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HLAホモ接合体iPS細胞 臓器移植と造血幹細胞移植からの 移植免疫学的考察 東海大学医学部再生医療科学 客員教授 加藤俊一 1 24回幹細胞・再生医学戦略作業部会 平成291213文部科学省

HLAホモ接合体iPS細胞N Engl J Med 2013;369:1215-26 * DSA :ドナー特異的抗体 C1 q:補体第1成分 DSA - DSA +、 C1q- DSA +、 C1q+ • 補体結合性のドナー特異的抗HLA抗体を有する患

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HLAホモ接合体iPS細胞

臓器移植と造血幹細胞移植からの移植免疫学的考察

東海大学医学部再生医療科学 客員教授 加藤俊一

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第24回幹細胞・再生医学戦略作業部会 平成29年12月13日 文部科学省

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テキスト ボックス
資料2-2
Page 2: HLAホモ接合体iPS細胞N Engl J Med 2013;369:1215-26 * DSA :ドナー特異的抗体 C1 q:補体第1成分 DSA - DSA +、 C1q- DSA +、 C1q+ • 補体結合性のドナー特異的抗HLA抗体を有する患

HLAとは

• ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、第6染色体短腕部

にある遺伝子群(主要組織適合遺伝子複合体)で規定される

• クラスⅠ抗原(A,B,C)とクラスⅡ抗原(DR,DQ,DP)がある

• これらの遺伝子群は数珠つなぎ (ハプロタイプ)で親から子へ遺伝 • 臓器移植や造血幹細胞移植におい

てはドナーとレシピエント間でHLAを適合させる必要がある

親子間でのHLAの遺伝

父親 母親

a/b c/d

子ども1a/c

子ども2a/d

子ども3b/c

子ども4b/d

a、b、c、d:ハプロタイプ 2

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臓器移植と造血幹細胞移植の異同

臓器移植 造血幹細胞移植

移植片 (graft)

臓器 (心臓、肝臓、腎臓など)

造血幹細胞 (骨髄、末梢血、臍帯血など)

HLA適合 不一致でも可能 完全一致が望ましい

移植免疫反応 拒絶が主体 GVHD*が主体

免疫抑制療法 生涯にわたって必要 移植後数ヶ月~数年

バンク 患者を登録して ドナーを待つ

ドナーを登録して 患者を待つ

*GVHD:移植片対宿主病 3

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各種同種移植の比較 移植片 HLA適合 前処置 投与後の

免疫抑制 長期生着

臓器移植 (腎、心、肝、膵、肺、他)

固形臓器 (全体、部分) 一致~不一致 原則なし 原則終生 70~95%

造血幹細胞 移植

骨髄幹細胞 一致 骨髄破壊的 ~ 非破壊的

数ヵ月 ~

数年

ほぼ100%

末梢血幹細胞 一致 ほぼ100%

臍帯血幹細胞 一致~部分一致 70~90%

輸血 全血、成分 不一致 なし なし なし

*血縁者間 新鮮血 ハプロ一致 なし なし ホ モ → ヘ テ ロ で

GVHD(致命的)

間葉系幹細胞移植・治療

MSC 不一致 なし なし なし(短期あり)

*テムセル 不一致 なし 併用あり なし 4

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1週 数週 数ヶ月 数年

移植後の期間

急性GVHD 慢性GVHD患者の造血

ドナー由来の造血

前処置 GVHD予防

造血細胞移植

造血幹細胞移植の原理

*GVHD:移植片対宿主病 5

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拒絶・GVHDに関与する免疫機構 1.獲得免疫(Adaptive immune system) ・T細胞 ・B細胞 2.自然免疫(Innate immune system) ・NK細胞 ・樹状細胞、マクロファージ、好中球、肥満細胞 3.液性因子 ・抗体(DSA:ドナー特異的抗体、自然抗体) ・補体 ・サイトカイン

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臓器移植;拒絶 と GVH(移植片対宿主反応)

宿 主 T細胞++

移植片 T細胞-

拒 絶

GVH

免疫抑制不十分

宿 主 T細胞+

移植片 T細胞-

GVH

免疫抑制十分 拒絶

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造血幹細胞移植;拒絶とGVH

宿 主 T細胞-

移植片 T細胞+

拒絶

GVH

宿 主 T細胞-

移植片 T細胞-

拒絶

GVH

T細胞除去造血幹細胞移植

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通常輸血;拒絶とGVH HLA不一致

宿主AB T細胞++

輸血CD T細胞±

拒 絶

GVH

宿主AB T細胞+

輸血AA T細胞++

GVH

拒絶

新鮮血輸血後の拒絶とGVH HLAホモ→ヘテロ

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腎臓移植における拒絶反応 機 序 対 策

超急性 (24時間以内)

抗体 ・自然抗体 ・ABO式凝集素 ・抗HLA抗体

血液型適合ドナー DSAドナーを避ける 血漿交換±摘脾 リツキシマブ脱感作

急性 (1週~3ヵ月)

T細胞 ・直接認識 ・間接認識

免疫抑制剤

慢性 (3ヵ月以降)

抗体 (詳細機序不明)

免疫抑制剤 血漿交換

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死体腎移植:HLA不適合数と拒絶 (米国、成人189,141人、1987~2013)

Williams RC: Transplantation 2016;100: 1094–1102

• HLAの不適合数が増加するほど拒絶が多くなる

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腎移植におけるNK細胞と拒絶 • Low NK cell inhibition(rKIR2DL1/dHLA-C2または

rKIR3DL1/dHLA-Bw4を欠く)では慢性拒絶が増加。 • 相関がないとする報告もある。

Littera R: PLoS One 2017;12:e0180831

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腎移植における抗HLA抗体と拒絶

Loupy A: N Engl J Med 2013;369:1215-26 *DSA:ドナー特異的抗体 C1q:補体第1成分

DSA-

DSA+、C1q-

DSA+、C1q+

• 補体結合性のドナー特異的抗HLA抗体を有する患者では拒絶が有意に増加する

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臍帯血移植におけるHLA適合と生着

好中球 血小板

Kanda J: Biol Blood Marrow Transplant 2013;19:247-254

双方向HLA一致

双方向HLA一致

拒絶方向 0ミスマッチ GVH方向 1-2ミスマッチ

拒絶方向 0ミスマッチ GVH方向 1-2ミスマッチ

• HLA適合と生着(好中球、血小板)は相関するが、拒絶方向0ミスマッチ、GVH方向1-2ミスマッチの症例では双方向マッチと同等の生着率であった。

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臍帯血移植における抗HLA抗体と生着 0.

000.

250.

500.

751.

00

0 20 40 60 80 100analysis time

Neutrophil recovery好中球生着

Takanashi M: Blood 2010;116: 2839-46 *DSA:ドナー特異的抗体

HLA抗体+、DSA+

HLA抗体- HLA抗体+、DSA-

• 患者に抗HLA抗体があると生着率が低く、とくにDSA抗体の場合は有意に拒絶が増加していた。

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Q:HLAホモ接合体 iPS細胞は ヘテロ接合体の患者に生着するか

1.T細胞による拒絶

• HLA抗原に対する「非自己」の認識が働かないため、拒絶は起こりにくいと推定。

• 非HLAのマイナー抗原に対するT細胞免疫反応は起こりうるので、十分な免疫抑制は必要。

• 移植されるiPS細胞中にT細胞(やNK細胞)が含まれると、致命的なGVHDが起こる可能性があるので、十分に注意する必要がある。

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Q:HLAホモ接合体 iPS細胞は ヘテロ接合体の患者に生着するか

2.NK細胞による拒絶

• 日本人においてはKIRリガンド不適合は少数であり、適合例においては拒絶は起こりにくいと推定。

• しかし、KIR不適合例においては注意が必要かもしれない。

3.抗HLA抗体による拒絶

• ヘテロ接合体患者はホモ接合体HLAに対する抗体は産生しないので、抗HLA抗体による拒絶は起こらない。

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個人的見解のまとめ • 同種iPS細胞が免疫学的に正常~抑制された

患者に生着しうるかどうかについては不明な点が多く、既存の臓器移植や造血幹細胞移植の経験から推論するしかない。

• HLAホモ接合体ドナーから作製したiPS細胞が

そのハプロタイプを有するヘテロ接合体患者に生着しうるかについても不明な点が多いが、 「適切な免疫抑制下において生着する可能性がある」と推論される。

• HLAマッチにおいてはミスマッチよりも免疫抑制剤を低減できるかもしれない。 18