141
Title 含硫黄配位子を用いた第10族元素と第11族元素を含む 複合錯体の構造及び金属原子間相互作用に関する研究( 本文 (FULLTEXT) ) Author(s) 所, 健児 Report No.(Doctoral Degree) 博士(工学) 甲第049号 Issue Date 1996-03-25 Type 博士論文 Version publisher URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/1770 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

含硫黄配位子を用いた第10族元素と第11族元素を含む …...第4章 第1 0族マレオニトリルジチオラート錯体と銀(りホスフィン錯体からなる

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • Title含硫黄配位子を用いた第10族元素と第11族元素を含む複合錯体の構造及び金属原子間相互作用に関する研究( 本文(FULLTEXT) )

    Author(s) 所, 健児

    Report No.(DoctoralDegree) 博士(工学) 甲第049号

    Issue Date 1996-03-25

    Type 博士論文

    Version publisher

    URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/1770

    ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

  • 含硫黄配位子を用いた第10族元素と

    第11族元素を含む複合錯体の構造および

    金属原子間相互作用に関する研究

    平成8年

    学位論文:博士(工学)甲47

    所 健児

  • 第1章 緒言

    1. 1 はじめに

    1. 2 積層型1次元金属錯体ポリマー

    1. 3 シス型白金oI)錯体

    1. 4 トランス型白金oI)錯体

    1. 5 ジチオカルバマート配位子

    1. 6 ジチオカルバマートを配位子とする遷移金属錯体

    1. 7 配位子としての遷移金属ジチオカルバマート錯体

    1. 8 本研究の目的と本論文の構成

    文献

    第2章 第1 0族元素ジチオカルバマート錯体と第1 1族元素イオンからなる

    複合錯体の合成と構造および金属原子間相互作用

    2. 1 序

    2. 2 反応

    2.2. 1 測定機器および一般的な操作法

    2. 2. 2 M(S2CNR2)2(M=Pt, Pd; R=Et,Prn, Pメ, Bun, C6Hll)と

    銀のイオンとの反応

    2. 2. 3 M(S2CNR2)2(M=Pt, Pd;R=Et, Prn, Pメ, Bun, C6Hll)と

    銅のイオンとの反応

    2.2.4 まとめ

    2. 3 複合錯体の合成

    2.3. 1 複合錯体の合成方針

    2. 3. 2 NaS2CNR2の合成

    1

    3

    5

    7

    14

    15

    20

    20

    23

    29

    31

    32

    35

    35

    35

  • 2. 3. 3 M(S2CNR2)2の合成

    2. 3. 4 【M3(S2CNR2)6Ag2】Ⅹ2の合成

    2. 3. 5 【M3(S2CNR2)6Cu2】Ⅹ2の合成

    2. 4 複合錯体, 【M3(S2CNR∂6M'2】Ⅹ2,の構造

    2.4. 1 測定機器および単結晶成長の方法

    2. 4. 2 複合錯体の構造的分類

    2. 4. 3 ポリマー構造をもつ複合錯体(1),(6)の比較

    2.4.4 ディスクリートな分子構造をもつ複合錯体の比較

    2.4.5 カウンターアニオンが複合錯体に及ばす影響,

    複合錯倒2), (4)の比較

    2. 5 E SCA

    2.5.1測定機器

    2.5.2 測定結果と考察

    2. 6 195Pt NMR

    2.6.1 測定機器

    2.6.2 測定結果と考察

    2. 7 まとめ

    2. 8 考察

    文献

    第3章 白金ジチオカルバマート錯体とハロゲン化銅(りからなる3次元ポリマー

    構造を有する複合錯体の合成と構造

    3. 1 序

    3二 2 【M(S2CNR2)2Cu2Ⅹ2】(Ⅹ=Br, Cl)の合成と単結晶成長

    3. 3 【M(S2CNR2)2Cu2Ⅹ2] (Ⅹ=Br, Cl)の構造

    3. 4 考察

    文献

    J'i

    36

    37

    38

    41

    41

    45

    48

    52

    55

    68

    68

    68

    72

    72

    72

    76

    76

    78

    80

    83

    85

    93

    98

  • 第4章 第1 0族マレオニトリルジチオラート錯体と銀(りホスフィン錯体からなる

    複合錯体の合成と構造

    4. 1 序

    4. 2 複合錯体の合成

    4. 2. 1即(mnt)2〈Ag(PPh3)2〉2】の合成

    4. 2. 1 【M(mnt)2‡Ag(PBun3)2)2】の合成

    4. 3 複合錯体の構造

    4.3. 1 測定機器および単結晶成長の方法

    4.3.2 複合錯体の構造

    4. 4 溶液中の挙動

    4.4.1 紫外可視吸収スペクトル

    4. 4. 2 31PNMRおよび195PtNMR

    4.4.3 サイクリック ボルタノグラム

    4. 5 考察

    文献

    第5章 総括

    研究業漬

    ijJ'

    99

    102

    102

    103

    104

    104

    104

    115

    115

    119

    120

    122

    124

    125

    130

  • 第1土

    巨∃

    緒言

  • 1.

    1 はじめに

    遷移金属原子が負の電荷または非共有電子対をもった有機物と化合物を形成するこ

    とが明らかになってから,一般に錯体と呼ばれる無機化合物と有機化合物の境界領域の

    研究が注目されてきた.その中心にある遷移金属原子イオンは配位子との組合せにより

    その性質を変化させ種々の化合物を与える創造体である.この様な性質は例えば生体科

    学の分野においては,生理活性を示す金属錯体や酸素運搬に関わるヘム鉄タンパクなど

    の研究を分子レベルで行い,その磯構を理解するのに大きな役割を果たしている.また

    材料科学の分野においても,電導性,磁性を示す化合物,ならびに光,熟,圧力など特

    定の条件で応答する化合物の研究に対して錯体の果たす役割は大きくなってくると期

    待される1).

    分子内に複数の金属イオンを含む錯体も多く知られてはいたが,その性質は単核錯体

    の性質から類推することができる範囲のものであった.しかしながら, Re-Re問に結合

    をもつ田e2Cl8]2・ 2, 3)が報告がされてから金属原子間結合に関する研究やこれらを利用

    した物性についての検討が行われてきた. 【Re2Cl8]2-はRe-Re間距離が2.24Åで金属

    レニウム中のRe-Re間距離【2.74Å】よりかなり短く,【Mo2Cl8]4・2),【W2Cl8]4・2)なども同

    様に架橋配位子をもたない複核錯体として知られている.これらの非常に強い金属原子

    間結合に対し,極端に弱い金属原子間結合も知られており,例えば

    【Pt〈(But2P(CH2)3PBut2〉】28),の白金原子間の結合などがそれである.白金原子はホスフ

    -1 -

  • イン配位子にキレート配位され六貞環を形成. 2つの六貞環の白金原子が結合して

    【2.765Å】1分子を形成している.白金原子はそれぞれ0価でdlO-dlOの閉殻同士の接近

    であるためo結合は不可能だと思われていたが, EHMO計算から空(s, p)-充填d型の

    o結合が主役をつとめていることが明らかとされた.このような閉殻原子同士で架橋の

    ない二量体の存在は実に驚くべき現象である.

    また二座配位子,特に酸素原子を含んだカルポキシラートによって架橋された複核錯

    体においても上記で述べた同様の事実がある.一般に【M2(02CR)。】で表される複核錯体

    は第6族元素から第9族元素を中心に合成され数々の興味ある性質を示している4).第

    6族元素からなる【M(02C(CH2)。CH3〉4】 (M=Cr, MoおよびW, n =0-10)は固相から液

    相になる間に液晶になる中間相が現れる.金属原子間結合の磁気的異方性のため,磁場

    による分子配列の制御に関する研究に役立つと期待されている5).ルテニウム複核錯

    体の場合は2つのルテニウムがⅡ価, ⅠⅠⅠ価の混合原子価状態が熱力学的に最も安定で,

    3つの不対電子が平行に並んだ常磁性を示す6).第1 1族元素の鋼を含んだ複核錯体,

    【Cu2(02CCH3)4(H20)2】,はCu-Cu間に直接結合があるかどうかは,はっきりしていな

    いが,この複核錯体の磁性が反強磁性的な振舞いを示すことからCu-Cu間に相互作用

    のあることを示している7).このように複核錯体においては遷移金属原子の違いにより

    それぞれ多種多様な性質を示すことが明らかとされてきた.そして結合次数が0である

    場合においても金属原子間相互作用による特異な性質が明らかとされてきている.

    d軌道に比較的多くの電子が充填されている原子によって,結合次数が0の状態でも

    - 2-

  • 金属原子間相互作用の働きにより新たな性質が生じることには期待がもたれる.一般的

    に金属原子間結合をもったクラスター錯体はは第一遷移系列遷移金属より第二,第三遷

    移系列遷移金属原子においてよくみられる傾向である.そのなかでも特に後周期遷移金

    属に注目し金属原子間相互作用について検討してゆく.

    1. 2 積層型1次元金属錯体ポリマー

    平面構造をもつ錯体は第二,第三遷移系列のd&電子配列をもつ元素によくみられ,

    第1 0族元素の白金oI)も例外ではない.そして平面構造をもつ錯体は1次元に重なっ

    た積層構造をとることが多い.代表的なものとして四シアン化白金塩,

    M[Pt(CN)4】・nH20 (M = Sr, Ba, Ca, Li2, K2, Cs2, Na2等),がありBa[Pt(CN)。】・4H20

    のようにPt原子がほぼ一直線上に並ぶ場合もあれば9), Cs2【Pt(CN)。】・H20のようにPt

    鎖がくり返し単位19.34Åのヘリックス構造をとる場合もある10) (固1. 1). pt-Pt

    距離もカチオン種のイオン半径や水和の程度によって3.09 A (SrPt(CN)4】・3H20 ) ll)

    から3.71 A (Na2Pt(CN)4】・3H20 ) 12)まで広範囲に分布している.そして最も興味深

    い点はハロゲンなどによって部分酸化されると一次元金属的な振舞いをすることであ

    る. Pt-Pt距離が- 3.0Å以下になると電気伝導性が急に増加する.その例を表1. 1に

    まとめた. Pt-Pt距離は金属白金中のPt-Pt距離【2.775 A]よりは長くなっているが,ほ

    ぼ同じ程度である.

    -

    3 -

  • I-.__一一

    ■Pti=

    .

    ∴・LIL:

    1

    I

    「 丈 r

    i:ノヰ・

  • また平面錐体の積層の間をハロゲン化物イオンが架橋したWolffram赤色塩,または

    Reiblen線色塩, 【Pt(NH2Et)4】Pt(NH2Et)4Ⅹ2]Ⅹ4・4H20 (Ⅹ= Cl, Br),が知られている

    26-28).図1. 2に示したように直線上の-PtII--Ⅹ-PtIV-Ⅹ-- PtII-鎖上で架梼ハ

    ロゲンは一方の白金原子に片寄り, ptGI)とPtGV)が交互に配列した混合原子価状態に

    なっている.常温,常圧下では絶縁体であるが圧力をかけるとpt-Ⅹ間距離が短くなっ

    てdz2バンドギャップが小さくなり,電気伝導性が出現する場合がある. X=Brの

    Reihlen線色塩においては10・3E2・1cm・1程度の電気伝導度が観測された29).このような

    一次元ポリマー構造はバイエルス変形することでバンドギャップを生じることが多い

    ので,二次元,三次元構造といったより次元性の高い化合物の合成が必要とされる.

    白金平面錯体が積層構造をとり興味ある物性を示すことが明らかにされたため,架橋

    配位子を使い白金原子間を架橋することで,より強い金属原子間相互作用をつくること

    を目的とした研究も行われてきている.

    1. 3 シス型白金(ⅠⅠ)錯体

    平面構造を有する白金錯体のなかでシスージクロロジアンミン白金oI)錯体, ds-

    【(NHS)2PtCl2】は非常に強力な抗鹿痘活性を示すことが知られている30).この錯体は体

    内でCl・がH20に置き換わったシスージアンミンジアクア白金oI)錯体に変換され求核

    攻撃を受けやすくなる. DNAを構成する塩基に中では主としてグアニンおよびアデニ

    ンのプリン塩基の窒素原子と結合する1・31).このような生体内に関する医学的な結果か

    - 5 -

  • ら,より化学的な立場にたって分子レベルでの解釈にも力が注がれた.

    化学の世界ではPtC12(CH3CN)2とAgNO3を反応させて`白金ブルー'と呼ばれるも

    のが合成された32).分子中のアセトニトリルが加水分解されてアセトアミドになり架

    橋した構造と推測されたが,その構造は明らかにされていなかった.また抗腫痘抗生物

    質であるシスージアンミンジアクア白金GI)錯体, ds-[(NHS)2Pt¢i20)2】2・,もアミド化

    合物のウラシル,チミンまたはa-ビリドン等と反応して`白金ブルー'を形成すると報

    告されている33・35)

    .HiJ;RcB..c)H

    ウラシル(R-H)

    チミン(R=CH。)

    α-ビリドン α-ピロリドン

    その中でcL-ビリドンをもちいた錯体, ds-『t2PH3)4(C5H。ON)2】2(NOB)5,でその構

    造が明らかにされた(図1. 3) 33). 2つの平面構造のシスージアンミン白金の錯体

    を2つのα-ビリドナートが架橋して複核錯体を形成し,さらに複核錯体間の相互作用

    のため白金原子が4つジグザグに並んだ分子構造を有している.カチオン部は全体で

    5+なので白金原子の形式酸化数は2.25となっている.またカチオン部が4+である錯

    体や,α-ピロリドンを架橋配位子とした錯体も合成されている(表1. 2).白金原子

    の形式酸化数の違いが白金原子間距離にかなり影響している.さらに架橋配位子をα_

    ビリドンまたはα-ピロリドンから比較的立体的障害が少ないアセトアミドに置き換え

    - 6 -

  • た 錯 体 は 白 金 原 子 が 8 つ ジ グ ザ グ に 並 ん だ

    【(NH3)2Pt(CH3CONH)2Pt即H3)2】4即03)10・4H20 36) (図1. 4)であり,金属原子間相

    互作用によってさらに幅広い錯体の合成の可能性を示したといえよう.このような金属

    原子間結合をもつ錯体においては,それが重要な因子となり物性に与える影響に期待が

    もたれる.

    表1.2 種々の白金4核錯体`白金ブルー'の比較

    化合物 色 白金原子の 複核錯体内の複核錯体間の

    形式酸化数 距離/Å 距離/A

    『t4即H3)8(C5E40N)4】(NOB)4 緑ぼっい黄 2.0

    『t4(NHS)8(C5Ⅱ40N)4](NOB)5・3H20青 2.25

    Pt4即E3)8(C4H60N)4】(NOB)6・ 3H20深赤 2.50

    2.88 3.13

    2.774 2.877

    2.702 2.709

    1. 4 トランス型白金(lり錯体

    シス型錯体とは異なりトランス型白金錯体は積層構造をとりにくい.それは置換基の

    立体障害による平面分子錯体間の反発を避けることが困難だからである.それでもシス

    壁,トランス型の平面錯体は構造的にその平面の上下から攻撃を受けやすいことは明ら

    かで,シス型の場合はその配位型のため平面錯体同士が近接した構造をとりやすいと考

    -7 -

  • ONO2∫

    o2Nd

    l

    (X〉

    ■垂

    図1・ 3 白金4核錯体, 【pt2(NH,).(C5H.ON)2]2(NO,)s.の構造 図1. 4 白金8核錯体,

    【(NH。)2Pt(CH。CONH)2Pt(NH3)2】.-0+,の構造

  • えられる.

    そこで,平面構造をもつトランス型白金GI)錯体の中心金属を酸化させ白金¢v)にす

    ることで求核攻撃を受けやすい金属中心をつくるか,もしくはアニオン性の錯体を合成

    し求電子攻撃を受けやすい金属中心をつくるかで,金属原子間相互作用をもった新たな

    錯体の合成に幅ができると思われる.

    1980年代後半から, Us6nらのグループはトランス型アニオン性白金¢Ⅰ)錯体,

    trans-【ptC12(C6Ⅹ5)2】2・(Ⅹ= F, Cl )と【Ag(PPh3)n]'(n =0, 1 )を反応させ異核金属錯体を

    合成してきた37・43).これらの錯体を図1. 5に示す. Xの違いやホスフィンの有無で

    PtC12(C6Ⅹ5)2】2・と【Ag(PPh3)n]'の反応比が異なり種々の構造をもつ錯体, Pt-Ag間結合

    があるものと,そうでないものを生成する. PtとAgがモル比2 : 2で反応した錯体

    『t2Ag2C14(C6Ⅹ5)4】2+37)(a), 2 : 1で反応し三角形を構成している『t2Ag(C6F5)6(Et20)】・

    38) 0), Pt, Ag, PPh3がほほ直線上に並んだPtAgC12(C6F5)2PPh3]'37) (c)など錯体の構

    造は多種におよんでいる.またC6F5基をC6C15基に置き換えた白金錯体ではPt・Ag間

    に結合はないが-CトAg-C卜Pt-C卜Ag-のようにジグザグに並んだ骨格をもつポ

    リマ-錯体, pt(C6C15)2(p-Cl)2Ag】∞∞+(d),が形成され,またこのポリマー錯体の懸濁

    溶液にホスフィンを加え撹拝するとポリマーの一部が切断されてホスフィンがAgに配

    位した錯体¢)ができる40)

    さらには,テトラヒドロチオフェンを含んだ白金錯体, 【pt(C6F5)3(SC4H8)]・,または

    白金ヒドリド錯体, tans-PtH(C6C15)伊Et3)2】,がAg+イオンと反応して同様な異核金

    -9

    -

  • F5

    C6、ゝ/ 76I4

    駈鞍/ C6F5F5 C6

    F4C(V/11c6F5

    F-Ag

    0 Et2

    PPh3

    仲)

    図1. 5 [PtCJ,(C6X5)2]2-(x-F,Cl)とAg(I)イオンからなる異核金属錯体

    -10-

  • (a)

    (e)

    C

    C

    ノー't・CI c]■′′

    ヽ.

    Cl

    _Ag√

    l、

    ,・-I

    Cl

    PPh 2Me

    A

    ICl

    g

    Cl

    7gPPh

    2Me

    図1. 5 [PtCJ2(C6X5)2]2-(x-F,Cl)とAg(l)イオンからなる異核金属錯体

    (つづき)

    -i!i!-

  • (a) 仲)

    c6F5\

    ′6F5C?1,c6F5/\

    c6F5 C6F5

    図1. 6 テトラハイドロチオフェンを含んだ白金(ll)錯体. [pt(sc.H8)(C6X5)3](X-F,C[).と銀(I)イオンからなる

    複合錯体. (a)【pt(sc。H8)(C。F5)2(C6Cl5)AgPPh3】~(b)【Pt2Ag(m-SC。H8)2(C。F5)。】-

  • (a)

    Cl5C6

    \相/

    PPh3

    \‥/ー\oーSO2CF3

    仲)

    Cl5C6\

    1

    ▲●

    PEt3

    P EtaC6Cl5

    図1 ・ 7 [(PEt3)2(C6Cl5)Pt(rA-H)Ag(OH2)]十(a)およぴ【(pEt3)2(C6Cl5)Pt(p-H)Ag(LA一日)Pt(C6Cl5)(PEt3)2】'(b)の構造

  • 属錯体を形成することが見出された(固1.6,図1.7) 44・46).これによりPt-Ag錯体

    の形成は白金錯体の配位型よりは置換基であるC6Ⅹ5基(Ⅹ=F, Cl)の存在によるところ

    が大きいと考えられる.

    いずれの錯体においてもpt-Ag間に結合があるかないかに関係なく, Pt-Ag間には

    架橋するものが存在している. trams-PtC12(C6Cl5)2】2・のCl・が共有結合性架橋配位子

    としてAg+イオンに配位している場合もあれば, Pt(C6F5)3(SC。H8)]・のC6F5のオルト

    位にあるF原子がAg十イオンにかなり接近してPt-Ag間結合を安定化させている場合も

    ある.

    I. 5 ジチオカルバマート配位子(-S2CNR2:Rはアルキル基)

    金属原子間に結合もしくは結合性相互作用をもつ錯体を形成するための出発物質で

    ある平面4配位型白金錯体について検討してきた.シス,トランスの配位型それぞれの

    特徴を利用して金属原子間相互作用をもつ錯体が形成されてきたと思われる.白金ブル

    一に関する化学では白金原子の形式酸化数が大きいほど白金原子間距離が短くなり,そ

    の相互作用が強くなることが観測された.またアニオン性白金錯体, trams-

    PtC12(C6F5)2】2・またはPt(SC4H8)(C6F5)3]・と銀Oイオンからなる種々の異核金属錯体

    では, Pt-Ag間相互作用はその相互作用の程度に関係なくハロゲン原子または硫黄原子

    が架橋した状態が必要だった.

    -14-

  • そこで,これらの結果をふまえて金属原子間相互作用を有する新たな錯体の合成に取

    り組むことを考える.

    ① これまでの白金錯体はアニオン性のものだった.電荷的に中性の

    錯体を用い金属原子間結合が静電的もしくは共有結合的な性質

    ものかどうかを検討する.

    (彰 高酸化数状態も比較的安定に存在できるように電子供与性の強

    い配位子を用いる.

    (参 金属原子間にはおそらく架橋する原子が必要と予想されるので,

    配位形式が変化に富んだ配位子を用いる.

    ②, ④の条件から硫黄原子を含む配位子が妥当であると判断し,高酸化数状態の金属

    イオンを安定に存在させることのできるのはジチオカルバマート, ・S2CNR2,が特に優

    れているのではと思われる.その例として【FeIV(S2CNR2)3]'47・48)や【NiIV(S2CNR2)3]'4丁・

    49)が挙げられる.そしてジチオカルバマート配位子は白金をはじめ第1 0族元素と平

    面4配位型錯体, M(S2CNR2)2(M=Pt,Pd, Ni; Rはアルキル基),を形成することか

    ら, ①を検討するための電荷的に中性な白金錯体の条件にもあてはまる.

    I. 6 ジチオカルバマートを配位子とする遷移金属錯体

    1.6.1平面構造を有するジチオカルバマート錯体

    -15-

  • ジチオカルバマート配位子, ~S2CNR2,は第4族から第1 2族元素と錯体を形成す

    ることができる.第1 0族元素(Ni,Pd,Pt),第1 1族元素(Cu,Ag,Au)および第1 2

    族元素(Zn,Cd,Hg)のⅠⅠ価イオンとは平面4配位錯体, M(S2CNR2)2,を形成する. M

    がNi51),Cu 52),Zn51),Cd 51),Hg53)の場合は結晶中で金属原子間相互作用を伴うことな

    く,中心金属イオンと他方の錯体の硫黄原子が接近し分子間相互作用のため2量体にな

    っている.これらの2量体ではアルキル基はエチル基がほとんどである.置換基の異な

    る銅ジチオカルバマート錯体, Cu(S2CNPri2)2,は結晶中において単独1分子で存在し

    ているがlong-range interactionと呼ばれる銅イオンと硫黄原子の相互作用によりJ =

    10.39cm・1の反強磁性的な振舞いを示す結果が報告されている54).またHg(S2CNEt2)2

    はHg2(CIO4)2・2H20と塩化メチレン中で反応しPg5(S2CNEt2)8](Clod)2の組成をもつ

    ポリマー錯体を形成することが明らかにされている55)

    平面構造を有するジチオカルバマート錯体はその中心金属原子が配位不飽和である

    のため,より変化に富んだ錯体の形成に期待がもたれる.

    1.6.2 銀ジチオカルバマート錯体

    銀OI)ジチオカルバマート錯体はAg(S2CNP少2)2のベンゼン溶液のE S Rスペクトル

    でその存在が確認されたのみで56),非常に不安定な化合物であるため構造解析はなさ

    れていない.対照的に銀(Ⅰ)イオンとジチオカルバマートは種々の錯体を生成する.

    -16-

  • 一般にAを金属原子, Ⅹを配位子とした場合にAXの組成をもつ化合物は非常に簡

    単で規則正しく配列した構造を有している.塩化ナトリウム,閃亜鉛鉱,ウルツ鉱,ヒ

    化ニッケルがその例である.しかしⅩがイオンでなく大きな分子の場合には,その分

    子のもつ対称性や配位によって生じる空間的な制約のためより複雑な構造を有してい

    る.これらの化合物の大部分は3つのタイプに分類される.

    (丑 2次元的なA-Ⅹネットワーク構造

    ② 鎖状ポリマー構造

    ③ (AX)。の組成をもつオリゴマ-

    Ⅹを第1 6族元素を含む配位子のジチオカルバマートに, AをⅠ価の金属イオンにし

    た場合の結果は③が大部分で,その中で(AX)2, (AX)4, (AX)6の組成をもつオリゴマ-

    錯体の構造が明らかにされた.それぞれ【AuS2CNEt2】257), 【CuS2CNR2】4 (R=Et58), Pメ

    59)),【AgS2CNR2】6 (R=Et57・60), Pメ61))が挙げられる. (A勾6の組成をもつ[AgS2CNR2】6

    は置換基R_がP一基のときは6つの銀(Ⅰ)イオンが人面体の頂点に位置し,ジチオカルバ

    マート配位子がそれぞれの銀(Ⅰ)イオンに単座で配位している構造である.ところが置換

    基RがEt基のときには配位子の立体障害が小さくなったためか複雑な構造がみられた

    (図1. 8). 6つの銀のイオンは二重にねじれた鎖状構造をしており,ジチオカルバ

    マート配位子は3種類の異なった様式でそれぞれの銀(Ⅰ)イオンに配位している.配位子

    (1)の硫黄原子はそれぞれ1つずつの銀イオンに配位している.配位子¢)の1つの硫黄

    原子はヘキサマ一緒体中の2つの銀(Ⅰ)イオンを架梼し,もう一つの硫黄原子は隣接した

    ヘキサマ-錯体の銀0イオンを架橋している.配位子(3)はヘキサマ-錯体中の銀のイ

    -17-

  • 図1・ 8 オリゴマー錯体. [AgS,CNEt2k.の構造

    -18-

  • オンを架橋している.ジチオカルバマート配位子がこのようなそれぞれ異なった配位形

    式を持ち合わせ,ヘキサマ-錯体中のすべての銀(Ⅰ)イオンが5配位構造を有しているこ

    とで,銀のイオンの鎖状ヘキサマ-錯体が形成されたと考えられる. Ag-Ag距柾は

    2.841(1)-2.974(1)Åであり,金属の銀そのものにおけるAg-Ag距離[2.889 Å]と同じ

    程度の距離にある.最近ではAgllS(S2CNEt2)9といった錯休も合成された62).この錯

    体におけるAg-Ag距離は2.922(4)-3.126(3) Åの範囲にあり特にAg-Ag間相互作用は強

    くないが,ジチオカルバマート配位子の多様な配位形式により複雑な構造を有する錯体

    が形成された.

    1.6.3 銅ジチオカルバマート錯体

    1. 6. 1でも述べたように銅0イオンはジチオカルバマート配位子と反応して銅のイ

    オンが四面体の頂点に位置するようなテトラマ一緒体, 【CuS2CNEt2】4,を形成する58)

    また平面構造を有する銅GI)ジチオカルバマート錯体, Cu(S2CNR2)2,と他の金属イ

    オン( Fe(CIO4)3・6H20】 Cu(C104)2・6H20等)とを混合させるとCu(S2CNR2)2の鋼(II)

    イオンは酸化され【CuIII(S2CNR2)2】C10。になる63).さらには第1 2族元素のハロゲン

    化物イオンである【MBr3】・ (M=Zn, Cd,Hg)と反応させると生成物は

    Cu3(S2CNBun2)6(MBr3)2になる.この鑓体は平面構造のCuII(S2CNBun2)2が上下から同

    様な平面構造を有するカチオン種, 【cuIII(S2CNBun2)2】+,2つに挟まれた3量体の状態

    である. 3層構造になった錯体の真ん中の層であるCuII(S2CNBun2)2の鋼OI)イオンは

    -19-

  • 6つの硫黄原子と結合し歪んだ八面体構造をとっている. 2つの【CuIII(S2CNBun2)2】+

    の鋼qII)イオンは5つの硫黄原子と結合した形になっている.金属原子間相互作用はな

    く銅(ⅠⅠ)と2つの銅(ⅠⅠⅠ)が共存する混合原子価錯体である47・64)

    1. 7 配位子としての遷移金属ジチオカルバマート錯体

    ジチオカルバマート錯体, 【MIII(S2CNR2)3】(M=Cr, CoおよびRb;Rはアルキル基),

    はそれ自身が配位子としてはたらき,ハロゲン化銅の, CuX(Ⅹ=Br,Cl),と錯体を

    形成する65・69).これは硫黄原子の配位能力が高く,それが飽和していないために起こ

    ると考えられる. 【MIII(S2CNR2)3]は中心金属イオンに3つのジチオカルバマートがキ

    レート配位しており1つの・S2CNR2は2つの・S2CNR2と近接しており,これらの配位

    子間においてS-Sの配位座が生じる.この配位座が1分子あたり3つあるので

    【MIII(S2CNR2)3]とCuXはモル比1 : 1, 1 : 2および1 : 3のそれぞれの割合で反応

    することが可能であり,多種多様な錯体を形成する.

    1. 8 本研究の目的と本論文の構成

    1.8.1本研究の目的

    平面構造を有する後周期遷移金属錯体は分子間の相互作用により層状に積み重なっ

    -20-

  • た錯体を形成し興味ある物性を示す.またその中心金属イオンは配位不飽和であるため

    遷移金属イオンと反応し変化に富んだ錯体を形成する.そして後周期遷移金属は硫黄原

    子を含む配位子と錯体を形成することで,その錯体自身が配位子の役割を果たし新たな

    化合物を生成し,また硫黄原子の高い配位能力のため多種多様の錯体分子の形成が可能

    である.

    したがって本研究では,含硫黄配位子からなる平面4配位構造の白金錯体から積層構

    造をもつ錯体が形成されるかどうか,または他の金属イオンと反応し新たな結合様式を

    もった錯体が形成されるかどうかに注目した.さらには平面4配位構造の白金錯体が配

    位子としてはたらき,その白金錯体がもたらす新たな分子配列の可能性にも注目した.

    1.8.2 本論文の構成

    2章では,白金ならびにパラジウムジチオカルバマート錯体, M(S2CNR2)2(M=Pt,

    Pd),と銀(Ⅰ)イオンまたは銅(Ⅰ)イオンを反応させて生成した複合錯体について,その構

    造と金属原子間相互作用について検討する.

    3章では,白金ジチオカルバマート錯体とハロゲン化銅(Ⅰ)から構成される3次元ポリ

    マー錯体について述べる.

    4章では,マレオニトリルジチオラート配位子(mnt2・)からなる錯体, 【M(mnt)2】2・(M

    =Pt,PdおよびNi),と銀(Ⅰ)ホスフィン錯体からなる複合錯体の構造について述べる.

    -21-

  • 5章は全体をまとめる結語とする.

    -22-

  • 文献

    (1) 基礎錯体工学研究会編, `錯体化学一基礎と最新の話題' ,

    大塚斉之助,山崎博史 編, `金属クラスターの化学' .

    (2) F. A. Cotton, Chem. Soc. Rev., 1975, 4, 27; 1983, 12,35.

    (3) F. A. Cotton,Acc・ Chem・ Res・, 1978, ll, 225.

    (4) F・ A・ Cotton, 良. A. Walton,`

    Multiple Bonds between Metal Atoms`

    (5) D. V. Baxter, R. H. Cayton, M. H. Chisholm, J. C. Huffman, E. F. Putilina, S. L.

    Tagg, J・ L. Wesemann, J. W. Zwanzlger andF. D. Darrington, J・ Am・ Chem・ Sac.,

    1994, 116,4551.

    (6) M. J. Bennett, K. G. Caultonand F. A. Cotton, Inrog. Chem., 1969, 8, 1; M. C. Barral,

    R・ Jim6nezIAparlCIO, E. C. Royer, C. Ru友一Valeo, M. J. Saucedo and F. A. Urbanos,

    Inorg・ Chem., 1994, 33, 2692.

    (7) L・ P・ Battagliaetal.,J・ Chem. Soc., Dalton Trams., 1986, 1653; R. D. Harcourt etal.,J・

    Am. Chem. Soc., 1986, 108,5403.

    (8) T・ Yoshida, T. Yamagata, T. H. Tulip, J. A. Ibers and S. Otsuka, J. Am. Chem・ Soc.,

    1978, 100, 2063; A. Dedieu and R. Hoffmann, ibid., 1978, 100, 2074.

    (9) R. L. Maffly, P. L. Johnson and J. M. Williams,Acta Cryst., Sect. B, 1977, 33, 884.

    (10) P. L. Johnson, T. R. Koch and J. M. Winiams, ibid., 1977, 33, 1293.

    (ll) K・ Krogmann and D. Stephan, Z. Anorg. Chem., 1968, 362,290.

    (12) P. L. Johnson, T. R. Koch and J. M. Williams,Acta Cryst. Sect. B, 1977, 33, 1976.

    (13) J・ S・ Miller and A. Epstein, Prog・ Inorg. Chem., 1976, 20,46.

    (14) J・ M・ Williams, M・ Iwata, S・ W・ Peterson, K・ A・Leslie and H. J. Guggenheim,Phys・ Rev・

    Lett., 1975, 34, 1653.

    (15) J・ M・ W山iams,P・ L・Johnson.A. J.Schultz and C. Coffey,Inorg. Chem., 1978, 17,834.

    (16) R・ K. Brownand J. M. Wi山ams,Inorg. Chem., 1979, 18, 1922.

    (17) A. E. Underhill, D. M. Watkins, D. J. Wood,J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1976, 805.

    (18) R. K. Brownand J. M. W山iams,Inorg. Chem., 1978, 17,2607.

    (19) D. J. Wood, A. E. Underhill and J. M. Williams, SolidState Commun., 1979, 31,219.

    (20) K・ D. Keefer, D. M. Washecheck,N. P.Enright and J. M. Williams,J.Am. Chem. Soc.,

    1976, 98, 233 ; A. H. Reis, S. W. Peterson, D. M. Washecheck and J. S. Miner, ibid.,

    1976, 98, 234.

    (21) A. J. Epsteinand J. S. Miller, SolidStateCommun., 1979, 29,345 ;K. Carneiro, C.S.

    Jacobson and Miller, ibid., 1979, 31, 837.

    (22) A・ J・Schuitz, C・ C・ Coffey, G. C.Leeand J・ M. Wiuams,Inorg. Chem., 1977, 16,2129.

    (23) D・ J・ Wood, A. E. Underhill, A. J. Schultz and J. M. Winiams, SolidState Commun.,

    1979, 30,501.

    -23-

  • (24) A. J. Shuitz, D. P. Gerrity and J.M. Wiuiams,Acta Crystallogr・ Sect・ B, 1978, 34, 1673.

    (25) G・ D・ Stucky, C・ Putnik,J. Kelber, M. J・ Schaffman, M. B. Salamon, G・ Pasquai,A・ J・

    Schultz, J. M. Williams, T. F. Cornish, D. M. Washecheck and P. L. Johnson, Ann. N. Y

    Acad. Sci., 1978, 313,525.

    (26) B. M. Craven and D. Hall,Acta Cryst., 1961, 14,475.

    (27) H. Reihlen and E. Flohr, Ber. DEsch. Chem. Ges., 1934, 67, 2010.

    (28) K・ L・ Brownand D. Hall,Acta ClγSt.,Sect. B, 1976, 32,2799.

    (29) L・ V・ Interrante, K・ W.Browal1 and F. P. Bundy, Inorg・ Chem., 1974, 13, 1158.

    (30) B・ Rosenberg, L. Van Camp, J.E. Trosko andV. H. Mansour,Nature (London) 1969,

    222,385.

    (31)岩波書店,理化学辞典 第4版

    (32) K・ A・ Hofmann and G. Bugge,Ber., 1908, 41,312.

    (33) J・ K・ Barton, H・ N・ Robinowitz, D. J. Szalda and S. J. Lippart,J. Am. Chem. Soc.,

    1977, 99, 2827.

    (34) L・ S・ Hollis and S. J. Lippart,I. Am. Chem. Soc., 1981, 103, 1230.

    (35) K. Matsumoto and K. Fuwa,J. Am. Chem. Soc., 1982, 104,897.

    (36) K・ Matsumoto, K. Sakai, K. Nishio, Y.Toshisue, R. Ito. T. Nishide and Y. Shichi,J. Am.

    Chem. Sac., 1992, 114, 8110.

    (37) R・ Us6n,J・ Fornies, B・ Menjon, F・ A・ Cotton, L. R. Falvello and M. Tom孟s,Inorg.

    Chem., 1985, 24, 465l.

    (38) R・ Us6n,J・ Fornies, M. Tom孟sand J. M. Cぉas,J.Am. Chem. Sac., 1985, 107, 2556.

    (39) RI Us6n, J・ Fornies, M. Tom孟s and J. M. Casas, Polyhedron, 1986, 5, 901.

    (40) R・ Us6n, J・ Fornies, M・ Tomas, JI M・ Chsas, F. A. Cotton and L. R. Falvello, Inorg.

    Chem., 1986, 25,4519.

    (41) F・ A・ Cotton, L・ R・ Falvello, R・ Us6n, J・ Fornies, M. Tom孟s,J. M. Casasand I.血a,Inorg.

    Chem., 1987, 26, 1366.

    (42) R・ Us6n, J・ Fornies, M・ Tom孟s, I. Ara andJ. M. C誠aS,Inorg. Chem., 1989, 28,2388.

    (43) J・ Fornies, R・ Navarro, M・ Tom孟s and E. P. Urriolabeitia, OrganomeEallics, 1993, 12,

    940.

    (44) R・ Us6n,J・ Fornies,M・ Tom丘s, I.血a,J. M.払sasand A. Martin,J. Chem.Sac., Dalton

    Trans., 1991, 2253.

    (45) R・ Us6n,J・ Fornies, L・ R・Falvello, M・ Tom孟s, J・M・ Gsasand A. Martin, Inorg. Chem.,

    1993, 32, 5212.

    (46) A・Albinati, S・ Chaloupka, F・ Demartin, T・ F・ Koetzle, H. R也egger, L. M. Venanzi andM・ K・ Wolfer,J・ Am・ Chem. Soc., 1993, 115, 169.

    (47) J・ Wiuemse, J・ A・ Gas, J・ J・ Steggerda and C. P. Keijzers,`

    STRUCrUREAND

    BONDING 28.

    (48) E・ A・ Paske and D・ K・ Straub,Inorg. Chem., 1972, ll,259; R. L. Chant,A. R.

    -24-

  • Hendrickson, R. L. Martin and N. M. Rohde, Inorg・ Chem., 1975, 14, 1894.

    (49) R. M. Golding, C・ M・ Harris, K・ J・ Jessopand W・ C・Tennant,Aust・ J・ Chem・, 1972,25,

    2567; H. C. Brinkhoff, J.A. Cras, J. J. Steggerda and J. Willemse, Rec・ Trav・ Chbn ・

    1969, 8S, 633; J. P. FacklerJr.,A. Avdeefand R. G. Fischer Jr.,J.Am. Chem. Socり1973,

    少5,774.

    (50) L. Cambi and A. Cagnasso,AtEiAcad・ Lincei , 1931, 14,71

    (51) F. A. Cotton and G. Wilkinson,Advanced Inorganic Chemistry 5th edition,John Wley

    & Sons, New York.

    (52) M・ Bonamico, G・ Dessy,A. Mugnoli,A. Vaciago and L. Zambonelli,Acta Cryst., 1965,

    1少,886.

    (53) A・ M. Bond, A. F. Hollenkamp, R. Coltonand K. McGregor, Inorg・ Chim・ Acta, 1990,

    16S,233.

    (54) W・ E・ Hatfield, P. Singh and F. Nepveu,Inorg・ Chem., 1990, 29,4214.

    (55) A・ M・ Bond, R・ Colton, A. F. 1lo11enkamp, B. F. Hoskins and K. McGregor, J・ Am・

    Chem. Soc., 1987, 109, 1969.

    (56) T. Vanngard and S. Akerstr6m,Nature, 1959, 183.

    (57) R・ Hesse,Advances in the Chemis叫ofCoordination Compounds, New York, 1961,

    314.

    (58) R. Hesse,ArkivKemi, 1963, 20,481.

    (59) R. Hesseand U. Aava,AcEa Chem. Scand., 1970, 24, 1355.

    (60) lLAnacker-Eickhoff, R. Hesse, P. Jennische and A. Wahlberg, Acta Chem. Scand. Ser.

    A 1982, 36, 251; H. Yamaguchi, A.Kido, T. Uechi and K. Yasukouchi, Bull. Chem. Soc.

    Jpn., 1976, 49, 1271.

    (61) R. Hesse and L. Nilsdn,Acta Chem. Scand., 1969, 23, 825.

    (62) Z・ Hong, X・Lei, M. Hong and H. Liu,Inorg. Chem., 1992, 31,2990.

    (63) R・ M・ Golding, A・ D. Rae, B. J. Ralph and L. Sulligoi, Lnorg. Chem., 1974, 13, 2499.

    (64) J.A. Gas, J.Winemse, a. W. Gal, B. G. M. C. Hummelink-Peters,Rec. Trav. Chin., 1973,

    92,641.

    (65) L・ M・ Engelhardt, P. C. Healy,R. I. Papasergio and A.H. White,IIZOrg. Chem., 1985,

    ヱ4,382.

    (66) L・ M・ Engelhardt, P・ C・Healy, R.M. Shephard, B. W. Skeltonand A. H. W拍e,Inorg.

    Chem., 1988, 27, 2371.

    (67) L・ M・ Engelhardt, P. C. llealy, B. W. Skelton and A. H. White,Aust. J. Chem.,1988,

    41,839.

    (68) P・ C・ Healy, B. W. Skelton and A. H. W山te,J. Chem. Soc., 1989, 971.

    (69) L・ M・ Engelhardt, P. C. Healy, B. W.SkeltonandA. H. White,Aust. J. Chem.,1989, 42,

    885.

    -25-

  • 第2章

    第1 0族元素ジチオカルバマート錯体と第1 1族元素イオン

    からなる複合錯体の合成と構造および金属原子間相互作用

  • 2. 1 序

    トランス型アニオン性白金(II)錯体, trans-[ptCl2(C6Ⅹ5)2】2・(Ⅹ=F, Cl),と銀(Ⅰ)イオ

    ンを反応させてPt-Ag間に結合を有する錯体,もしくは塩化物イオンによって架橋され

    てはいるがPt-Ag間に解合性相互作用のある種々の異核金属複合錯体が合成されてき

    た1・4).そしてこれらの異核金属複合鈷体の形成が反応物であるtrans-PtCl2(C6F5)2】2・

    の配位型に依存しているかどうかが焦点となった.しかし『t(C6F5)3(SC。H8)】・または

    キレート配位子としてアセチルアセトナートを含んだ錯体, 【M(C6F5)2〈C(CH3CO)2〉】・

    (M=Pt, Pd),等の白金OI)錯体と銀Oイオンとの反応5・6)による生成物もまたPt-Ag

    間に結合のある異核金属錯体を形成した.これらの錯体の構造から,白金GI)錯体の配

    位子であるC6F5・の影響が最も大きく,この配位子の白金原子と結合している炭素原子

    からオルト位にあるフッ素原子が銀(Ⅰ)イオンにかなり接近しており,これらの異核金属

    錯体のPt・Ag間結合を安定化させていることが明らかとされた.さらにはヒドリド配位

    子がPt・Ag, Pt-Au間を架膚した錯体, 【(PEt3)2(C6Cl5)Pt(p-H)Ag(LA・H)Pt(C6C15)(PEt3)2】+

    7), 【(PEt3)2(C6Cl5)Pt(p・H)M(PPh3)】+8)(M= Ag, Au)などの錯体も合成された.いずれ

    の場合において平面4配位型白金GI)錯体と銀0イオンからなる異核金属錯体のPt-Ag

    間には架橋する原子,もしくはそれに近い何か支えになるものの存在が必要とされるこ

    とが明らかとなった.

    銀0イオンや銅のイオンは硫黄原子または硫黄原子を含んだ配位子と多種多様な錯

    -26-

  • 体を形成することが知られている9).そのなかでもジチオカルバマート配位子とは硫黄

    原子の複雑な配位形式により払gS2CNR2】6 10)または【CuS2CNR2】4 ll)といったオリゴ

    マ-を形成する.

    以上の結果をまとめると,平面4配位型白金GI)錯体と銀0イオンは異核金属錯体を

    形成しやすく,銀O)イオンまたは銅O)イオンは含硫黄配位子と種々の錯体を形成する

    ことになる・そこで本研究においては,第1 0族ジチオカルバマート錯体, M(S2CNR2)2

    (M=Pt,Pd;Rはアルキル基),と銀のイオンまたは銅のイオンを反応させ金属原子間

    相互作用をもつ複合錯体の形成に取り組んだ.

    127-

  • 2. 2 反応

    2.2.1測定機器およぴ一般的な操作法

    紫外可視吸収スペクトルは日立150・20 Spectropbotometerおよび日立150-20Data

    processorを用い測定した.

    塩化メチレンとトルエンは水素化カルシウムから蒸留したものを用いた. AgBF4 (≡

    津和化学)は市販品を真空乾燥した後便用した. 【Cu(CH3CN)。】@F4) 12)は文献に基づ

    き合成した. M(S2CNR2)2(M=Pt, Pd)については2. 3. 3の合成法を参照.

    ジアルキルジチオカルバマート錯体, M(S2CNR2)2(M=Pt,Pd),と銀(Ⅰ)イオン,も

    しくは銅(Ⅰ)イオンとの反応は以下の4種の組合せを与える.

    ① 【Pt(S2CNR2)2】+ Ag+ -

    ② 【Pd(S2CNR2)2】+ Ag+-

    ③ 【Pt(S2CNR2)2】+ Cu+-

    ④ 【Pd(S2CNR2)2】+ Cu+ -

    いずれの場合においてもフラスコ付きuvセルにM(S2CNR2)2の希薄な溶液を満たし,

    銀のイオンまたは鋼のイオンを含んだ濃厚な溶液をマイクロシリンジを用いて少量ず

    つ連続的に加えていき,その紫外可視吸収スペクトルの吸光度の変化を追跡した.

    -28-

  • 2・2・2 【M(S2CNR2)2】(M=Pt,Pd; R=Et,Prn,Pri,Bun,C。Hll)と

    銀(りイオンとの反応

    M(S2CNR2)2(M=Pt, Pd;Rはアルキル基)の塩化メチレン溶液とAgBF4のトルエ

    ン溶液を用意する. M(S2CNR2)2は比較的少量の塩化メチレンに可溶であるが,測定中

    の溶液の体積変化率を少なくするため100-120mL程度の塩化メチレンに溶解するの

    が望ましい. AgBF。は吸湿性があるため,あらかじめ乾燥させておいたフラスコに入

    れ真空乾燥させた後のものを使用する.アルゴン下においてAgBF。のトルエン溶液を

    つくり,それをバイアルびんに移しセプタムラバーをその口にかぶせ機密性を保持する.

    ①の反応においては, Pt(S2CNPri2)2 (4.54 Ⅹ10・6mol)を含んだ希薄な塩化メチレン

    溶液約100mLに,濃厚なAgBF4のトルエン溶液(2.21Ⅹ10・2mol/L)を70pLず

    つ加えていった際の紫外可視吸収スペクトルの変化ならびに320,352, 400 nmのそ

    れぞれの波長における吸光度の変化を銀O)イオンとpt(S2CNPオ2)2のモル比に対してプ

    ロットした.その結果をグラフを図2. 1にまとめた.

    図2. 1(b)のグラフから反応は2段階で進行していることが明らかとなり, 1段階

    目の反応はPtとAgの混合モル比が3 : 2, 2段階目では1 :2の割合のところで完結

    していることが読みとれる.またその変化の鋭さは溶液中において解離反応が起こって

    いないことを示している.

    図2 ・ 1(a)からモル比3 : 2で会合した複合錯体, 『t3(S2CNP少2)6Ag2】2・,の形成

    が完結するまでには340, 378nmに,モル比1 : 2で会合した複合錯体,

    -29-

  • 4)

    O

    上II_

    0め

    ェl

    <

    2/3 1.0 2.0

    Ag/Pt Mole Ratio

    図2. 1 (a) Pt(S2CNPri2)2の塩化メチレン溶液(4・54x lO16 moI/100mI)LこAgBF.

    のトルエン溶液( 2.21 x lO12mo(/L)を70 pLずつ連続的に加えていっ

    た際の紫外可視吸収スペクトルの変化(b)各波長の吸光度の変化を

    Ag'とPt(S2CNPr'2)2のモル比に対しプッロトしたグラフ・

    -30-

  • Pt(S2CNPrI2)2Ag2】2+,の場合は317, 365 nmにそれぞれ等吸収点が観測された.他の

    アルキル基をもつPt(S2CNR2)2と銀のイオンとの反応においても同様の結果が得られ

    た.

    ②のPd(S2CNR2)2と銀0イオンの反応においてもPd(S2CNR2)2と銀のイオンがモル

    比3 : 2, 1 : 2で会合した複合錯体の形成を紫外可視吸収スペクトルより確認した.

    また①と②の反応はクロロホルムや1,2-ジクロロエタンのようなハロゲン化有機溶

    媒中においても,塩化メチレン中と同様な反応が進行することを確認した.

    2・2.3 M(S,CNR2),(M=Pt,Pd; R=Et,Prn,Pri,Bun,C6H..) i

    銅(りイオンとの反応

    M(S2CNR2)2 (M=Pt, Pd; R はアルキル基)の塩化メチレン溶液と

    【Cu(CH3CN)4】(BF4)の塩化メチレン溶液を用意する. M(S2CNR2)2は比較的少量の塩化

    メチレンに可溶であるが,測定中の溶液の体積変化を無視できる程度に少なくするため

    100- 120mL程度の塩化メチレンに溶解するのが望ましい. 【Cu(CH3CN)4】(BF。)比較

    的空気中で安定な銅(Ⅰ)価錯塩ではあるが,長時間放置しておくと酸化され青色に変色す

    る・アルゴン下においてバイアルびん中で【Cu(CH3CN)。】@F。)を塩化メチレン溶液に

    溶かし,セプタムラバーをその口にかぶせ機密性を保持する.

    ④の反応においては, Pt(S2CNPri2)2 (2.25 Ⅹ 10-6mol)を含んだ希薄な塩化メチレン

    溶液約100mLに,濃厚な【Cu(CH3CN)4】(BF4)の塩化メチレン溶液(2.25Ⅹ 10・2mol/L)

    -31-

  • を20pLずつ加えていった際の紫外可視吸収スペクトルの変化ならびに260,322,352

    nmのそれぞれの波長における吸光度の変化を銅のイオンとPt(S2CNPr12)2のモル比に

    対してプロットしたグラフを図2.2にまとめた.

    図2.2(b)のグラフから反応は1段階で進行していることが明らかとなり, 1段階目

    の反応はPtとCuの混合モル比が3 : 2のところで完結していることが読みとれる.ま

    たその変化の鋭さは溶液中において解離反応が起こっていないことを示している.

    図2. 3(a)からモル比3 : 2で会合した複合錯体, 『t3(S2CNPri2)6Cu2】2+,の形成が

    完結するまでには275, 340, 363 n皿に等吸収点が観測された.他のアルキル基をもつ

    Pt(S2CNR2)2と鋼(Ⅰ)イオンとの反応においても同様の結果が得られた.

    ④のPd(S2CNR2)2と銅Oイオンの反応においてもpd(S2CNR2)2と銅のイオンがモル

    比3 : 2会合した複合錯体の形成を紫外可視吸収スペクトルより確認した.

    また③と④の反応はクロロホルムや1,2-ジクロロエタンのようなハロゲン化有横溶

    媒中においても,塩化メチレン中と同様な反応が進行することを確認した.

    2.2.4 まとめ

    第1 0族ジチオカルバマート錯体と第1 1族元素イオンとの反応は銀0イオンを含

    む反応においては2段階で反応が進行し[式l ],鋼0イオンの場合では1段階であ

    った[式2].

    -32-

  • 4)

    O

    t=

    上⊃

    Lo o.5u)

    .1⊃<

    OO

    ⊂f6

    言o・5U)

    .上⊃<

    500 600

    2/3 1.0

    CL〟Pt Mo一e Ratio

    図2. 2 (a) Pt(S2CNPri2)2の塩化メテレン溶液( 2・25 x lO~G moI〃00 m=に

    【cu(cH3CN).](BF.)の塩化メテレン溶液( 2125 x lO12moI/L)を20 pLず

    つ連続的に加えていった際の紫外可視q別又スペクトルの変化(b)各

    波長の吸光度の変化をCu'とpt(s2CNPri2)2のモル比に射しプッロト

    したグラフ.

    -33一

  • 3M(S2CNR2)2 +2Ag+ー[M3(S2CNR2)6Ag2】2+

    [M3(S2CNR2)6Ag2】2+ + 4Ag+ - 3【M(S2CNR2)2Ag2】2+ [式1 ]

    3M(S2CNR2)2 +2Cu+-

    【M3(S2CNR2)6Cu2】2+ [式2 ]

    銀0イオンと銅Oイオンの違いで反応の進行が異なるという結果が得られたが,ど

    ちらの場合でもM(S2CNR2)2と銀(Ⅰ)イオン,または銅(Ⅰ)イオンがモル比3 : 2で会合し

    た複合錯体を生成するということに興味がもたれる.

    ー34-

  • 2. 3 複合錯体の合成

    2.3.1複合錯体の合成方針

    複合錯体の合成は以下に述べる手順に従った.

    1)ジアルキルジチオカルバマートナトリウム嵐NaS2CNR2,の合成.

    NaOH + CS2 + NHR2 -- NaS2CNR2+ H20

    2)白金またはパラジウムジチオカルバマート錯体, M(S2CNR2)2,の合成.

    NaS2CNR2+ K2MCl4 - M(S2CNR2)2 + 2KCl + 2NaC1

    3)複合錯体【M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,の合成.

    3M(S2CNR2)2 + 2M'Ⅹ - 【M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2

    2. 3. 2 NaS2CNR,の合成13・14)

    この合成に使用する二硫化炭素,ジアルキルアミンは精製せず,そのまま用いた.

    NaS2CNEt2は市販品(ナカライ)を用いた.以下にNaS2CNPri2の合成を示す.

    100mLナスフラスコ中でNaOH(2.Og,50mmol)を水約5mLに溶かし,ベン

    ゼン50mLで希釈したCS2(3.OmL, 50mmol)を混合した.氷水洛中で激しく撹拝

    しながら,滴下ロートを用いNHP少2(6.7mL,50mmol)を20分間で滴下した.棉

    下後2時間は氷水洛中で,その後は水浴中で一晩撹拝した.反応溶液は黄色から薄い

    桃色になっていた.加熱しながら真空乾燥した.白色個体(5.5g,27mmol,55%)が

    -35-

  • 得られた.このように反応溶液から溶媒留去して生成物を得る場合,加熱するために

    NaS2CNR2の一部が分解したためだろうか,時々若干黄色がかったものが得られた.

    よって熟を加えずに生成物を得る方法として,最後の段階において希薄な酸で中和し

    た後,吸引ろ過し沈殿物を乾燥させる方法を選んだ.より純度の高い生成物を得るには

    こちらの方法のほうがよいのではと思われる.

    その他のNaS2CNR2も同様に対応するジアルキルアミンを用い合成した.

    2.3.3 M(S2CNR2),の合成(M :Pt,Pd; R :アルキル基)14・15)

    (a) pt(s2CNPri2)2の合成

    100 mLナスフラスコ中でK2PtC14 (0.39 g, 0.94 mmol )を水約5 mLに溶かし,

    NaS2CNPri2 (0.79 g, 4.Ommol)を含んだエタノール溶液10mLを加え一晩撹拝した.

    反応溶液は赤色から反応が進行するにしたがって黄色沈殿を生じながら変化していっ

    た.撹拝終了後しばらく静置させ上澄みを除去.沈殿物を毎10 mLのエタノールで5

    回洗浄してからろ過し,黄色沈殿を乾燥させた.これを塩化メチレンで抽出し,そのろ

    液を乾固させトルエンから再結晶した.黄色針状結晶(o.34g,0.62mmml,66%)が得

    られた.その他のPt(S2CNR2)2錯体も同様に対応するNaS2CNR2と反応させて合成し

    た.

    (叫Pd(S2CNPrn2)2の合成

    -36-

  • 50mLナスフラスコ中でPdCl2 (0.32 g, 1.8 mmol)とKCl(0.28 g, 3.7mmol)を熱湯

    20mLに溶かし30分撹拝した. NaS2CNPrn2 (0.79g, 4.0 mmol)を含んだエタノール

    溶液10 mLを加え一晩撹拝した.反応溶液は濃い茶色から黄色へと変色していった.

    撹拝終了後しばらく静置させ上澄みを除去.沈殿物を毎10 mLのエタノールで3回洗

    浄してからろ過し,黄色沈殿を乾燥させた.これを塩化メチレンで抽出し,そのろ液を

    乾固させエタノールから再結晶した.樺色針状結晶(o.78g, 1.7mmml, 95% )が得ら

    れた.その他のPd(S2CNR2)2錯体も同様に,対応するNaS2CNR2と反応させて合成し

    た.

    2. 3. 4 [M3(S,CNR2)6Ag2]X2の合成( M: Pt, Pd; X: BF.,C]0.; R:アルキル基) 14,16)

    複合錯体の合成に用いた有機溶媒は水素化カルシウムから蒸留したものを用いた.吸

    湿性のあるAgBF4は使用する前に,約2時間, 60-65oCで真空乾燥したものを用いた.

    複合錯体, Pta(S2CNPri2)6Ag2】(BF。)2 (2),の合成方法を以下に述べる.

    100mLナスフラスコ中でPt(S2CNPri2)2(100mg,0.18mmol)を塩化メチレン50

    mLに溶解し, AgBF4(24mg,0.12mmol)を含んだトルエン溶液20mLを加えた.

    反応溶液は薄い黄色から少し濃い黄色-と瞬時に変色した. 2時間撹拝した後,この反

    応溶液をろ過し,そのろ液を乾固させて黄色粉末(100mg,79%)を得た.

    その他銀(Ⅰ)イオンを含んだ1 0種類の複合錯体, 『t3(S2CNEt2)6Ag2】(Clod)2 (1) 18),

    Pt3(S2CNPrn2)6Ag2】@F4)2 (3)16) , Pt3(S2CNBun2)6Ag2】(Clod)2 (4)19) ,

    -37-

  • Pta (S2CNBun2)6Ag2】 @F4)2

    Pd3 (S2CNPri2)6Ag2】@F4)2

    Pd3 (S2CNPrn2)6Ag2】 @F4)2

    (5) , Pd3(S2CNEt2)6Ag2】(C104)2

    (7) , Pd3(S2CNPrn2)6Ag2】(CIO4)2

    (9) , Pd3(S2CNBun2)6Ag2】@F4)2

    (6) ,

    (8) ,

    (10) ,

    pd3(S2CN(C6Hll)2〉6Ag2】(Clod)2 (ll),も同様に,対応するM(S2CNR2)2を用いて合

    成した.これらの複合錯体の元素分析の結果を表2. 1にまとめた.

    2. 3.5 [M3(S2CNR2)6Cu2]X2の合成( M: Pt, Pd; X: BF., PF6; R:アルキル基)14・17)

    複合錯体の合成に用いた有磯溶媒は水素化カルシウムから蒸留したものを用いた.

    【cu(cH3CN)。】BF。は空気中で比較的安定な錯塩ではあるが,酸化され銅OI)を含んだ

    種の化合物になるためアルゴン下で取り扱い,反応もアルゴン下で行った.複合錯体,

    『t3(S2CNPri2)6Cu2】(BF4)2 (13),の合成方法を以下に述べる.

    100 mLナスフラスコ中でPt(S2CNP少2)2 (91 mg, 0.17mmol )を塩化メチレン15

    mLに溶解し, 【Cu.(CH3CN)。】BF。 (34mg,0.llmmol)を含んだ塩化メチレン溶液20

    mLを加えた.反応溶液は薄い黄色から少し濃い黄色へと瞬時に変化した. 1時間撹拝

    した後,反応溶液をろ過し,そのろ液を乾固して樫黄色の粉末(94mg,87%)を得た.

    その他鋼イオンを含んだ6種類の複合錯体, 『t3(S2CNEt2)6Cu2】@F4)2 (12),

    『t3(S2CNBun2)6Cu2】(BF4)2 (14), 『t3(S2CN(C6Hll)2〉6Cu2】(PF6)2 (15),についても

    同様な方法で合成した.これらの銅(Ⅰ)イオンを含んだ生成物は空気中でも安定に存在す

    る.元素分析の結果を表2. 1にまとめた.

    -38-

  • 表2.1複合錯体, 【M,(S2CNR2)6M'2]X2.の元素分析値および融点

    元素分析値/% (計算値/%) 融点/oc

    M M' R X C/% I{/% N/% m. p. /oC

    Pt Ag Et CIO4 19.20

    (19.05)

    Pt Ag Pri BF4 24.70

    (24.80)

    Pt Ag Prn BF4 24.95

    (24.80)

    Pt Ag Bun CIO4 29.35

    (29.15)

    Pt Ag Bun BF4 29.45

    (29.45)

    Pd Ag Et CIO4 22.20

    (22.20)

    Pd Ag Pri BF4 28.45

    (28.55)

    Pd Ag Prn CIO4b 27.80

    (27.95)

    Pd A占 prn BF4 28.85

    (28,55)

    Pd Ag Bun BF4 33.55

    (33.50)

    Pd Ag C6Hll C104 41.50

    (41.20)

    3.15 4.50

    (3.20) (4.45)

    4.20 4.10

    (4.15) (4.15)

    4.35 4.20

    (4.15) (4.15)

    4.85 3.75

    (4.90) (3.80)

    4.95 3.85

    (4.95) (3.80)

    3.70 5.20

    (3・70) (5.20)

    4.85 4.75

    (4.80) (4.75)

    4.65 4.40

    (4.70) (4.45)

    4.70 4.55

    (4.80) (4.75)

    5.80 4.40

    (5.65) (4.35)

    5.90 3.55

    (5・85) (3.70)

    2441246且

    250-280a

    202-204a

    2401243a

    199-2021

    240・241&

    28012868

    183-185

    199-201&

    189-191&

    268-272a

    -39-

  • 表2.1複合錯体, 【M,(S,CNR2)6M'2]X,,の元素分析値および融点

    (つづき)

    Pt Cu Et BF4

    Pt Cu Pri BF4

    Pt Cu Bun BF4

    Pt Cu C6Hll PF6

    Pd Cu Prn B F4C

    Pd Cu Prn PF6C

    Pd Cu C6Hll BF4

    20.15 3.35

    (20.30) (3.40)

    25.65 4.65

    (25.95) (4.35)

    30.55 5.20

    (30.70) (5.15)

    36.60 5.15

    (36.80) (5.20)

    30.95 5.15

    (31.00) (5.25)

    29.00 4.95

    (29.05) (4.95)

    43.45 6.15

    (43.30) (6.15)

    4.70

    (4.75)

    4.05

    (4.30)

    3.95

    (4.00)

    3.10

    (3.30)

    5.00

    (4・75)

    4.50

    (4.45)

    3.60

    (3.90)

    275-276&

    221-222a

    223-224a

    2221224&

    214-216

    208-2 10

    279-280&

    且分解. b結晶溶媒,c2H4Cl2,含有.c 結晶溶媒,o.5CII2Cl2・0.5C6H14,含有.

    -40-

  • 2. 4 複合錯体,【M3(S,CNR,)6M',]X2,の構造

    M(S2CNR2)2(M=Pt,Pd)とM'(Ag+,Cu+)との反応でモル比3 : 2

    で会合した【M3(S2CNR2)6M'2】2+の存在を確認した.これらの複合錯体

    の分子構造を明らかにすべくⅩ線構造解析に取り組んだ.

    2.4. 1測定機器および単結晶成長の方法

    Ⅹ線構造解析に必要なデータは理学AFC17Rを用い測定し,低温測定には理学ⅩR-

    TCS-2-050温度制御装置を使用した.構造解析はIRIS Indigoコンピューターで

    TEXSANso氏wareを用いて行った.

    単結晶は全体が1mm程度の太さで先が0.2mmほどのガラスのキヤピラリーの上に

    固定した.室温で測定する場合はエポキシ系の瞬間接着剤を,低温の場合はシリコン系

    のものを用いた.

    複合錯体(1)-(18)のうち9種の複合錐体についてⅩ線構造解析を行った. (1) 18), (6)

    は塩化メチレン溶液から, (4) 19)は塩化メチレン/n-ヘキサン混合溶媒からの蒸発法に

    より,また(2),(7),(13),(15),そして(17)はそれぞれの塩化メチレン溶液に, (12)は1,2-

    ジクロロエタン溶液にn-ヘキサンをゆっくりと拡散させる溶媒拡散法を用いて単結晶

    を成長させた. 9種類の複合錯体の結晶学的データ-を表2. 2にまとめた.

    -41-

  • 表2. 2 複合錯体, 【M。(S2CNR2)6M'2】X2,の結晶学的データー

    1 2 4 6

    fわrmula

    ど.w

    color

    crystal system

    Space group

    a/Ab/A

    c/Av/, A..I

    Z

    ♂/ gcm.3

    crystal dimension / mm3

    〟/ cm■1

    temp. / oC

    measured data

    no. ofI> 3oO)

    R

    Rw

    C30H60Ag2C12N608・

    Pt3S12

    1889.47

    yellow

    orthorhombic

    Pbcn

    17.166(2)

    ll.261(2)

    28.631(2)

    5534(1)4

    2.267

    0.2Ⅹ0.2Ⅹ0.3

    88.15

    23土2

    8355

    3272

    0.051

    0.039

    C42H84Ag2B2F8N6-

    Pt3S12

    2032.50

    yellow

    ortborhombic

    Pccn

    ll.368(3)

    29.700(2)

    20.258(3)

    6840(1)

    4

    1.974

    0.2Ⅹ0.15Ⅹ0.1

    70.72

    ・150土28653

    4560

    0.041

    0.041

    C54HIO8Ag2C12N608-

    Pt3S12

    2226.14

    yellow

    ortborbombic

    Pbca

    31.244(7)

    30.671(10)

    17.291(3)16570

    8

    1.785

    0.2Ⅹ0.3Ⅹ0.2

    59.63

    23土2

    19560

    5002

    0.090

    0.099

    C30H60Ag2C12N608-

    Pd3S12

    1623.40

    yellow

    orthorbombic

    Pbcn

    17.270(1)1 1.264(2)

    28.562(2)

    5555.8(9)

    4

    1.941

    0.2Ⅹ0.1Ⅹ0.04

    22.38

    23土2

    7069

    2284

    0.078

    0.067

  • 表2・ 2 複合錯体. 【M3(S2CNR2)6M・'2]X2.の結晶学的データー(つづき)

    7・3CH2C12 12・ C2H4C12 13・2CH2C12 15・2.73CH2C12

    formula

    f.w

    color

    crystal system

    Space group

    a/Ab/A

    c/Aβ /o

    v/Å3Z

    ♂/ gcm・3

    crystal dimension / mm3

    〟/cm.1

    temp. / oC

    measured data

    no. ofF.> 3o(F.)

    R

    Rw

    C45H90Ag2B2C16F8-

    N6Pd3S12

    2021.23

    Orange

    monoclinic

    FBI/c

    ll.784(3)

    30.516(3)

    21.674(3)

    94.ll(2)

    7774(1)4

    1.727

    0.3Ⅹ0.2Ⅹ0.2

    17.57

    ・150土2

    18187

    11209

    0.061

    0.052

    C32H64Ⅰ∋2C12Cu2F8-

    N6Pt3S12

    1874.49

    yellow

    monoclinic

    f宅1/c

    ll.114(3)

    29.074(4)

    18.842(4)

    95.00(3)

    6065(2)4

    2.053

    0.2Ⅹ0.1Ⅹ0.1

    81.14

    23土2

    14932

    5412

    0.055

    0.051

    C44H88B2Cl4Cu2F8-

    N6Pt3S12

    2113.72

    yellow

    monoclinic

    I?I/c

    13.253(2)

    28.503(4)

    19.438(2)

    94.16(1)

    7323(1)4

    1.917

    045Ⅹ0.3Ⅹ0.2

    68.02

    ・150土1

    17139

    10780

    0.046

    0.046

    C弧73H137.46C15.46Cu2-

    F12N6P2Pt3S12

    2772.79

    yellow

    monoclinic

    F21/a

    27.508(6)

    12.324(4)

    33.364(8)

    112.65(2)

    10438(8)4

    0.3Ⅹ0.25Ⅹ0.2

    49.17

    ・15(妊2

    10624

    6751

    0.053

    0.054

  • 表2. 2 複合錯体. [M,(S,CNR2)6M'2]X2.の結晶学的データー(つづき)

    17・0.5CH2C12・0.5C6H14

    formula

    f.w

    color

    crystal system

    Space group

    a/Ab/A

    c/Aβ /○

    Ⅴ/Å3Z

    ♂/ gcm・3

    crystal dimension / m皿3

    〟/cm.1

    temp. / oC

    measured data

    no. ofFo> 3o(F.)

    R

    Rw

    C45.5H92C16Cu2F12N6-

    P2Pd3S12

    1879.79

    Orange

    monoclinic

    P21/n

    20.606(2)

    30.240(4)

    12.003(3)

    90.02(1)

    7479(1)

    4

    1.669

    0.3Ⅹ0.25Ⅹ0.1

    17.46

    ・72土2

    17985

    6086

    0.079

    0.092

  • 2.4.2 複合錯体の構造的分類

    種々のジチオカルバマート錯体と銀0イオンまたは鋼Oイオンを反応させて合成し

    た複合錯体, 【M。(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,の一覧を表2.

    3にまとめた.このうち1 8種類

    の複合錯体については元素分析が一致し, Ⅹ線構造解析は9種の複合錯体について行っ

    た.置換基とカウンターアニオンの組合せでは生成物の純度が低く元素分析が一致しな

    い場合があり,またすべての複合錯体について構造が決定されていないが,紫外可視吸

    収スペクトルの変化から生成物は複合錯体, 【M。(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,であると判断した.

    いずれの複合錯体, 【M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,もM(S2CNR2)2とM'イオン(Ag+, Cue)が

    モル比3 : 2で会合し同じ組成をもつが, M,M',Rに依存して3種類の構造のものが得

    られた.ポリマー構造錯体(Ⅰ型)と対称性の良いディスクリートな分子構造のもの(ⅠⅠ

    型),および対称性の低いもの(ⅠⅠⅠ型)であった.

    ディスクリートな分子構造をもつ複合錯体の基本的な分子構造については, 2つの

    M'イオンの周りを3つのジチオカルバマート錯体が取り囲んだ分子構造を有している

    ことであった.対称性の良い複合錯体と対称性の低いものとの相違点は3つのジチオカ

    ルバマート錯体が2つのM'イオンにほぼ等価に配位しているかどうかに依存しており,

    対称性の良い複合錯体とは2つのMイオンが結晶学的に擬次3回軸上にあり均整のと

    れた分子構造を有する複合錯体のことである.図 2. 3 (a)はII型の構造をもつ

    Pta(S2CNP少2)6Ag2】@F4)2 (2)のカチオン部の構造を表している.また

    -45-

  • 表2. 3 複合錯体の構造分類

    【担3(S2CN旦2)6班2]茎2

    叫M,

    Pt Pd

    RX構造の型 RX構造の型

    Ag

    EtBF4(1) EtBF4

    EtC104Ⅰ EtC104(伝)Ⅰ

    PrnBF4(3) PrnClO.(S)

    PriBF4(2)ⅠⅠ PrnBF4(9)

    Pric104 PriBF4(7)ⅠⅠⅠ

    BunBF4(5) BunBF.(10)

    BunC104(4)ⅠⅠ BunClO4

    C6H11ClO4 C6H11BF4

    C6H11ClO.(ll)

    Cu

    EtBF4(12)ⅠⅠⅠ EtBF4

    EtPF6 Pr皿BF4(16)

    PrnPF6 PrnPF6(17)III

    PriBF4(13)ⅠⅠⅠ PriBF4

    BunBF4(14) BunBF4

    C6H11PF6(15)III C6H11BF4(1S)

    C6H11PF6

    ー46-

  • 、NR2

    P.

    r:

    (a)

    NR2S

    l

    ■ゝ

    -■

    I

    s?:ヲsINR2

    (b)

    s/㌔NR2

    R2N

    u::

    (c)

    図2・ 3 ディスクリートな分子構造をもつ複合錯体の比較(a)ⅠⅠ型. [pt3(S2CNPri2)6Ag2]2・(2);(b)ⅠII型.

    【M3(S,CNR2)6M'2]2十(M・M'= Pd・ Ag (7) ; Pt・ Cu(13)) ;(c)ⅠⅠⅠ乳【pd3(S2CNPrn,)6Cu2】2十(17)

  • pta(S2CNBun2)6Ag2】(C104)2 (4)も 同 じ 型 の 分子構 造で あ る・

    Pd3(S2CNPオ2)6Ag2】@F4)2 (7), 『t3(S2CNEt2)6Cu2】 @F4)2 (12),

    pta(S2CNP少2)6Cu2】(BF4)2 (13), 『t3(S2CN(C6H11)2〉6Cu2】伊F6)2 (15),および

    pd3(S2CNPrn2)6Cu2】O'F6)2 (17)の5つはIII型の分子構造をもった複合錯体であり,

    (17)のみ他の4つとは異なっている(図2. 3(b),(c)).分子内の金属原子間距離にお

    いてフアンデルワ-ルス半径の和よりも短いものの数が2本と,他の複合錯体の4本に

    比べて少なくなっているからである.

    Ⅰ型のポリマー構造をもつ複合錯体,ならびにⅠⅠ型とⅠⅠⅠ型のディスクリートな分

    子構造を有する複合錯体については2.4.3,および2.4.4でそれぞれ比較検討を行った.

    2.4.3 ポリマー構造をもつ複合錯体(1),(6)の比較

    複合錯体, 【M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,において銀のイオンを含み置換基とカウンターア

    ニオンがEt, CIO4~の組合せのときには, 2次元網目状カチオン性ポリマー構造を有す

    る【M3(S2CN耳t2)6Ag2】∞(C104)2∞が得られた.M = Pdのときの構造を図2. 4に示す.

    Pd(S2CNEt2)2は硫黄原子を使って2つの銀0イオンを架橋しており,銀0イオンは3

    つのPd(S2CNEt2)2の硫黄原子と結合している.そのためPd(S2CNEt2)2と銀のイオン

    がそれぞれ6つで大きな六角形のような環を作りだし2次元網目状のポリマーシート

    を形成している.

    -48-

  • ・くアZ>

    +a

    q

    干二〉⊃o S . o C⑳Ag⑮Pd

    図2. 4 [Pd3(S2CNEt2)6Agd00(ClO.)2申(6)の2次元網目状ポリマーシート構造

    -49-

  • ?,,,-23D' F

    L=ti_-:

    Sl1

    21

    .I):-S

    ;,y;/':"(3l:〔√二ll・・/

    ,?\

    。三:=

  • 表2. 4 ポリマー構造錯体, 【M3(S2CEt2)6Ag2XC10.)2.の

    主な原子間距離/Åと角度/oa

    M=Pd(占) M=Pt(1)

    M(1) - Ag(1)

    M(2) - Ag(1)

    M(2'')- Ag(1)

    Ag(1)- S(1)

    Ag(1) - S(3)

    Ag(1) - S(5')

    M(1トS(1)

    M(1) - S(2)

    M(2トS(3)

    3・073(2) 2.933(2)

    3・283(3) 3.046(2)

    3.287(3) 3.511(2)

    2.826(6) 3.029(6)

    2.496(7) 2.546(7)

    2・451(6) 2・480(6)

    2・325(5) 2.317(4)

    2・306(5) 2.316(4)

    2.337(6) 2.321(4)

    M(2) - S(4)

    M(2トS(5)

    M(2) - S(6)

    Ag(1 )-M-Ag(1)

    S(1[Ag(1)-S(3)

    S(1[Ag(1)-S(5 ")

    S(3[Ag(I)-S(5")

    M=Pd(占) M=Pt(1)

    2.316(5) 2.320(3)

    2.320(6) 2.327(4)

    2・305(6) 2・302(4)

    158・3(1) 166.8(1)

    110.1(2)

    105・3(2)

    142.8(2) 140.9(1)

    A"は1-Ⅹ,y,3/2-2:を示す

    表2. 5 [Pt3(S2CPri2)6Ag2XBF.)2(2)の主な

    原子間距離/Åと角度/。a

    Pt(1)- Ag(1)

    Pt(1トAg(1 ∫)

    Pt(2)- Ag(1)

    Ag(1) - Ag(1')

    Ag(1トS(ll)

    Ag(1) - (13')

    Ag(1) - S(21)

    2.895(l) Pt(1)-S(ll)

    2.972(1) Pt(1)-S(12)

    2.911(1) Pt(1トS(13)

    2・960(I) Pt(l)-S(14)

    2・702(3) Pt(2)- S(21)

    2・705(3) Pt(2トS(22)

    2.707(3)

    S(ll)-Ag(I)-S(13') 115.24(9)

    S(ll)-Ag(けS(21) 107.85(9)

    S(13'1Ag(1)-S(21) 112.63(9)

    2・321(3)

    2.316(3)

    2・316(3)

    2・317(3)

    2・323(3)

    2・313(3)

    a`は3/2-x,1/2-y,zを示す

    -51-

  • 図2. 5に(1),(6)の部分構造を,表2. 4にはこれらの複合錯体の主な原子間距離を

    示す・ (6)の場合, Pd(1)を含むPd(S2CNEt2)2は同じ側にある硫黄原子【 S(1), S(1') 】を

    使って銀のイオンと結合しているのに射し, Pd(2)を含むpd(S2CNEt2)2は対角側にあ

    る硫黄原子【S(3),S(5)】を使っている. 3つのPd-Ag間距離のうち1つはそれぞれのフ

    アンデルワ-ルス半径の和【3.30Å】20)よりは短いが,残りの2つは同じ程度である.

    (1)の場合, (6)と類似構造であるがPt・Ag間距離がそれぞれのフアンデルワ-ルス半径

    の和【3・45 Å】20)よりかなり短いのが2つある. (6)のすべてのAg-S間距離はそれぞれ

    対応する(1)のそれよりも短くなっている.

    2.4.4 ディスクリートな分子構造をもつ複合錯体の比較

    (a)それぞれの複合錯体の特徴

    図2・ 3で示したⅠⅠ型に属する(2)とⅠⅠⅠ型に属する(7),(13)そして(17)の構造を図

    2.6,図2.7,図2.8そして図2.9にそれぞれ示す.

    図2・ 6の(7)において, Pt(2)原子は結晶学的2回軸上にあり,擬次3回軸が2つの

    銀のイオン上を通っているため非常に対称性の良い構造となっている.主な原子間距

    離および角度を表2・ 5にまとめた.特に注目すべきはAg(1)とAg(1)と結合している

    3つのPt(S2CNPオ2)2の硫黄原子間距離であり, 2.702(3)-2.707(3) Åと非常に狭い範囲

    にあることからも対称性の良いことがうかがえる.複合錯体中の3つのPt(S2CNPt2)2

    -52-

  • は対角側の硫黄原子2つを使いそれぞれの銀(Ⅰ)イオンに配位している.これをトランス

    型配位と呼ぶことにする(図2.10(a)).このⅠⅠ型の複合錯体において,トランス型

    配位しているPt(S2CNPri2)2をその平面に対し垂直方向から見た場合,ジチオカルバマ

    ート配位子と白金原子から構成されるそれぞれの四角形の内側に銀0イオンが位置し

    ていることが特徴である.

    (7)の構造は3つのPd(S2CNPナ2)2が2つの銀Oイオンを取り囲んだ状態は(2)と同様

    であるが,その配位の形式が異なっている. Pd(1)を含むPd(S2CNP少2)2はトランス型

    配位(図2, 10 (b)) , Pd(2)とpd(3)を含むPd(S2CNPri2)2はそれぞれ同じ側にある硫

    黄原子を使って2つの銀(Ⅰ)イオンに配位している.これをシス型配位と呼ぶ(図2. 10

    (c)).したがってAg-Ag軸を通るような擬次3回軸は存在しない.主な原子間距離お

    よび角度を表2. 6にまとめた.トランス型配位しているPd(S2CNPri2)2のPd(1)から2

    つの銀(Ⅰ)イオン-の距離[ 2.928(1),3.001(1)A ]はほぼ同じであるが,シス型配位し

    ているPd(S2CNP〆2)2は固2. 7からも明らかであるように片側の銀O)イオンに偏って

    配位しているためPd-Ag間距離はそれぞれの原子のフアンデルワ-ルス半径の和より

    も長いのと短いのが同時に存在している.

    図2. 8に示した(13)の構造は(7)と類似しており, 3つのPt(S2CNP少2)2のうち1つ

    は2つの銅(Ⅰ)イオンにトランス型配位をしており,残り2つはシス型配位をしている.

    またPt(S2CNPr12)2と銅のイオンからなる他の複合錯体(12), (15)も(13)と同様な構造

    をとっている.表2. 7にこれらの複合錯体の主な原子間距離および角度をまとめた.

    ー53-

  • ⅠⅠⅠ型に属している(17)の構造を図2. 9に示す.構造的には先に述べた(7), (12),

    (13)そして(15)と同様である.しかし,トランス型配位しているPd(S2CNPrn2)2のパラ

    ジウム原子から銅のイオンに伸びた2本の金属原子間距離のみがそれぞれの原子のフ

    アンデルワ-ルス半径の和よりも短く,シス型配位している2つのPd(S2CNPrn2)2から

    銅0イオンへの距離はフアンデルワ-ルス半径の和よりも長いということに大きな相

    遠点がある.表2. 6から金属原子間距離を複合錯体(7)のそれと比較するとよく理解で

    きる.

    (b)複合錯体の金属原子間相互作用の比較

    以後,複合錯体i [M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2,をMIM'もしくはMR-M'Ⅹといっった省略し

    た形で表現し, M原子とMイオン間の金属原子間相互作用はM原子とM'jオンのフア

    ンデルワ-ルス半径の和を基準にその程度を比較する.

    Pt-Ag系の複合錯体はⅠⅠ型, pd-Ag系, pトCu系およびpd-Cu系の複合錯体は

    それぞれⅠⅠⅠ型の分子構造をもったものである. PトAg系の(2)においては表2. 5か

    らPt-Ag間距離は[2.895(1ト2.972(1) Å]の範囲にあり, pt-Agのフアンデルワ-ル

    ス半径の和[3.45Å] 20)よりもかなり短く1分子内に6本の金属原子間相互作用がある

    と考えられる.Pd-Agのフアンデルワ-ルス半径の和は3.40Å20)でありPd-Ag系の(7)

    においてはこれより短いのは4本ある.またPトCu系では3つの複合錯体(12), (13)

    そして(15)があり,いずれの複合錯体においてもフアンデルワ-ルス半径の和[3.15

    -54-

  • Å]20)よりも短いPt-Cu距離がPt(1)を含むトランス型配位のPt(S2CNPr12)2から2本,

    その他2つのシス型配位のものから1本ずつの合計4本ある. ⅠⅠⅠ型に属する(17)はフ

    ァンデルワ-ルス半径の和[3.00Å]20)よりも短いのはトランス型配位のPd(S2CNPrn2)2

    からの2本のみである.

    複合錯体を形成する際,平面構造を有するM(S2CNR2)2錯体がどの程度その平面から

    歪んでいるかを示したのが図2.11であり,そのズレをまとめたのが表2.8である.

    このズレとはM(S2CNR2)2錯体において,その中心金属原子Mに配位している4つの

    硫黄原子Sからなる最適平面からの金属原子Mのズレである.図2. ll (a)からPt-Ag

    系の(2)において平面構造を有するPt(S2CNP少2)2は折れ曲がって銀イオンに配位して

    いることが分かる.そして白金原子は銀イオンの方へ約o.1Åも引きつけられている(秦

    2. 8).同様にPt-Cu系の(13)のPt(S2CNPri2)2も折れ曲がって鋼イオンに配位して

    いる.これらに比べてPd-Ag糸, pd-Cn系の複合錯体ではPd(S2CNPri2)2はそれほ

    ど折れ曲がってはいない.

    2. 4. 5 カウンターアニオンが金属原子骨格に及ぼす影響,複合錯体(2). (4)の

    比較19)

    ディスクリートな分子構造を有する複合錯体においてそのカウンターアニオンは

    BF4・またはPF6・といった配位能力の低いものを用いてきた.配位能力が高いカウンタ

    -55--

  • -アニオンを使用するとM'- M潮の延長上にそれが接近し配位するためである・そし

    て純粋な金属原子間相互作用の比較ができなくなるからである.その例が

    『b(S2CNBun2)6Ag2](CIO4)2 (4)であり,同じⅠⅠ型の複合錯体に属する(2)と比較する・

    図2. 12にこれらの複合錯体の部分的模式図を示す. Ag(1)はCIO。・のほうに引きつけ

    られたため銀イオン間距離が(2)に比べて少し[0.07Å]長くなったと予想される.ま

    たCIO。・の立体障害により白金原子はAg(2)の側に遠ざかっている.特にPt(3)から2つ

    の銀(Ⅰ)イオン-の距離は0.35Å以上の差があり,かなり歪んだ構造になっている・

    -56-

  • 図21 6 [Pt3(S,CNPr'2)6Ag2XBF.),(2)のカチオン部の構造

    -57-

  • S(ll) N(3

    N(22)S(13) s(33

    図2. 7 [Pd3(S2CNPr-2)6Ag2XBF.),(7)のカチオン部の構造

    -58-

  • Q5

    図21 8 [Pt。(S2CNPr-2)6Cu2XBF.)2(13)のカチオン部の構造

    -59-

  • C(22)

    Pd(3)

    s(32) C(31)

    図2. 9 [Pd3(S2CNPrn2)GCu2](PF6)2(17)のカチオン部の構造

    -60-

  • (a)

    ≠=○

    -=

    図2・ 10 ⅠⅠ型とⅠⅠⅠ型の複合錯体,【M。(S2CNR2)。M'2】2十,における

    M(S2CNR2)2のM'イオンヘの配位の比較(M-Pt,Pd;M'-Ag,Cu)

    (a).ⅠⅠ型のトランス型配位:(b),(c)ⅠⅠⅠ型のトランス型および

    シス型配位

    -61-

  • 表2, 6 [Pd3(S2CPri2)6Ag2](BF.)2(7)と【Pd3(S2CPrn2)6Cu2】(PF6)2(17)の

    主な原子間距離/Åと角度/。

    7 17

    Pd(1) - M(1)

    Pd(1) - M(2)

    Pd(2) - M(1)

    Pd(3トM(2)

    Pd(2)-

    M(2)

    Pd(3)-

    M(1)

    M(1) - M(2)

    M(1) - S(ll)

    M(1) - S(21)

    M(1トS(31)

    M(2) - S(13)

    M(2) - S(24)

    M(2) - S(34)

    2.928(1) 2.864(4)

    3.001(1) 2・896(4)

    2.934(1) 3.058(4)

    2.911(1) 3・110(4)

    3.466(1) 3.640(4)

    3.587(1) 3.669(4)

    3・093(1) 3・598(4)

    2.764(3) 2.351(8)

    2.530(3) 2.256(8)

    2.477(3) 2.237(8)

    2.662(3) 2.320(8)

    2.468(3) 2.234(8)

    2・563(3) 2.263(8)

    S(ll)-M(1)-S(21) 100.50(9) 104.1(3)

    S(ll)-M(1)-S(31) 99.97(9) 113.1(3)

    S(21)-M(1)-S(31) 155.54(9) 141.7(3)

    Pd(1) - S(ll)

    Pd(1) - S(12)

    Pd(1) - S(13)

    Pd(1トS(14)

    Pd(2) - S(21)

    Pd(2) - S(22)

    Pd(2) - S(23)

    Pd(2) - S(24)

    Pd(3) - S(31)

    Pd(3) - S(32)

    Pd(3) - S(33)

    Pd(3) - S(34)

    7 17

    2.306(3) 2.319(7)

    2.335(3) 2.318(8)

    2.332(3) 2.315(7)

    2.314(3) 2.307(7)

    2.343(3) 2.341(8)

    2.323(3) 2.314(8)

    2.307(3) 2・318(9)

    2.324(3) 2・345(7)

    2.333(3) 2.340(8)

    2.301(3) 2・316(9)

    2・318(3) 2・315(8)

    2.327(3) 2.341(8)

    S(13)-M(2)-S(21) 107・03(9)) 114・2(3)

    S(13)-M(2)-S(34) 94・99(9) 105・0(3)

    S(24)-M(2)-S(34) 148・67(9) 139・6(3)

    -62-

  • 表2. 7 [Pt3(S2CNR2)6Cu2]×2(R,X=Et, BF.(12);Pr',BF.(13);

    c6Hll, PF6 (15Hにお1ナる原子間距離/Åと角度/o

    R=Et(12) R=Prl(13) R=C6Hll(15)

    Pt(1) - Cu(1) 2.859(3)

    Pt(1) - Cu(2) 2.751(3)

    Pt(2トCⅦ(1) 2.854(3)

    Pt(3) - Cu(2) 2.921(3)

    Pt(2)- Cu(2) 3.426(3)

    Pt(3)- Cu(1) 3.369(3)

    Cu(1) - Cu(2) 3・169(4)

    Cu(1) - S(ll) 2.419(6)

    Cu(1)- S(21) 2.298(6)

    Cu(1) - S(31) 2.234(6)

    Cu(2) - S(13) 2.569(6)

    CⅦ(2トS(24) 2.246(6)

    CⅦ(2トS(34) 2.270(6)

    Pt(1) - S(ll) 2.331(5)

    Pt(1) - S(12) 2.323(6)

    Pt(1) - S(13) 2.322(5)

    Pt(1トS(14) 2.322(6)

    Pt(2)-S(21) 2.345(5)

    Pt(2トS(22) 2.321(5)

    Pt(2)- S(23) 2.306(5)

    Pt(2)- S(24) 2.336(5)

    Pt(3)- S(31) 2.328(5)

    Pt(3)- S(32) 2.316(5)

    Pt(3) - S(33) 2.332(6)

    Pt(3トS(34) 2・348(5)

    2.772(2) 2・806(3)

    2.749(2) 2・737(3)

    2.765(2) 2・794(3)

    2.796(2) 2・849(3)

    3.455(1) 3・377(4)

    3.358(2) 3.394(3)

    3.239(2) 3・289(4)

    Z.461(3) 2・461(6)

    2.318(3) 2・313(6)

    2.254(3) 2・248(5)

    2.5 13(3) 2.520(6)

    2.263(3) 2.233(6)

    2.3 03(3) 2.298(6)

    Z.32β(3) 2.3 19(5)

    2.312(3) 2.31 1(5)

    2.326(3) 2.3 18(5)

    2.328(3) 2.322(5)

    2.331(3) 2.331(5)

    2.3 19(3) 2.326(6)

    2.303(3) 2.304(5)

    2.323(3) 2.332(5)

    2.323(3) 2.355(5)

    2.3 10(3) 2・297(6)

    2.3 12(3) 2.295(5)

    2.336(3) 2.370(6)

    -63-

  • i 2_ 7 [Pt3(S2CNR2)6Cu2]X2( R,X=Et, BF.(12):Pr', BF.(13);

    c6日ll,PF6(15Hにおける原子間距離/Åと角度/○ (つづき)

    R=Et(12) R=P{(13) R=C`Ⅱ11(15)

    S(11)-Cu(1)-S(21)

    S(ll)-CⅦ(1)-S(31)

    S(21)-Cu(1)-S(31)

    S(13 )-Cu(2)-S(24)

    S(1 3)-CⅦ(2)-S(34)

    S(24)-CⅦ(2)-S(34)

    99.7(2) 96・2(1)

    104.9(2) 106・8(1)

    148.0(2) 150・0(1)

    106.3(2) 104・3(1)

    102.5(2) 10 1・8(1)

    143.7(2) 149・5(1)

    96.2(2)

    108.7(2)

    149.9(2)

    1 09.2(2)

    94.9(2)

    149. 9(2)

    -64-

  • ]

    ⊂n

    Cn

    l

    ㊦ pt

    ㊤ Ag

    O S

    o C,N

    ㊦ pd

    ㊦ Ag

    O S

    o C,N

    ㊦ pt

    ① Cu

    O S

    o C,N

    ㊦ Pd

    ㊦ Cu

    O S

    o C,N

    図2・ ll M'-M'軸からみた複合錯体の構造・各複合錯体のアルキル基は省略した・ (a)【pt3(S2CNPr12)6Ag2】2十(2),

    (b)[Pd,(S2CNPri2)6Ag2]2'(7),(c)【Pt3(S2CNPri2)6Cu2]2十(13),(d)[Pd3(S2CNPrn2)6Cu2]2'(1 7)

  • 表2.8 ディスクリートな構造をもつ複合錯体における, M原子をとりまく4つの

    硫黄原子からなる最適平面からのM原子のずれ/A

    M-M'-R Pt-Ag-P( Pd-Ag-Pri pt-cu-Et Pt-Cu-P( Pt-Cu-C6HH Pd-Cu-Prn

    2 7 12 13

    型 ⅠⅠ ⅠⅠⅠ ⅠⅠⅠ ⅠⅠI

    M(1) 0.100 0.044 0.045 0.110

    M(2) 0.095 0.088 0.083 0.1 18

    M(3) 0.063 0.069 0.1 06

    15 17

    ⅠⅠⅠ ⅠⅠI

    0.141 0.029

    0.125 0.068

    0.111 0.049

  • 3.03(4)

    C103ニー・0(ll)I-A3.033(5)

    3.055(4) ノk8422:42;Pt(3)

    [Pt3(S2CN Bun2)6Ag2](CJO.)2(4)

    Pt(2)

    g(1-)

    3 ・ 002(2)

    pf(1'.) Pt(1)

    2.825 (4)

    [Pt,(S2CN Pr.2)6Ag2](BF.)2(2)

    図2. 12 複合錯体(4)およぴ(2)の部分的構造の模式図と原子間距離/A

    -67-

  • 2. 5 E S C A

    2.5,1測定機器

    島津製作所ESCA-850を用い, Mg-KcLを線源として測定を行った.サンプルは

    Spectra Tech in°.のQuikHan山一Pressを用い薄い板状にしたものを両面テープで専用

    のサンプルホルダーに固定した.複合錯体に含まれるアルキル基の炭素原子のピーク

    (CIs=284.OeV)を標準ピークとして用いた.

    2.5.2 測定結果と考察

    【M3(S2CNR2)6M'2】Ⅹ2 ( M-M')およびM(S2CNR2)2のE S C Aにおけるbinding

    energyの測定結果を表2. 9にまとめた. Pt-Ag系の複合錯体のPt 4f7/2のピークは

    72.1から72.3eVに観測された.これはPt(S2CNR2)2のそれらよりo.5から0.6eV高い

    エネルギーを示している. Ⅰ型に属するPtEt-AgC104 (1)も分子構造の違いによらず,

    ⅠⅠ型の複合錯体と同様の値を示した. ⅠⅠⅠ型に属するPt-Cu系の複合錯体のPt 4f7/2

    ちpt(S2CNR2)2のそれらよりo.5から0.6eV高いエネルギーを示している.パラジウム

    を含むpd-Ag系やPd-Cu系の複合錯体におけるPd 3d5′2のbinding energyは

    Pd(S2CNR2)2のそれらよりo.2から0.4eV高いエネルギーを示し,分子構造の種類には

    -68-

  • 依存していないと思われる.そして複合錯体(M-M')とM(S2CNR2)2のS2p3/2のbinding

    energyの差が0.1から0.6eVあり,特にM-Ag系の複合錯体の場合それが若しかった.

    しかしながら,これらのbinding energyの差は測定誤差よりわずかに大きい程度で

    あり複合錯体(M-M')におけるそれぞれの値を定量的に評価して,その金属原子間相互作

    用の強さを比較することは困難であった.

    結局, ESCAの測定結果からはジチオカルバマート錯体のM,S原子からMイオン

    へ電子密度が非局在化していることが定性的に確かめられた.

    -69-

  • 表2. 9 【M。(S2CNR2)。M'2】X2,のBindingenergy/eV

    Binding energy / eV

    (1)

    (2)

    ⅠⅠ

    !l

    ;コE

    く>

    ll

    M

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    Pt

    M'

    Ag

    Ag

    Ag

    Ag

    Cu

    Cu

    Cu

    Cu

    【M3(S2CNR2)6M 2】Ⅹ2

    R X

    Et CIO4

    Pri B F4

    Prn BF4

    Bun CIO4

    Et BF4

    Pri BF4

    Pri PF6

    C6Hll PF6

    Et

    Pri

    Prn

    Bun

    (4) ⅠⅠ

    (12) ⅠⅠⅠ

    (13) ⅠⅠⅠ

    (15) ⅠⅠⅠ

    P軒Ag 3d引2

    72.1 368.1

    72.2 368.1

    72.3 368.1

    72.3 368.1

    72.1

    72.2

    72.2

    72.0

    71.6

    71.6

    71.6

    71.8

    Cu Spa/2 S 2p3/2

    162.3

    162.3

    162.4

    162.4

    932.8 162.6

    933.0 162.5

    933.1 162.4

    932.8 162.4

    162.0

    162.0

    162.0

    162.0

  • 表2. 9 [M3(S2CNR2)6M'2]X2,のBindingenergy/eV (つづき)

    【M3(S2CNR2)6M2】 Ⅹ2

    R X

    Et CIO4 (6)

    Pri BF4 (7)

    Prn CIO4

    -、一トー■

    l

    M

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    Pd

    哩.Ag

    Ag

    Ag

    Ag

    Cu

    Cu

    Cu

    Cu

    Pd Sdら/2

    337.1

    337.1

    337.2

    337.1

    337.1

    337.1

    337.1

    337.0

    336.9

    336.6

    336.9

    336.8

    Binding energy / eV

    Ag 3d5/2 Cu Spa/2 S 2p3/2

    Bun BF4

    Prn BF.1

    P∫n PF6

    Bun BF4

    C6Hll BF4

    Et

    Pri

    PI・n

    Bun

    367.9

    367.9

    368.0

    368.0

    162.1

    161.8

    162.0

    162.0

    932.8 162.1

    932.7 162.2

    932.8 162.2

    932.7 162.2

    161.8

    161.7

    161.7

    161.8

  • 2. 6 195p I NMR

    2.6.1測定機器

    195Pt NMRは日本電子JEOL GX-400 FT NMR spectrometerを用い, K2PtC14の重

    水溶液を外部標準とした.サンプルはPトAg系では¢), (5), Pt-Cu系では(14)お

    よび(14)とはカウンターアニオンが異なるPt3(S2CNBun2)6Cu2】O'F6)2の塩化メチレン

    溶液を用い測定を行った.

    2.6.2 測定結果と考察

    (4)の塩化メチレン溶液は室温にて・3348ppmに195Pt-107,109Agのカップリング定数が

    194Hzの1:2:1のトリプレットのシグナルを示した(固2. 13)19).この結果は(2)の.

    分子構造,つまり3つの白金原子が2つのほぼ等価な銀(Ⅰ)イオンと相互作用しているこ

    と,に一致している.これに対し(5)の塩化メチレン溶液は室温ではブロードな1本の

    シグナルが,-50oCでは-3361ppmにブロードな1:2: 1のトリプレット(∫(Pt-Ag)が

    約200Ⅲz)のシグナルが観測された. X線構造解析により(5)はAg-Ag軸の一方にC104・

    が配位した分子構造をもつことが明らである.よって,この様な温度に依存したシグナ

    ルの変化はC1041の銀0イオンへの配位の交換による平衡,もしくは銀0イオンの分

    -72-

  • 子間交換反応を示していると考えられる.一方, pトCu系の複合錯体の塩化メチレン

    溶液中におけるシグナルは1本のみで-3553 ppm付近に観測された. -50oCまで温度

    を下げてもブロード化するだけで分裂は起こらなかった. PトCu系の複合錯体の分子

    構造はⅠⅠⅠ型で,構造的に非等価な状態にある白金原子が溶液中で固まらなかったため

    か,根本的に溶液中�