2 +2nπ)) = e−(

π2 +2nπ)(nは整数)となる.特に,ii は多価であるが,いずれの

値も実数である.

No. 4 の練習問題

問 4.1 次の値を求めよ.(1) log(−1 +

√3i)

(2) Log(−1 +

√3i)

(3)(−1 +

√3i)i

.

問 4.2 α, β, γ を複素数とする.z = x+ iy(x, y ∈ R)に対して,f(z) := αx2 + βxy+ γy2 とおく.f が C上の正則関数となるための α, β, γ の条件を求めよ.(ヒント: x = (z + z)/2, y = (z − z)/(2i)に注意して,f

を z と z の多項式で表す.f は x, y について C1 級であるから,f が正則である条件は ∂f∂z = 0である.)

No. 1 – No. 4 の復習問題

問 A.1 (1) Cの部分集合 D が領域であることの定義を述べよ.(2) f を領域 D上で定義された複素関数とする.f が z0 ∈ Dで複素微分可能であることの定義を述べよ.

*2 偏角の範囲を [0, 2π)にとると,複素平面から 0と実軸の正の部分を取り除いた領域上で,対数関数の主値が一価の正則関数になり,その領域上で微分は 1/z になる.

*3 この講義では,ez はつねに指数関数を表す.(特に,eα log z は指数関数の α log z での値である.)ただし,ez が指数関数か eの累乗かどちらを表すか紛らわしいので,指数関数を exp(z)と記すことも多い.

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(3) f を領域 D 上で定義された複素関数とし,f(z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy)と表す.f がz0 = x0 + iy0 ∈ Dで複素微分可能であることを,実部 u(x, y),虚部 v(x, y)を用いて言い換えよ.

(4) f を領域 D上で定義された複素関数とする.f が D 上の正則関数であることの定義を述べよ.

問 A.2 (1) z2 が C 上の正則関数であることを,Cauchy–Riemann 方程式を満たすことを確認することによって示せ.

(2) C上の正則関数 f(z)(z = x+ iy)の実部が u = x2 − y2 であるとき,f(z)の虚部は v = 2xy+C(C

は定数)と表されることを示せ.(3) 実部が u = x2 + y2 であるような C上の正則関数 f(z)は存在しないことを示せ.

問 B.1 複素平面における上半平面をH := {z ∈ C | Im(z) > 0},単位円の内部を∆ := {z ∈ C | |z| < 1}とおく.このとき,f(z) := z − i

z + iは,H上の正則関数で,f(H) ⊆ ∆を満たすことを示せ.また,g(z) := z + 1

i(z − 1)は,∆ 上の正則関数で,g(∆) ⊆ H を満たし,f(g(z)) = z, g(f(z)) = z となることを示せ.(これから,f : H → ∆は全単射であり,逆写像 f−1 : ∆ → Hは g で与えられ,f もその逆写像 f−1 = g も正則写像であることが分かる. f を Cayley変換という.)

問 B.2 f(z) =1

(1− z)m(m = 1, 2, . . .)を z のベキ級数に展開せよ.(ヒント:

1

1− z=

∞∑n=0

zn を (m− 1)

回微分する.定理 4.2参照.)

問 B.3 z のベキ級数

z +1

2· z

3

3+

1

2· 34· z

5

5+

1

2· 34· 56· z

7

7+ · · · = z +

∞∑n=1

(2n− 1)!!

(2n)!!

z2n+1

2n+ 1(B.3.1)

z − z3

3+

z5

5− z7

7+ · · · =

∞∑n=0

(−1)nz2n+1

2n+ 1(B.3.2)

の収束半径をそれぞれ求めよ.ここで,(2n− 1)!! = (2n− 1)(2n− 3) · · · 3 · 1, (2n)!! = (2n)(2n− 2) · · · 4 · 2.(なお,(B.3.1)は arcsin z を z = 0の周りで Taylor展開したものに等しい.また,(B.3.2)は arctan z を z = 0

の周りで Taylor展開したものに等しい.)

問 B.4 Dは実軸に関して対称な領域とする.f(z)がD上の正則関数のとき,f(z)もD上の正則関数であることを示せ.(ヒント: f(z) = u(x, y) + iv(x, y)とおき,f(z)の実部と虚部を u(x, y), v(x, y)を用いて表す.)

次は,ベキ級数の収束円上における挙動についての問題である.(復習問題ではない.)

問 B.5(Abel の連続性定理の特別な場合) ベキ級数 f(z) =∞∑

n=0

anzn の収束半径は 1 とする. ベキ級数

∞∑n=0

anzn は z = 1で収束するとし,s =

∞∑n=0

an とおく.このとき,収束円の内部から z が実軸にそって 1に

近づくとき,f(z) → sとなることを示せ.

ヒント:必要なら a0 に定数を加えて s = 0としてよい.sn :=∑n

k=0 ak とおく.このとき,∑n

k=0 akzk = s0 + (s1 −

s0)z+· · ·+(sn−sn−1)zn = (1−z)

(∑n−1k=0 skz

k)+snz

nになる(Abelの変形法).これから,f(z) = (1−z)∑∞

n=0 snzn

と表せる.

Abel の連続性定理の例:f(z) =∑∞

n=0(−1)nz2n+1/(2n + 1) の収束半径は 1 であり(問題 B.3 参照),かつ z = 1 で

収束する.z が実数で −1 < z < 1 のとき,f(z) = arctan z であることを知っているから,実軸上で z → 1 のとき,

f(z) → π/4.よって,π/4 =∑∞

n=0(−1)n/(2n+1)となる.(この最後の等式は,xを実数として,arctanxを x = 0の

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周りで,剰余項付きの Taylorの定理を用いて,arctanx =∑n

k=0(−1)kx2k+1/(2k+1)+R2n+2(x)と書いて,|R2n+2(x)|

を評価しても得られる(この方が普通かもしれない).)

注意: Abel の連続性定理の逆は成り立たない.例えば,f(z) := 11+z

= 1 − z + z2 − · · · である.|z| < 1 において,

limz→1 f(z) = 12であるが,右辺のベキ級数は z = 1 で収束しない.しかし,適当な条件を付け加えると(例えば,

limn→∞ nan = 0 を仮定すると),Abelの連続性定理の逆が成り立つことが知られている(Tauberの定理).

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函数論 No. 5複素線積分

5月 7日のレジュメ(曲線,複素線積分)

目標:Cのある領域で定義された連続な複素数値関数 f(z)に対して,領域内の区分的になめらかな曲線 γ

に沿った複素線積分∫γf(z)dz を定義する.

曲線• C内の曲線(curve)とは,Rの閉区間 [a, b]から Cへの連続写像 γ : [a, b] → Cのことである.γ(a)を曲線 γ の始点(initial point),γ(b)を曲線 γ の終点(terminal point)という.

• 曲線 γ : [a, b] → Cは始点と終点が一致しているとき(つまり,γ(a) = γ(b)のとき),閉曲線(closed

curve)であるという.曲線 γ : [a, b] → Cが単純(simple)であるとは,始点と終点の例外を除いて,γ

が単射であるときにいう.つまり,a ≤ t1 < t2 < bならば,γ(t1) = γ(t2)となっているときにいう*1.• 定理 5.1(Jordan の曲線定理) C(= R2)内の単純閉曲線 γ は,その補集合 C ∖ Im(γ)を,有界な領域(内部)と有界でない領域(外部)の 2つの領域に分ける.(ここで,Im(γ) := γ([a, b])は γ の像.)上の定理の有界な領域(内部)を,γ を境界とする Jordan領域という.Jordanの曲線定理は,明らかに思えるかもしれないが,その証明は全く明らかではなく位相幾何の準備を必要とする(この講義では証明しない).ただし,この講義で積分の実際の計算に使う単純閉曲線は,円周の一部や有限個の線分によって囲まれるような簡単なものだけである.

• γ : [a, b] → Cを単純閉曲線とする.γ が正の向き(positive orientation)をもつとは,tが aから bまで動くとき,γ(t)は Jordan領域を左手の方向に見ながら動くときにいう.例えば,反時計回りに 1周する γ(t) = eit(0 ≤ t ≤ 2π)は正の向きである.

• 曲線 γ : [a, b] → Cに対し,γ−1(t) := γ(a+ b− t)(a ≤ t ≤ b)と定める.γ−1 は γ(b)を始点,γ(a)を終点とする曲線である.γ : [a, b] → Cを単純閉曲線とする.γ が正の向きでない(負の向きの)とき,γ−1 : [a, b] → C(γ−1(t) := γ(a+ b− t))は正の向きになる.

• 2つの曲線 γ1 : [a1, b1] → C, γ2 : [a2, b2] → Cにおいて,γ1 の終点と γ2 の始点が一致しているならば(つまり,γ1(b1) = γ2(a2)ならば),γ1 に γ2 をつないだ曲線を考えることができる.この曲線を γ2γ1

で表す(γ2 + γ1 と書くことも多い).γ := γ2γ1 は,γ : [a1, b1 + (b2 − a2)] → Cで,

γ(t) =

{γ1(t) (a1 ≤ t ≤ b1)

γ2(a2 + (t− b1)) (b1 ≤ t ≤ b1 + b2 − a2)

で定められる.• 曲線 γ : [a, b] → C がなめらか(smooth)であるとは,γ(t) が t の関数として C1 級であり(つまり,γ(t) は t について微分可能で,dγ

dt (t) が連続であり),さらに,任意の t について dγdt (t) = 0

を満たすことをいう*2.曲線 γ : [a, b] → C が区分的になめらか(piecewise smooth)であるとは,a = t0 < t1 < · · · < tn = b(区分点)が存在して,γ は各 [ti, ti+1]上ではなめらかなときにいう.(各ti において,左微分係数と右微分係数が存在するが,両者は一致しなくてよい.)

2014年 5月 7日*1 単純曲線を Jordan曲線ともいう.*2 t = a, t = bにおいては,dγ

dt(t)はそれぞれ右微分係数および左微分係数の値とする.なお,テキストによっては,なめらかな曲線

の定義に dγdt

(t) = 0の条件を入れないこともあるので注意する.

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複素線積分•(複素数値関数の区間上の積分)[a, b] ⊂ Rを閉区間とし,f(t)を [a, b]上で定義された複素数値連続関数とする.f(t) = u(t) + iv(t)と実部と虚部に分けて書く.このとき,∫ b

a

f(t)dt :=

∫ b

a

u(t)dt+ i

∫ b

a

v(t)dt

によって,複素数値連続関数 f(t)の閉区間 [a, b]上の積分∫ b

af(t)dtを定義する.

• 曲線 γ : [a, b] → Cをなめらかな曲線,f(z)を γ の像 Im(γ) := γ([a, b])上で定義された複素数値連続関数とする.このとき,γ に沿った f(z)の積分を

(5.1)∫γ

f(z)dz :=

∫ b

a

f(γ(t))dγ

dt(t)dt

で定義する(右辺は,上で述べた複素数値関数の区間上の積分).γが区分的になめらかで,γ = γk · · · γ1(γi はなめらか)と書けるときは,

∫γf(z)dz :=

∑ki=1

∫γif(z)dz によって定義する.

• 補題 5.2 複素線積分は,曲線 γ : [a, b] → Cの(向きを変えない)パラメータ付けには依らない.ただし,向きには依存し,曲線の向きを変えると (−1)倍される.正確に述べると以下の通り.(1) φ : [a, b] → [a, b]を C1 級の関数で,dφ

dt > 0, φ(a) = a, φ(b) = bとする.γ := γ ◦ φ : [a, b] → Cとおくと,

∫γf(z)dz =

∫γf(z)dz.

(2)∫γ−1 f(z)dz = −

∫γf(z)dz.

• 定理 5.3(複素線積分の基本的な性質) (1) γ は区分的になめらかで,f(z), g(z)は γ の像の上で連続とすると,

∫γ

(f(z)± g(z))dz =

∫γ

f(z)dz ±∫γ

g(z)dz,

∫γ

αf(z)dz = α

∫γ

f(z)dz (α ∈ C).

(2) γ1, γ2 は区分的になめらかで,γ1 の終点と γ2 の始点が等しいとする.f(z)は γ1, γ2 の像の上で連続とすると,

∫γ2γ1

f(z)dz =

∫γ1

f(z)dz +

∫γ2

f(z)dz.

(3) γ : [a, b] → C は区分的になめらかで,f(z) は γ の像の上で連続とすると,∣∣∣∣∫

γ

f(z)dz

∣∣∣∣  ≤∫γ

|f(z)| |dz|. ここで,右辺は,γ = γk · · · γ1 (γi : [ai, bi] → C はなめらか) のとき,

k∑i=1

∫ bi

ai

|f(γ(t))|∣∣∣∣dγidt

(t)

∣∣∣∣ dtを表す.*3.

上の定理の (3)は積分の大きさを評価するときによく用いられる.• 曲線 γ : [a, b] → Cと γ の像の上で定義された複素数値連続関数に対して,γ に沿っての積分を (5.1)で定義した.しかし, (5.1)の定義はやや唐突に見えるかもしれない.実 1変数の(Riemann)積分の定義を思い出すと,閉区間 [a, b]の分点 a = t0 < t1 < · · · < tN = bをとり,その分点の取り方を細かくしていったときの区分和の極限

(5.2) lim|∆|→0

N−1∑i=0

f(γ(si)) (γ(ti+1)− γ(ti))

(ただし,(|∆| := max0≤i≤N−1 |ti+1 − ti|, si ∈ [ti, ti+1])として,複素線積分を定義するのが自然に思えるだろう.γ が区分的になめらかなときは,両者は一致することが分かる.

補題 5.4 γ が区分的になめらかで,f(z)が γ の像の上で連続のとき,(5.1)の右辺と (5.2)は一致する.

そこで,この講義では,区分的になめらかな曲線に対して,(5.1)を複素線積分の定義とする*4.

*3 特に,γ : [a, b] → Cを γ(t) = tとすると,区間上の積分になり,∣∣∣∫ b

a f(t)dt∣∣∣  ≤

∫ ba |f(t)| dtを得る.

*4 (5.2)の定義の方が適用範囲は広く,(5.2)を用いて,長さ有限の曲線に沿う複素線積分を定義することができる.しかし,この講義では,区分的になめらかな曲線に沿う複素線積分だけを考え,(5.1)をその定義としてとる.

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No. 5 の練習問題

問 5.1 nを整数とする.α ∈ Cに対して,γ を αを中心とする半径 r > 0の反時計回りの円周とする.このとき,

∫γ(z − α)ndz を求めよ.

問 5.2 0から 1+ iにいたる 3つの曲線 γ1(t) = t+ it(0 ≤ t ≤ 1),γ2(t) = t+ it2(0 ≤ t ≤ 1),γ3 := γ32γ31

(γ31(t) = t(0 ≤ t ≤ 1),γ32(t) = 1+ it(0 ≤ t ≤ 1))を考える.このとき,i = 1, 2, 3に対して,∫γiRe(z) dz

を求めよ.

問 5.3 R > 0を正の数とする.γ1(t) = t(−R ≤ t ≤ R), γ2(t) = Reit = R(cos t+ i sin t)(0 ≤ t ≤ π)とし,γ = γ2γ1 とおく.次の積分を求めよ*5.

(1)

∫γ

zn dz (n = 0, 1, 2, . . .) (2)

∫γ

z dz

補題 5.4の証明

補題 5.4は講義では証明しない.ここに証明を書いておく.γ がなめらかなときに示せば十分である.仮定より,dγ

dt は閉区間 [a, b]上で連続だから,一様連続になる.従って,任意の ε > 0に対して,δ > 0が存在し,

ti+1 − ti < δ ならば,任意の t ∈ [ti, ti+1]に対して,∣∣∣∣dγdt (t)− dγ

dt(si)

∣∣∣∣ < εとなる.よって,

∣∣∣∣(γ(ti+1)− γ(ti))−dγ

dt(si)(ti+1 − ti)

∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∫ ti+1

ti

dt(t)dt−

∫ ti+1

ti

dt(si)dt

∣∣∣∣≤∫ ti+1

ti

∣∣∣∣dγdt (t)− dγ

dt(si)

∣∣∣∣ dt < ε(ti+1 − ti)

となる.|f(γ(t))|は閉区間 [a, b]上の連続関数なので最大値が存在する.その最大値をM とおく.すると,∣∣∣∣∣N−1∑i=0

f(γ(si)) (γ(ti+1)− γ(ti))−N−1∑i=0

f(γ(si))dγ

dt(si)(ti+1 − ti)

∣∣∣∣∣(5.3)

≤N−1∑i=0

|f(γ(si))|∣∣∣∣(γ(ti+1)− γ(ti))−

dt(si)(ti+1 − ti)

∣∣∣∣ ≤ MN−1∑i=0

ε(ti+1 − ti) = M(b− a)ε

となる.実関数の Riemann 積分の定義から,∫ b

af(γ(t))dγdt (t)dt = lim|∆|→0

∑N−1i=0 f(γ(si))

dγdt (si)(ti+1 −

ti) が成り立つので,(5.3) で |∆| → 0 としてから,ε が任意の正の数であることを使えば,lim|∆|→0

∑N−1i=0 f(γ(si)) (γ(ti+1)− γ(ti)) =

∫ b

af(γ(t))dγdt (t)dtを得る.

*5 (1)答えは 0である.γ := γ2γ1 は単純閉曲線であり,f(z) := zn は,γ およびその内部を含む領域上(C全体をとればよい)で,正則関数である.このとき,今後の講義で説明する Cauchyの積分定理より

∫γ f(z) dz = 0が成り立つ.この問題では,Cauchyの

積分定理を用いずに,直接の計算で積分を計算することを求めている.(2)答えは,γ の囲む内部の領域の面積 πR2/2を 2i倍したものに等しい.これは,偶然ではなく,一般に成り立つことを,後にみる.なお,z は正則関数ではないことに注意する.

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函数論 No. 6Cauchyの積分定理

5月 14日のレジュメ(後半は 5月 21日の予定)

1変数複素関数論で最も重要な定理である「Cauchyの積分定理」を説明する.Cauchyの積分定理は,正則関数が非常に性質の良いものであることを示している.

開集合などの復習• Cの部分集合 U が開集合であるとは,任意の c ∈ U に対して,(cに依存して)ある r > 0が存在して,∆r(c) ⊆ U となることをいった.ここで,∆r(c) := {z ∈ C | |z − c| < r}は cを中心とする半径 r の開円板を表す.

• Cの部分集合 Aが閉集合(closed set)であるとは,Aの補集合 C∖Aが開集合のときにいう.• Cの部分集合 X の開近傍(open neighborhood)とは,X を含む開集合のことをいう.• X を Cの部分集合とする. z ∈ Cが X の触点(adherent point)とは,z の任意の開近傍 U が X と交わること(U ∩X = ∅)である.つまり,z のどんな近くにもX の点が存在するとき,z をX の触点という.z ∈ X であれば,z は X の触点である.実際,z の任意の開近傍に z 自身という X の点が存在する.

• X を Cの部分集合とする.X の触点全体のなす集合を X と書き,X の閉包(closure)という.定義から X ⊆ X である.さらに,X は Cの閉集合である(練習問題参照).

• X を C の部分集合とする.z ∈ X が X の内点であるとは,(z に依存して)ある r > 0 が存在して,∆r(z) ⊆ X となることをいう.X の内点全体のなす集合を int(X)で表す. int(X)は Cの開集合である.∂X := X ∖ int(X)とおいて,X の境界(boundary)という.

• Cの部分集合 X が有界(bounded)であるとは,ある R > 0が存在して,X ⊆ ∆R(0)となることをいう.

Cauchyの積分定理• 定理 6.1(Cauchy の積分定理(Cauchy’s integral theorem)) D を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線に囲まれた有界領域とする.f は D を含む開集合 U 上で定義された正則関数とする.このとき, ∫

∂D

f(z)dz = 0

となる*1.ただし,∂Dの向きは,Dを左手側に見る向きにとる.(Dには「穴」があいているかもしれない.そのときは,穴の周囲の曲線の向きに注意する.なお,∂D が単純閉曲線 γ1, . . . , γk からなるとき,

∫∂D

f(z)dz =∑k

i=1

∫γif(z)dz と定める.ただし,γi の向きは Dを左手側に見る向きである.)

• 注意 6.2 f の条件は弱められる.(1) f は U の各点で複素微分可能を仮定すればよい.(f ′(z) の連続性は不要である.)この講義では,

Cauchyの積分定理をベクトル解析の定理である Greenの定理を用いて証明するので,f ′(z)の連続性を必要とする.しかし,f ′(z)の連続性を仮定しないで,

∫∂D

f(z)dz = 0を示すことができる*2.(2) f は D上で連続で D で正則であればよい.

2014年 5月 14日*1 正の向きの単純閉曲線 γ に沿った積分を,

∮γf(z)dz と表すことも多い.

*2 証明は Goursatによる.

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• Cauchyの積分定理にはいくつかの形がある.少し後の講義で説明する予定にしている.

複素線積分の計算α ∈ C, r > 0とする.問 5.1で計算したように,nを整数とすると*3,

(6.4)∫|z−α|=r

(z − α)ndz =

{2πi (n = −1のとき)

0 (それ以外のとき)

となる.(6.4)と Cauchyの積分定理から導かれる積分路の変形によって,単純閉曲線に沿う積分を計算することができる(練習問題を参照).この方法は,より洗練された形で,留数定理としてまとめられる.留数定理は,7月頃に説明する予定にしている.

Green の定理Greenの定理は,Gaussの発散定理や Stokesの定理とともに,「微分積分学続論I–ベクトル解析」の講義の曲線積分と曲面積分のところで扱われる.ここでは,一般的な形ではなく,Cauchyの積分定理の証明に必要な範囲で,Greenの定理について簡単に述べる.

• 連続写像 γ : [a, b] → R2 を (R2 内の)曲線という.γ(t) = (x(t), y(t))(t ∈ [a, b])と書く.単純曲線,閉曲線,区分的になめらかな曲線は,以前と同じように(z = x+ iy ∈ Cを (x, y) ∈ R2 と同一視して)定義される.

• D を R2 の領域とし,γ : [a, b] → D を区分的になめらかな曲線とする.γ(t) = (x(t), y(t))(t ∈ [a, b])と書く.P (x, y), Q(x, y)をD上の実数値連続関数とするとき,曲線 γ に沿った P (x, y)dx+Q(x, y)dy

*4の積分を

(6.5)∫γ

P (x, y)dx+Q(x, y)dy :=

∫ b

a

{P (x(t), y(t))

dx

dt(t) +Q(x(t), y(t))

dy

dt(t)

}dt

で定義する.この積分を Pdx+Qdy の γ に沿った線積分(line integral)とよぶ.• 定理 6.3(Greenの定理) D を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線に囲まれた R2 の有界領域とする.実関数 P (x, y), Q(x, y)は D を含む開集合上で C1 級とする.このとき,∫

∂D

P (x, y)dx+Q(x, y)dy =

∫∫D

(∂Q

∂x− ∂P

∂y

)dxdy

が成り立つ.ただし,∂D の向きは有界領域 Dを左手側に見る向きとする.• Cと R2 を同一視するとき,複素線積分と R2 内の線積分は次の関係にある.γ : [a, b] → C = R2 を区分的になめらかな曲線とし,f(z) = u(x, y) + iv(x, y)とすると,

(6.6)∫γ

f(z)dz =

∫γ

(u(x, y)dx− v(x, y)dy) + i

∫γ

(v(x, y)dx+ u(x, y)dy).

ここで,左辺は複素線積分であり,右辺はR2内の線積分である.左辺において,形式的に dz = dx+idy

とおいて,fdz = (u+ iv)(dx+ idy)を展開すれば右辺になる.

*3 上の脚注にも書いたように,∮|z−α|=r

(z − α)ndz とも書く.

*4 P (x, y)dx+Q(x, y)dy は 1次微分形式とよばれる.「微分積分学続論I–ベクトル解析」は履修中の人が多いと思う.ここでは,dxや dy は単に記号と思っておけば十分である.

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Cauchyの積分定理の証明Greenの定理を使うと,Cauchyの積分定理(定理 6.1)は次のように証明できる.∫

∂D

f(z)dz =

∫∂D

(u(x, y)dx− v(x, y)dy) + i

∫∂D

(v(x, y)dx+ u(x, y)dy)

=

∫∫D

(−∂v

∂x− ∂u

∂y

)dxdy + i

∫∫D

(∂u

∂x− ∂v

∂y

)dxdy

= 0

ここで,最初の等式は (6.6) による.次の等式は Green の定理(定理 6.3)による.最後の等式は Cauchy–

Riemannの関係式による.まとめると,関数が正則であるということから Cauchy–Riemannの関係式が成り立ち,ベクトル解析の Greenの定理を経由すると,Cauchyの積分定理が証明できる(注意 6.2(1)も参照).

No. 6 の練習問題

特に断りのないかぎり,単純閉曲線は正の向きとする.

問 6.1 X を Cの部分集合とする.X は閉集合であることを示せ.また,∂X は閉集合であることを示せ.

問 6.2 (1) γ を区分的になめらかな単純閉曲線とし,αは γ 上にない点とする.このとき,整数 nに対して,

∫γ(z − α)ndz の値を求めよ.

(2)∫|z|=1

1

z(z − 2)dz の値を求めよ.(ヒント: 1

z(z−2) =12

(1

z−2 − 1z

)である.(1)を用いよ.)

(3)∫|z|=1

sin(z100) eez

dz の値を求めよ.

問 6.3 (6.4)を用いて,∫|z|=1

(z +

1

z

)2ndz

zの値を求めよ.これから,

∫ 2π

0

cos2n θdθ = 2π(2n− 1)!!

(2n)!!を導

け.ただし,(2n− 1)!! = (2n− 1)(2n− 3) · · · 1, (2n)!! = (2n)(2n− 2) · · · 2である.

問 6.4 a, bは正の実数とし,曲線 γ : [0, 2π] → Cを γ(t) = a cos t+ ib sin tで定める(γ は楕円の周である).

(1) 問 6.2(1)を用いて,∫γ

1

zdz :=

∫ 2π

0

1

γ(t)

dt(t)dtの値を求めよ.

(2) (1)の両辺の虚部を比べて,積分∫ 2π

0

1

a2 cos2 t+ b2 sin2 tdtの値を求めよ.

問 6.5 D を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線に囲まれた有界領域とする.このとき,∫∂D

zdz =

2i · area(D)を示せ.ここで,area(D) =∫∫

Ddxdy は Dの面積である.(ヒント:Greenの定理を用いよ.)

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函数論 No. 7Cauchyの積分公式

5月 21日のレジュメ(後半は 5月 28日の予定)

Cauchyの積分公式は,Cauchyの積分定理を用いて証明できる.「Cauchyの積分公式」は「Cauchyの積分定理」とならんで,1変数複素関数論の非常に大切な定理で,これから,正則関数のさまざまな強力な性質が導かれる.

Cauchyの積分公式•(Cauchyの積分定理の補足)γ を区分的になめらかな単純閉曲線とし,f(z)は γ の像とその内部を含む領域で正則とする.このとき,Cauchyの積分定理より,

∫γf(z)dz = 0となる.これから,適当な条件

のもとで,単純とは限らない区分的になめらかな閉曲線 γ についても,∫γf(z)dz = 0がいえる(詳し

くは講義で).• 定理 7.1(Cauchy の積分公式(Cauchy’s integral formula)) D を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線を境界にもつ有界領域とする.f は D を含む開集合 U 上で定義された正則関数とする.このとき,z ∈ D に対して,このとき,

f(z) =1

2πi

∫∂D

f(ζ)

ζ − zdζ

となる.ただし,∂D の向きは有界領域 D を左手側にみる向きとする.Cauchy の積分公式は,境界での f の値から,内部の点の f の値が決定されてしまう ことをいっている.これも,複素関数の正則性が非常に強い性質であることを示している.今後の講義で見るように,Cauchyの積分定理,Cauchyの積分公式は非常に広い応用を持つ.

• 注意 7.2 Cauchyの積分公式は Cauchyの積分定理を用いて示すので,Cauchyの積分定理と同様に f

の条件は弱めることができる.(1) f は U の各点で複素微分可能を仮定すればよい.(f ′(z)の連続性は不要である.)(2) f は Dで連続かつ Dで正則であればよい.

• Cauchyの積分公式を証明するために,まず,その特別な場合である,Dが開円板の場合を証明する.

補題 7.3(Cauchy の積分公式(円の場合)) ∆r(c) を c 中心で半径 r > 0 の開円板とする.f は∆r(c) を含む開集合上で定義された正則関数とする.このとき,z ∈ ∆r(c) に対して,f(z) =1

2πi

∫|ζ−c|=r

f(ζ)

ζ − zdζ が成り立つ.ここで,積分路の円周の向きは反時計回り(つまり,正の向き)

とする.

• 補題 7.3の状況のもとで,z = cのときを考える.円周を c+ reiθ(θ ∈ [0, 2π])で表せば,

(7.7) f(c) =1

∫ 2π

0

f(c+ reiθ)dθ

が成り立つ.この式は,正則関数 f のある点での値は,その点を中心とする円周上での値の平均値になっていることを示している.これを正則関数に対する平均値の性質(mean-value property)という.

一様収束などの復習次週の正則関数の収束ベキ級数展開の証明に向けて,一様収束などを復習する.

2014年 5月 21日

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• K を Cの部分集合とする.fn(z)(n = 1, 2, . . .)と f(z)はK 上に定義された複素数値関数とする.このとき,関数列 {fn}∞n=1 が f にK 上で一様収束する(converge uniformly)とは,

limn→∞

supz∈K

|fn(z)− f(z)| = 0

となるときにいう.• 命題 7.4 γ : [a, b] → Cを曲線とする.γ の像 γ([a, b])上で定義された連続関数の列 {fn}∞n=1 が f に一様収束しているならば,f も連続関数で, lim

n→∞

∫γ

fn(z)dz =

∫γ

f(z)dz が成り立つ.

• 上を級数の場合に言い換える.連続関数 un(z)を項とする級数 f(z) =∑∞

n=0 un(z)がK 上一様収束するとは,はじめから順にとっていった部分和 fn(z) := u0(z) + · · · + un(z) のなす関数列 {fn(z)}∞n=0

が一様収束することと定める.このとき,上の命題は,関数項級数 f(z) =∑∞

n=0 un(z)が γ([a, b])上

で一様収束すれば,∫γ

∞∑n=0

un(z)dz =

∞∑n=0

∫γ

un(z)dz となる(つまり,項別積分できる)ことをいって

いる.• 関数項級数が一様収束することの判定法として,次の優級数判定法はよく使われる.(ただし,優級数判定法が使えない場合も多く,一般には,関数項級数が一様収束することを判定するのは簡単ではない.)

命題 7.5(優級数判定法(test by majorant series),Weierstrass のM -判定法(M -test)) Cの部分集合K 上の関数項級数

∑∞n=0 un(z)に対して,Mn ≥ 0で,supz∈K |un(z)| ≤ Mn (n = 0, 1, . . .)か

つ∑∞

n=0 Mn が収束するものが存在すれば,∑∞

n=0 un(z)はK 上で一様収束する.

• 例:f(z) =∑∞

n=0 anzn を収束半径が ρ > 0の収束ベキ級数とする.このとき,任意の 0 < r < ρに対

して,f(z) =∑∞

n=0 anzn は∆r(0) = {z ∈ C | |z| ≤ r}上で一様収束する(M -判定法を使えばよい).

しかし,上で r = ρとは一般にとれない.つまり,f(z) =∑∞

n=0 anzn は収束円の内部∆ρ(0)で一様収

束するとは限らない.例えば,f(z) =∑∞

n=0 zn = 1

1−z は収束半径は 1で,sup|z|<1

∣∣f(z)−∑nk=0 z

k∣∣ =

sup|z|<1

∣∣∑∞k=n+1 z

k∣∣ = sup|z|<1

∣∣∣ zn+1

1−z

∣∣∣ = ∞となるから,収束円の内部∆ρ(0)上では一様収束しない.• 上の例のように,領域D上で一様収束するという条件は強くて満たされないことも多い.そこで,もう少し弱い条件を考える.fn(z)(n = 1, 2, . . .)と f(z)は領域 D 上の複素数値関数とする.D に含まれる任意のコンパクト集合(=有界閉集合)K に対して*1 ,関数列 {fn}∞n=1 が f にK 上で一様収束するとき,関数列 {fn}∞n=1 は f に広義一様収束(converge uniformly on compact subsets)するという.

• 例:収束ベキ級数 f(z) =∑∞

n=0 anzn は収束円の内部で広義一様収束する.実際,f(z)の収束半径を ρ

とし,K を∆r(ρ)に含まれるコンパクト集合(=有界閉集合)とする.|z|はK 上の連続関数であるから,K 上で最大値 r をとる*2. r < 1である.このとき,K ⊆ ∆r(0)である.上で見たように,f(z)

は∆r(0)上で一様収束するから,K 上で一様収束する.• 領域 D 上で定義された連続関数の列 {fn}∞n=1 は f に広義一様収束しているとする.このとき,f も連続関数になる(証明は実関数のときと同様である.練習問題).さらに,γ : [a, b] → D を D に含まれる曲線とするとき,γ の像 γ([a, b]) はコンパクト集合(= 有界閉集合)だから,命題 7.4 より,limn→∞

∫γ

fn(z)dz =

∫γ

f(z)dz が成り立つ.

No. 7 の練習問題

問 7.1,問 7.2は,前回の Cauchyの積分定理の練習問題の続きである.

*1 一般に,位相空間に対してコンパクトであることが定義される.Cの部分集合については,コンパクト集合であることと有界閉集合であることは同値なので,コンパクト集合を有界閉集合と置き換えて考えれば十分である.

*2 コンパクト集合(=有界閉集合)K 上の実数値連続関数は,K のある点で最大値を,K のある点で最小値をとる.

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問 7.11

z2 + 1=

i

2

(1

z + i− 1

z − i

)に注意して,

∫γ

1

z2 + 1dz を計算せよ.

ただし,γ は右図のような曲線である.

問 7.2 この問題では,∫∞−∞

1x2+1dxを Cauchyの積分定理を用いて計算する.この定積分は x = tan θ とお

けば,複素線積分を用いなくてもすぐに求まる.しかし,7 月頃に,もう少し洗練された形(留数計算)で,もっと複雑な実の定積分が複素線積分を使って計算できることをみる.R > 0を正の数とする.γ1(t) = t(−R ≤ t ≤ R), γ2(t) = Reit = R(cos t + i sin t)(0 ≤ t ≤ π)とし,

γ = γ2γ1 とおく.

(1)1

z2 + 1=

i

2

(1

z + i− 1

z − i

)に注意して,

∫γ

1

z2 + 1dz を求めよ.

(2) limR→∞

∣∣∣∣∫γ2

1

z2 + 1dz

∣∣∣∣ = 0を示し,∫ ∞

−∞

1

x2 + 1dxを求めよ.

問 7.3 関数項級数 f(z) =

∞∑n=1

zn

1− zn(n = 1, 2, . . .)は,単位円板 ∆ = {z ∈ C | |z| < 1}上で広義一様収

束するが,一様収束はしないことを示せ.

問 7.4 領域 D 上で定義された連続関数の列 {fn}∞n=1 は f に広義一様収束しているとする.このとき,f も連続関数になることを示せ.

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函数論 No. 8Cauchyの積分定理・Cauchyの積分公式の応用 Part 1

5 月 28 日のレジュメ(正則関数の収束ベキ級数展開,正則関数は何回でも複素微分可能,Cauchyの評価式,Liouvilleの定理,代数学の基本定理)

Cauchyの積分公式を用いて,領域 D 上に定義された正則関数が,任意の点 z で収束ベキ級数展開できることを示す.これから,正則関数は何回でも複素微分可能であることが分かる.さらに,Cauchyの評価式について説明し,その応用として,Liouvilleの定理と代数学の基本定理を証明する.

正則関数の収束ベキ級数展開,正則関数は何回でも複素微分可能• 複素数列 {an}∞n=0と点 c ∈ Cに対して,

∑∞n=0 an(z−c)nの形の級数を cを中心とするベキ級数という.

変数 zの平行移動により,すでに扱った c = 0の場合に帰着できる.例えば,ベキ級数∑∞

n=0 an(z−c)n

の収束半径 ρは,|z − c| < ρとなる任意の z ∈ Cについて収束し,|z − c| > ρとなる任意の z ∈ Cについて発散するような ρ(0 ≤ ρ ≤ ∞)のことである.ρ > 0のとき,収束ベキ級数という.

• 補題 8.1 f(z)は領域 D 上で定義された連続関数とする.一点 c ∈ D をとり,r > 0を ∆r(c) ⊂ D

となるようにとる.任意の z ∈ ∆r(c)に対して,

(8.8) f(z) =1

2πi

∫|ζ−c|=r

f(ζ)

ζ − zdζ

が成り立つと仮定する.このとき,f(z)は ∆r(c)で収束ベキ級数に展開される(収束半径は r 以上である).

f(z) =

∞∑n=0

an(z − c)n,

(an =

1

2πi

∫|ζ−c|=r

f(ζ)

(ζ − c)n+1dζ

).

特に,f(z)は ∆r(c)上で正則である.また,f(z)は∆r(c)上で何回でも複素微分可能になる.• f(z)は領域 D 上で定義された正則関数とする.このとき,Cauchyの積分公式より,任意の点 c ∈ D

と∆r(c) ⊂ Dとなるような cの開近傍 ∆r(c)において,(8.8)が成り立っている.よって次を得る.

定理 8.2 領域 D 上で定義された正則関数 f は,各点 c ∈ D で収束ベキ級数展開(Taylor展開や整級数展開ともいう)をもつ.特に,f は D上で何回でも複素微分可能である.

• 注意 8.3 f(z) =∑∞

n=0 an(z − c)n と z = c の周りで収束ベキ級数展開できれば,系 4.3 で見たように,an = f(n)(c)

n! となる.よって,f(z) =∑∞

n=0f(n)(c)

n! (z− c)n と Taylor展開になっているので,収束ベキ級数展開を Taylor展開とよぶことに納得がいくだろう.また,等式 an = f(n)(c)

n! は,収束ベキ級数展開の一意性を示している.これから,f(z)の z = cの周りの Taylor展開(つまり,収束ベキ級数展開)を求めるときに,定義に従って f(n)(c)

n! を計算しなくても,何らかの方法で,f(z)の z = cの周りの収束ベキ級数展開ができれば,それが Taylor展開になっていることが分かる(練習問題 8.3参照).

• 注意 8.4 Cauchyの積分公式は,Cauchyの積分定理から導かれ,Cauchyの積分定理は,f(z)が複素微分可能でありさえすれば(つまり f ′(z)の連続性は仮定しなくても)成り立っていた.補題 8.1を使うと,f(z)が複素微分可能でありさえすれば,f(z)は何回でも複素微分可能であることが分かる.特に,2回微分できることから,導関数 f ′(z)は連続になる.よって,f(z)が複素微分可能であれば,導関数 f ′(z)は自動的に連続になるので,正則関数の定義を「各点で複素微分可能」という条件だけにしてもよいことが分かる.

2014年 5月 28日

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• 定理 8.5 Dを有限個の区分的になめらかな単純閉曲線を境界にもつ有界領域とする.f はDの開近傍U で定義された正則関数とする.このとき,z ∈ Dに対して,このとき,

f (n)(z) =n!

2πi

∫∂D

f(ζ)

(ζ − z)n+1dζ (n = 1, 2, . . .)

が成り立つ*1.∂D の向きは有界領域 D を左手にみる向きとする.上の定理は,正則関数の高階微分が,複素線積分で表されることをいっている.

• 定理 8.5でよく使う場合は,D が開円板のときである.その場合を記しておく.∆r(c)を c中心で半径r > 0の開円板とする.f は ∆r(c)を含む領域で定義された正則関数とする.このとき,z ∈ ∆r(c)に対して,

(8.9) f (n)(z) =n!

2πi

∫|ζ−c|=r

f(ζ)

(ζ − z)n+1dζ (n = 1, 2, . . .)

が成り立つ.ここで,積分路の円周の向きは反時計回り(つまり,正の向き)とする.

Cauchyの評価式,Liouvilleの定理,代数学の基本定理(8.9)の積分を評価して,Cauchyの評価式を得る.Cauchyの評価式の応用として,Liouvilleの定理と代数学の基本定理を証明する.

• 定理 8.6(Cauchyの評価式) f(z)は開円板 ∆R(α) := {z ∈ C | |z − α| < R}上の正則関数とする.ある定数M ≥ 0が存在して,∆R(α)上の任意の点 z で |f(z)| ≤ M を満たすとする.このとき,

|f (n)(α)| ≤ n!M

Rn(n = 1, 2, . . .)

が成り立つ.• 全複素平面 C 上で定義された正則関数を整関数(entire function)という.整関数について,次の

Liouvilleの定理が成り立つ.ある定数M ≥ 0が存在して,任意の z ∈ Cについて |f(z)| ≤ M となるとき,整関数は有界であるという.

定理 8.7(Liouvilleの定理) 有界な整関数は定数関数に限る.

Liouville の定理の証明はいくつか知られているが,ここでは,Cauchy の評価式を用いて示す.実際,任意の z ∈ Cに対して,z を中心とし半径 Rの円内で Cauchyの評価式(n = 1のとき)を用いると,|f ′(z)| ≤ M

Rを得る.Rは任意なので,これから,任意の z ∈ Cに対して f ′(z) = 0が成り立つ.よっ

て,f は定数関数である.• Liouvilleの定理の応用として,代数学の基本定理(fundamental theorem of algebra)を証明しよう.

定理 8.8(代数学の基本定理) 複素数係数の d (≥ 1)次多項式 P (z) = adzd + · · ·+ a0 は重根をこめて

ちょうど d個の根をもち,P (z) = ad(z − α1) · · · (z − αd)(αi ∈ C)と表される.

代数学の基本定理は,一見弱い形の「複素数係数の d (≥ 1)次多項式 P (z) = adzd + · · ·+ a0 は,複素

数の範囲で必ず根をもつ」から導かれる.この「. . .」は,背理法で示せる:もし P (z)が C上に根をもたないとすると,f(z) := 1

P (z) は整関数になる.さらに,f(z)は有界であることもいえ,Liouvilleの定理より定数関数になってしまう.すると,P (z)も定数関数になるが,これは矛盾する.(詳しくは講義で.)

*1 Cauchy–Goursatの公式ともよばれる.

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No. 8 の練習問題

問 8.1 正則関数は何回でも複素微分可能であることを示したが,もちろん,このようなことは実関数では成り立たない.R上で定義された実関数で,C1 級であるが,2回微分可能でないものの例を挙げよ.

問 8.2 領域 D 上に定義された正則関数 f は,任意の z ∈ D で収束ベキ級数(つまり,収束半径が正のベキ級数)に展開できることを示した.このようなことは実関数では成り立たない.R上で定義された C∞ 級の実関数 f(x)で,原点で収束ベキ級数(つまり,収束半径が正のベキ級数)に展開できないものの例を挙げよ.

問 8.3 (1) 正則関数 1

z − 1の z = iを中心としたベキ級数展開を求めよ.また,その収束半径を求めよ.

(2)1

z2の z = iを中心としたベキ級数展開を求めよ.また,その収束半径を求めよ.

(3)1

z(z − 1)の z = iを中心としたベキ級数展開を求めよ.また,その収束半径を求めよ.

(4) Log z の z = 1を中心としたベキ級数展開を求めよ.また,その収束半径を求めよ.(5) e−z2/2 の z = 0を中心としたベキ級数展開を求めよ.また,その収束半径を求めよ.

問 8.4 Cauchy の積分公式,または (8.9) を用いて,次の複素線積分の値を求めよ.(積分路は反時計回りとする.)

(1)

∫|z|=2

sin z

z2 + 1dz (2)

∫|z|=2

ez

(z − i)3dz (3)

∫|z−2|=1

Log z

(z − 2)2dz

ヒント:(1)は部分分数展開を使うとよい.

問 8.5 (1) 三角関数 sin z, cos z は C上の有界関数か?(2) f(z) =

1

1 + |z|2は C上の正則関数か?

問 8.6 f(z) は C 全体上で定義された正則関数(すなわち,整関数)とする.任意の z ∈ C に対して,Im(f(z)) > 0であれば,f は定数関数であることを示せ.ヒント:eif(z) を考えよ.Cayley 変換 z − i

z + i(問 B.1参照)を考えてもよい.

問 8.7 f(z)は C全体上で定義された正則関数(すなわち,整関数)とする.正整数 k と定数 C > 0が存在して,(i)任意の z ∈ Cに対して,|f(z)| ≤ C(1 + |z|k)が成り立つことと,(ii) f(z)は高々 k 次の多項式であることは同値であることを示せ.ヒント:(i) =⇒ (ii)を示すのが問題である.補題 8.1 より,f(z) =

∑∞n=0 anz

n とベキ級数展開でき,その収束半径は

∞である.任意の R > 0に対して,(8.9)より,an =1

2πi

∫|z|=R

f(z)

zn+1dz となる.これから,n > kのとき, an = 0で

あることを示す.

問 8.8 f(z)は単位円板 ∆ := {z ∈ C | |z| < 1}上の正則関数とし,任意の z ∈ ∆に対して |f(z)| ≤ 1

1− |z|を満たすとする.このとき,|f (n)(0)| < (n+ 1)!eであることを示せ.ヒント: 0 < r < 1 とする.(8.9) より,f (n)(0) =

n!

2πi

∫|z|=r

f(z)

zn+1dz である.

22

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函数論 No. 9Cauchyの積分定理・Cauchyの積分公式の応用 Part 2

6月 4日のレジュメ(一致の定理,最大値の原理,正則関数の広義一様収束極限はまた正則関数)

前回に,正則関数の基本的性質(著しい性質)として,各点で収束ベキ級数展開できることを示し,特に何回でも複素微分可能であることを示した.今回は,正則関数の基本的性質として,一致の定理と最大値原理を説明する.これらも,Cauchyの積分定理,Cauchyの積分公式の帰結である.さらに,正則関数の基本的性質として,正則関数列の広義一様収束の極限関数がまた正則になることを示す.

一致の定理• 定理 9.1(一致の定理(identity theorem)) f(z), g(z)はある領域 D 上に定義された正則関数とする.もし,z0 ∈ D と zk ∈ D, zk = z0(k = 1, 2, . . .)で, lim

k→∞zk = z0 かつ f(zk) = g(zk)(k = 1, 2, . . .)

となるものが存在すれば,f(z)と g(z)は D 上で恒等的に等しい.特に,f(z)と g(z)が実軸上のある開区間で一致したり,Cのある開円板で一致していれば,領域全体で f(z)と g(z)が一致することが分かる.

• 一致の定理の系として,次を得る.

系 9.2 f を領域D上で定義された恒等的には 0ではない正則関数とする.このとき,Dの中で f の零点は孤立している.すなわち,z0 ∈ D が f(z0) = 0を満たせば,ある r > 0が存在して,∆r(z0) ⊆ D

かつ f の ∆r(z0)内の零点は z0 だけである.

• 次も,一致の定理の証明と同じようにして(または一致の定理を使って)示せる(練習問題 9.4).

補題 9.3 f(z) は領域 D 上で定義された正則関数とし,z0 ∈ D とする.すべての k ≥ 0 に対して,f (k)(z0) = 0となるとき,f は D 上で恒等的に 0になる.

• γ : [a, b] → Cを曲線とし,f(z)を始点 γ(a)の開近傍で定義された正則関数とする.曲線 γ に沿ってf(z)の定義域を少しずつ広げて,終点 γ(b)まで到達できることがある(一般にはできるとは限らない).これを,γ に沿った解析接続(analytic continuation)という.一致の定理より,曲線に沿った解析接続は存在すれば一意的である.解析接続は,3回生向けの「複素函数論」で扱われると思うが,時間が許せば,この講義でも簡単に説明したい.

最大値の原理• 定理 9.4(最大値の原理(maximum modulus principle)) f(z)は領域D上の正則関数とする.もし,ある点 z0 ∈ D で |f(z)|が最大になるとすると, f(z)は定数関数である.

• 系 9.5 D を有界な領域とし,f(z) は D 上で正則で,閉包 D 上で連続であるとする.このとき,maxz∈D

|f(z)| = maxz∈∂D

|f(z)|となる.

正則関数の広義一様収束極限はまた正則関数• 定理 9.6 Dを領域とし,{fn(z)}∞n=1 をD上で定義された正則関数列とする.{fn(z)}∞n=1 はD上で,関数 f(z)に広義一様収束しているとする.このとき,f(z)は D 上の正則関数である.

2014年 6月 4日

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• 定理 9.6は,補題 8.1を用いると示すことができる*1.講義で証明する時間がないかもしれないが,さらに次が成り立つ.

定理 9.7 定理 9.6の状況で,さらに,任意の k ≥ 1に対して,k 階導関数の列 {f (k)n (z)}∞n=1 は,極限

関数の k 階導関数 f (k)(z)に D上で広義一様収束する.

練習問題

問 9.1 正則関数について一致の定理を示したが,このようなことは実関数では成り立たない.R上で定義された C∞ 級の実関数 f(x), g(x)で,実軸の負の区間 (−∞, 0)では一致するが,f(x)と g(x)は異なるものの例を挙げよ.

問 9.2 指数法則 ez+w = ezew (z, w ∈ C)を,講義では,ベキ級数展開の計算を用いて示した.ここでは,z, w が実数のときに指数法則が成り立つことは既知として,一致の定理を用いて,指数法則を証明しよう.

(1) w ∈ Rを固定する.ez+w と ezew を z の関数とみるとき,これらは C上の正則関数で,z が実数のときには一致する.これから,任意の z ∈ Cと任意の w ∈ Rについて,ez+w = ezew を示せ.

(2) z ∈ C を固定する.ez+w と ezew を w の関数とみて,上のような議論をすることによって,任意のz ∈ Cと任意の w ∈ Cについて,ez+w = ezew を示せ.

問 9.3 (1) f(z)は実軸を含む領域上で定義された正則関数とする.xが任意の実数のとき,f(x)が ex に一致するならば,f についてどのようなことがいえるか.

(2) f(z)は原点の開近傍上で定義された正則関数とする.十分大きな任意の整数 nについて,f(1

n

)=

1

n2

が成り立つとき,f についてどのようなことがいえるか.

(3) 原点の開近傍上で定義された正則関数 f(z)で,十分大きな任意の整数 nについて,f

(1

n2

)=

1

nとな

るものは存在するか.

問 9.4 補題 9.3を示せ.

問 9.5 f(z)は ∆R(0)の開近傍で正則とし,0 < r < Rに対して,M(r) := sup|z|=r |f(z)|とおく.f(z)が定数関数でなければ,M(r)は開区間 (0, R)上の狭義単調増加関数であることを示せ.

問 9.6 (1) f(z) は領域 D 上の正則関数とし,任意の z ∈ D について f(z) = 0 とする.もし,ある点z0 ∈ Dで |f(z)|が最小になるとすると,f(z)は定数関数であることを示せ.

(2) f(z) は有界な領域 D 上の正則関数とし,閉包 D 上で連続であるとする.任意の z ∈ D についてf(z) = 0 とする.もし,∂D 上で |f(z)| が定数関数であれば,f(z) は D 上で定数関数であることを示せ.

問 9.7 定理 9.6,定理 9.7のようなことは実関数では成り立たない.R上で定義された関数列 {fn(x)}∞n=1 がf(x)に広義一様収束しているとする.

(1) fn(x)(n = 1, 2, . . .)は C1 級であるが,f(x)は C1 級でないような例を挙げよ*2.(2) fn(x)(n = 1, 2, . . .)と f(x)は C1 級であるが,導関数の列 {f ′(x)}∞n=1 は f ′(x)に広義一様収束していないものの例を挙げよ.

*1 次回に,Cauchyの積分定理の逆にあたるMoreraの定理を示す予定である.Moreraの定理を使っても,定理 9.6は示せる.*2 なお,fn(x)(n = 1, 2, . . .)が連続ならば,f(x)は連続であることは,実関数でも複素関数でも成り立つ(問 7.4参照).1回生の微積で(実関数については)出てきたと思う.

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No. 5 – No. 9 の復習問題*3

特に断りのない限り,単純閉曲線の向きは正の向き(内部を左手側に見る向き)とする.

問 A.3 (1) 曲線 γ : [a, b] → Cが,単純,閉曲線,区分的になめらか,であることの定義をそれぞれ述べよ.(2) γ : [a, b] → Cを区分的になめらかな曲線とし,f(z)を γ の像の上で連続な複素数値関数とする.複素

線積分∫γf(z)dz の定義を述べよ.

(3) Cauchyの積分定理を述べよ.(4) Cauchyの積分公式を述べよ.

問 A.4 nは整数,c ∈ C, r > 0とする.∫|z−c|=r

(z − c)ndz の値を実際に計算することで求めよ.

問 A.5 γ を単純閉曲線,α ∈ Cを γ の像の上にない点とする.∫γ

1

z − αdz の値を求めよ.

問 A.6 (1)∫|z−1|=1

1

z2 − 2dz の値を求めよ.

(2) Cauchyの積分公式を用いて,∫|z−1|=1

z4

z2 − 2dz の値を求めよ.

ヒント:部分分数展開 1z2−2

= 1

2√2

(1

z−√

2− 1

z+√

2

)を用いるとよい.

問 B.6∫ 2π

0

eeiθ

dθ の値を求めよ.

問 B.7 ∆r(c)を c中心で半径 r > 0の開円板とする.f は∆r(c)を含む領域で定義された正則関数とする.

(1) f (n)(c) =n!

2πrn

∫ 2π

0

f(c+ reiθ)e−inθdθ (n = 0, 1, 2, . . .)が成り立つことを示せ.

(2) m = 1, 2, . . .に対して,∫ 2π

0

f(c+ reiθ)eimθdθ の値は何か.

問 B.8 f を恒等的に 0でない整関数(すなわち,C全体で定義された正則関数)とする.このとき,任意のR > 0について,|z| < Rの範囲に f は有限個の零点しか持たないことを示せ.

次は,最大値の原理の応用である.(復習問題ではない.)

問 B.9 最大値の原理を用いて,次の Schwartzの補題を示せ.

Schwartz の補題. f(z) は単位円板 ∆ := {z ∈ C | |z| < 1} 上の正則関数で,f(0) = 0, |f(z)| < 1

(z ∈ D)を満たすとする.このとき,|f(z)| ≤ |z|(z ∈ D)かつ |f ′(0)| ≤ 1となる.さらに,|f ′(0)| = 1

または,ある z0 ∈ D ∖ {0} について |f(z0)| = |z0| となれば,ある θ ∈ R が存在して f(z) = eiθz

(z ∈ ∆)となる.

ヒント: f(0) = 0 より,∆ 上の正則関数 g(z) が存在して,f(z) = zg(z) となる.0 < r < 1 となる r について,円

周 |z| = r 上で |g(z)| =∣∣∣ f(z)z

∣∣∣ ≤ 1rとなる.最大値の原理より,閉単位円板 |z| ≤ r 上で,|g(z)| ≤ 1

rとなる.ここで,

r → 1とする.後半は,条件より,|g(z)|が ∆上で最大値をとる.

問 B.10 ∆を単位円板とする.f : ∆ → ∆は全単射な正則写像で,逆写像も正則写像であるとする*4.

*3 問題番号は,No. 1 – No. 4の復習問題に続く.*4 実は,全単射な正則写像であることから,逆写像が正則写像であることが従うので,後半の仮定は不要である.このような写像を双正則(biholomorphic)写像という.

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(1) f(0) = 0であれば,ある θ ∈ Rがあって,f(z) = eiθz(z ∈ ∆)となることを示せ.(2) (f(0) = 0を仮定しない一般の場合のとき)ある α ∈ ∆と θ ∈ Rがあって,f(z) = eiθ

z − α

1− αz(z ∈ ∆)

となることを示せ.

ヒント: (1) f と f−1 に Schwartzの補題を用いる.(2) f は全単射なので,f(α) = 0となる α ∈ ∆が存在する.この

とき,h(z) = z−α1−αz

とおくと,h(z)は ∆の双正則写像になる(問 1.5 参照).f ◦ h−1 に (1)を使う.

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函数論 No. 10原始関数,単連結領域上のCauchyの積分定理,Cauchyの積分定理の逆(Moreraの定理)

• 来週の 6月 18日は創立記念日で授業はありません.• 再来週の 6月 25日は演習の時間とします.演習問題を解いて(ノートや参考書を参照してもよい),授業終了時に解答用紙を提出します.この演習は,成績には含めませんが,期末試験の結果が単位認定の境界にあるときに,参考にすることがあります.

6月 11日のレジュメ(原始関数,単連結領域上の Cauchyの積分定理,Moreraの定理)

原始関数と単連結領域を定義し,単連結領域上では任意の正則関数が原始関数をもつことを示す.これを用いて,Cauchyの積分定理の別の形を紹介する.また,Cauchyの積分定理の逆にあたるMoreraの定理について述べる.

原始関数,単連結領域上の Cauchy の積分定理• まず,原始関数の定義とその言い換えを述べる.

補題 10.1 D を領域,f(z)を D上で正則な関数とする.このとき,次の 3条件は同値である.(i) D 上の正則関数 F (z) が存在して,f(z) = F ′(z) となる.(この F を f の原始関数(primitive

function)という.)(ii) D 内の区分的になめらかな任意の閉曲線 γ に対して,

∫γf(z)dz = 0となる.

(iii) D 内の区分的になめらかな任意の曲線 γ1, γ2 で始点と終点が一致するものに対して,∫γ1

f(z)dz =∫γ2

f(z)dz となる.

注意:(ii)の条件は (ii)′ 「D 内の折れ線(すなわち,有限個の線分からなる曲線)からなる任意の閉曲線 γ に対して,

∫γf(z)dz = 0となる」とも同値になる.(iii)についても同様である.

• 次の式は補題の証明でも使った.取り出して書いておこう(複素線積分の定義からすぐに示せる).

命題 10.2 D を領域,f(z)を D 上で正則な関数とし,D 上で f(z)の原始関数 F (z)が存在するとする.このとき,D内の区分的になめらかな曲線 γ : [a, b] → Cに対して,

∫γf(z)dz = F (γ(b))−F (γ(a))

が成り立つ.

• 開円板 ∆r(α) := {z ∈ C | |a − α| < r} 上では,任意の正則関数 f(z) の原始関数が存在する.実際,補題 8.1 より,f(z) を ∆r(α) 上で収束ベキ級数 f(z) =

∑∞n=0 an(z − α)n に展開できる.このとき,

∆r(α)上の正則関数 F (z) =∑∞

n=0an

n+1 (z − α)n+1 が f(z)の原始関数になる.• しかし,一般の領域D上では,必ずしも正則関数の原始関数が存在するとは限らない(もう少し下の例を参照).以下では,D が単連結領域とよばれる領域のときには,D 上の任意の正則関数について原始関数が存在することをみよう.ここで,領域 D が単連結(simply connected, 1-connected)とは,D 内の任意の単純閉曲線 γ に対してその内部が D に含まれるときにいう*1.例えば,C全体は単連結であ

2014年 6月 11日*1 この定義は一般的なものではない(C ∼= R2 の領域にしか定義されない).一般的には,弧状連結な位相空間 X に対して,X が単連結であるとは,X 内の一点 c を与えたとき,X 内の c を基点(つまり,始点かつ終点)とする任意の閉曲線が X 内で連続的に変形して一点 cにできるときにいう.すなわち,γ : [a, b] → X,γ(a) = γ(b) = cを連続写像とするときに,ある連続写像H : [a, b]× [0, 1] → X で,H(a, s) = H(b, s) = c(s ∈ [0, 1]),H(t, 0) = γ(t)(t ∈ [a, b]),H(t, 1) = cであるものが存在するときにいう(このことを,γ は一点 cにホモトープであるという).Cの領域 D については,本文に述べた単連結とここで述べ

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る.また,以下では使わないが,任意の単純閉曲線の内部(Jordan領域)は単連結であることが知られている(特に,開円板は単連結である).以下に,単連結領域上の Cauchyの積分定理と原始関数の存在を述べよう.補題 10.1の注意にある条件 (ii)’を確かめることで証明する.((ii)’の証明は,以前に示した Cauchyの積分定理に基づいて,折れ線 γ の自己交差している点の個数に関する帰納法による.)

定理 10.3(Cauchyの積分定理の別の形) D を単連結領域とする.f(z)は D 上の正則関数とする.このとき,D内の区分的になめらかな任意の閉曲線 γ に対して,

∫γf(z)dz = 0となる.

命題 10.4 Dを単連結領域とする.このとき,D上に定義された任意の正則関数 f(z)に対して,f(z)の原始関数が存在する(すなわち,D 上の正則関数 F (z)が存在して,f(z) = F ′(z)となる).

• 補題 10.1 を満たさない D と f の例として,D = ∆ ∖ {0}(単位円板から原点を取り除いた領域),f(z) = 1/z がある.実際,原点のまわりを反時計回りに一周する曲線を γ とすると,

∫γf(z)dz = 2πi

となり,補題 10.1(ii)を満たさない.従って,補題 10.1(i)を満たさないはずである.一見すると,1/z

の原始関数として F (z) = log z が取れそうにみえる.しかし,log z は多価関数であり, ∆∖ {0}上で(一価の)正則関数ではないので,補題 10.1(i)を満たしていないのである.

Moreraの定理• Moreraの定理は,大雑把にいって,Cauchyの積分定理の逆にあたる定理である.Cauchyの積分定理にいろいろな形があるように,Moreraの定理にもいろいろな形がある.次は,使い勝手のよい形である.

定理 10.5(Moreraの定理) U を開集合とし,f(z)は U 上の連続関数とする.γ は三角形の折れ線で,γ および γ の内部は U に含まれるとする.このような任意の γ について,

∫γf(z)dz = 0が成り立

つと仮定する.このとき,f(z)は U 上の正則関数である.

• Moreraの定理の証明を述べる.正則であることは,各点の近傍でみれば十分である.そこで,任意の点z0 ∈ U をとり,∆r(z0) ⊂ U となるような r > 0をとる.f(z)が∆r(z0)上で正則であることを示せば十分である.定理の仮定は,U を∆r(z0)に置き換えても成り立つことに注意しよう.任意の z ∈ ∆r(z0)に対して,[z0, z]で z0 と z1 を結ぶ線分を表し,F (z) :=

∫[z0,z]

f(ζ)dζ とおく.このとき,hを z + h ∈ ∆r(z0)となる複素数とすれば,定理の仮定より,F (z + h) :=

∫[z0,z+h]

f(ζ)dζ =∫[z0,z]

f(ζ)dζ +∫[z,z+h]

f(ζ)dζ = F (z) +∫[z,z+h]

f(ζ)dζ となる.このとき,補題 10.1 の (iii) =⇒ (i)

の証明を参考にして(全く同じである),limh→0F (z+h)−F (z)

h = limh→01h

∫[z,z+h]

f(ζ)dζ が存在して,f(z)に等しいことが分かる.よって,F (z) は ∆r(z0) の各点で複素微分可能であり,導関数 F ′(z) = f(z) は連続なので,F (z) は∆r(z0)上の正則関数になる.すると,定理 8.2から,F (z)は ∆r(z0)上で何回でも複素微分可能になるので,その導関数 f(z) = F ′(z)も∆r(z0)上で正則である.

練習問題

問 10.1 領域 D 上の正則関数 f(z)に対して,D 上の正則関数 F1(z)と F2(z)がともに f(z)の原始関数になっているとする.このとき,F1 − F2 は D 上の定数関数であることを示せ.

問 10.2 Dは実軸 Rを含む Cの領域とする.f(z)は D 上の連続関数で,D ∖R(Dから実軸を取り除いた開集合)上で正則であるとする.このとき,f(z)は D 上で正則であることを示せ.

た単連結は同じものになる.証明は,例えば,杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会の定理 13.4を参照されたい.

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函数論 No. 11演習

• ノートや参考書を参照して構いません.量が少し多いと思うので,適当に選んで解答して下さい.• 解答用紙は授業時間終了時に回収します.この演習は,基本的には成績に関係しませんが,期末試験の結果が単位認定の境界にあるときに,参考にすることがあります.

• 授業時間終了時に略解を配ります.

1 0 < κ < 12 は与えられた正の数とする.複素数列 {αn}∞n=1 は αn = 0 であり,−

(1

2− κ

)π <

Arg(αn) <

(1

2− κ

)π を満たしているとする(n = 1, 2, . . .).このとき,次は同値であることを示せ.

(i)∞∑

n=1

αn は絶対収束する.

(ii)∞∑

n=1

Re(αn)は収束する.

2 w = f(z) = z2 で定まる z 平面から w平面への写像を考える.(1) w = u+ iv(u, v ∈ R),z = x+ iy(x, y ∈ R)とおく.u, v をそれぞれ x, y で表わせ.(2) 直線 Re z = a(a ∈ R), Im z = b(b ∈ R)の f による像を求めよ.(どのような曲線か.)

3 a, bは実数で,a > |b| > 0を満たすとする.以下,∫ 2π

0

1

a+ b cos tdtの値を複素線積分を用いて求める.

(1) z = eit = cos t+ i sin t(t ∈ [0, 2π])とおくとき,∫ 2π

0

1

a+ b cos tdt =

∫|z|=1

1

a+ b · 12

(z + 1

z

) 1

izdz =

∫|z|=1

2

i(bz2 + 2az + b)dz

を示せ.ただし,右辺の積分の向きは反時計回り(正の向き)とする.

(2) bz2 + 2az + b = 0の解を α =−a−

√a2 − b2

b, β =

−a+√a2 − b2

bとおく.このとき,α, β は実

数であり,b > 0のときは α < −1 < β < 0,b < 0のときは 0 < β < 1 < αであることを示せ.(3)

2

i(bz2 + 2az + b)を 1

z − αと 1

z − βを用いて表せ(つまり,部分分数展開せよ).さらに,∫

|z|=1

2

i(bz2 + 2az + b)dz の値を求めよ.以上をまとめると,

∫ 2π

0

1

a+ b cos tdtの値は何か.

4 (1) S > R > ε > 0を正の数とする.このとき,∫γ1

eiz

zdz +

∫γ2

eiz

zdz +

∫γ3

eiz

zdz +

∫γ4

eiz

zdz + 2i

∫ R

ε

sinx

xdx = 0

が成り立つことを示せ.ただし,γ1(t) = R + it(t ∈ [0, S]), γ2(t) = −t + iS(t ∈ [−R,R]),

γ3(t) = −R+ i(S− t)(t ∈ [0, S])は線分,γ4(t) = εei(π−t) = ε(cos(π− t)+ i sin(π− t))(t ∈ [0, π])は半円とする(図参照).

(2) limε→0

∫γ4

eiz

zdz = −iπ を示せ.

(3)∣∣∣∣∫

γ1

eiz

zdz

∣∣∣∣ ≤ 1

R,∣∣∣∣∫

γ2

eiz

zdz

∣∣∣∣ ≤ 2R

S,∣∣∣∣∫

γ3

eiz

zdz

∣∣∣∣ ≤ 1

Rを示せ.

(4) S → ∞としてから,R → ∞とすることで,∫ ∞

0

sinx

xdxの値を求めよ.

2014年 6月 25日

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5 f(z) は領域 D 上の複素数値連続関数とする.このとき,次は同値であることを示せ. (講義で示したどういう定理を使うと,同値であるかを答えればよい.講義で示した定理の証明をする必要はない.一部は,まだ講義で示していない No. 10のレジュメの内容を使うので,できる範囲でよい.)(a) f は D 上の正則関数である.すなわち,(i) f は D の各点で複素微分可能であり,(ii)導関数 f ′(z)

は D 上の連続関数である.(b) z = x+ iy とし,f(z) = u(x, y) + iv(x, y)と表すとき,u(x, y), v(x, y)は x, y についてD上で C1

級であり,D 上で Cauchy–Riemann方程式

∂u

∂x=

∂v

∂y,

∂u

∂y= −∂v

∂x,

(つまり,∂f

∂z= 0

)を満たす.

(c) D′ を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線に囲まれた有界領域で,D′ ⊂ Dとする.∂D′ にはD′

を左手側にみる向きを入れる.このような任意の D′ について,∫∂D′ f(z)dz = 0が成り立つ.

(d) D′ が (c)と同じ条件を満たすとき,任意の z ∈ D′ について,f(z) = 1

2πi

∫∂D′

f(ζ)

ζ − zdζ が成り立つ.

(e) f はDの各点で収束ベキ級数展開できる.詳しくは,任意の z0 ∈ Dに対して,r > 0を∆r(z0) ⊂ D

を満たすようにとれば,∆r(z0)上で f(z) =∑∞

n=0 anzn が成り立つ.(左辺のベキ級数の収束半径は

r 以上である).

(f) D′ は D′ ⊆ D を満たす任意の単連結領域とする.このとき,D′ 上の正則関数 F が存在して,任意の z ∈ D′ について,F ′(z) = f(z)が成り立つ.

6 γ を区分的になめらかな単純閉曲線とし,f(z)は γ とその内部を含む開集合 U 上で正則な関数とする.さらに,f(z)は γ の像の上で零点を持たないとする.このとき,γ の内部にある有限個の点 α1, . . . , αn

と,正の整数m1, . . . ,mn と,γ とその内部で零点を持たない U 上の正則関数 g(z)が存在して,U 上で

(11.1) f(z) = (z − α1)m1(z − α2)

m2 · · · (z − αn)mng(z)

と表せる.(f が γ の内部に零点を持たないときは,n = 0とする.)

(1) まず,(11.1)を認めて,f ′(z)

f(z)=

m1

z − α1+ · · ·+ mn

z − αn+

g′(z)

g(z)を示せ.

(2) (1)を用いて, 1

2πi

∫γ

f ′(z)

f(z)dz = m1 + · · ·+mn を示せ.

(3) (11.1)を示す.(a) γ の内部に,f は有限個の零点しか持たないことを示せ.さらに,α を γ の内部の f の零点とするとき,ある正の整数 m と U 上の正則関数 h(z) で h(α) = 0 となるものが存在して,f(z) = (z − α)mh(z)と表せることを示せ.

(b) (11.1)を示せ.

注意: 6 の (2)を,偏角の原理(argument principle)という.偏角の原理は,対数微分の積分∫γ

f ′(z)

f(z)dz が重複度

を込めて γ の内部にある f の零点の個数に等しいことを示している.(3)(a) の前半は問 B.8の証明を参照.

7 D は実軸に関して対称であり,虚軸に関しても対称な領域とする.f(z)を D 上の正則関数とする.f(z)

は実軸上では実数値をとり(つまり,任意の z ∈ D ∩Rについて,f(z) ∈ R),f(z)は虚軸上では純虚数の値をとる(つまり,任意の z ∈ D ∩ iRについて,f(z) ∈ iR)と仮定する.このとき,f(z)は奇関数であること(つまり,任意の z ∈ D について f(−z) = −f(z))を示せ.

注意とヒント:iR := {iy | y ∈ R}である.f(z)は D 上の正則関数であることが Cauchy–Riemannの関係式を用い

ると確かめられる(問題 B.4参照).f(z)がD ∩ R 上では実数値をとるとき,さらに何がいえるか.

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演習の略解

1 複素平面で考える.αn = an + ibn(an, bn ∈ R)とおく.−(π2 − κ

)< Arg(αn) < π

2 − κ より,an > 0 である.また,tan (Arg(αn)) = bn

anより,|bn| <

(tan

(π2 − κ

))an が成り立つ.(i) =⇒ (ii):

|an| = an ≤ |αn|であり,仮定より,∑∞

n=1 |αn|が収束するから,優級数判定法より,∑∞

n=1 an も収束する.(ii) =⇒ (i):三角不等式より,|αn| ≤ |an| + |bn| <

(1 + tan

(π2 − κ

))an が成り立つ.仮定より,(

1 + tan(π2 − κ

))∑∞n=1 an が収束するから,優級数判定法より,

∑∞n=1 |αn|も収束する.

2 (1) z2 = (x+ iy)2 = (x2 − y2) + i(2xy)より,u = x2 − y2, v = 2xy である.(2) x = aとおくと,u = a2 − y2, v = 2ay となる.(i) a = 0のとき, u = −y2, v = 0だから,像の曲線は w平面の実軸の 0と負の部分である.(ii) a = 0のとき,u = a2 − v2

4a2 は放物線となる.y = bとおくと,u = x2 − b2, v = 2bxとなる.(i) b = 0のとき, u = x2, v = 0だから,像の曲線は w

平面の実軸の 0と正の部分である.(ii) b = 0のとき,u = v2

4b2 − b2 は放物線となる.

3 (1)(2) は問題文の通り.(3) 2i(bz2+2az+b) = 1

i√a2−b2

(1

z−β − 1z−α

)である.β は単位円の内部,α は

単位円の外部にあるから,Cauchy の積分定理と Cauchy の積分公式より,∫|z|=1

2i(bz2+2az+b)dz =

1i√a2−b2

∫|z|=1

1z−βdz − 1

i√a2−b2

∫|z|=1

1z−αdz = (2πi) · 1

i√a2−b2

− 0 = 2π√a2−b2

となる.よって,∫ 2π

01

a+b cos tdt =2π√a2−b2

である.

4 (1) C1 = [ε,R], C2 = [−R,−ε]を Cの曲線とする.(正確には,C1 は t ∈ [ε,R] ⊂ Rをそのまま t ∈ Cとみなす.C2 も同様である.) eiz

z は C1, γ1, γ2, γ3, C2, γ4 で囲まれる有界領域とその境界を含む(ある)開集合上で正則だから,Cauchyの積分定理より,∫

C1

eiz

zdz +

∫γ1

eiz

zdz +

∫γ2

eiz

zdz +

∫γ3

eiz

zdz +

∫C2

eiz

zdz +

∫γ4

eiz

zdz = 0

となる.ここで,sin z = eiz−e−iz

2i であるから,∫C1

eiz

z dz +∫C2

eiz

z dz =∫ R

ε

(eix

x − e−ix

x

)dx =

2i∫ R

εsin xx dxとなる.これらをまとめると,(1)の等式を得る.

(2) γ4(t) = εei(π−t)(0 ≤ t ≤ π)より,γ−14 (t) = εeit (0 ≤ t ≤ π)となる.このとき,ε → 0の極限

で,∫γ4

eiz

z dz = −∫γ−14

eiz

z dz = −∫ π

0eiεe

it

εeit iεeitdt = −i∫ π

0eiεe

it

dt → −iπ となる.(実際,eiz は z = 0

で連続だから,∣∣∣∫ π

0(eiεe

it − 1)dt∣∣∣ ≤ ∫ π

0

∣∣∣eiεeit − 1∣∣∣ dt ≤ π sup0≤t≤π

∣∣∣eiεeit − 1∣∣∣→ 0(ε → 0)となる.)

(3)∣∣∣∫γ1

eiz

z dz∣∣∣ =

∣∣∣∫ S

0ei(R+it)

R+it dt∣∣∣ ≤

∫ S

0

∣∣∣ ei(R+it)

R+it

∣∣∣ dt ≤∫ S

0e−t

R dt = 1R (1 − e−S) ≤ 1

R となる.γ3 に

ついては,γ−13 (t) = −R + it(t ∈ [0, S])なので,

∣∣∣∫γ3

eiz

z dz∣∣∣ = ∣∣∣− ∫γ−1

3

eiz

z dz∣∣∣ = ∣∣∣∫ S

0ei(R+it)

R+it dt∣∣∣ ≤∫ S

0

∣∣∣ ei(R+it)

R+it

∣∣∣ dt ≤ ∫ S

0e−t

R dt = 1R (1−e−S) ≤ 1

R となる.γ2については,γ−12 (t) = t+iS(t ∈ [−R,R])な

ので,∣∣∣∫γ2

eiz

z dz∣∣∣ = ∣∣∣− ∫γ−1

2

eiz

z dz∣∣∣ = ∣∣∣∫ R

−Rei(t+iS)

t+iS dt∣∣∣ = ∫ R

−R

∣∣∣ ei(t+iS)

t+iS

∣∣∣ dt ≤ e−S∫ R

−RdtS ≤ 2e−S R

S ≤ 2RS

を得る.(4)まず S → ∞として,それから R → ∞とすれば,k = 1, 2, 3について,

∣∣∣∫γk

eiz

z dz∣∣∣は 0になる.よっ

て,∫γ4

eiz

z dz + 2i∫∞ε

sin xx dx = 0となる.ここで,ε → 0として,

∫∞0

sin xx dx = π

2 を得る.

5 (a) ⇐⇒ (b)は,定理 3.1と,No. 4の補足の2つ目から従う.(a) =⇒ (c)は,Cauchyの積分定理(定理 6.1

参照)である.(c) =⇒ (a)は,Moreraの定理(定理 10.5参照)から従う.(a) =⇒ (d)は,Cauchyの積分公式(定理 7.1参照)である.(d) =⇒ (e)は補題 8.1から従う.(e) =⇒ (a)は,収束ベキ級数は,何回でも複素微分可能だから,特に正則関数であること(定理 4.2と系 4.3)から従う.(a) =⇒ (f)は,定理 10.3である.(f) =⇒ (a)は,F について,すでに示した (a) =⇒ (d) =⇒ (e)より,F は何回でも複素微分可能だ

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から,f = F ′ も何回でも複素微分可能になり,特に f は正則関数になることが分かる.以上より,(a)–(f)

の同値性が示された.

6 (1) f ′(z) =∑n

i=1 mi(z−α1)m1 · · · (z−αi−1)

mi−1(z−αi)mi−1(z−αi+1)

mi+1 · · · (z−αn)mng(z)+(z−

α1)m1 · · · (z − αn)

mng′(z)となるから, f ′(z)f(z) = m1

z−α1+ · · ·+ mn

z−αn+ g′(z)

g(z) となる.

(2)まず,U ′ := {z ∈ U | g(z) = 0}とおくと,U ′ は γ とその内部を含む開集合である. g′(z)g(z) は U ′ 上で

正則だから,Cauchy の積分定理より, 12πi

∫γ

g′(z)g(z) dz = 0 になる.よって, (1) より, 1

2πi

∫γ

f ′(z)f(z) dz =∑n

i=1 mi1

2πi

∫γ

1z−αi

dz + 12πi

∫γ

g′(z)g(z) dz = m1 + · · ·+mn を得る.

(3) (a)仮に γ の内部に f の零点が無数にあるとする.K を γ(の像)とその内部の合併集合とすれば,Kは有界閉集合(=コンパクト集合)である.よって,収束する点列 {zk}∞k=1で,zk ∈ K であり,f(zk) = 0

となるものが取れる.z0 := limk→∞ zk とおく.f は U 上で連続だから,f(z0) = 0である.z0 ∈ K であるが,仮定より f は γ の像の上で零点を持たないので,z0 は γ の内部の点である.よって,γ の内部で,一致の定理を用いて,γ の内部で f は恒等的に 0になる.f の連続性より f は K 上で恒等的に 0になるが,これは f は γ の像の上で零点を持たないことに矛盾する.よって,γ の内部に f の零点は有限個しかない.

さて,α を γ の内部の零点とする.r > 0 を ∆r(α) が γ の内部に含まれるようにとる.このとき,∆r(α) 上で f(z) =

∑∞n=1 an(z − α)n とベキ級数展開できる.f は恒等的に 0 でないから,補題 9.3

より,an = 0 となる n ≥ 1 が存在する.そのような最小の n を m ≥ 1 とおけば,∆r(α) 上でf(z) = (z − α)m(am + am+1(z − α) + · · · )となる.U 上で h(z) = f(z)

(z−α)m とおく.このとき,h(z)は少なくとも  U ∖ {α}上で正則である.さらに,z = αのまわりでは,h(z) = am + am+1(z − α) + · · ·と収束ベキ級数に展開できているので,h(α) = am とおけば,h(z)は z = αの開近傍で正則であることが分かる.結局 h(z)は U 上で正則になる.さらに,h(α) = am = 0である.

(b) (a) より,f の γ の内部での零点は有限個なので,それらを α1, . . . , αn(n ≥ 0)とおく.(a) の後半を繰り返し使うことにより,正の整数 m1, . . . ,mn と U 上の正則関数 g(z) が存在して,f(z) =

(z − α1)m1 · · · (z − αn)

mng(z)となる.さらに,g(α1) = 0, . . . , g(αm) = 0である.f(z)は γ とその内部では, α1, . . . , αn にしか零点を持たないので,g(z)は γ とその内部に零点を持たないことが分かる.

7 f(z) は D 上の正則関数であることが Cauchy–Riemann の関係式を用いると確かめられる (問題 B.4 参照).仮定より,任意の z ∈ D ∩ Rに対して,f(z) = f(z)となるから,一致の定理より,任意の z ∈ D

に対して,f(z) = f(z)が成り立つ*1.次に,iz ∈ Dとなる z に対して,g(z) := if(iz)とおく.g(z)とg(z)について,仮定より,任意の iz ∈ D ∩ iRとなる z について,g(z) = g(z)となるから,一致の定理より,iz ∈ Dとなる任意の z に対して,g(z) = g(z)が成り立つ.ここで,g(z) = −if(iz)である.よって,任意の z ∈ Dに対して,

f(−z) = f(i(iz)) = −ig(iz) = −ig(iz) = (−i)2f(iiz) = −f(z) = −f(z)

が成り立つ.

*1 このような議論は,解析接続についての Schwartzの鏡像原理で扱われる. 7 をヒントなしで解くのは難しいかもしれない.

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函数論 No. 12孤立特異点,Laurent展開

7月 2日のレジュメ(孤立特異点,Laurent展開,孤立特異点の分類,有理型関数)

予定:今日 Laurent展開;9日留数定理と定積分への応用;16日定積分への応用(続き);23日定期試験

孤立特異点Cauchyの積分公式では,領域 D の一点 αを除いて正則な関数 f(z)

z − αを考えた.このように,領域 D のい

くつかの例外点を除いて正則な関数を考えたい状況がよく現れる.

• 領域 D 上の関数 f(z) について,c ∈ D が孤立特異点(isolated singularity)であるとは,十分小さいr > 0が存在して,f(z)が∆r(c)∖ {c} = {z ∈ C | 0 < |z − c| < r}上で正則であるときにいう.

• 注意と例:上の定義では,f(z)が z = cで正則なときも,cを孤立特異点とよんでいる. sin z

z,1

z, sin

1

zはいずれも,z = 0を孤立特異点に持つ.

• 注意:一般に,関数 f(z)が z = cで収束ベキ級数展開できないときに,cを特異点という.(z = cで正則でない)孤立特異点は特異点であるが,それ以外の特異点も存在する*1.

Laurent展開• 定理 12.1(Laurent展開) c ∈ Cとする.f(z)が領域 ∆R(c) ∖ {c} = {z ∈ C | 0 < |z − c| < R}上で正則ならば,∆R(c)∖ {c}上の級数

(12.2) f(z) =

∞∑n=−∞

an(z − c)n (0 < |z − c| < R)

に展開できる.ここで,(12.2)は,任意の閉円環 r1 ≤ |z − c| ≤ r2(0 < r1 < r2 < R)上で一様収束する.さらに,an は f(z)から一意的に定まる(Laurent展開の一意性).

• (12.2) を f(z) の 孤立特異点 z = c を中心とする Laurent 展開 という.f(z) の負ベキの項の部分∑−1n=−∞ an(z − c)n = · · ·+ a−2

(z−c)2 + a−1

z−c を,f(z)の Laurent展開の主要部(principal part)という.

孤立特異点の分類(除去可能特異点/極/真性特異点),有理型関数• f(z)の孤立特異点 z = cは,Laurent展開の主要部の形に応じて3つに分類される.

(1) 主要部が 0 である.このときは,f(c) = a0 と定義すれば,f(z) は z = c で正則になる.このとき,Laurent展開は z = cでも成り立ち,f(z) =

∑∞n=0 an(z − c)n(0 ≤ |z − c| < R)となる.こ

れは,f(z)の z = cにおける Tayler展開(つまり,収束ベキ級数展開,整展開)そのものである.このとき,z = cは f(z)の除去可能特異点(removable singularity)または正則点という.

(2) 主要部が(0でない)有限項である.このとき,ある k ≥ 1が存在して,Laurent展開は,a−k

(z − c)k· · ·+ a−2

(z − c)2+

a−1

(z − c)+ a0 + a1(z − c) + · · · (a−k = 0)

と書ける.このとき,z = cは f(z)の k 位の極(pole)という*2.

2014年 7月 2日*1 例えば,

1

sin(πz)は z = ± 1

n(n = 1, 2, . . .)で正則でないから,z = 0は特異点ではあるが,孤立特異点ではない(集積特異点と

いう).また,log z は多価関数で,原点を含むどんな開集合上でも一価の正則関数にはできないので,z = 0は log z の特異点ではあるが,孤立特異点ではない(分岐点という).

*2 一方,f(z)が z = cのまわりで正則で,f(c) = 0で,f(z)の z = cを中心とする収束ベキ級数展開が,f(z) = am(z − c)m +

am+1(z − c)m+1 + · · ·(m ≥ 1, am = 0)と書けるとき,z = cは f(z)のm次の零点であるという.

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(3) 主要部が無限項である.すなわち,. . . , a−2, a−1 のうち 0 でないものが無数にある.このとき,z = cは f(z)の真性特異点(essential singularity)であるという.

• 例:sin zz は,見かけ上 z = 0で極を持ちそうだが,その Laurent展開は,sin z

z = 1z

∑∞n=0(−1)n z2n+1

(2n+1)! =

1 − z2

3! +z4

5! − · · · となるので主要部は 0である.よって,z = 0は sin zz の除去可能特異点である. 1

z

は z = 0で 1位の極を持つ.sin(1z

)=∑∞

n=0(−1)n 1(2n+1)!z2n+1 =

∑0n=−∞(−1)n 1

(−2n+1)!z2n−1 であ

るから,z = 0は sin(1z

)の真性特異点である.

• 一般に関数 f(z) が領域 D でいくつか(0 個でも有限個でも無限個でも)の 極を除いて 正則であるとき,f(z)は D上の有理型関数(meromorphic function)であるという.(極以外の特異点をもたない.)

孤立特異点のまわりでの f(z) の挙動• 定理 12.2 z = cが f(z)の孤立特異点とする.このとき,z → cでの f(z)の挙動は以下のようになる.

(1) z = cが f(z)の除去可能特異点であることと, limz→c

f(z)が(有限の値で)存在することは同値.(2) z = cが f(z)の極であることと, lim

z→c|f(z)| = ∞であることは同値.

(3) z = cが f(z)の真性特異点であることと,極限 limz→c

f(z)が(∞になること含めて)存在しないことは同値.

• 注意:z = cが f(z)の除去可能特異点であることは,(1)の後半の条件よりも一見弱い「z = cのまわりで f(z)は有界である」こととも同値になる(Riemannの定理,練習問題 12.2参照).z = cが f(z)

の真性特異点であることは,(3)の後半の条件よりも一見強い「任意の α ∈ C ∪ {∞}に対して,上手く点列 zn → c を選ぶと, lim

n→∞f(zn) = α とできる」こととも同値になる(Weierstrass の定理,練習問

題 12.3参照).真性特異点のまわりの f(z)の挙動は複雑である.

練習問題問 12.1 次の関数の指定された孤立特異点における Laurent 展開を求めよ(ただし,(3) は z3 の項まで求めよ).また,指定された孤立特異点の種類を述べよ.

(1)z

z2 − 1(z = 1) (2) z sin

1

z(z = 0) (3)

z cos z

sin z(z = 0)

問 12.2 除去可能特異点に関する次の Riemannの定理を示せ.

Riemannの定理. D = ∆R(c) ∖ {c} = {z ∈ C | 0 < |z − c| < R}とおく.f(z)は D 上の正則関数で,有界とする.(つまり,ある定数M が存在して任意の z ∈ D に対して,|f(z)| ≤ M が成り立つとする.)このとき,z = cは f(z)の除去可能特異点である.

ヒント:f(z)の z = cを中心とする Laurent展開を f(z) =∑∞

n=−∞ anzn とおく.mを任意の負の整数とする.この

とき,任意の 0 < r < Rに対して am = 12πi

∫|z−c|=r

f(z)(z − c)−m−1dz となることを確かめる(定理 12.1 の証明を参

照).すると |am| ≤ Mr−m を得る.ここで,−m > 0だから,r → 0として am = 0を得る.

問 12.3 真性特異点に関する次のWeierstrassの定理(Casorati–Weierstrassの定理ともいう)を示せ.

Weierstrassの定理. f(z)は∆R(c)∖ {c}上で正則で,z = cは f(z)の真性特異点とする.このとき,cに収束する点列 {zn}∞n=1 を上手く選ぶと,(1) lim

n→∞|f(zn)| = ∞となるようにもできるし,(2)任意

に与えられた α ∈ Cに対して limn→∞

f(zn) = αとなるようにもできる.

ヒント:(1)結論を否定すると,f(z)は z = cのまわりで有界になり,Riemannの定理から z = cは f(z)の除去可能特

異点である.(2) α ∈ Cとする.結論を否定すると,ある ε > 0とある r > 0が存在して,任意の z ∈ ∆r(c)∖ {c}につい

て,|f(z)− α| ≥ εとなる.よって,g(z) := 1f(z)−α

は z = cのまわりで有界になるので,Riemannの定理から z = cは

g(z)の除去可能特異点である.これから,f(z) = α+ 1g(z)

は z = cで正則か極になることが分かる.

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函数論 No. 13留数定理,留数定理の定積分への応用

7月 9日のレジュメ

収束半径についての補足• f(z) を z = c のまわりで定義された正則関数とする.ρ′ > 0 を次のようにとる:∆ρ′(c) := {z ∈ C ||z− c| < ρ′}上では f(z)は正則である(正確には,正則な関数として拡張できる)が,任意の R > ρ′ について,f(z)は ∆R(c)上の正則な関数には拡張できない.(すべての R > 0について,f(z)が ∆R(c)

上の正則な関数には拡張できるときは,ρ′ = ∞とおく.)このとき,f(z)の z = cのまわりの収束ベキ級数展開を

∑∞n=0 an(z − c)n とおき,

∑∞n=0 an(z − c)n の収束半径を ρとおけば,ρ = ρ′ である.

• f(z) = 1z−1 は z = 1で孤立特異点をもち,それ以外では正則である.f(z)を z = iを中心にベキ級数

展開することを考える.|1 − i| =√2である.f(z)は |z − i| <

√2で正則である.また,z → iのと

き,|f(z)| → ∞となるから,i中心の半径が√2より大きい開円板上では f(z)は正則にはなりえない.

よって,f(z)を z = iを中心にベキ級数展開すれば,その収束半径は√2となる.(問 8.3(1)では,ベ

キ級数展開を求めて収束半径を計算したが,ここでは,そのようなことをしなくても収束半径が分かることをいっている.)

留数定理

• f(z)が孤立特異点 z = αで Laurent展開∞∑

n=−∞an(z − α)n をもつとき, 1

z − αの係数 a−1 を αにお

ける留数(residue)といい,記号 Res(f, α)(または,Resz=αf(z)や Resz=αf(z)dz)で表す*1.• 定理 13.1(留数定理) D を有限個の区分的になめらかな単純閉曲線を境界にもつ有界領域とする.f(z)は D の閉包 D を含むある開集合上で定義された関数で,D 内の有限個の点 α1, . . . , αn を除いて正則とする.このとき, ∫

∂D

f(z)dz = 2πin∑

j=1

Res(f, αj)

が成り立つ.ただし,今まで通り,D の境界 ∂D には D を左手にみるように向きをつける.• 留数を計算するときに以下の方法は便利である.

– f(z) は z = α で高々 1 位の極を持つ(つまり,f(z) は z = α のまわりで正則か,z = α で 1

位の極を持つ)とする.このとき,Res(f, α) = limz→α

(z − α)f(z) となる. 実際,f(z) の Laurent

展開は,f(z) = a−1

z−α + a0 + a1(z − α) + · · · なので(a−1 = 0 でもよい),Res(f, α) = a−1 =

limz→α(z − α)f(z)である.

– f(z)は z = αで高々 k位の極を持つ(つまり,f(z)は z = αのまわりで正則か,z = αで k位以下の

極を持つ)とする.このとき,Res(f, α) = 1

(k − 1)!limz→α

(dk−1

dzk−1(z − α)kf(z)

)となる.k = 1の

ときが,上の場合である.実際,f(z)の Laurent展開は,f(z) = a−k

(z−α)k+· · ·+ a−1

z−α+a0+a1(z−α)+

· · · と表される.このとき,(z−α)kf(z) = a−k+· · ·+a−1(z−α)k−1+a0(z−α)k+a1(z−α)k+1+· · ·

となるから,Res(f, α) = a−1 =1

(k − 1)!limz→α

(dk−1

dzk−1(z − α)kf(z)

)となる.ただし,実際には,

高階の微分を計算するより級数展開した方が楽なことも多い.

2014年 7月 9日*1 詳しいことは述べないが,留数は,関数 f(z) に対してではなく,1-形式 f(z)dz に対して定まるという見方が良いので,

Resz=αf(z)dz という記号を使うのが良いと思われる.しかし,書きやすさのために,この講義では Res(f, α)を留数を表す記号として使う.

35

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留数定理の定積分への応用(その 1)留数定理を使った定積分の計算をいくつかの場合に分けて説明する*2.[I]三角関数の一周期上の積分:

∫ 2π

0R(cos θ, sin θ)dθ,R(cos θ, sin θ)は sin θ, cos θの有理式

• sin θ, cos θ の有理式 R(cos θ, sin θ) の一周期上の積分∫ 2π

0

R(cos θ, sin θ)dθ を求めるには,z = eiθ

とおいて,単位円周 |z| = 1 上の複素線積分に直せばよい.z = eiθ のとき,cos θ = 12

(z + 1

z

),

sin θ = 12i

(z − 1

z

)となるから,∫ 2π

0

R(cos θ, sin θ)dθ =1

i

∫|z|=1

R

(1

2

(z +

1

z

),1

2i

(z − 1

z

))dz

z

となる.ここでは,右辺の被積分関数が単位円周 |z| = 1上には極をもたないことを仮定する.あとは,単位円内にある被積分関数の極での留数を計算すればよい.

• 例:(No. 11 の演習問題の 3 )a, b は a > |b| > 0 を満たす実数とし,∫ 2π

01

a+b cos θdθ の値を求める.z = eiθ とおくと,∫ 2π

0

1

a+ b cos θdθ =

1

i

∫|z|=1

1

a+ b · 12

(z + 1

z

) 1zdz =

∫|z|=1

2

i(bz2 + 2az + b)dz.

bz2 + 2az + b = 0 の解を α = −a−√a2−b2

b , β = −a+√a2−b2

b とおくと,α は単位円の外部,β は単位円の内部にある.z = β での被積分関数の留数は,limz→β(z − β) 2

i(bz2+2az+b) = limz→β2

ib(z−α) =2

ib(β−α) = 1i√a2−b2

である.よって,留数定理より,積分の値は 2πi · 1i√a2−b2

= 2π√a2−b2

となることが分かる*3.

[II]有理関数の無限積分:∫∞−∞

Q(x)P (x)dx,P (x), Q(x)は実多項式で,degQ+ 2 ≤ degP.さらに,P (x)が

実数の根を持たない.

• 広義積分∫∞−∞

Q(x)P (x)dxが存在するとは,R1, R2 を独立に動かしたときの極限 limR1→−∞

∫ 0

R1

Q(x)P (x)dx+

limR2→∞∫ R2

0Q(x)P (x)dx が存在することをいった.仮定 degQ + 2 ≤ degP と,P (x) が実根をもたな

いことから,広義積分∫∞−∞

Q(x)P (x)dx が存在することが分かる*4.よって,広義積分

∫∞−∞

Q(x)P (x)dx の値

は,特に,−R1 = R2 = R として R → ∞ とした極限 limR→∞∫ R

−RQ(x)P (x)dx に等しい.以下では,

limR→∞∫ R

−RQ(x)P (x)dxの値を複素線積分と留数定理を用いて求める.

• 命題 13.2∫∞−∞

Q(x)P (x)dx,P (x), Q(x)は実多項式で,degQ + 2 ≤ degP であり,P (x)は実数の根を

持たないとする.このとき,P (x)の根で,上半平面 H := {z = x+ iy ∈ C | y > 0}に含まれるものをα1, . . . , αn とおけば,次の等式が成り立つ.

(13.1)∫ ∞

−∞

Q(x)

P (x)dx = 2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z), αj

)*2 高木貞治『近世数学史談』より.「コーシーの業績の中で最も顕著なのは何と言っても函数論の創立であろう.函数論と言えば誰でも先ず第一にコーシーを連想する.しかしコーシーは初めから今日の所謂(いわゆる)函数論を建設することを意識していたのではなくて,研究の動因は定積分の計算にあったのである.」

*3 No. 11の 3 では, 2i(bz2+2az+b)

の部分分数展開を使って複素線積分を求めた.ここでは,z = β での留数を計算することで複素線積分を求めている.

*4 広義積分は,1 回生の微積分で扱われたと思う.広義積分が存在することを簡単に説明する.仮定より,ある c > 0 とある定数M > 0が存在して,任意の x ∈ Rで |x| ≥ cとなるものについて,

∣∣∣x2 Q(x)P (x)

∣∣∣ ≤ M となる.つまり,∣∣∣Q(x)P (x)

∣∣∣ ≤ Mx2 となる.こ

こで,∫R2c

Mx2 dx =

[−M

x

]R2

c= − M

R2+ M

c→ M

c(R2 → ∞)となるから,limR2→∞

∫R2c

Q(x)P (x)

dxが存在することが分かる.

また,∫−cR1

Mx2 dx =

[−M

x

]−c

R1

= Mc

+ MR1

→ Mc(R1 → −∞)となるから,limR1→−∞

∫−cR1

Q(x)P (x)

dxが存在することが分か

る.よって,広義積分は存在する.

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証明:γ1(t) = t(t ∈ [−R,R]),γ2(t) = Reit = R(cos t+ i sin t)(t ∈ [0, π])とおく.γ1 と γ2 をつなげた単純閉曲線を γ := γ2γ1 とおく(図参照).A > max{|α1|, . . . , |αn|}となる正の数 Aをひとつとる.R ≥ Aととる.よって,γ の内部に α1, . . . , αn は入っている.このとき,留数定理より,

(13.2)∫ R

−R

Q(x)

P (x)dx+

∫γ2

Q(z)

P (z)dz =

∫γ

Q(z)

P (z)dz = 2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z), αj

)が成り立つ.ここで,R → ∞とする.仮定 degQ+2 ≤ degP より,ある定数M > 0が存在して,任意の z ∈ Cで |z| ≥ Aであるものについて,

∣∣∣z2Q(z)P (z)

∣∣∣ ≤ M となる.よって,

∣∣∣∣∫γ2

Q(z)

P (z)dz

∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∫ π

0

Q(Reit)

P (Reit)Rieitdt

∣∣∣∣ ≤ ∫ π

0

∣∣∣∣Q(Reit)

P (Reit)Rieit

∣∣∣∣ dt ≤ ∫ π

0

M

Rdt =

R→ 0 (R → ∞)

となる*5.以上をまとめると,式 (13.2)で R → ∞として,式 (13.1)を得る.

• 例:n ≥ 0を整数とする.∫∞−∞

1(1+x2)n+1 dxを上の方法で求めよう*6.1 + x2 の根で上半平面にあるも

のは iのみである.よって,R > 1として,γ1(t) = t(t ∈ [−R,R]),γ2(t) = Reit = R(cos t+ i sin t)

(t ∈ [0, π])とおけば,留数定理より,

(13.3)∫ R

−R

1

(1 + x2)n+1dx+

∫γ2

1

(1 + z2)n+1dz = 2πi Res

(1

(1 + z2)n+1, i

)となる(図参照).ここで,R → ∞とする.limR→∞

∫γ2

1(1+z2)n dz = 0となることは,上で一般に確

かめているが,重複を厭わずにこの場合を評価すると,確かに∣∣∣∣∫γ2

1

(1 + z2)n+1dz

∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∫ π

0

1

(1 + (Reit)2)n+1Rieitdt

∣∣∣∣ ≤ ∫ π

0

∣∣∣∣ Rieit

(1 + (Reit)2)n+1

∣∣∣∣ dt≤∫ π

0

R

(R2 − 1)n+1dt =

πR

(R2 − 1)n+1→ 0 (R → ∞)

となっている.また,留数については, 1(1+z2)n+1 は z = iで n+ 1位の極を持つから,

2πiRes

(1

(1 + z2)n+1, i

)= 2πi

1

n!limz→i

(dn

dzn(z − i)n+1

(1 + z2)n+1

)= 2πi

1

n!limz→i

(dn

dzn(z + i)−(n+1)

)= 2πi

1

n!(−1)n(n+ 1)(n+ 2) · · · (2n)(2i)−(2n+1)

= π(2n)!

22n(n!)2= π

(2n)!!(2n− 1)!!

((2n)!!)2= π

(2n− 1)!!

(2n)!!

(= π

(2n− 1)(2n− 3) · · · 1(2n)(2n− 2) · · · 2

)である.以上をまとめると,式 (13.3)で R → ∞として,

∫∞−∞

1(1+x2)n+1 dx = π (2n−1)!!

(2n)!! となる.

練習問題

問 13.1 (1)sin z

z4の z = 0における留数を求めよ.(sin z のベキ級数展開を使うとよい.)

(2)1

(z − 1)(z + 1)3の z = 1における留数を求めよ.また,z = −1における留数を求めよ.

問 13.2 留数定理を用いて,次の定積分の値を求めよ.

[I] 0 < a < 1のとき,∫ 2π

0

1

1− 2a cos θ + a2dθ [II]

∫ ∞

−∞

1

(x2 + x+ 1)2dx

*5∣∣∣∫γ2

Q(z)P (z)

dz∣∣∣ ≤ ∫

γ2

∣∣∣Q(z)P (z)

∣∣∣ |dz| ≤ ∫γ2

MR2 |dz| = M

R2 πR = MπR

→ 0 (R → ∞)という式変形の方が見やすいかもしれない.*6 求める定積分の値を I とおく.x = tan θ とおけば,I =

∫ π/2−π/2

cos2n θdθ = 12

∫ 2π0 cos2n θdθ となる.よって,[I] の方法を

使って I を求めることもできる(あるいは,複素線積分を使わずに,部分積分を繰り返して求めることもできる).すでに,問 6.3で,[I]の方法でこの積分を求めていて,I = π

(2n−1)!!(2n)!!

である.ここでは,[II]の方法で,I を求める.

37

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問 13.3 m,nは正の整数で m < nを満たすとする.このとき,留数定理を用いて,I :=

∫ ∞

0

xm−1

1 + xndxの

値を求めよう.積分路として,図のような,頂角 β =2π

nの扇の周上で,f(z) =

xm−1

1 + xnを積分する.すなわ

ち,γ1(t) = t(t ∈ [0, R]), γ2(t) = Reit(t ∈ [0, β]), γ3(t) = (R− t)eiβ(t ∈ [0, R])とおいて,γ := γ3γ2γ1

上で,f(z)を積分する.

(1) γ の内部にある,f(z)の極は α = eπin のみであることを確かめよ.さらに,z = αにおける f(z)の留

数が Res(f, eπin ) =

−1

ne

mπin となることを示せ.

(2)∫γ3

f(z)dz = −e2mπi

n

∫γ1

f(z)dz を示せ.また, limR→∞

∫γ2

f(z)dz = 0を示せ.

(3)(1− e

2mπin

)I =

−2πi

ne

mπin となることを示せ.これから,I =

π

n sin(mπn

) を導け.

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函数論 No. 14留数定理の定積分への応用(続き),Riemann球面

• 来週の 7月 23日は期末試験です.

7月 16日のレジュメ

留数定理の定積分への応用(その 2)留数定理を使った定積分の計算をいくつかの場合に分けて説明する.その2では,[III] Fourier変換型の広義積分と,[IV]対数関数 log z や累乗関数 zα の主値の不連続性を利用するものを扱う.[IV]は練習問題で扱う(問 14.2参照).

[III] Fourier変換型の広義積分:∫∞−∞

Q(x)P (x)e

iλxdx(λ > 0),P (x), Q(x)は実多項式で,degP +1 ≤ degQ.(Q(x)

P (x)eiλx の実部と虚部はそれぞれ Q(x)

P (x) cos(λx),Q(x)P (x) sin(λx)である.)

• 複素数値の可積分関数 f(x)に対して,f(ξ) := 1√2π

∫∞−∞ f(x)e−ixξdxを f(x)の Fourier変換という.

Fourier変換は数学に限らず様々な分野で使われる.このことを背景に上の形の複素線積分を求める.

• [III-1] P (x)が実数の根を持たない場合

命題 14.1 λ > 0とする.P (x), Q(x)は実多項式で,degQ+ 1 ≤ degP であり*1,P (x)は実数の根を持たないとする.このとき,P (x)の根で,上半平面 H := {z = x+ iy ∈ C | y > 0}に含まれるものを α1, . . . , αn とおけば,次の等式が成り立つ.

(14.1)∫ ∞

−∞

Q(x)

P (x)eiλxdx = 2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

)証明:R1, R2, S > 0 とし,γ1(t) = −R1 + t(t ∈ [0, R1 + R2]), γ2(t) = R2 + ti(t ∈ [0, S]),

γ3(t) = (R2 + iS)− t(t ∈ [0, R1 +R2]), γ4(t) = (−R1 + iS)− t(t ∈ [0, S])とおく.γ1 から γ4 までをつなげた閉曲線を γ := γ4γ3γ2γ1 とおく(図参照).A > max{|α1|, . . . , |αn|}となる Aをひとつとる.R1, R2, S は A以上とする.このとき,γ の内部に α1, . . . , αn は入っている.このとき,留数定理より,

(14.2)∫ R2

−R1

Q(x)

P (x)eiλxdx+

4∑k=2

∫γk

Q(z)

P (z)eiλzdz = 2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

)が成り立つ.仮定 degQ+ 1 ≤ degP より,ある定数M > 0が存在して,任意の z ∈ Cで |z| ≥ Aとなるものについて,

∣∣∣zQ(z)P (z)

∣∣∣ ≤ M となる.よって,

∣∣∣∣∫γ2

Q(z)

P (z)eiλzdz

∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∫ S

0

Q(R1 + it)

P (R1 + it)eiλ(R1+it)idt

∣∣∣∣∣ ≤∫ S

0

∣∣∣∣Q(R1 + it)

P (R1 + it)eiλR1−λt

∣∣∣∣ dt≤∫ S

0

M

|R1 + it|e−λtdt ≤

∫ S

0

M

R1e−λtdt =

M

λR1(1− e−λS) ≤ M

λR1

と得る.γ4 についても同様に,∣∣∣∫γ4

Q(z)P (z)e

iλzdz∣∣∣ ≤ M

λR2を得る.γ3 については,∣∣∣∣∫

γ3

Q(z)

P (z)eiλzdz

∣∣∣∣ ≤ ∫ R2

−R1

M

|(R2 − t) + iS|e−λSdt ≤

∫ R2

−R1

M

Se−λSdt ≤

∫ R2

−R1

M

Sdt =

M

λS(R1 +R2)

2014年 7月 16日*1 [II]のときは,degQ+ 2 ≤ degP のときに広義積分が存在した.今の場合は,もう少し弱い条件の degQ+ 1 ≤ degP のときに広義積分が存在する.

39

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を得る.そこで,まず,S → ∞とすることで,∣∣∣∫ R2

−R1

Q(x)P (x)e

iλxdx− 2πi∑n

j=1 Res(

Q(z)P (z)e

iλz, αj

)∣∣∣ ≤MλR1

+ MλR2となる.次に,R1 と R2 をそれぞれ R1 → ∞, R2 → ∞として,式 (14.1)を得る.

• 注意:f(z)は H := {z = x+ iy ∈ C | y ≥ 0}を含む開集合上で,Hに含まれる有限個の点 α1, . . . , αn

を除いて正則であるとする.さらに,ある正の数 A とある定数M > 0 が存在して,任意の z ∈ C で|z| ≥ Aであるものについて,|f(z)| ≤ M

|z| を満たしているとする.このとき,命題 14.1の Q(x)P (x)e

iλx をf(x)eiλx に置き換えて,同じ結論が成り立つ(証明も同じである).

• 系 14.2 λ > 0とする.実多項式 P (x), Q(x),α1, . . . , αn は命題 14.1と同じとする.

(1)Q(x)

P (x)が偶関数ならば,

∫ ∞

0

Q(x)

P (x)cos(λx)dx = πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

).

(2)Q(x)

P (x)が奇関数ならば,

∫ ∞

0

Q(x)

P (x)sin(λx)dx = π

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

).

• 例:∫∞0

x sin x1+x2 dx を求める. x

1+x2 は奇関数なので,∫ R

0x sin x1+x2 dx = 1

2

∫ R

−Rx sin x1+x2 dx である.そこで,

zeiz

1+z2 を考える.ここで,1 + z2 の複素上半平面における根は z = iだけである. zeiz

1+z2 は z = iに 1位の極を持つので,Res

(zeiz

1+z2 , i)= limz→i(z − i) zeiz

1+z2 = ie−1

2i = 12e となる.よって,命題 14.1 より,∫ −∞

−∞xeix

1+x2 dx = 2πi 12e となる.ここで,両辺の虚部をとって 2で割れば,

∫∞0

x sin x1+x2 dx = π

2e となる.

• [III-2] P (x)が実数の根を持つ場合(簡単のために,P (x)は実軸上の 1点 x = dだけに 1次の零点をもつとする)

命題 14.3 λ > 0とする.P (x), Q(x)は実多項式で,degQ+ 1 ≤ degP であり,P (x)は実軸上の 1

点 x = dだけに 1次の零点をもつとする(Q(d) = 0も仮定する).このとき,P (x)の根で,上半平面H := {z = x+ iy ∈ C | y > 0}に含まれるものを α1, . . . , αn とおけば,次の等式が成り立つ.(14.3)

limε→0

{∫ d−ε

−∞

Q(x)

P (x)eiλxdx+

∫ ∞

d+ε

Q(x)

P (x)eiλxdx

}= πiRes

(Q(z)

P (z)eiλz, d

)+2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

)証明:ε > 0 は十分小さくとる.Cε(t) = d + εei(π−t)(t ∈ [0, π])とおく.[III-1] の積分路 γ2, γ3, γ4

は同じにとる.閉区間 [−R1, R2]の代わりに,[−R1, d− ε]と Cε, [d+ ε,R2]をつなげた曲線を考える(図参照).このとき,留数定理より,{∫ d−ε

−R1

Q(x)

P (x)eiλxdx+

∫ R2

d+ε

Q(x)

P (x)eiλxdx

}+

∫Cε

Q(z)

P (z)eiλzdz +

4∑k=2

∫γk

Q(z)

P (z)eiλzdz

= 2πin∑

j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

)が成り立つ.[III-1]と同じ議論をして,

(14.4)

{∫ d−ε

−∞

Q(x)

P (x)eiλxdx+

∫ ∞

d+ε

Q(x)

P (x)eiλxdx

}+

∫Cε

Q(z)

P (z)eiλzdz = 2πi

n∑j=1

Res

(Q(z)

P (z)eiλz, αj

)を得る.ここで,仮定より,P (z)は z = dで 1次の零点をもつと仮定しているので,P (z) = (z−d)P1(z)

と書けて,P1(d) = 0である.このとき,Res(

Q(z)P (z)e

iλz, d)= limz→d(z − d)Q(z)

P (z)eiλz = Q(d)

P1(d)eiλd と

なる.よって,∫Cε

Q(z)

P (z)eiλzdz = −

∫ π

0

Q(d+ εeit)

εeitP1(d+ εeit)eiλ(d+εeit)εieitdt = −i

∫ π

0

Q(d+ εeit)

P1(d+ εeit)eiλ(d+εeit)dt

−→ −πiQ(d)

P1(d)eiλd = −πiRes

(Q(z)

P (z)eiλz, d

)(ε → 0)

である( Q(z)P1(z)

eiλz は z = dで連続である).よって,(14.4)で ε → 0として (14.3)を得る.

40

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• (14.3)の左辺を,Cauchyの主値(principal value, valeur principale)といい,p.v.

∫ ∞

−∞

Q(x)

P (x)eiλxdxと

書く*2.• 例:(No. 11の演習問題の 4 )

∫∞0

sin xx dxを求める.

∫ R

εsin xx dx = 1

2

{∫ −ε

−Rsin xx dx+

∫ R

εsin xx dx

}であ

る.そこで,eiz

z を考える.ここで,eiz

z は z = 0で 1位の極を持つから,Res(

eiz

z , 0)= limz→0 z

eiz

z = 1

である.よって,命題 14.3 より,limε→0

{∫ −ε

−∞eix

x dx+∫∞ε

eix

x dx}

= πiRes(

eiz

z , 0)= πi となる.

ここで,両辺の虚部をとれば,∫∞0

sin xx dx = π

2 となる.

Riemann球面• Riemann 球面について,簡単に触れたい.複素平面 C に理想的な 1 点 ∞ を付け加え,z → ∞ が|z| → ∞を意味するようにしよう.

• 複素平面の原点において複素平面に接し,3次元空間にある直径 1の球面 Sを考える(Sは垂直成分が 0

以上の部分に含まれるものをとる).S上の点 (0, 0, 1)を北極といい,N で表す(図参照).複素平面上の点 z に対し,z とN を結ぶ直線が Sと交わる点を Z とすると,対応 C ∋ z 7→ Z ∈ Sは,Cと S∖N

の間の全単射を与える.ここで,|z| → ∞とすれば,Z は北極 N に近づく.そこで,点 N を無限遠点(point at infiniy)とよんで,記号∞で表す.この対応によって,Cを球面 Sの部分集合とみなし,この球面 Sを Riemann球面とよんで,C := C ∪ {∞},または,P1(C) := C ∪ {∞}で表す.

• ∞の近くでの様子をみるには,w = 1z と変数変換するとよい.∞の近傍は,w平面の w = 0の近傍で

あると定める.f(z)が |z| > R 上で定義された正則関数のとき,f(1w

)は 0 < |w| < 1

R 上で定義された正則関数である.そこで,z = ∞が f(z)の除去可能特異点(極,真性特異点)というのを,w = 0

が f(1w

)の除去可能特異点(極,真性特異点)であることで定める*3.

• 時間の関係で説明できないと思うが,a, b, c, d ∈ C を ad − bc = 0 を満たす複素数とするとき,f(z) := az+b

cz+d は P1(C)から P1(C)への全単射な写像で,f も f−1 も正則になる.f は Cの円または直線を,Cの円または直線にうつす(円々対応).

練習問題

問 14.1 a > 0, b > 0とする.留数定理を用いて,∫ ∞

0

cos(ax)− cos(bx)

x2dxの値を求めよ.

ヒント:命題 14.3 がそのまま使える形ではないが, eiaz−eibz

z2= i(a−b)

z+ h(z)(h(z) は正則関数)と表せるので,命

題 14.3 と同じ積分路をとって求めることができる.

問 14.2 [IV]対数関数 log z や累乗関数 zα の主値の不連続性を利用するものここでは [IV]の例として,0 < α < 1のとき,

∫∞0

xα−1

1+x dxを求める.f(z) = (−z)α−1

1+z を図の積分路に沿って積分する.ただし,(−z)α−1 は多価関数なので,分枝をとって e(α−1) Log(−z) を主値として選ぶ.(積分路

*2 一般に,a < d < b として,φ(x) は [a, b] 上で x = d を除いて連続とする.このとき,積分∫ b

aφ(x)dx =

limε1→0

∫ d−ε1

aφ(x)dx + lim

ε2→0

∫ b

d+ε2

φ(x)dx は収束するとは限らない.しかし,ε := ε1 = ε2 > 0 として,ε を 0 に近づ

けた limε→0

{∫ d−ε

aφ(x)dx+

∫ b

d+εφ(x)dx

}は収束することがある.この場合,この極限値を Cauchy の主値(principal value,

valeur principale)といって p.v.∫ ba φ(x)dxで表す.例えば,広義積分

∫ 1

−1

1

xdx = lim

ε1→0

∫ −ε1

−1

1

xdx+ lim

ε2→0

∫ 1

ε2

1

xdxは発散す

るが,Cauchyの主値 p.v.

∫ 1

−1

1

xdx = lim

ε→0

{∫ −ε

−1

1

xdx+

∫ 1

ε

1

xdx

}= 0は存在する.

*3 No. 13の脚注に述べたように,留数は 1-形式について定まると考えるのが良い.f(

1w

)d(

1w

)= − f( 1

w )w2 dw に注意して,f(z)

の z = ∞での留数は Res(f(z),∞) = Res(− f( 1w )

w2 , 0)として定められる.

41

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は,正確には,実軸よりわずかに上または下にあるものとし,ε± δi, R± δi(δ > 0)の間の積分とする.その後で δ → 0とする.)特に,γ1 上では (e−πiz)α−1, γ2 上では (eπiz)α−1(z > 0)の値をとる.

(1) 留数定理を使って,

 ∫ R

0

e−πi(α−1)xα−1

1 + x−∫ R

0

eπi(α−1)xα−1

1 + x+

∫C(R)

f(z)dz +

∫C(ε)

f(z)dz = 2πiRes(f(z),−1)

であることを示せ.さらに,Res(f(z),−1) = 1であることを示せ.(2) C(R)に沿う積分は,0 < α < 1に注意して,

∣∣∣∫C(R)f(z)dz

∣∣∣ ≤ 2π Rα

R−1 を満たすことを示せ.

(3) C(ε)に沿う積分は,∣∣∣∫C(ε)

f(z)dz∣∣∣ ≤ 2π εα

1−ε を満たすことを示せ.

(4) ε → 0, R → ∞とすることで,∫ ∞

0

xα−1

1 + xdx =

π

sin(πα)を示せ.

問 14.3 Cと S∖N の対応を具体的に表せ.つまり,z = x+ iy ∈ C, Z = (X,Y, U) ∈ S∖N とおくとき,(X,Y, U)を (x, y)で表せ.(Sの定義多項式は,X2 + Y 2 + U2 = U である.)

No. 10 – No. 14 の復習問題*4

問 A.7 次の命題はいずれも正しくない.正しい命題に修正せよ.

(1) D を領域,f(z) を D 上の正則関数とする.このとき,任意の区分的になめらかな単純閉曲線γ : [a, b] → D に対して,

∫γf(z)dz = 0となる.(?)

(2) Dを領域,f(z)をD上の正則関数とする.点列 {an}∞n=1 は収束列で(つまり,α := limn→∞ an が存在する),任意の nに対して an ∈ D とする.また,α = an(n = 1, 2, . . .)も仮定する.このとき,任意の nについて f(an) = 0であれば,f は D 上で恒等的に 0である.(?)

(3) f(z) = 1z−1 とおく.f(z) = z−1

1−z−1 =∑∞

m=1 z−m =

∑−1n=−∞ zn となるから,

∑−1n=−∞ zn が f(z)の

z = 0を中心とする Laurent展開である.(?)

問 B.11 f, g は領域 D 上の正則関数とし,積 fg が D 上で恒等的に 0であるとする.このとき,f または g

が D 上で恒等的に 0であることを示せ.(この問題は No. 9の一致の定理の復習問題である.)

問 B.12 f, gは C全体で定義された正則関数(つまり,整関数)とし,任意の z ∈ Cについて |f(z)| ≤ |g(z)|を満たすとする.また,g は恒等的には 0でないとする.

(1) α ∈ Cを g(z)の零点とする.このとき,z = αは f(z)g(z) の除去可能特異点であることを示せ.(ヒント:

恒等的に 0でない正則関数の零点は孤立していることに注意する(系 9.2参照).除去可能特異点に関する Riemannの定理(問 12.2)を使う.)

(2) f(z)と g(z)はどのような関係にあるか?

問 B.13 この問題では,f(z) := 3z−1(z−1)2(z+1)2 の z = 1を中心とした Laurent展開を求める.

(1) まず,f(z)の部分分数展開を求める. 3z−1(z−1)2(z+1)2 = A

(z−1)+B

(z−1)2 +C

(z+1)+D

(z+1)2(A,B,C,D ∈ C)とおいて,A,B,C,D を求めよ*5.

(2) f(z)の z = 1を中心とした Laurent展開を求めよ.(問 B.2も参照せよ.)

*4 問題番号は,No. 5 – No. 9の復習問題に続く.*5 有理関数の部分分数展開について:f(z) :=

Q(z)P (z)

(P (z), Q(z)は複素数係数の多項式で degQ < degP)の分母 P (z)の相異なる根が αj(1 ≤ j ≤ k)で,αj の重複度がmj であるとき,f(z) =

∑kj=1

∑mj

m=1cjm

(z−αj)m(ただし,cjm ∈ C)と表される.

42

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問 B.14 (1) [II]の広義積分∫∞−∞

Q(x)P (x)dxを求めるときに,複素上半平面に半円周を描いた.このかわり

に,複素平面の Imz < 0の部分に半円周を描いて求めることができるか? ただし,Q(x)P (x) は命題 13.2の

仮定を満たしているとする.(2) [III]の広義積分

∫∞−∞

Q(x)P (x)e

iλxdxを求めるときに,複素上半平面に長方形を描いた.このかわりに,複素平面の Imz < 0の部分に長方形を描いて求めることができるか? ただし,Q(x)

P (x)eiλx は命題 14.1の仮

定を満たしているとする(特に,λ > 0である).また,λ < 0のときは,広義積分∫∞−∞

Q(x)P (x)e

iλxdxはどう求めればよいか.

問 B.15 各自のもっているテキストに,留数定理を用いて実関数の積分を計算する練習問題がのっていると思う.それらを解く.

43

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函数論期末試験問題2014年 7月 23日 (水)

⋆ 1 から 4 の 4題を解答せよ.

1 関数 f(z) =z

ez − 1について次の問いに答えよ.

(1) z = 0は f の除去可能特異点であることを示せ.

(2) z = 0 を中心とする f の Laurent 展開を f(z) =∞∑

n=0

anzn とする.このとき,a0, a1, a2 の値を求

めよ.

(3) (2)のベキ級数∞∑

n=0

anzn の収束半径を求めよ.

2 (1) a ∈ Rは実数の定数とする.f は領域 D 上で定義された正則関数とし,f の実部と虚部を u, v で表す.D上で恒等的に u+ a v = 1が成り立つとき,f は D上の定数関数であることを示せ.

(2) ∆ := {z ∈ C | |z| < 1}を単位円板とし,

F := {f(z) | f(z)は∆上の正則関数で,任意の z ∈ ∆に対して |f(z)| ≤ 1 }

とおく.nは与えられた正の整数とする.f(z)がF の元を動くとき,|f (n)(0)|の最大値を求めよ.

注意:(1)(2)は独立した問題である.

3 a = 0を 0でない実数の定数とする.留数定理を用いて,∫ ∞

0

cos(ax)

(x2 + 1)2dx

の値を求めよ.(積分路の取り方や積分の評価など,途中の計算もすべて書くこと.)

4 (1) P (z), Q(z)は複素数係数の多項式で,degQ+ 2 ≤ degP を満たすとする.さらに,P (z)の根はすべて単位円板 ∆ := {z ∈ C | |z| < 1}に含まれると仮定する.このとき,∫

|z|=1

Q(z)

P (z)dz = 0

が成り立つことを示せ.ただし,積分路の向きは反時計回りとする.

(2) nは与えられた正の整数とし,

Pn := {P (z) | P (z)は最高次の係数が 1の n次の複素数係数多項式 }

とおく.R > 0は与えられた正の数とする.P (z)がPn の元を動くとき,max|z|≤R

|P (z)|の最小値と,

その最小値を与える P (z) ∈ Pn を求めよ.

注意とヒント:(1)(2)は独立した問題である.(1)は積分路の変更を考えてみよ.(2)は 1

∫ 2π

0

|P (Reit)|2dt

を考えてみよ.

以上

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函数論定期試験略解2014年 7月 23日 (水)

1 (1) g(z) =∞∑

n=1

zn−1

n!とおくと,g(z)は(収束半径∞の)収束ベキ級数で, g(0) = 1 = 0だから, 1

g(z)

は z = 0の近傍で正則となる.z = 0のとき, z

ez − 1=

z∑∞n=0

zn

n! − 1=

1∑∞n=1

zn−1

n!

=1

g(z)であ

るから,z = 0は f の除去可能特異点である. □

(2) f(z)の z = 0中心の Laurent展開を f(z) =∑∞

n=0 anzn とする.(1)より,z = 0は除去可能特異点

であるから,f(z)の Laurent展開の主要部は 0となって,f(0) = 1

g(0)= 1とおけば,f(z)は z = 0

の近傍で正則になる.よって,∑∞

n=0 anzn は f(z)の z = 0中心の収束ベキ級数展開に他ならない.

(ez − 1)f(z) = z より,(z

1!+

z2

2!+

z3

3!+ · · ·

)(a0 + a1z + a2z

2 + · · ·)= z

を得る.(収束ベキ級数展開の一意性より)両辺の z, z2, z3 の項を比較して,a0 = 1,a02

+ a1 = 0,a06

+a12

+ a2 = 0を得る.よって,a0 = 1, a1 = −1

2, a2 =

1

12となる. □

(3) まず,f(z) の(正則でない)孤立特異点を求める.z = x + iy(x, y ∈ R)とおけば,ez =

ex(cos y+ i sin y)だから,ez − 1 = 0⇐⇒ z = 2πni(n ∈ Z)である.分子 z の零点は,z = 0のみである.(1)より,z = 0は f(z)の除去可能特異点なので,f(z)は {2πni | n ∈ Z, n = 0}に(正則でない)孤立特異点をもち,それ以外では正則になることが分かる.よって,f(z)の z = 0を中心とするべき級数の収束半径は |2πi| = 2π である. □

コメント:除去可能特異点についての問題(cf. 練習問題 12.1(3)).n! an は Bernoulli数とよばれ,数学のさまざまなところで登場する.

2 (1) z = x + iy(x, y ∈ R)とおく.u + a v = 1 を x と y でそれぞれ偏微分して,∂u

∂x+ a

∂v

∂x= 0,

∂u

∂y+ a

∂v

∂y= 0がDの各点で成り立つ.f はD上の正則関数だから,Dの各点で Cauchy–Riemann

方程式 ∂u

∂x=

∂v

∂y,∂u

∂y= −∂v

∂xを満たす.これらを合わせると,∂u

∂x− a

∂u

∂y= 0,

∂u

∂y+ a

∂u

∂x= 0と

なる.すると,∂u

∂x= a

∂u

∂y= −a2

∂u

∂xとなり,aは実数なので 1 + a2 = 0であるから,D の各点で

∂u

∂x= 0となる.これから,Dの各点で ∂u

∂y= 0を得る.Cauchy–Riemann方程式と合わせると,D

の各点で ∂v

∂x=

∂v

∂y= 0も成り立つ.D は領域だから,u, v は D 上で定数関数になる.よって,f

は D 上の定数関数である. □

(2) Cauchyの評価式より,f(z)がF の元のとき,|f (n)(0)| ≤ n!となる.一方,g(z) := zn はF の元であり,|g(n)(0)| = n! である.よって,f(z) が F の元を動くとき,|f (n)(0)| の最大値は n! である. □

コメント:(1)正則関数が Cauchy–Riemann関係式を満たすことを使う問題(cf. 練習問題 3.3).講義でも,最大値の原理を示すときに「|f |が定数関数なら f が定数関数であること」を同じような方法で証明

1

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した.(2) Cauchyの評価式を使う問題(cf. 練習問題 8.8).ただし,最大値をとる f の存在について述べる必要がある.Cauchyの評価式の証明も含めると以下のように解答すればよい.0 < r < 1となる任意

の r について,高階微分の複素線積分による表示から,f (n)(0) =n!

2πi

∫|z|=r

f(z)

zn+1dz が成り立つ.よっ

て,|f (n)(0)| ≤∣∣∣∣ n!2πi

∫ 2π

0

f(reit)

(reit)n+1ireitdt

∣∣∣∣ ≤ n!

∫ 2π

0

∣∣f(reit)∣∣rn

dθ ≤ n!

rnとなる.ここで,r → 1とし

て,|f (n)(0)| ≤ n!を得る.

3 [I] a > 0の場合: I =

∫ ∞

0

cos(ax)

(x2 + 1)2dxとおく. cos(ax)

(x2 + 1)2は偶関数なので,

I = limR→∞

∫ R

0

cos(ax)

(x2 + 1)2dx =

1

2lim

R→∞

∫ R

−R

cos(ax)

(x2 + 1)2dx

である.R は R > 1 を満たす正の数とする.複素平面で,γ1(t) = t(−R ≤ t ≤ R),γ2(t) = Reit

(0 ≤ t ≤ π)とおき,γ := γ2γ1 とおく(図参照).

−R Ri

γ1

γ2

以下, eiaz

(z2 + 1)2の γ に沿った複素線積分を考える. eiaz

(z2 + 1)2は z = iと z = −i以外の点では正則で

ある.z = iは γ の内部の点で,z = iは γ の外部の点であるから,留数定理から,

(3.1)∫γ1

eiaz

(z2 + 1)2dz +

∫γ2

eiaz

(z2 + 1)2dz =

∫γ

eiaz

(z2 + 1)2dz = 2πiRes

(eiaz

(z2 + 1)2, i

)が成り立つ.γ1 に沿った積分については,

(3.2)∫γ1

eiaz

(z2 + 1)2dz =

∫ R

−R

eiax

(x2 + 1)2dx =

∫ R

−R

cos(ax)

(x2 + 1)2dx+ i

∫ R

−R

sin(ax)

(x2 + 1)2dx

となる.γ2 に沿った積分について,∣∣∣∣∫

γ2

eiaz

(z2 + 1)2dz

∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∫ π

0

eiaReit

((Reit)2 + 1)2iReitdt

∣∣∣∣∣ ≤∫ π

0

∣∣∣∣eiaR(cos t+i sin t)

((Reit)2 + 1)2iReit

∣∣∣∣ dt(3.3)

≤∫ π

0

e−aR sin t

(R2 − 1)2Rdt ≤

∫ π

0

1

(R2 − 1)2Rdt =

πR

(R2 − 1)2→ 0 (R → ∞)

を得る.ここで,t が実数のとき,|eit| = 1 であること,|eiaR(cos t+i sin t)| = |eiaR cos t| |e−aR sin t| =e−aR sin t であること,また,0 ≤ t ≤ π において sin t ≥ 0 であり a > 0 の場合を考えているので,e−aR sin t ≤ 1であることを用いた.(講義で説明した例では,e−R sin t ≤ e−R 2

π t(0 ≤ t ≤ π2)という評価

2

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が必要だったが,この問題では,e−aR sin t ≤ 1(0 ≤ t ≤ π)という粗い評価で十分である.また,a < 0

の場合は,e−aR sin t ≤ 1(0 ≤ t ≤ π)という評価はできないことに注意しよう.)eiaz

(z2 + 1)2は z = iにおいて,2位の極を持つから,

2πiRes

(eiaz

(z2 + 1)2, i

)= 2πi lim

z→i

1

1!

d

dz

((z − i)2

eiaz

(z2 + 1)2

)= 2πi lim

z→i

d

dz

(eiaz · (z + i)−2

)(3.4)

= 2πi limz→i

(iaeiaz · (z + i)−2 + eiaz · (−2)(z + i)−3

)= 2πi

(iae−a

(2i)2+

−2e−a

(2i)3

)=

π

ea

(a

2+

1

2

)=

(a+ 1)π

2ea

を得る.(3.1)に (3.2), (3.3), (3.4)を合わせて,R → ∞としてから実部をとることで,

I =1

2lim

R→∞

∫ R

−R

cos(ax)

(x2 + 1)2dx =

(a+ 1)π

4ea

を得る.[II] a < 0の場合: cos(ax) = cos(−ax)なので,I :=

∫ ∞

0

cos(ax)

(x2 + 1)2dx =

∫ ∞

0

cos(−ax)

(x2 + 1)2dxとなる.

よって,[I]の場合に帰着できて,I =

(−a+ 1)π

4e−a

を得る. □

コメント:留数定理を用いて実積分を計算する問題(講義で似たような例を説明した).[I] の場合の積分路は講義で説明したものであるが,レジュメに書いたような複素上半平面の長方形の積分路で計算してもよい.なお,問題文で注意したように,積分路の取り方や,(上の積分路をとったときには)

limR→∞

∣∣∣∣∫γ2

eiz

(z2 + 1)2dz

∣∣∣∣ = 0になることの評価は,きちんと書く必要がある.

4 (1) R > 1 を任意の数とする.円環領域 A(1, R) := {z ∈ C | 1 < |z| < R} を考えると,Q(z)

P (z)は閉包

A(1, R) = {z ∈ C | 1 ≤ |z| ≤ R}を含む開集合上で正則だから,Cauchyの積分定理より,

(∗) 0 =

∫∂A(1,R)

Q(z)

P (z)dz =

∫|z|=R

Q(z)

P (z)dz −

∫|z|=1

Q(z)

P (z)dz

となる.ただし,円周 |z| = 1と |z| = Rの積分路の向きは反時計回りとする.ここで,degQ+2 ≤

degP なので,ある定数M > 0が存在して,|z| ≥ 1を満たす任意の z について,∣∣∣∣Q(z)

P (z)

∣∣∣∣ ≤ M

|z|2と

なる*6.従って,∣∣∣∣∣∫|z|=R

Q(z)

P (z)dz

∣∣∣∣∣ ≤∫ 2π

0

∣∣∣∣Q(Reit)

P (Reit)Rieit

∣∣∣∣ dt ≤ ∫ 2π

0

M

Rdt =

2πM

R

*6 詳しく書くと,以下の通り.degP = nとし,P (z) = anzn + · · ·+ a0 とおく(an = 0).また,Q(z) = bn−2zn−2 + · · ·+ b0

とおく(ここで,bn−2 = 0であってもよい).このとき, lim|z|→∞

∣∣∣∣z2Q(z)

P (z)

∣∣∣∣ = lim|z|→∞

∣∣∣∣ bn−2zn + · · ·+ b0z2

anzn + · · ·+ a0)

∣∣∣∣ = ∣∣∣∣ bn−2

an

∣∣∣∣となるから,ある r > 0が存在して,|z| ≥ r を満たす任意の z に対して,

∣∣∣∣z2Q(z)

P (z)

∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣ bn−2

an

∣∣∣∣ + 1となる.∣∣∣∣z2Q(z)

P (z)

∣∣∣∣は有界閉集合K := {z ∈ C | 1 ≤ |z| ≤ r}上の連続関数なので,K 上で最大値M ′ が存在する.ここで,M := max

{∣∣∣ bn−2

an

∣∣∣+ 1,M ′}と

おけば,|z| ≥ 1を満たす任意の z に対して,∣∣∣∣z2Q(z)

P (z)

∣∣∣∣ ≤ M,すなわち,∣∣∣∣Q(z)

P (z)

∣∣∣∣ ≤ M

|z|2となる.

3

Page 49: 函数論(2014 年度前期)kawaguch/pdf/14Kansuron.pdf函数論(2014年度前期) 川口周 京都大学理学研究科数学教室 2014 年度前期の函数論(全学共通科目,2

となる. よって,最初の式 (∗) と合わせて,

∣∣∣∣∣∫|z|=1

Q(z)

P (z)dz

∣∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∫|z|=R

Q(z)

P (z)dz

∣∣∣∣∣ ≤ 2πM

Rを得る.

ここで,R は R > 1を満たす任意の数だったので,R → ∞として,∫|z|=1

Q(z)

P (z)dz = 0が成り立

つ. □

(2) P (z) = zn + an−1zn−1 + · · · + a0(a0, . . . , an−1 ∈ C)とおく.また,an = 1とおく.このとき,

|P (z)|2 =

n∑j=0

n∑k=0

ajakzjzk となる.ヒントに従って, 1

∫ 2π

0

|P (Reit)|2dtを計算する.まず,

1

∫ 2π

0

|P (Reit)|2dt = 1

∫ 2π

0

n∑j=0

n∑k=0

ajakRj+kei(j−k)dt(†)

=n∑

j=0

R2j |aj |2 = R2n +n−1∑j=0

R2j |aj |2 ≥ R2n

である.ここで,2番目の等式について, 1

∫ 2π

0

eimtdt =

0 (m = 0)

1 (m = 0)となることを用いた.一

方,MP := max|z|≤R

|P (z)|とおけば,

(‡)1

∫ 2π

0

|P (Reit)|2dt ≤ 1

∫ 2π

0

M2P dt = M2

P

を得る.(†)と (‡)より,M2P ≥ R2n となるから,MP ≥ Rn となる.

ここで,MP = Rn となる条件を考えると,(†)で等号が成り立つことから,a0 = · · · = an−1 = 0,つまり,P (z) = zn となる.このとき,max

|z|≤R|zn| = Rn であるから,MP = Rn となっている.

従って,P (z) が Pn の元を動くとき,max|z|≤R

|P (z)| の最小値は Rn であり,その最小値を与える

P (z) ∈ Pn は zn である. □

コメント:(1) P (z), Q(z)を 1次式の積に分解して,留数定理を使って求めようとするのは計算が大変になると思う.上の解答のように,“∞”に目を向けるとよい.(2)特に,R = 1とすると,最高次の係数が1の複素 n次多項式の中で,閉単位円板 |z| ≤ 1上の最大値を最小にするものは zn であり,その最大値はmax|z|≤1

|zn| = 1であることが分かる.一方,実数範囲で同様のことを考えると,最高次の係数が 1の実係

数の n次多項式の中で,閉区間 [−1, 1]上の絶対値の最大値を最小にするものは 1

2n−1Tn(x)であり,そ

の最大値は maxx∈[−1,1]

∣∣∣∣ 1

2n−1Tn(x)

∣∣∣∣ = 1

2n−1であることが知られている.ここで,Tn(x)は cosの n倍角を

cosで表したときの多項式,すなわち,cos(nθ) = Tn(cos(θ))となる多項式(Chebyshev多項式という)である.

追記(2014年 7月 31日):上の 4 (1)のコメントで,「計算が大変になると思う」と書いたが,有理関数の部分分数展開を認めれば,ほとんど計算せずに求めることができる.実際,そのような答案があったので簡単に紹介したい.P (z) = c(z − α1)

m1 · · · (z − αk)mk(cは 0でない複素数,α1, . . . , αk は相異な

る複素数,m1, . . . ,mk は正の整数)と 1次式の積に分解する.このとき,有理関数の部分分数展開の式

を認めると,Q(z)

P (z)=

k∑j=1

mj∑m=1

cjm(z − αj)m

(ただし,cjm ∈ C)と表せる.仮定 degQ+ 2 ≤ degP より,

∑kj=1 cj1 = 0である.よって,留数定理より,

∫|z|=1

Q(z)

P (z)dz = 2πi

k∑j=1

cj1 = 0が成り立つ.

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