86
敗⾎症と補液 2016111慈恵ICU勉強会 ⾦⼦ 貴久

敗⾎症と補液 - jikeimasuika.jp · 症例 • 70歳 男性 170cm 60kg • 肺炎による急性呼吸不全、敗⾎症性ショックの ため救命救急センターに搬送

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

敗⾎症と補液2016年11⽉1⽇ 慈恵ICU勉強会

⾦⼦貴久

症例• 70歳 男性 170cm 60kg•肺炎による急性呼吸不全、敗⾎症性ショックのため救命救急センターに搬送•気管挿管、昇圧薬投与、抗菌薬投与、輸液が⾏われたのちICU⼊室•既往は⾼⾎圧症(130/80mmHg前後)、CKD(Cr1.2mg/dL)、脂質異常症•アムロジピン、エナラプリル、ロスバスタチン内服中

症例Ø搬送時バイタルサイン

Ø搬送時⾎液検査データ

BP78/50mmHg,HR102/min,RR42/min, JCSIII-300,SpO2 88%(O2リザーバーマスク15L/min投与)

pH7.160,pCO2 39.5mmHg,pO2 56mmHg,乳酸 10mmol/L

WBC16800/µL,Hb 14.9g/dl,Plt 11.1万/µL,PT-INR1.26,APTT41秒,Alb2.6g/dL,Na140mEq/L,K4.6mEq/L,Cl106mEq/L,BUN72mg/dL,Cr3.36mg/dL,BS110mg/dL,その他肝酵素やCK,LDHの上昇なし

nICU⼊室3時間後までに⾎⾏動態の最適化を⽬標に輸液負荷を繰り返し、昇圧薬を増量した

BP88/45(59)mmHg,HR112/min,RR35/min, GCSE3VTM6,SpO2 90% (FiO2 0.65),BT38.0℃,四肢末梢の冷感や浮腫なし

Intotal:2500mL (初療 1000mL,ICU1500mL)Outtotal:尿量 20mL/3時間⼈⼯呼吸設定:A/CVC,TV380mL,PEEP15mmHg,RR30/min

pH7.275,pCO2 54mmHg,pO2 62mmHg,HCO318.6mEq/L,乳酸 7.5mmol/LNa140mEq/L,K4.6mEq/L,Cl106mEq/L,Hb 14.9g/dl,BS100mg/dL

3時間後の投薬内容:CTRX,AZM,ヒドロコルチゾン,フェンタニル 20µg/hrNoradrenaline900µg/hr,重炭酸リンゲル液 20ml/hr

⼼エコー:LVDd/Ds40/30mm,EF60%,asynergy(-),弁膜症なしIVC径 15mm,IVC虚脱率 25%

CVP:12mmHg SCVO2:58%

FloTrac:CO3.9L/min,CI2.4L/min/cm2,SVR964dyne.sec/m5SVRI1588dyne.sec/m5.m2,SV35ml,SVV9%

胸部単純写真で両側肺⽔腫の進⾏

•この患者にどの程度の補液をしますか?

•何を指標として補液をしますか?

•その補液を⾏った結果をどう予想しますか?

なぜ輸液をするのか?

⾎圧=⼼拍出量×末梢⾎管抵抗

⼀回拍出量×⼼拍数

前負荷 後負荷によって規定

組織灌流に影響?

hypovolemia

IntensiveCareMed2014;40:613-615

Unstressedvolume:静脈圧が上昇するまで内腔を満たす⾎液量Stressedvolume:⾎管壁を伸展させ、静脈還流に寄与する⾎液量

Fluid responsiveness• Fluid responder=250ml-500mlの急速な輸液で⼼拍出量が10-15%上昇する

•⾎圧の上昇は⼼拍出量の増加を必ずしも反映しないためresponsivenessを判断できない

•健常者も多くの場合は潜在的にfluidresponderであり、responsiveness=補液が必要な状況 とは⾔えない

BJA2014;112:167-20.

IntensiveCareMed2012;38:422-28.

Crit CareMed2016;44:1920-22.

A

B

前負荷がA,Bどちらの状態でも末梢⾎管抵抗が⼀定であれば輸液によって⼼拍出量が増加するため⾎圧は上昇する

輸液で⾎圧が上がる?

•あくまでもFrank-Starlingの法則に従って ⼼拍出量が増加する

•元の前負荷が少なければ輸液によって⼼拍出量が増加しやすい

•輸液によって⼼拍出量が増加する≠前負荷、循環⾎液量が不⾜している

sepsisによる低⾎圧の原因は?

• Septicshockは⾎管平滑筋の収縮不全が主な病態

•静脈の容量の増加による還流の減少および動脈の拡張による後負荷の減少が起こる

•⾎⼩板や⽩⾎球、凝固の活性化で⾎管内⽪細胞の障害や結合の間隙が⽣じ、⾎管透過性が亢進

N Engl JMed2001;345:588–95

IntensiveCareMed2010;36:1286-98

N Engl JMed2013;369:840–51

sepsisによる低⾎圧の原因は?

• sepsis患者の23%が⼼収縮能不全を⽰す

• sepsis患者における拡張能不全の頻度は収縮能不全よりも⾼い(48.0%vs29.6%)

•拡張能不全は収縮能不全よりも死亡との関連が強い

IntensiveCareMed.2015;41:1004-13

sepsisで補液への反応はどう変わる?p⼼収縮能、拡張能が低下するとfluidresponsivenessは悪化する

p補液が⾎管内にとどまりにくくなる

BJA2014;112:620–22.

輸液の効果持続時間• Sepsis患者への補液(fluidbolus)から60分以降の⽣理的変化(⼼拍出量、⼼拍数、⾎圧)を検討した研究は極めて少なく、⻑期的な効果は不明

•出⾎による体液喪失と⽐べてsepsisは⽣理⾷塩⽔の補液による⾎漿容量増加の効果が低くなる

CriticalCare2014;18:696-716.

Shock 2013;40:59-64.

Durationofhemodynamiceffectsofcrystalloidsinpatientswithcirculatoryshockafterinitialresuscitation

Ann Intensive Care 2014, 4: 25.

【⽬的】晶質液投与による循環の変化の持続時間を検証する

【⽅法】ショック状態(昇圧薬使⽤ >6h)の患者に500mlの補液を⾏い、30,60,90分後の変化を測定

【結果】(各測定ポイントで前の測定値より有意な低下)

responder(30minの時点でCIが15%より上昇)non-responderに関係なく有意な低下が認められた

90分後の数値はベースラインと有意差なし

ここまでのまとめ

•補液によって変えられるのはあくまで⼼拍出量

•補液に伴う⾎圧の上昇は必ずしもhypovolemiaを意味しない

• Septicshockは補液に反応しにくい病態

•補液への反応があっても効果は短時間に終わる可能性がある

Survivingsepsiscampaign2012

Sepsisに伴う組織低灌流の是正を⽬標としている

この根拠となったのがEGDT

INTRODUCTIONEarly Goal Directed Therapy

Septic shock患者への補液, 昇圧剤Inotrope 使⽤

6時間以内に達成

2015/7/21慈恵ICU勉強会

NEngl JMed.2001Nov;345(19):-1368-1377

✔ 単施設RCT、263⼈✔ 従来の治療群vs.EGDT群✔ CVP,MAP,尿量,ScvO2orSvO2の4つを指標とした⽬標値を6時間以内に達成させる。(resuscitationbundle)

結果28⽇死亡率が46%から30%に減少

2014/7/1慈恵ICU勉強会

ProCESSProtocolized Care for Early Septic Shock (United States, U.S.)

ARISEAustralasian Resuscitation In Sepsis Evaluation (Australia and New Zealand, ANZ)

ProMISeProtocolised Management In Sepsis (United Kingdom, U.K)

2015/7/21慈恵ICU勉強会

Asystematicreviewandmeta-analysisofearlygoal-directedtherapyforsepticshock:theARISE,ProCESS andProMISe Investigators

IntensiveCareMed2015;41:1549-60

三つのRCTのメタ解析

EGDT群とcontrol群で死亡率に有意差なし

ICU在室⽇数にも有意差は認められず

有意な予後改善を認めたRiversの研究と⽐べると⼤幅な死亡率の低下、補液量の減少が認められる

モニターの有⽤性

• fluid responsivenessを予測するためのモニターが必要

•⼀般的に使⽤されるモニターとしてCVP,SCVO2,CV径,PiCCO,FloTracなどが挙げられる

CVP

• CVPは伝統的に循環⾎漿量の指標とされてきた

• CVPが低い =いわゆるhypovolemiaとみなされこれを根拠とした輸液が広く⾏われている

•組織灌流はMAP-CVPで規定されるためCVPを⾼く保つことは組織灌流の減少につながる

ActaAnaesthesiol Scand 2007;51:347-58

BMCAnesthesiol 2013;13:17

UtilityofCentralVenousPressureasaPredictorofFluidResponsiveness

AnnEmerg Med2016;68:114–16

【⽬的】CVPとfluidresponsivenessの関連の検討【⽅法】⼊院患者を対象としたベースラインのCVPと

fluidresponsivenessの関係を検討した51の⽂献の元データを再解析

【結果】AUC-ROCはCVPの値によらず低値であり予測因⼦としての有⽤性は低い

Systematicreviewincludingre-analysesof1148individualdatasetsofcentralvenouspressureasapredictoroffluidresponsiveness

Intensive Care Med 2016; 42: 324–32

【⽬的】CVPのfluidresponsivenessの予測能の検討【⽅法】22の研究、1148⼈のデータを元のCVPを3群

に分けて解析【結果】いずれの群においてもAUROCは低値であり

CVPによる予測は困難

SCVO2

• SVO2の代替として使⽤される

• SVCに留置されたカテーテルを介しての測定のため⼼、腎、肝など主要臓器の静脈⾎酸素飽和度を反映しない

• SVO2=SaO2 - VO2/(1.34×Hb×CO)

• SVO2の低下は右の第⼀項の減少、第⼆項の 増加で起こりうる

Hb↓CO↓酸素消費量↑SaO2↑

•⼀⽅でSCVO2>70%はsepsis2の診断基準の1つ

•組織の酸素利⽤障害によってSCVO2は⾼値を⽰す

N Engl JMed2013;369:840–51

SCVO2

MulticenterStudyofCentralVenousOxygenSaturation(ScvO2)1asaPredictorofMortality inPatientsWithSepsis

AnnEmerg Med2010;55:40–46.

【⽬的】ScvO2の異常値と死亡率の関連の検討【⽅法】4つの前向き研究の⼆次解析

死亡率をprimaryoutcomeとして初期および最⾼ScvO2

を100-90%,89-71%,<70%の3群に分け解析【結果】初期ScvO2はhyper群で死亡率と関連

最⾼ScvO2はhyper,hypo両群で死亡率との関連が認められた

SSC2012bundleの⼀部改訂in20156時間以内に達成すべき⽬標として

バイタルサイン、⼼肺、⽑細⾎管再充満、⼼拍、⽪膚所⾒に加え-CVP-SCVO2-⼼エコー-PLRもしくはfluidchallengeのいずれか2つでの循環⾎液量、末梢灌流の評価を⾏う

[

CV径

•エコーでのCV径の絶対値および変動の測定は循環⾎漿量の判断基準として広く⽤いられる

•測定が簡便で広く知られるために具体的な数値の基準なしにいわゆる「ハイポ」の診断に⽤いられがち

Doesinferiorvenacavarespiratory variabilitypredictfluidresponsivenessinspontaneouslybreathingpatients?

Crit Care2015;19:400-7

【⽬的】IVC径の呼吸性変動とfluidresponsivenessの関連の検討

【⽅法】2施設前向き研究⾃発呼吸のあるICU⼊室患者59⼈のベースライン、PLR、500mlのfluidchallenge後のIVC径、⼼拍出量を測定IVC径の呼吸性変動とresponsivenessの関連を解析

【結果】IVC径の呼吸性変動はresponsivenessの予測に有⽤とは⾔えないベースラインでIVC径の42%以上の呼吸性変動は特異度、陽性的中率が⾼い

Tensituationswhereinferiorvenacava ultrasoundmayfailtoaccuratelypredictfluidresponsiveness:aphysiologicallybasedpointofview

IntensiveCareMed2016;42:1164–67

IVC径の変動によるfluidresponsivenessの予測が偽陽性(FP)もしくは偽陰性(FN)となる10の状況を解説

FloTrac

•外部較正を必要とせず、動脈圧波形のソフトウェア解析のみで⼼拍出量等の数値を算出

•⾎管作動薬を使⽤していない⾃発呼吸下の患者の拍出量増加の予測能はTEEと同等

•昇圧薬を使⽤しているsepticshockを対象と した研究で⼼拍出量の指標に使われておらずresponsivenessの予測能は明らかではない

CriticalCare 2009;13:R195.

SVV andPPV• SVV:StrokeVolumeVariation

• PPV:PulsePressureVariation

⼀回拍出量の変化率(SVmax-SVmin)/SVmean で算出される動脈圧波形の解析 (pulsecontour)から計算

脈圧の変化率(PVmax-PVmin)/PVmean で算出される脈圧の変化なので通常のAラインからも計算可能

※SVVについてはPiCCO,FloTracなどで解析される

Decreaseinpulsepressureandstrokevolumevariationsaftermini-fluidchallengeaccuratelypredictsfluidresponsiveness

BJA 2015;115:449-56.

【⽬的】⼈⼯呼吸管理下にある重症患者のPPV,SVV,CCIによるfluidresponsiveness予測を⽐較検討する

【⽅法】100ml/1minの負荷の前後での数値の変化とそれに続く400ml/14minの負荷後の⼼拍出量の変化の関連を解析する※⼼拍出量は経肺熱希釈法で測定

【結果】SVV,PPVの変動はCCIの変動より良好にresponsivenessを予測する

乳酸値

•乳酸クリアランス(初回の測定からの低下の割合)<10%は予後不良

• SSC2012では乳酸値を組織の循環不全の指標としてのfluidresuscitation(30ml/kg)を推奨

•ただし推奨度はgrade2Cと低く、⼗分な根拠に 基づくとは⾔い難い

Crit CareMed2004,32:1637–42.

Intensive Care Med 2012;39:165-228.

• sepsisによってNa+K+-ATPaseの活性が上昇し組織での乳酸の産⽣を亢進させる(内因性、外因性カテコラミンのβ2受容体を介した反応)

•組織の低酸素、低灌流を必ずしも反映しない乳酸値を循環の指標としてresuscitationを⾏うことは無理がありそう

CriticalCare 2014;18:503.

PLR:PassiveLegRaise•仰臥位の患者の両下肢全体を45度挙上することで静脈還流を増加させる⼿技

•約150-300mlの補液の負荷と同等の効果が得られる

•補液量を増加させずにresponsivenessの評価ができる

•⾃発呼吸や⼼房細動の有無に関係なくresponsivenessを評価できる

IntensiveCareMed2016;42:1493–95.

•⼀⽅でnoradrenalineなどの⾎管作動薬や弾性ストッキングの使⽤によって下肢の⾎液量が 影響を受けるため、還流の増加が不⼗分となる可能性がある

•腹腔内圧が⾼い、腹部や下肢に疼痛があるなどの状況では実施が困難

CriticalCare2015;19:237.

PredictingFluidResponsivenessbyPassiveLegRaising:ASystematicReviewandMeta-Analysisof23ClinicalTrials

Crit CareMed2016;44:981-91.

【⽬的】PLRのfluidresponsivenessの診断能⼒の検討【⽅法】メタ解析

1)Fluidchallengeをresponderの判定基準として⽤いている2)実際にPLRが⾏われている3)陽性、偽陽性、陰性、偽陰性のデータが⽰されている23の⽂献をメタ解析SubgroupとしてPLR後の測定項⽬についても診断能⼒を解析

【結果】

Flowvariables感度 85%(95%CI,78–90)特異度92%(95%CI,87–94)

PPV感度 58%(95%CI,44–71)特異度 83%(95%CI,68–92)

p<0.001

感度 86%(95%CI,79–92)特異度 92%(95%CI,88–96)AUROC 0.95(95%CI,0.92–0.98)

Flowvariables

•⼀つのモニターの単⼀の絶対値とsepticshockにおけるresponsivenessを評価した研究はない

•モニターの数値からhypovolemiaを検出する研究は存在しない

• PLRかfluidchallengeとモニタリングの 組み合わせで拍出量の変化を評価する 必要がある

ここまでのまとめ

TargetedFluidMinimizationFollowingInitialResuscitationinSepticShock APilotStudy

CHEST 2015;148:1462-69.

【⽬的】Sepsis患者に対する補液量の適正化(TargetedFluidMinimization:TFM)が予後を改善するか検討(TFMの実現の可否の検討のためのpilotstudy)

【setting】単施設ランダム化⽐較試験【対象】初期の補液(>30ml/kg)から12時間以上が経過し

昇圧薬の投与が必要とされるsepticshock患者【⽅法】PLRの前後でPPV,SV,IVC径を測定し

responderと判定された場合のみに補液を⾏う群と通常通りの補液を⾏う群にランダムに割り付ける割り付けから3,5⽇後の補液量をprimaryoutcomeとする

【結果】両群に41名ずつが割り付けられたDay3,5の補液量に有意差なしSecondaryoutcomeにも有意差なし

Restrictingvolumesofresuscitation fluidinadultswithsepticshockafterinitialmanagement:theCLASSICrandomised,parallel-group,multicentre feasibilitytrial

IntensiveCareMed 2016;42:1695–1705.

【⽬的】Septicshock患者への初期治療終了後に補液を制限することの効果を検討する

【⽅法】多施設ランダム化⽐較試験>30ml/kgの初期補液が⾏われたsepticshock患者⾎清乳酸値>4mmol/L,noradrenaline投与によってもMAP>50mmHgを達成できない,膝蓋部に斑紋が出現,<0.1ml/kgの乏尿(割り付け後2時間以内のみ)を循環不全の指標として晶質液250-500mlのbolus投与を⾏う群(restriction)とSSCG2012に沿った臨床判断で補液を⾏う群(standard)にランダムで割り付けPrimaryoutcomeは割り付けから5⽇⽬までおよびICU滞在中の循環の安定のために投与された補液量

【結果】Resuscitationfluidは有意に減少総補液量は変わらない割り付け後90⽇のAKIの悪化はstandard群で多い

ここまでのまとめ• non-responderへの補液は循環に有利に働かない

•補液はresponsivenessを予測した上で⾏う必要がある

• PLR+PiCCOでの⼼拍出量測定(不整脈がなければSVV,PPVも)での予測が簡便で正確か?

• fluidresponderに対して補液を⾏う =⼼拍出量の適正化を⾏うことで予後が 改善することも証明されていない

輸液の害•重症患者における正の⽔分バランスの増加は肺外⽔分量の増加を来しARDSの原因とり得る

•溢⽔のみでなく⼼筋浮腫、⼼拡張能障害によっても⼼不全を来し得る

•過剰な補液によるCVPの上昇はAKIのリスク を上昇させる

•多量の補液はabdominalcompartmentsyndromeのリスクを上昇させる

AnnIntensiveCare2014;4:21-29.

IntensiveCareMed2013;39:1190–1206.

⽔分が⾎管内に留まりにくくなるため、⽔分の負荷によって肺外⽔分量が増加しやすくなる

Fluidresuscitationinsepticshock:Apositivefluidbalanceand elevatedcentralvenouspressureareassociatedwithincreasedmortality

Crit CareMed2011;39:259-65.

【⽬的】Septic shockのresuscitationの際の⽔分バランスおよびCVPと死亡率の関連の検討

【⽅法】VAASTstudyのデータの後ろ向き解析割り付けから12時間、4⽇の時点での⽔分バランスで4群に分けて、28⽇死亡率との関連を解析

【結果】Quartile4は1, 2と⽐べて有意に死亡リスクが⾼い割り付け12時間後のCVP>12mmHgも死亡リスクとなる

Apositivefluidbalanceisanindependentprognosticfactorinpatientswithsepsis

Crit Care 2015;19:251-57.

【⽬的】補液量がsepsisの独⽴した予後予測因⼦であるかを検討する

【⽅法】単施設観察研究Sepsisと診断されICUに⼊室した成⼈患者の⽔分バランスと死亡との関連を解析

【結果】⽣存者と⾮⽣存者の間で⽔分バランスに有意差が認められた (13±19ml/kgvs.29±22ml/kgp<0.001)

⽣存者の5⽇⽬以降の平均⽔分バランスはマイナス

AssociationBetweenaChloride-LiberalvsChloride-RestrictiveIntravenousFluidAdministrationStrategyandKidneyInjuryinCriticallyIllAdults

JAMA. 2012;308:1566-72.

【⽬的】Chlorideを制限する補液とAKIの発⽣の関連を検討【⽅法】単施設前向き研究

全ICU⼊室患者を対象に6か⽉間のcontrolperiodに通常通りの補液、その後6か⽉間のinterventionperiodにchlorideを制限した補液を⾏い、⾎清Crの上昇、RIFLE分類に基づいたAKIの発⽣率をprimaryoutcomeとして解析Secondaryoutcomeとして死亡率、RRT施⾏率を解析

【結果】⾎清Cr上昇は介⼊後に有意に低下Injury,failureのクラスのAKI発⽣も介⼊の後で有意に減少投与chloride量は⼀⼈当たり198mmol減少

14.8μmol/L(95%CI, 9.8-19.9μmol/L)vs22.6μmol/L(95%CI,17.5-27.7μmol/L)(P=.03;adjustedP=.007)

IncreaseinserumCrlevel

⾎圧のターゲット⾎圧≠組織循環だが、連続した測定が可能で 治療の指標とされることが多い

MAP≧ 65mmHg

2014/7/1慈恵ICU勉強会

HelsinkiUniversityHospital9床の混合ICUに1999年から2002年に1419患者が⼊室Sepsisと診断され⼊室から48時間vasopressor supportを要した111症例を後向きに解析

MAP60/65/70/75mmHgを閾値としたときのAreaunderMAPを算出30⽇死亡率との関連性:MAP<65mmHgが最もAUC-ROC⾼い0.853(95%CI0.772-0.934)

2014/7/1慈恵ICU勉強会

Ahighmeanarterialpressuretargetisassociatedwithimprovedmicrocirculationinsepticshockpatientswithprevioushypertension:aprospectiveopenlabelstudy

Crit Care2015;19:130-37.

【⽬的】⾼⾎圧症を既往に持つsepticshock患者の⾎圧を病前と同等に保つことで微⼩⾎流が改善するかを検討

【⽅法】単施設open-label研究⾼⾎圧症の既往があるICUに⼊室したsepticshock患者をターゲットMAPを65mmHgと病前の⽔準に合わせる群にランダムに割り付けSidestream DarkFieldimagingで⾆下微⼩⾎流を測定しMAPとの関連を解析

【結果】病前MAPをターゲットとした群で微⼩⾎流は有意な増加が認められたその他のoutcomeについては解析なし

HighversusLowBlood-PressureTargetinPatientswithSepticShock

NEngl JMed2014;370:1583-93.

【⽬的】SSCG2012で推奨される>65mmHgよりMAPのターゲットを⾼く保つことの影響を検討する

【⽅法】多施設ランダム化⽐較試験Septicshockと診断された患者をMAPターゲット80-85mmHg,65-70mmHgの群に割り付ける⾎圧の調節は⾎管作動薬で⾏う介⼊期間は最⻑で5⽇間28⽇死亡率をprimaryoutcomeとして解析

【結果】Primaryoutcomeの28⽇死亡率に有意差なしSecondaryoutcomeのRRT導⼊は⾼⾎圧症の既往のサブグループでは介⼊群で少ない

Day28:p=0.57Day90:p=0.74

InternationalStudyonMicrocirculatoryShockOccurrenceinAcutelyIllPatients

Crit CareMed2015;43:48-56.

【⽬的】微⼩⾎管の⾎流と重症患者の予後の関連の検討【⽅法】多施設観察研究

全ICU⼊室患者を対象に⾆下のSidestream DarkFieldimagingによる微⼩⾎管⾎流測定を⾏い院内死亡率との関連を解析する

【結果】微⼩⾎管⾎流の低下と院内死亡率に関連なしHR>90bpmのサブグループでは関連が認められた

Crit Care2015;19:101-7

Ø腎機能に焦点を当てると•⾼⾎圧症患者のTargetMAPを80-85mmHgとすることで腎代替療法導⼊率が減少する可能性がある• MAP75mmHg未満はAKIの発症リスクとなる

Ø⼀⽅で•ターゲットを65mmHgより⾼くしても死亡率に影響はない•上記のAKIおよび腎代替療法の導⼊も死亡との関連は認められていない

⾎圧を⾼く保つと• AKIの発症が減少する可能性が⽰されている

•死亡リスクの減少は⽰されていない

•末梢組織灌流は改善する可能性がある

•末梢組織灌流がアウトカムの改善に寄与するかは不明

輸液製剤の種類•リンゲルとの⽐較試験ではAKIだけでなく、死亡率が⽣理⾷塩⽔によって上昇する可能性が⽰されている

• 20%アルブミン製剤の使⽤は死亡やAKIの発⽣、ICU⼊室期間などには影響しないが、昇圧薬の使⽤期間や⽔分バランスを減少させる可能性が⽰されている

Crit CareMed2014;42:1585–91.

NEngl JMed2014;370:1412-21.

Nadの循環への作⽤üα1受容体を介して動静脈壁を収縮させる

ü動脈の収縮によって後負荷を増⼤させる

ü静脈の収縮によって静脈還流を増⼤させる

Ø前後負荷両⽅の増⼤効果が期待できる

NAD

Septicshockへのnoradrenalineの効果

• ICU⼊室から6時間以内のNad投与開始によって平均⾎圧、⼼係数、⼀回拍出量が増加する

• Nadを⽤いた昇圧によって組織への酸素供給、⽪膚の微⼩⾎流が改善する

• Nadの増量による有害事象の発⽣は極めてまれ

Crit Care Med 2009;37:1961-66.

Crit Care 2010;14:R142.

BJA 2016;116:339-49.

Earlyversusdelayedadministrationofnorepinephrineinpatientswithsepticshock

Crit Care 2014,18: 532-39.

【setting】単施設後ろ向きコホート研究【⽬的】septicshockと診断されてから28⽇⽬までの

死亡率をprimaryoutcomeとして、Nad投与が開始されるまでの時間との関連を検討

【結果】septicshockと診断されてからNad投与開始までの時間が2h>と2h≤の群では28⽇死亡率に有意な差が認められた (OR=1.86;1.04to3.34;P=0.035)

またNad投与までの時間が1時間遅れる毎に死亡率が5.3%上昇した

ここまでのまとめ•⼼拍出量の増加や平均⾎圧の⾼値が死亡率の改善につながることは⽰されていない

•明確な基準はないが、輸液量の増加が死亡や臓器障害と関連する可能性が⽰されている

•早期のNad投与は死亡率を低下させる可能性が⽰されている

まとめ•補液による⼼拍出量の増加は循環⾎液量の適正化を意味するものではない

• Sepsisは補液に反応しにくい病態であり、適応を慎重に判断する必要がある

• Fluidresponsivenessの判断の⽅法としてPLRは簡便、可逆的、正確などの利点がある

まとめ• Responderに対する補液が予後を改善するとした研究はない

•補液量の増加は予後を悪化させ得るため不必要な補液=non-responderへの補液を避けることには意義がある

• Noradrenalineの投与開始は躊躇せずに⾏うべき

私⾒

•今回参照した⽂献から補液をすべきと考える確固たる指標を⾒出すことはできなかった

• Non-responderに補液を⾏う必要はないためresponsivenessの判定は補液をしない判断の材料としたい

•現状では補液によって可能なのは「マイナスを作り出さない」ことであると感じた

私⾒•時々受ける「敗⾎症で⾎圧が低いのですが補液で粘ろうと思います」の連絡には、早⽬にICUでnoradrenalineを始めることを勧めたい

•補液の最適化や微⼩⾎流と予後の関係を検討した研究が待たれる

改めて症例提⽰• 70歳 男性 170cm 60kg•肺炎による急性呼吸不全、敗⾎症性ショック•気管挿管、抗菌薬投与、初期の補液、昇圧薬投与などの初期治療•⾼容量の昇圧薬に反応せず低⾎圧が遷延•輸液負荷にも反応なし•低酸素⾎症と肺⽔腫の進⾏•補液はtotal2500ml• 20ml/3時間の乏尿• FloTracで測定された⼼機能は良好

状態の評価とその後の介⼊

• 肺⽔腫が進⾏→肺外⽔分量を増やさないために補液は控えるべき

• 補液への反応の記載はないが、拍出量増加があったとしても⼀時的と推察される

• CI2.4L/min/㎡と⼼拍出量は保たれており、前負荷を増やす根拠はない

• 以降のresponsivenessの評価はPLRで⾏う(余分な補液を増やすfluidchallengeは⾏わない)

状態の評価とその後の介⼊• PiCCOなど外部較正を伴う⼼拍出量モニタリングの追加を考慮

• Noradrenalineが⾼⽤量だが、四肢末梢に冷感なく末梢⾎管の拡張が⽰唆される

•バソプレシンを追加投与し、末梢⾎管抵抗の増⼤による昇圧をはかる