26
我が国の地方圏を中心として地域の経済が低迷しているなかで,国・自治体によって地 方創生等の地域経済再生政策が取り組まれている。我が国の地域経済の低迷は,公共事業 の縮減や工場の海外移転等の外的な面と,生産→分配→支出の三つの側面で所得が流出す る地域経済の内的な面の2つの要因があり,本稿では,このような要因を十分踏まえて地 域経済対策を検討するために,地域経済の強み・弱み,所得の流出入の分析手法を提案す る。この所得の流出入の推計手法は,属人と属地のデータを用いて推計する地域経済分析 の新たな手法であり,本稿では全国の市町村に対して属人と属地のデータを作成し,これ らを用いて金沢市,富山圏域,石垣市の3つの地域で事例分析を行った。 この結果,観光地において多額の観光消費が地域に流入しても地域の所得循環構造がで きていないと地域住民には還元されないこと,地域企業の活躍が少ないと生産面で稼いだ 所得が外部に漏れてしまうこと,そして製造業の生産性が高い地域では設備投資需要が旺 盛で設備投資が流入していること,さらに地方圏では雇用者所得以外の所得に占める財政 移転の割合がかなり高く,財政移転によって所得が確保されている地域が散見されてお り,このような地域では支出面,生産面で所得が流出しており,自地域の稼ぐ力の向上に 寄与していない地域もあることがわかった。 キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL ClassificationH71, H72, R15 要  約 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 地方創生における新たな地域経済分析手法*1 山崎 清 *2 佐原 あきほ *3 山田 勝也 *4 *1 本稿の作成にあたっては「平成27年度 地域経済循環分析DBJ 有識者検討会(座長 樋口美雄 慶応義塾 大学 商学部教授)」において検討された内容を含んでおり,有識者検討会の委員でもある中村良平岡山大学 教授,小池淳司 神戸大学教授,佐野修久 釧路公立大学地域経済研究センター長 教授,寺崎友芳 京都産 業大学経済学部教授から示唆に富むご指摘,ご意見を多数頂いた。また,実際の地域経済循環分析を行うにあ たり,環境省総合環境政策局総務課 大倉紀彰課長補佐(総括),内閣官房まち・ひと・しごと創生本部 早 田豪前ビッグデータチーム長代理,西川和宏前企画官,地域の金融機関の方々からも多数の有益なコメントを 頂いた。ここに記して心より感謝申し上げる。 *2 博(工)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部長  主席研究員(e-mail kiyoshi_yamasaki@vmi.co.jp*3 修(経済)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部  副主任研究員 *4 修(工)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部  研究員 <財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 29 年第3号(通巻第 131 号)2017 年6月> -97-

地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

我が国の地方圏を中心として地域の経済が低迷しているなかで,国・自治体によって地方創生等の地域経済再生政策が取り組まれている。我が国の地域経済の低迷は,公共事業の縮減や工場の海外移転等の外的な面と,生産→分配→支出の三つの側面で所得が流出する地域経済の内的な面の2つの要因があり,本稿では,このような要因を十分踏まえて地域経済対策を検討するために,地域経済の強み・弱み,所得の流出入の分析手法を提案する。この所得の流出入の推計手法は,属人と属地のデータを用いて推計する地域経済分析の新たな手法であり,本稿では全国の市町村に対して属人と属地のデータを作成し,これらを用いて金沢市,富山圏域,石垣市の3つの地域で事例分析を行った。

この結果,観光地において多額の観光消費が地域に流入しても地域の所得循環構造ができていないと地域住民には還元されないこと,地域企業の活躍が少ないと生産面で稼いだ所得が外部に漏れてしまうこと,そして製造業の生産性が高い地域では設備投資需要が旺盛で設備投資が流入していること,さらに地方圏では雇用者所得以外の所得に占める財政移転の割合がかなり高く,財政移転によって所得が確保されている地域が散見されており,このような地域では支出面,生産面で所得が流出しており,自地域の稼ぐ力の向上に寄与していない地域もあることがわかった。

キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析JEL Classification:H71, H72, R15

要  約

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―*1

山崎 清*2

佐原 あきほ*3

山田 勝也*4

*1  本稿の作成にあたっては「平成27年度 地域経済循環分析DBJ有識者検討会(座長 樋口美雄 慶応義塾大学 商学部教授)」において検討された内容を含んでおり,有識者検討会の委員でもある中村良平岡山大学教授,小池淳司 神戸大学教授,佐野修久 釧路公立大学地域経済研究センター長 教授,寺崎友芳 京都産業大学経済学部教授から示唆に富むご指摘,ご意見を多数頂いた。また,実際の地域経済循環分析を行うにあたり,環境省総合環境政策局総務課 大倉紀彰課長補佐(総括),内閣官房まち・ひと・しごと創生本部 早田豪前ビッグデータチーム長代理,西川和宏前企画官,地域の金融機関の方々からも多数の有益なコメントを頂いた。ここに記して心より感謝申し上げる。

*2  博(工)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部長 主席研究員(e-mail [email protected]

*3  修(経済)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部 副主任研究員

*4  修(工)株式会社価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)パブリックコンサルティング第4事業部 研究員

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-97-

Page 2: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

Ⅰ.はじめに

1)面積は「統計で見る市区町村のすがた」,人口は「住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世帯数」,就業者は「労働力調査」,GDPは「県民経済計算」,預金・貸出金は日本銀行「都道府県別預金・現金・貸出金」,本社部門の移出額は「東京都産業連関表」である。

本稿では,地方創生及び地域活性化の対策を検討するための新たな地域経済分析手法を提案する。我が国の地域経済の低迷の要因は,少子高齢化と東京一極集中による地域の人口減少問題と地方圏のサービス経済化等の外的な要因と,地域の経済循環構造そのものの内的な要因があり,それらに対処すべく地方創生等の政策的な動きが広がっている。

本稿では,地域経済における長所や短所,所得の流出入を把握する手法を開発し,そして,本手法を全国の地域で分析を可能とするためのデータを作成する。さらに,実際の地域に分析手法を適用し,地域の課題等を把握することを目的とする。このように本稿は包括的かつ実践的な地域経済分析の手法であり,実際の地域の経済政策の立案を想定している。ただし,作成

した経済データは全てノンサーベイのデータであり,全数調査で作成されたデータとは異なる。その意味では,精緻な分析というよりも地域経済の概観を把握し,対策の方向性を検討するための基礎的な分析という位置づけになる。

本稿の構成は以下のとおりである。Ⅱでは地域経済の低迷要因と地方創生の対策を検討するための地域経済循環分析の要件について示す。Ⅲでは地域経済循環分析手法の開発として,地域経済循環構造について示し,地域経済循環手法について説明する。その後,地域経済循環分析を全国の地域で適用するためのデータを作成する。さらに,Ⅳでは実際に金沢市,富山圏域,石垣市の3つの地域で適用し,本稿で提案している地域経済循環分析の概略について説明し,最後にⅤにおいて本稿のまとめを記述している。

Ⅱ.地域経済の低迷要因と地域経済循環分析手法の要件

Ⅱ-1.地域経済低迷要因地域経済低迷の要因は我が国や世界経済の変

動等の地域から見て外的な要因と地域の経済構造そのものの内的な要因がある。

まず,外的な要因としては大きく2つあり,1つ目は地方圏の人口減少と東京圏への一極集中である。我が国は少子高齢化,人口減少に入り,その傾向は地方圏で顕著であり,地方経済の供給と需要の両面において縮小均衡状態にな

りつつある。一方,東京圏には人口,就業者数の約28%,GDPの約32%が集中しており,預金に関してもGDPの割合を大きく上回る約44%となっている。さらに,貸出金については全国の半分以上が東京圏に貸し出されている状況であり,資金面での一極集中が顕著である。この一極集中の構造下で,全国の本社機能の約50%程度が東京都に立地しており,本社部門の移出額は約20兆円に上っている1)。

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-98-

Page 3: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

2つ目が,地方圏のサービス経済化である。地方における工場の海外移転や公共事業の縮減等によって製造業等の雇用が縮小したが,その縮小分を宿泊,運輸サービス,医療・福祉等の労働集約型産業で吸収した。つまり製造業,建設業からサービス業,特に,労働集約型サービス業に産業構造が転換し,地方のサービス産業化が進展した。これらの労働集約型サービス産業は労働生産性が他産業と比較して低く,従業者の賃金も低い場合があり,地域経済の低迷につながっている。

上記の外的な要因に加え,地域の経済構造そのものの内的な要因もある。多くの地方圏(地域)では,所得の循環がうまく機能せず,生産,分配,支出(消費,投資)で,地域外に所得が流出し,地域住民の所得増加につながっていない地域もある。例えば,大都市資本の先端工場の誘致に成功し,生産面の付加価値は大幅に増加しても大都市圏の本社等への企業所得,財産所得の移転などによって地域の住民の所得向上につながらないこともある。また,分配面において,地域で生産・販売して得た所得に財政移転等がプラスされ大きな所得が得られても,消費や投資等の支出をする際にも所得の流出入が起こる可能性もある。消費の場合には非日常的な活動である観光客の流出入,日常的な買物行動等の流出入である。設備投資の流出は,地域の企業や家計などの経済主体が自身で得た所得で地域外に設備や住宅,事務所等を設置することである。

このように地域の所得は,家計や企業の経済主体が行政界を意識せずに行動することで地域外との流出入が起こり,流出超過の場合には,地域が縮小均衡に向かっている可能性がある。地域には市町村,都道府県などの行政界が存在し,行政活動は行政界で行われるものの,行政活動以外の経済活動は基本的に行政界に依存せずに行われている。これらは勤務地と居住地の違い,居住地と買物地の違い等の経済活動の場の違いに依存するものであり,地域経済の分析はこのように各経済活動の空間の相違が所得の

流出入の原因となっている。

Ⅱ-2.地方創生等の政策的な動き地域経済の低迷は我が国の経済全体の低迷で

もあり,これに対処すべく地方創生や地域金融の改革が始まっている。地方創生は人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し,政府一体となって取り組み,各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指し,平成26年にまち・ひと・しごと創生法が制定され,まち・ひと・しごと創生本部が設置された。そして,日本の人口の現状と将来の姿を示し,今後目指すべき将来の方向を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(長期ビジョン)」及びこれを実現するため,今後5か年の目標や施策や基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)」が平成26年12月27日に閣議決定された。さらに,これらの政策パッケージ・個別施策の対応方向をとりまとめた

「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」が平成28年6月に閣議決定された。「まち・ひと・しごと創生総合戦略2015 改

訂版」では,企業収益の改善が賃金上昇や雇用拡大につながり,消費の拡大や投資の増加を通じて更なる企業収益の拡大に結び付くという地域経済の好循環を,地方においても実現することを求めており,好循環を構築することで,ローカルアベノミクスの実現に向けて人材と資金を全国津々浦々に行きわたらせることを目指している。

上記の地方創生の動きと連動して,地域金融の分野でも地域経済の再生が焦点の1つとなっている。平成27年に示された「平成27事務年度 金融行政方針」において,地域に密着した地域金融機関については,地域経済や地場の産業・企業の発展に貢献することが自らの経営の健全性の確保にもつながり,営業地域における顧客層のニーズを的確に捉えた商品・サービスの提供を行うとともに,地域の経済・産業を支えていくことが求められている。さらに,担

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-99-

Page 4: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

保・保証に依存する融資姿勢を改め,取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価し,融資や本業支援等を通じて,地域産業・企業の生産性向上や円滑な新陳代謝の促進を図り,地方創生に貢献していくことが期待されている。

また,「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 平成27年4月」においても顧客企業の創業・起業などのライフステージに合わせたソリューションなどが示されている。さらに,「金融仲介機能のベンチマーク 平成28年9月」では地域企業とのリレーションが重視されているところであり,地域金融面においてリレーショナルバンキングの流れを踏襲した地域経済への貢献が引き続き重視されている。

Ⅱ-3.地域経済分析手法の要件上記のような問題意識を踏まえ,地域経済政

策を立案するための分析を行うためには以下の要件が必要である。

Ⅱ-3-1.経済メカニズムからの要件地域経済分析手法に関して,地域経済のメカ

ニズムからの要件は,大きく3つある。1つ目は,ローカルアベノミクスの観点で分配面の分析である。地域の経済政策は最終的には地域の住民の厚生向上に貢献するためであり,住民の所得を測る分配面の分析は不可欠である。従来の我が国の地域活性化の視点は企業の販売額や生産額,そして,生産性の視点での分析が多く,地域経済の分配面や支出面を網羅的に分析している例はほとんどない。

2つ目は,地域の所得の再分配の分析である。地域には行政界や国境などの境界が存在し,複数のゾーンの相互関係を分析することは,国際経済学と地域経済は同様であるが,地域経済は同一国内であり,政府による財政移転が存在することが国際経済との大きな違いである。具体的には,経済が自立している大都市部から経済が自立していない地方部への交付税,補助金などの財政移転があり,最終的には,全

国的に所得が平準化される構造になっている。本稿での所得の流出入の分析にはこのような財政移転も含んだ分析となっている。

そして,3つ目は,属人と属地の分析である。地域経済を地域という「場(面)≒属地」で見るのか,それとも地域の住民などの「主体

(人)≒属人」で見るのかは大きな違いである。例えば,観光地において膨大な観光客入込客数があり,地域の賑わいがあり,観光消費も膨大な額であっても,食材や物品の調達が地域外からであれば観光消費の多くが地域外に流出する。また,宿泊業も大都市資本であれば,企業所得として大都市に移転されるため,地域の賑わいと比べても住民の所得は低い場合がある。

Ⅱ-3-2.経済データからの要件また,経済データからの要件も大きく3つあ

る。1つ目が地域経済を包括的に分析する単位は市町村であり,市町村単位の生産,分配,支出を網羅した経済データが必要となる。これは市町村の役所や商工会等が地域経済政策の立案機能の最小単位のためであり,従来,市町村単位で経済分析するためには,経済センサス,工業統計等の生産面を分析するデータは存在するが,分配面,支出面での分析は困難であった。

2つ目は,市町村単位でデータが揃っていないため,地域独自で産業連関表等のデータを作成して分析しても他地域との比較が困難となる。地域間での比較をするためにも全国を網羅したデータが必要である。

そして,3つ目が地域経済と一国の経済政策は連動しており,一国の政策が地域経済に及ぼす影響を把握可能にすることが必要である。その観点からは経済センサスの付加価値は国民経済計算における付加価値とは異なっており,固定資本減耗や公務などが考慮されていない。また,県民経済計算の都道府県の付加価値の総和と国民経済計算の付加価値が整合していない。更に,都道府県において都道府県産業連関表と市町村民計算が整合していない場合も多い。

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-100-

Page 5: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

Ⅲ.地域経済循環分析手法の開発

Ⅲ-1.地域経済循環構造地域経済循環構造と地域経済循環分析の視点

を図1に示す。この地域経済循環構造については中村(2014)や経済産業省(2006)において詳細に示されており,本稿においても,基本的にはこれらの考え方を踏襲している。地域経済循環分析は前述のとおり,市町村や都市圏の単位で生産,分配,支出の三面で分析するものである。生産は地域の企業,事業所が生産・販売を行って所得を稼ぐことであり,この生産面で稼いだ所得が家計や企業に分配される。そして,分配された所得を消費や投資等で支出することになる。更に,支出面で消費や投資された所得が生産面に還流されることになる。ここまでは一国のマクロ経済と同様である。

地域の経済分析の場合には図1のように,生産面での所得の獲得,生産から分配に至るプロセスでの所得の流出入,そして,支出面での所

得の流出入等があることが特徴である。これを図1の視点に沿って示していく。生産面の視点1であるが,これは生産・販売の際の地域の移輸出入を示しており,地域外からの所得の獲得を示すものである。基本的には地域で比較優位な産業で地域外から稼ぎ,不得意な産業は地域から購入することを考える。ただし,域外との財・サービスの取引だけでなく,域内への取引

(域内調達)も重要な観点である。次に,視点2は生産から分配に至る過程での

所得の流出入である。例えば,地方の場合には域外への所得の流出は大都市圏の本社への企業所得や財産所得があり,流入は国や都道府県からの補助金,交付金などの財政移転が存在する。

視点3は消費の流出入であり,消費の流出入は非日常,日常の2つが存在する。非日常の流出入は観光によるものであり,観光客の流入に

図1 地域経済循環構造と地域経済循環分析の視点

5

あり、この生産面で稼いだ所得が家計や企業に分配される。そして、分配された所得を消費や投資等

で支出することになる。更に、支出面で消費や投資された所得が生産面に還流されることになる。こ

こまでは一国のマクロ経済と同様である。

地域の経済分析の場合には図1のように、生産面での所得の獲得、生産から分配に至るプロセス

での所得の流出入、そして、支出面での所得の流出入等があることが特徴である。これを図1の視

点に沿って示していく。生産面の視点1であるが、これは生産・販売の際の地域の移輸出入を示し

ており、地域外からの所得の獲得を示すものである。基本的には地域で比較優位な産業で地域外か

ら稼ぎ、不得意な産業は地域から購入することを考える。ただし、域外との財・サービスの取引だ

けでなく、域内への取引(域内調達)も重要な観点である。 次に、視点2は生産から分配に至る過程での所得の流出入である。例えば、地方の場合には域外

への所得の流出は大都市圏の本社への企業所得や財産所得があり、流入は国や都道府県からの補助

金、交付金などの財政移転が存在する。 視点3は消費の流出入であり、消費の流出入は非日常、日常の2つが存在する。非日常の流出入

は観光によるものであり、観光客の流入によって観光消費が活発化し、所得が流入する。日常の流

出入は主に日常の買物である。この日常の買物はコンパクトシティ政策と関連するものである。街

なか居住が促進され、中心市街地が活性化し、公共交通網が整備され、コンパクトな都市が形成さ

れることで日常の消費の流出が抑えられ、むしろ、地域外から所得が流入する可能性もある。その

意味では地域経済循環構造で前提とされる都市構造はコンパクトシティである。ただし、後述のよ

うに消費が流入しても、供給サイドが労働集約型サービス業のように労働生産性が低い場合にはボ

ーモル効果が発現し、むしろ全体の生産性を低下させる可能性もある。 

視点4は設備投資である。設備投資は事務所や機械設備等を設置することであり、投資の流出とは

地域内の所得で、地域外に事務所や機械設備を設置することになる。このように地域外に設備を設置

することで、地域内の所得が地域外の生産増加に寄与することになり、地域内外で関連が無い場合に

は、地域内への生産増加には寄与しないことになる。地域経済を活発化するためには視点1~4で所

得を流入超過にして、所得を循環させることである。

 図1 地域経済循環構造と地域経済循環分析の視点 

生産・販売

分配(家計・企業)

支出(消費・投資)

視点1:域外から所得の獲得

視点 :消費

所得

視点 :投資

視点 :生産から分配

域外へ流出 域内に流入

域外へ流出

所得

所得域内に流入

移輸入(所得の流出)

移輸出(所得流入)域内調達 ?

域内に流入

域外へ流出

地域において地域企業・事業所が生産・販売を行い、所得を稼ぐ

生産で稼いだ所得を地域の住民、企業に分配する

分配された所得を用いて、消費や投資に支出する

所得の域内への流入

所得の域外への流出

所得の流れ:好循環構造(生産�分配�支出)

生産・販売への還流 地域内に支出(消費、投資等)

することで生産・販売へ還流する。

  

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-101-

Page 6: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

よって観光消費が活発化し,所得が流入する。日常の流出入は主に日常の買物である。この日常の買物はコンパクトシティ政策と関連するものである。街なか居住が促進され,中心市街地が活性化し,公共交通網が整備され,コンパクトな都市が形成されることで日常の消費の流出が抑えられ,むしろ,地域外から所得が流入する可能性もある。その意味では地域経済循環構造で前提とされる都市構造はコンパクトシティである。ただし,後述のように消費が流入しても,供給サイドが労働集約型サービス業のように労働生産性が低い場合にはボーモル効果が発現し,むしろ全体の生産性を低下させる可能性もある。

視点4は設備投資である。設備投資は事務所や機械設備等を設置することであり,投資の流出とは地域内の所得で,地域外に事務所や機械設備を設置することになる。このように地域外に設備を設置することで,地域内の所得が地域外の生産増加に寄与することになり,地域内外で関連が無い場合には,地域内への生産増加には寄与しないことになる。地域経済を活発化するためには視点1~4で所得を流入超過にして,所得を循環させることである。

ここで,地域経済循環構造から見た典型的な悪循環構造のイメージについて示す。図2の左側は先端企業を中心とした製造業特化型地域で

あり,企業城下町に見られる構造である。生産面では先端企業の高い生産性を活かし,地域外から所得を稼ぐが,地域住民への分配へのプロセスで,企業所得,財産所得等で大都市圏の本社等へ所得が流出する。また,消費面では域外への観光や買物に行くことなり,更に,稼いだ所得によって,地域外へ機械設備等を設置することもある。このようにして,生産で大きく所得が流入しても分配,支出面で所得が大きく流出しており,地域の住民の所得は上昇しない。

図2の右側は観光や財政移転に依存した地域の悪い例である。ここでは生産面では稼ぐ力は小さく,自地域の稼ぎでは地域の住民の所得を賄えておらず,国や都道府県からの補助金,交付金等の財政移転によって,地域経済が保たれている。そして,支出面では観光客の流入によって所得が流入している。しかしながら,それらで得られた所得によって地域外の機械設備や事務所が設置されて所得が流出する。そして,生産面への還流もわずかである。

Ⅲ-2.地域経済循環分析手法Ⅲ-2-1.地域経済循環分析の分析項目

地域経済循環構造において,地域の長所及び短所,そして,地域の所得の流出入を分析するための主な項目は図3のとおりである。地域経済の分析が図3で完全というものではないが,

図2 地域経済循環構造の悪循環構造のイメージ

6

ここで、地域経済循環構造から見た典型的な悪循環構造のイメージについて示す。図2の左側は先

端企業を中心とした製造業特化型地域であり、企業城下町に見られる構造である。生産面では先端企

業の高い生産性を活かし、地域外から所得を稼ぐが、地域住民への分配へのプロセスで、企業所得、

財産所得等で大都市圏の本社等へ所得が流出する。また、消費面では域外への観光や買物に行くこと

なり、更に、稼いだ所得によって、地域外へ機械設備等を設置することもある。このようにして、生

産で大きく所得が流入しても分配、支出面で所得が大きく流出しており、地域の住民の所得は上昇し

ない。

図2の右側は観光や財政移転に依存した地域の悪い例である。ここでは生産面では稼ぐ力は小さく、

自地域の稼ぎでは地域の住民の所得を賄えておらず、国や都道府県からの補助金、交付金等の財政移

転によって、地域経済が保たれている。そして、支出面では観光客の流入によって所得が流入してい

る。しかしながら、それらで得られた所得によって地域外の機械設備や事務所が設置されて所得が流

出する。そして、生産面への還流もわずかである。

 図2 地域経済循環構造の悪循環構造のイメージ 

 

 Ⅲ-2.地域経済循環分析手法 Ⅲ-2-1.地域経済循環分析の分析項目 

地域経済循環構造において、地域の長所及び短所、そして、地域の所得の流出入を分析するための

主な項目は図3のとおりである。地域経済の分析が図3で完全というものではないが、これらの項目

があれば、地域経済循環構造の概観を分析することが可能である。

生産面では稼ぐ力を分析することになるが、比較優位な産業を特化係数で、地域で絶対優位な産

業を労働生産性で、地域外から稼いでいる産業を純移輸出で示していく。さらに、地域の核となる

産業を地域産業連関表を用いて感応度係数及び影響力係数を用いて分析する。 

分配面では、生産から分配までの所得の流出入、地域経済の自立性について示し、住民1人当たり

の所得、財政移転の状況について示す。この分配面の分析は属人の分析が主であり、所得の流出入も

属人で分析しており、分配面の指標が地域経済政策の主要な成果指標であると考えている。そして、

支出面では家計の消費と消費の流出入、企業の設備投資と設備投資の流出入について示す。ここでの

流出入は後述のように生産面の還流を意識して、属地ベースで測っている。

 図3 地域経済循環分析の項目について 

生産・販売

所得

所得

地域外への販売所得

所得

所得

企業所得、財政移転財政移転は補助金、交付税などの国・都道府県からの所得移転

消費(観光、買物等)

設備投資等

所得

所得

大都市圏等の本社等へ

先端企業を中心とした製造業特化型地域の悪い例

所得

分配

支出 生産・販売

分配

支出

所得

所得

地域外への販売

所得

所得

企業所得、財政移転

財政移転は補助金、交付税などの国・都道府県からの所得移転

消費(観光、買物等)

設備投資等

所得

所得

所得所得

地域外サービスを購入

所得

観光や財政移転に依存した地域の悪い例

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-102-

Page 7: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

これらの項目があれば,地域経済循環構造の概観を分析することが可能である。

生産面では稼ぐ力を分析することになるが,比較優位な産業を特化係数で,地域で絶対優位な産業を労働生産性で,地域外から稼いでいる産業を純移輸出で示していく。さらに,地域の核となる産業を地域産業連関表を用いて感応度係数及び影響力係数を用いて分析する。

分配面では,生産から分配までの所得の流出入,地域経済の自立性について示し,住民1人当たりの所得,財政移転の状況について示す。この分配面の分析は属人の分析が主であり,所得の流出入も属人で分析しており,分配面の指標が地域経済政策の主要な成果指標であると考えている。そして,支出面では家計の消費と消費の流出入,企業の設備投資と設備投資の流出入について示す。ここでの流出入は後述のように生産面の還流を意識して,属地ベースで測っている。

Ⅲ-2-2.所得の流出入の推計方法本稿の地域経済循環分析のコアの部分である

地域における所得の流出入の分析手法について示す。まず,生産面の所得の流出入は産業別の純移輸出を用いる。この産業別の流出入の推計には地域産業連関表が必要となる。次に,分配面の所得の流出入額は属人の分配所得と属地の分配所得から算出され,属人の分配所得から属地の分配所得を差引くことで所得の流入を示すことになる。そして,支出の場合も同様に,属地と属人の支出額を用いるが,流出入が分配とは逆となり,地域への所得の流入は属地の支出額から属人の支出額を差し引くことで示されることになる。

このように,属地と属人の両方のデータを用いて地域の所得の流出入を推計するのが本稿の最大の特徴である。所得の流出入で用いる属人のデータは地域の家計や企業の生産,分配,支出を網羅したデータから作成しており,本稿ではこれを地域経済計算と呼ぶ。属地のデータは市町村等の地域単位の地域産業連関表を用いる。地域では生産,分配,支出の三面等価が成立している状態であるが,地域住民(属人)の所得を把握することは困難である。

図3 地域経済循環分析の項目について

生産・販売 分配(家計・企業) 支出(消費・投資)

財政移転

家計の消費(民間消費)

産業別の付加価値( ) 注

地域の核となる産業(産業間取引)

人当たりの所得(総所得)

地域経済の自立性家計の消費の流出入

企業の投資の流出入

企業の投資(民間投資)

付加価値(もうけ)の最も大きな産業は何か?

国民経済計算(GDP統計)で把握されている付加価値であり、経済センサスの付加価値とは異なる。

地域産業の中で、地域の核となる産業は何か?(核産業の生産性等の分析)

地域住民の受け取る所得に見合う生産をしているか(付加価値を得ているか)?

付加価値/所得<1であれば地域経済は(民間企業の活動で)自立していない、逆は自立している。

地域住民はどの程度、消費しているか?(地域の住民の消費額を把握する)。

地域内ではどの程度、消費されているか?(地域内で消費された額であり、どこの居住者でも構わない)。

家計の民間消費は地域外にどの程度流出しているかを把握する

また、他地域の家計の消費がどの程度流入しているかを把握する

地域企業はどの程度、投資しているか?(地域の企業及び住民の投資額を把握する)。

地域内ではどの程度、投資されているか?(地域内で投資された額であり、どこに立地している企業、家計でも構わない)。

企業の民間投資は地域外にどの程度流出しているか把握する。

また、他地域の企業の民間投資は地域外にどの程度流入しているかを把握する。

地域住民はどのくらいの所得を得ているか?

その内、雇用者所得(給与等)はどの程度か

また、その他の所得はどの程度か?

地域の住民の納税額(T)と政府支出(G)の関係から財政移転額を把握

納税額は国税、地方税を含み、政府支出は国、都道府県、市町村からの支出を全て含む

生産から分配での所得流出入

生産・販売の段階で稼いだ所得が地域住民の所得に結び付いているか?

他地域からの所得の流出入があるか?

地域の特化産業(得意な産業)

産業別労働生産性

外から稼いでいる産業

相対的に地域で特化している産業は何か?

地域の相対的な強み(得意な産業)を把握する。

地域外からお金(所得)を稼いでいる産業は何か?

純移輸出を把握して域外への販売額を把握する。

雇用者の生産性が高い産業は何か?

付加価値/従業者数であり、雇用者の稼ぐ力を把握するものである。

(注)Gross Regional Productの略であり,一国のGDP(Gross Domestic Product)に対応する地域の付加価値を示す。

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-103-

Page 8: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

前述のように,本稿はローカルアベノミクスの観点から所得が全国津々浦々まで届いているか否かを把握することも重要な視点として捉えているため,属人の所得を把握するために属人のデータである地域経済計算を作成している。これらの概念を示したのが図4である。

生産・販売では属地ベースで流出入を分析する。本稿では生産・販売は属人,属地で共通であり,当該地域の事業所の生産・販売を示している。ここでの所得の流出入は地域産業連関表の産業別の純移輸出額を用いる。

本稿で最も重要な部分は分配面であり,地方創生や地域活性化策は地域の住民の厚生水準を向上させることであり,最終的な成果は地域の住民の所得向上で測られるべきである。そのため,地域で生産・販売で稼いだ所得と,住民が得た所得を比較することで,属人ベースでの所得の流出入を分析する。実際に住民の所得は,地域内外の事業所(勤務地)からの収入,財政移転による流出入,本社等の他事業所への流出等から構成されているため,分配面での所得の流出入にはこれらの項目について分析する。

支出面では,生産・販売への所得の還流を意識して,属地ベースで所得の流入出を分析する。設備投資や民間最終消費は当該地域の土地で行われることで地域の生産・販売の向上に寄与するが,他地域で消費や投資が拡大しても直接的には地域の生産・販売の向上には寄与しない。

これらの地域の流入額の推計方法を以下に示す。生産面の所得の流入額は(1)式のとおりであり,産業別の純移輸出額である。

IFP=EX- IM (1)

IFP:産業別の純移輸出,EX:移輸出額,IM:移輸入額である。

次に,分配面の所得の流入額は(2)(3)式のとおりであり,地域住民の得る所得に着目して,属人ベースで推計している。

IFDE=pIME- tIME (2)

IFDO=pIMO- tIMO (3)

IFDE:雇用者所得の流入額,pIME:属人の分配雇用者所得,tIME:属地の分配雇用者所得,IFDO:雇用者所得以外の流入額,pIMO:属人の分配雇用者所得以外の所得,tIMO:属地の分配雇用者所得以外の所得である。

そして,民間消費や民間設備投資などの支出の流出入は(4)(5)式のとおりであり,生産・販売への所得の還流に注目して属地ベースで推計する。

IFC= tCONS-pCONS (4)

IFI= tINV-pINV (5)

IFC:消費の流入額,tCONS:属地の消費額,pCONS:属人の消費額,IFI:投資の流入額,

図4 本稿における所得の流出入の概念

8

生産・販売(属地)

分配(属人)

支出(属地)

· 地域住民の得る所得に注目(地域活性化の最終的な成果)

· 属人ベースで所得の流出入を分析

· 「生産・販売」への所得の還流に注目

· 属地ベースで所得の流出入を分析

· 地域外から所得を得る(経常収支)に注目

· 属地ベースで所得の流出入を分析

流出 流入 流出 流入

属人ベースでは三面等価は成立しない 

 

生産・販売では属地ベースで流出入を分析する。本稿では生産・販売は属人、属地で共通であり、

当該地域の事業所の生産・販売を示している。ここでの所得の流出入は地域産業連関表の産業別の純

移輸出額を用いる。

本稿で最も重要な部分は分配面であり、地方創生や地域活性化策は地域の住民の厚生水準を向上

させることであり、最終的な成果は地域の住民の所得向上で測られるべきである。そのため、地域

で生産・販売で稼いだ所得と、住民が得た所得を比較することで、属人ベースでの所得の流出入を

分析する。実際に住民の所得は、地域内外の事業所(勤務地)からの収入、財政移転による流出入、

本社等の他事業所への流出等から構成されているため、分配面での所得の流出入にはこれらの項目

について分析する。 

支出面では、生産・販売への所得の還流を意識して、属地ベースで所得の流入出を分析する。設備

投資や民間最終消費は当該地域の土地で行われることで地域の生産・販売の向上に寄与するが、他地

域で消費や投資が拡大しても直接的には地域の生産・販売の向上には寄与しない。

これらの地域の流入額の推計方法を以下に示す。生産面の所得の流入額は(1)式のとおりであ

り、産業別の純移輸出額である。  IFP EX IM   (1) IFP:産業別の純移輸出、EX:移輸出額、IM:移輸入額である。 

 

次に、分配面の所得の流入額は(2)(3)式のとおりであり、地域住民の得る所得に着目して、

属人ベースで推計している。

 IFDE pIME tIME (2) IFDO pIMO tIMO (3) IFDE:雇用者所得の流入額、pIME:属人の分配雇用者所得、tIME:属地の分配雇用者所得、IFDO:雇用者所得以外の

流入額、pIMO:属人の分配雇用者所得以外の所得、tIMO:属地の分配雇用者所得以外の所得である。 

 

そして、民間消費や民間設備投資などの支出の流出入は(4)(5)式のとおりであり、生産・販

売への所得の還流に注目して属地ベースで推計する。

 IFC tCONS pCONS   (4) IFI tINV pINV   (5) 

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-104-

Page 9: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

tINV:属地の投資額,pINV:属人の投資額である。

Ⅲ-3.地域経済循環分析用データ作成Ⅲ-3-1.データベースの概略

本稿では属人の経済データ(以降,地域経済計算)と属地の経済データ(以降,地域産業連関表)の2つのデータを作成する2)。作成年次は2010年である。両データともに表1のように県民経済の中分類と同程度の22産業で作成する。分類は粗いがこれは今後の課題としたい。属人ベースの地域経済計算は地域の主体が行う経済活動を集計したものであり,勤務地で生産・販売して得た所得を居住地に持ち帰り

(所得移転等),支出していることを把握することが可能となる。そのため,全国では三面等価は成立するが,地域で三面等価は成立しない。更に,直接・間接税を推計することで,財政移転を推計することも可能になる。

一方,属地ベースの地域産業連関表は,市町村で作成されている市町村産業連関表と同様の概念であり,当該地域で行われた「生産」や

「支出」を集計したものであり,生産及び支出等の経済活動を行った主体は問わないものである。つまり,あくまで土地ベースの活動であり,産業連関表の定義どおり,地域で三面等価が成立する。また,本稿の地域産業連関表の粗付加価値は地域経済計算における付加価値に

「家計外消費」を加えたものであり,付加価値および輸出入額は国民経済計算と整合している。

上記の両データはともに,地域全体の総和が国民経済計算(GDP統計)と整合しており,国際貿易が地域経済に及ぼす影響を把握することが可能となる。両データともにノンサーベイで作成しており,作成のためのアンケート調査は行っていない。さらに,消費額を推計するための買物トリップや所得移転を推計するための通勤データ等は小池・佐々木・山崎(2014)に

2)本稿で作成している地域経済循環分析用データベースは以下のウェブサイトに掲載されている。RECA地域経済循環分析モデル(http://www.vmi.co.jp/reca/index.html)。本稿では2010年で産業分類は22分類であるが,2017年5月には2013年で産業分類が39産業のデータが掲載される。

おける運輸・交通モデル推計等を用いている。ここで用いた運輸・交通モデルは全国の市町村間の通勤,通学,私事(買物,観光等),業務

(出張,打合せ等)によるトリップ数を予測するモデルであり,交通手段も航空,船舶,鉄道,バス,自動車のネットワークを含むものである。

Ⅲ-3-2.地域経済計算の推計方法本稿で作成する地域経済計算は国民経済計算

の地域版ともいうべきデータである。地域経済と一国のマクロ経済との違いは住民の行動圏域の違いである。一国の経済の場合には国境があり,基本的には日常生活において国境を越えた行動はない。一方,地域経済の場合には,住民は日常生活においては行政界があまり意識されていない。そのため,属人ベースでの地域経済では生産,分配,支出の三面等価が成立しない。

例えば,勤務地と居住地が異なる場合には,住民は生産面では勤務地で行動し,消費等の支出面では勤務地ではない場所で活動することが多い。また,勤務地で生産・販売して,その企業が付加価値を得たとしても,その付加価値は生産地に居住している住民に全て還元されるわけではなく,他地域の本社・支社に吸収されることもあり,生産と分配で所得が合致しないこともある。さらに,消費に関しても住民が別の市町村で消費する場合には当該地域の消費には計上されず,他地域の消費に計上されることになる。本稿の地域経済計算はこのような状況をデータで表現するものである。

生産面のデータは国民経済計算の産業別付加価値を県民経済計算の付加価値で按分した都道府県の付加価値を,市町村民経済計算や経済センサス,工業統計,国勢調査等を用いて市町村に按分する。次に分配所得は,生産地において市町村単位の産業別付加価値を,都道府県産業

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-105-

Page 10: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

連関表を用いて,雇用者所得とその他所得に分割する。居住地の雇用者所得は,従業地の雇用者所得を,前述の運輸交通モデルにおける市町村間の通勤状況を基に居住地に割り振ることにより算出する。市町村単位の項目別(民間最終

消費,民間投資,政府支出等)の支出額は,県民経済計算の支出を,市町村別決算調,国勢調査,雇用者所得等を用いて按分する。この地域経済計算は属人ベースであるため,消費や投資の場所の区別は無い。そのため,経常収支は純

表1 地域経済循環分析用データベースの産業分類

10

表1 地域経済循環分析用データベースの産業分類 

No データベースの産業分類県民経済計算の産業分類

中分類 小分類

1 農林水産業 農林水産業

農業

林業

水産業

2 鉱業 鉱業 鉱業

製造業

食料品 食料品 食料品

4 繊維 繊維 繊維

5 パルプ・紙 パルプ・紙 パルプ・紙

6 化学 化学 化学

7 石油・石炭製品 石油・石炭製品 石油・石炭製品

8 窯業・土石製品 窯業・土石製品 窯業・土石製品

9 一次金属 一次金属鉄鋼

非鉄金属

10 金属製品 金属製品 金属製品

11 一般機械 一般機械 一般機械

12 電気機械 電気機械 電気機械

13 輸送用機械 輸送用機械 輸送用機械

14 その他の製造業

精密機械 精密機械

その他の製造業

衣服・身回品

製材・木製品

家具

印刷

皮革・皮革製品

ゴム製品

その他の製造業

15 建設業 建設業 建設業

16 電気・ガス・水道業 電気・ガス・水道業電気業

ガス・水道・熱供給業

17 卸売・小売業 卸売・小売業卸売業

小売業

18 金融・保険業 金融・保険業 金融・保険業

19 不動産業 不動産業住宅賃貸業

その他の不動産業

20 運輸・通信業

運輸業 運輸業

情報通信業

通信業

放送業

情報サービス・映像文字情報制作業

21 公務 公務 公務

22 サービス業 サービス業

公共サービス

対事業所サービス

対個人サービス

  Ⅲ-3-2.地域経済計算の推計方法 本稿で作成する地域経済計算は国民経済計算の地域版ともいうべきデータである。地域経済と一

国のマクロ経済との違いは住民の行動圏域の違いである。一国の経済の場合には国境があり、基本

的には日常生活において国境を越えた行動はない。一方、地域経済の場合には、住民は日常生活に

おいては行政界があまり意識されていない。そのため、属人ベースでの地域経済では生産、分配、

支出の三面等価が成立しない。 

例えば、勤務地と居住地が異なる場合には、住民は生産面では勤務地で行動し、消費等の支出面で

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-106-

Page 11: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

輸出だけが計上されることになり,各支出項目の総和は,国民経済計算と整合させる。このように地域経済計算はGDP統計をベースとしたものであり,中間投入は考慮されておらず,全て付加価値ベースのデータとなる。

また,地域経済計算は属人ベースのデータであるため分配の段階で消費(C),税金(T),貯蓄(S)を推計して,支出項目と比較することで,財政移転(G-T)を推計することが可能である。この財政移転は住民が支払う税金と住民が享受する政府支出の差引額である。政府支出(G)は政府消費と政府投資で構成されており,市町村役場,都道府県県庁,国の出先機関等の複数組織から当該地域への支出であり,大型の公共事業等もこれらに含まれる。この財政移転の推計は佐野(2000)等で都道府県単位では行われているが,基礎的自治体を対象にした全国的な推計は行われていない。

税金は国税,地方税(都道府県,市町村)を推計する。地方税(市町村税)については,総務省「平成22年度市町村別決算状況調」より市町村別のデータが取得可能であり,国税と地方税(都道府県税)は都道府県単位でデータが得られるため,都道府県の数値を市町村に按分する。按分方法は市町村単位で取得可能な指標として,本稿で推計した付加価値,雇用者所得,民間消費最終消費額,石油・石炭製品消費

額,そして,自動車保有台数等を用いて按分する。

Ⅲ-3-3.地域産業連関表の推計方法本稿での市町村単位の地域産業連関表は競争

移入型である。土居ほか(1996),小長谷・前川(2012)等をはじめ既存の方法では生産額を最初に設定していることが多いが,本稿では,地域経済計算の付加価値額を同額とするため,付加価値の設定から作成を開始する。まず,粗付加価値額の付加価値は地域経済計算の数値を用いる。家計外消費支出は,都道府県産業連関表における比を用いて算出する。生産額は粗付加価値を付加価値率で除すことで求め,その生産額に投入係数を乗じて中間投入額を算出する。

ここで,投入係数及び付加価値率は産業連関表の全国表の基本分類(401分類)の投入係数と経済センサスの中分類(97分類),小分類

(519分類)のデータを用いて作成する。これらの作成の考え方は菅(2015)と基本的に同様であり,図5のように産業を直接部門と間接部門に分けて投入係数を作成して,それらを合成する。このように産業の直接部門,間接部門で投入係数を用いるのは両者の投入構造が大きく異なるためであり,市町村等の小地域の産業連関表の作成ではこれらの違いが投入係数に大き

図5 投入係数等の作成の考え方

12

部門への投入が多いのは鉱業、石油・石炭製造業、建設業等であり、間接部門では金融保険やサービ

ス業からの投入が多い。例えば、県庁所在地のような大都市部では電気・ガス産業の事業所が存在す

るが、大半は間接部門であり、実際に発電事業等をしているわけではない。この場合には、実際には

鉱業や石油・石炭製造業からの投入はほとんどないため、直接部門の投入係数を用いるのはミスリー

ドになってしまう可能性がある。

直接部門については全国表の基本分類が詳細な産業分類であるため、投入係数は地域毎で変わらな

いと仮定して、全国表の基本分類の投入係数を市町村の従業者数で加重平均して推計している。ただ

し、厳密には、全国表の投入係数には間接部門も含まれている数値となっているが産業全体から見る

と小さい数値であるため、全国表の投入係数を直接部門の投入係数とみなしている。間接部門につい

ては平成 17年東京都産業連関表の本社部門の投入係数を用いている。この本社部門の投入係数は企

業の管理活動等の実態調査から作成されており、本稿では東京都の本社部門だけでなく、他地域も含

めた全国の産業別の本社部門(企業の管理部門と同様)の投入係数を用いる。

 図5 投入係数等の作成の考え方 

産業の投入係数

直接部門(中分類)の投入係数

間接部門(中分類)の投入係数

直接部門小分類

直接部門(小分類)

直接部門(小分類) ・・・

  

図6 電気・ガスの投入係数の比較 

 

 

最終需要額は地域経済計算と同様、付加価値額(家計外消費支出を除く)や地域経済計算の総額と

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

農林水産業

鉱業

食料品

繊維

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品

窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械

電気機械

輸送用機械

その他の製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

投入係数

直接部門 間接部門

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-107-

Page 12: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

く影響する。図6は電気・ガス産業の直接部門と間接部門の投入係数の比較である。直接部門への投入が多いのは鉱業,石油・石炭製造業,建設業等であり,間接部門では金融保険やサービス業からの投入が多い。例えば,県庁所在地のような大都市部では電気・ガス産業の事業所が存在するが,大半は間接部門であり,実際に発電事業等をしているわけではない。この場合には,実際には鉱業や石油・石炭製造業からの投入はほとんどないため,直接部門の投入係数を用いるのはミスリードになってしまう可能性がある。

直接部門については全国表の基本分類が詳細な産業分類であるため,投入係数は地域毎で変わらないと仮定して,全国表の基本分類の投入係数を市町村の従業者数で加重平均して推計している。ただし,厳密には,全国表の投入係数には間接部門も含まれている数値となっているが産業全体から見ると小さい数値であるため,全国表の投入係数を直接部門の投入係数とみなしている。間接部門については平成17年東京都産業連関表の本社部門の投入係数を用いている。この本社部門の投入係数は企業の管理活動等の実態調査から作成されており,本稿では東京都の本社部門だけでなく,他地域も含めた全

国の産業別の本社部門(企業の管理部門と同様)の投入係数を用いる。

最終需要額は地域経済計算と同様,付加価値額(家計外消費支出を除く)や地域経済計算の総額と一致させている。市町村への按分は属地のデータであるため,民間最終消費額は前述の運輸・交通モデルを用いて,通勤・通学や観光や買物のトリップを着地で集計して按分している。そして,産業別には都道府県産業連関表を用いて分割している。輸出入額は県民経済計算の輸出入額の総和ではなく,国民経済計算の輸出入額と整合させている。移輸出・移輸入の数値は,既存の市町村産業連関表等からノンサーベイ法(LQ法)により算出している。「商品流通調査」等を用いたサーベイ法は,

膨大な予算が係るだけでなく,調査設計や実査過程で誤差(低い回収率等)が発生する可能性があり,全国の市町村で産業連関表を作成する場合には国勢調査のような悉皆調査が必要となる。さらに,本稿では移入と移出については前述の運輸・交通モデルにおける貨物の市町村間の流動も参考にしている。

Ⅲ-4.地域経済循環分析用データの分析ここでは,作成した地域経済循環分析用デー

図6 電気・ガスの投入係数の比較

13

 

 

最終需要額は地域経済計算と同様、付加価値額(家計外消費支出を除く)や地域経済計算の総額と

一致させている。市町村への按分は属地のデータであるため、民間最終消費額は前述の運輸・交通モ

デルを用いて、通勤・通学や観光や買物のトリップを着地で集計して按分している。そして、産業別

には都道府県産業連関表を用いて分割している。輸出入額は県民経済計算の輸出入額の総和ではなく、

国民経済計算の輸出入額と整合させている。移輸出・移輸入の数値は、既存の市町村産業連関表等か

らノンサーベイ法(LQ法)により算出している。

「商品流通調査」等を用いたサーベイ法は、膨大な予算が係るだけでなく、調査設計や実査過程で

誤差(低い回収率等)が発生する可能性があり、全国の市町村で産業連関表を作成する場合には国勢

調査のような悉皆調査が必要となる。さらに、本稿では移入と移出については前述の運輸・交通モデ

ルにおける貨物の市町村間の流動も参考にしている。

 Ⅲ-4.地域経済循環分析用データの分析 

ここでは、作成した地域経済循環分析用データベースを用いて、我が国の地域経済の動向について

分析し、主要な結果について示す。生産面では、まず、図7のように、地域で最も特化している産業

が、最も純移輸出が多い地域を分析した。これによると、最も特化している産業が最も稼いでいる地

域は全国の 58%程度もあり、産業別では農林水産業、電気機械、輸送用機械、食料品製造業が多く、

農林水産業の場合には北海道、東北、四国、九州に多く、約 290の市町村となっている。つまり地方

圏では農林水産業に特化して、最も稼いでいる地域が多く、一方で地方圏では食料品製造業に特化し

て、稼いでいる地域も多いため、6次産業化などの条件は整っている地域はかなり多いことがわかる。

 図7 地域で最も特化している産業と純移輸出との関係 

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

0.14

農林水産業

鉱業

食料品

繊維

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品

窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械

電気機械

輸送用機械

その他の製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

投入係数

直接部門 間接部門

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-108-

Page 13: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

タベースを用いて3),我が国の地域経済の動向について分析し,主要な結果について示す。生産面では,まず,図7のように,地域で最も特化している産業が,最も純移輸出が多い地域を分析した。これによると,最も特化している産業が最も稼いでいる地域は全国の58%程度もあり,産業別では農林水産業,電気機械,輸送用機械,食料品製造業が多く,農林水産業の場合には北海道,東北,四国,九州に多く,約290の市町村となっている。つまり地方圏では農林水産業に特化して,最も稼いでいる地域が多く,一方で地方圏では食料品製造業に特化して,稼いでいる地域も多いため,6次産業化などの条件は整っている地域はかなり多いことがわかる。

次に,図8のように,労働生産性(付加価値/従業者数)を人口規模別にみると,全産業平均では規模の経済が発揮されており,特に,その傾向は三大都市圏で顕著である。企業単位で

3)以降の分析で用いた地域経済循環分析用データは,本稿執筆時点のものであり,今後推計方法の改良等により数値が変わる可能性がある。

見ると,後藤(2014)での分析でも示されているように従業者数の規模の拡大によって労働生産性は上昇しており,本稿での市町村単位での分析でも同様の傾向となっている。ただし,産業別に見ると,その傾向は異なり,1次産業は人口規模に影響されていない。第2次産業では1~10万人未満の地域で大都市圏,地方圏ともに労働生産性が高い。両圏域ともに製造業の立地している地域で高くなっているものと考えられる。第3次産業では10万人以上の大都市圏で高くなっているが,地方圏の10万人以上の地域では高くなっていない。大都市圏には金融・保険等の労働生産性の高い3次産業が多く集積しているためである。

分配面で分析してみると図9のように,1人当たりの所得を人口規模別に見ると,三大都市圏の50万人以上の地域で所得が高く,地方圏では5万人未満と50万人以上で高い状況である。地方圏の5万人未満の場合には人口1人当

図7 地域で最も特化している産業と純移輸出との関係

14

 

   

次に、図8のように、労働生産性(付加価値 従業者数)を人口規模別にみると、全産業平均では

規模の経済が発揮されており、特に、その傾向は三大都市圏で顕著である。企業単位で見ると、後藤

(2014)での分析でも示されているように従業者数の規模の拡大によって労働生産性は上昇しており、

本稿での市町村単位での分析でも同様の傾向となっている。ただし、産業別に見ると、その傾向は異

なり、1次産業は人口規模に影響されていない。第2次産業では1~10万人未満の地域で大都市圏、

地方圏ともに労働生産性が高い。両圏域ともに製造業の立地している地域で高くなっているものと考

えられる。第3次産業では 10万人以上の大都市圏で高くなっているが、地方圏の 10万人以上の地域

では高くなっていない。大都市圏には金融・保険等の労働生産性の高い3次産業が多く集積している

ためである。

 図8 産業別の労働生産性の比較 

(n=290)29.1%

(n=103)10.4%

(n=71)7.1%(n=71)

7.1%

(n=63)6.3%

(n=60)6.0%

(n=337)33.9%

農林水産業

電気機械

輸送用

機械一般機械食料品

電気・ガス・水道業

その他

凡例

農林水産業

その他

南西諸島

東京島嶼部

最も稼げている産業が

最も特化している産業

である地域

最も稼げている産業が

最も特化している産業

ではない地域

�特化して稼げている地域と産業構成 農林水産業で稼げている地域分布

最も得意な産業で、最も地域外から稼いでいる地域は全体の58%

農林水産業で稼げている地域は北海道、東北、四国、九州が多い

290の市町村が農林水産業に特化して、最も稼いでいる。103の市町村が電気機械に特化して、最も稼いでいる

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-109-

Page 14: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

図8 産業別の労働生産性の比較

15

  

分配面で分析してみると図9のように、1人当たりの所得を人口規模別に見ると、三大都市圏の

50万人以上の地域で所得が高く、地方圏では5万人未満と 50万人以上で高い状況である。地方圏の

5万人未満の場合には人口1人当たりの雇用者所得以外の所得(その他所得)が多く、その他所得に

は財政移転等も含まれており、三大都市圏の 50万人以上の地域でその他所得が多いのは企業所得、

財産所得が多いためである。これらの結果として、人口 30~50万人の地域の所得が低くなっている。

これらの地域は我が国の県庁所在地や中核的な地域であるが、雇用者所得も大都市圏や 10~30万人

の地域よりも低く、その他所得も最も小さいことから総所得が低くなっている。

支出面では、まず、民間消費の流出入と所得の関係について分析する。図10のように、労働生産

性が高い地域は雇用者所得も高い傾向にあり、稼ぐ力の高い地域が基本的には住民の雇用者所得が

高いことになる。そのため、消費の流入している地域ではサービス業等の生産性が高くなり、雇用

者所得は高いことが想定されたが、推計結果を見ると、消費の流入している地域の方が雇用者所得

が低くなっている。 

この原因は図 11のとおりである。まず、三大都市圏の場合には消費が流入している地域の方がサ

ービス業の生産性が高く、地域住民の所得が高く、基本的には想定どおりである。一方、地方圏で消

費が流入している地域ではサービス業の生産性は高いが、全産業平均では生産性が低い。これは消費

が流入している地域ではサービス業が発達しており、サービス業の従業者の占める割合が高くなるた

めである。地方圏のサービス業は介護・福祉や宿泊等の労働集約型サービス業が多く、これらは生産

性がかなり低い状況である。この生産性の低い従業者数が多いことで全体の労働生産性を下げてしま

い、その結果、住民の雇用者所得を低下させているボーモル効果が発現している。

 図9 人口規模別の所得について 

7.157.93

8.51 8.39

7.057.42 7.01

8.158.70

6.73

0

2

4

6

8

10

12

5千人未満 5千人以上~1万人未満

1万人以上~5万人未満

5万人以上~10万人未満

10万人以上

従業者1人当たり付加価値額(第

2次産業)

(百万円/人)

従業者数(全産業)の規模

三大都市圏 地方圏

7.61 7.38 7.427.89

10.05

8.03 7.64 7.42 7.528.05

0

2

4

6

8

10

12

5千人未満 5千人以上~1万人未満

1万人以上~5万人未満

5万人以上~10万人未満

10万人以上

従業者1人当たり付加価値額(第

3次産業)

(百万円/人)

従業者数(全産業)の規模

三大都市圏 地方圏

2.24 2.34 2.01 2.04 1.792.44 2.21 2.13 2.10 1.93

0

2

4

6

8

10

12

5千人未満 5千人以上~1万人未満

1万人以上~5万人未満

5万人以上~10万人未満

10万人以上

従業者1人当たり付加価値額(第

1次産業)

(百万円/人)

従業者数(全産業)の規模

三大都市圏 地方圏

6.98 7.21 7.53 7.91

9.36

6.61 6.627.14

7.58 7.62

0

2

4

6

8

10

12

5千人未満 5千人以上~1万人未満

1万人以上~5万人未満

5万人以上~10万人未満

10万人以上

従業者1人当たり付加価値額(全産業)

(百万円

/人)

従業者数(全産業)の規模

三大都市圏 地方圏

�全産業平均 第1次産業

第2次産業 ④第3次産業1万人以上~10万人未満の工場が立地する地域で労働生産性が高い。

三大都市圏では10万人以上の地域で大幅に労働生産性が上昇する。

従業者規模が大きいほど労働生産性が高い

1次産業の労働生産性は基本的には従業者規模や都市部・非都市部の分類には依存しない。他の産業と比較して、労働生産性は低い。

全国平均

全国平均

全国平均 全国平均

図9 人口規模別の所得について

16

  

図  10 消費の流出入と所得の関係 

         

図  11 消費の流入と生産性の関係について 

1.87

1.98

2.042.01

2.10

1.67

1.761.79

1.77

1.85

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満

10万人以上~30万人未満

30万人以上~50万人未満

50万人以上

夜間人口当たり雇用者所得(百万円

/人)

三大都市圏 地方圏

全国平均=1.911.82

1.651.60 1.58

2.01

2.13

1.871.84

1.80

1.93

1.4

1.5

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満

10万人以上~30万人未満

30万人以上~50万人未満

50万人以上

夜間人口当たりその他所得(百万円

/人)

三大都市圏 地方圏

全国平均=1.86

3.693.63 3.64

3.58

4.11

3.80

3.63 3.633.57

3.78

3.4

3.5

3.6

3.7

3.8

3.9

4.0

4.1

4.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満 10万人以上~30万人未満 30万人以上~50万人未満 50万人以上

夜間人口当たり総所得(百万円/人) 三大都市圏 地方圏

全国平均=3.77

夜間人口当たり雇用者所得 夜間人口当たり「その他所得」

夜間人口当たり総所得

三大都市圏は50万人以上の地域で所得が高い

地方圏は5万人未満の地域で所得が高い

県庁所在地や中核都市レベルで所得が低くなっている。

地方圏の雇用者所得は三大都市圏よりも低い

三大都市圏の50万人以上のその他所得が高い→企業所得、財産所得が多い

地方圏の5万人未満のその他所得が高い→財政移転が多い

1.38 1.53

1.73 1.89

2.02 2.11 2.35

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

500万未満(n=120)

500万以上600万未満

(n=443)

600万以上700万未満

(n=513)

700万以上800万未満

(n=319)

800万以上900万未満

(n=157)

900万以上1,000万未満

(n=75)

1,000万以上(n=92)

雇用者所得(百万円

/人)

労働生産性(産業平均)

2.04 2.05

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

1.91 1.65

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

1.99 1.83

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

夜間人口当たり雇用者所得(全国)

夜間人口当たりの雇用者所得(三大都市圏) 夜間人口当たりの雇用者所得(地方圏)

労働生産性が高い→雇用者所得高い 消費の流入→所得低い

(ボーモル効果)

消費の流入している地域の方が平均的な雇用者所得が少ない

消費の流入出で平均的な雇用者所得は同程度である

労働生産性と雇用者所得の関係

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-110-

Page 15: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

たりの雇用者所得以外の所得(その他所得)が多く,その他所得には財政移転等も含まれており,三大都市圏の50万人以上の地域でその他所得が多いのは企業所得,財産所得が多いためである。これらの結果として,人口30~50万人の地域の所得が低くなっている。これらの地域は我が国の県庁所在地や中核的な地域であるが,雇用者所得も大都市圏や10~30万人の地域よりも低く,その他所得も最も小さいことから総所得が低くなっている。

支出面では,まず,民間消費の流出入と所得の関係について分析する。図10のように,労働生産性が高い地域は雇用者所得も高い傾向にあり,稼ぐ力の高い地域が基本的には住民の雇用者所得が高いことになる。そのため,消費の流入している地域ではサービス業等の生産性が高くなり,雇用者所得は高いことが想定されたが,推計結果を見ると,消費の流入している地域の方が雇用者所得が低くなっている。

この原因は図11のとおりである。まず,三大都市圏の場合には消費が流入している地域の方がサービス業の生産性が高く,地域住民の所

得が高く,基本的には想定どおりである。一方,地方圏で消費が流入している地域ではサービス業の生産性は高いが,全産業平均では生産性が低い。これは消費が流入している地域ではサービス業が発達しており,サービス業の従業者の占める割合が高くなるためである。地方圏のサービス業は介護・福祉や宿泊等の労働集約型サービス業が多く,これらは生産性がかなり低い状況である。この生産性の低い従業者数が多いことで全体の労働生産性を下げてしまい,その結果,住民の雇用者所得を低下させているボーモル効果が発現している。

また,設備投資は地域経済循環において,支出から生産・販売への還流の鍵となる部分である。家計や企業が消費だけでなく,貯蓄を行い,この貯蓄が家計や企業の投資に循環されて所得が循環していく。投資の流入と所得の関係は図12のとおりである。まず,設備投資の流入している地域は全国で約17%程度であり,ほとんどの地域は投資が流出している状況である。投資の流入が多い地域では所得が高く,その中でも雇用者所得の違いが大きいが,財産所

図10 消費の流出入と所得の関係

16

  

図  10 消費の流出入と所得の関係 

         

図  11 消費の流入と生産性の関係について 

1.87

1.98

2.042.01

2.10

1.67

1.761.79

1.77

1.85

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満

10万人以上~30万人未満

30万人以上~50万人未満

50万人以上

夜間人口当たり雇用者所得(百万円

/人)

三大都市圏 地方圏

全国平均=1.911.82

1.651.60 1.58

2.01

2.13

1.871.84

1.80

1.93

1.4

1.5

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満

10万人以上~30万人未満

30万人以上~50万人未満

50万人以上

夜間人口当たりその他所得(百万円

/人)

三大都市圏 地方圏

全国平均=1.86

3.693.63 3.64

3.58

4.11

3.80

3.63 3.633.57

3.78

3.4

3.5

3.6

3.7

3.8

3.9

4.0

4.1

4.2

5万人未満 5万人以上~10万人未満 10万人以上~30万人未満 30万人以上~50万人未満 50万人以上

夜間人口当たり総所得(百万円/人) 三大都市圏 地方圏

全国平均=3.77

夜間人口当たり雇用者所得 夜間人口当たり「その他所得」

夜間人口当たり総所得

三大都市圏は50万人以上の地域で所得が高い

地方圏は5万人未満の地域で所得が高い

県庁所在地や中核都市レベルで所得が低くなっている。

地方圏の雇用者所得は三大都市圏よりも低い

三大都市圏の50万人以上のその他所得が高い→企業所得、財産所得が多い

地方圏の5万人未満のその他所得が高い→財政移転が多い

1.38 1.53

1.73 1.89

2.02 2.11 2.35

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

500万未満(n=120)

500万以上600万未満

(n=443)

600万以上700万未満

(n=513)

700万以上800万未満

(n=319)

800万以上900万未満

(n=157)

900万以上1,000万未満

(n=75)

1,000万以上(n=92)

雇用者所得(百万円

/人)

労働生産性(産業平均)

2.04 2.05

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

1.91 1.65

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

1.99 1.83

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

消費が

流出している地域

消費が

流入している地域

(百万円/人)

夜間人口当たり雇用者所得(全国)

夜間人口当たりの雇用者所得(三大都市圏) 夜間人口当たりの雇用者所得(地方圏)

労働生産性が高い→雇用者所得高い 消費の流入→所得低い

(ボーモル効果)

消費の流入している地域の方が平均的な雇用者所得が少ない

消費の流入出で平均的な雇用者所得は同程度である

労働生産性と雇用者所得の関係

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-111-

Page 16: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

得や企業所得等を含む雇用者所得以外の所得も投資の流入している地域の方が高い状況である。

これは,投資の流入が製造業等の2次産業の生産性を上昇させ,この生産性の上昇が全産業の生産性を上昇させることで,地域の住民の所得を増加させるためである。図11の一番下の図のように,製造業の生産性は金融・保険等の知識集約型のサービス業よりも低いが,卸・小

売等の労働集約型のサービス業よりも高いため,製造業の生産性向上は全体の生産性を上昇させる。

また,消費の流入はサービス業の販売額を増加させることで生産性を上昇させるが,設備投資の流入は消費と同様に,財・サービスの販売額を増加させるだけでなく,企業の生産要素の増加につながり,生産能力そのものを上昇させ,将来の企業の販売額を増加させることになる。

Ⅳ.地域経済循環分析の概略

前章で開発した地域経済循環分析手法(地域経済循環分析用データベースと所得の流出入推計等)を実際の金沢市,富山圏域,石垣市で適

用し,地域の地域経済循環分析をしてみよう。本章における図13から図21は地域経済循環分析の概略を示している。概略はまず,地域の所

図11 消費の流入と生産性の関係について

10.0% 16.4% 10.8% 21.6%9.2% 10.9%

25.1% 16.8% 24.3%15.7%

26.0% 17.9%

64.9% 66.9% 64.9% 62.7% 64.8% 71.2%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域

産業構成(%)

知識集約型産業 製造業 労働集約型産業

8.00 8.17 8.05

9.41

7.95

6.93

5

6

7

8

9

10

11

消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域

従業者

1人当たりの付加価値額

(百万円/人)

4.975.45 5.18

6.10

4.72 4.83

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域 消費が流出している地域 消費が流入している地域

サービス業の従業者

1人当たりの

付加価値額(百万円/人)

14.18

12.18

8.627.37

6.565.52 4.90 4.67 4.59 4.53

3.74 3.48 3.131.85

0

2

4

6

8

10

12

14

16

電気・ガス・熱

供給・水道業

金融業,保険業

情報通信業

学術研究,専

門・技術サービ

ス業

不動産業,物品

賃貸業

製造業

卸売業,小売業

運輸業,郵便業

医療,福祉

複合サービス事

教育,学習支援

サービス業(他

に分類されない

もの)

生活関連サー

ビス業,娯楽業

宿泊業,飲食

サービス業

従業者1人当たり付加価値

(百万円/人)

2労働集約型サービス業知識集約型サービス業

全産業平均の労働生産性

従業者数のシェア

サービス業の労働生産性

我が国全体 三大都市圏 地方圏

消費流入消費流出 消費流入消費流出 消費流入消費流出

消費流入消費流出 消費流入消費流出 消費流入消費流出

生産性低い

生産性高い生産性高い

生産性高い

生産性高い

大都市に多い地方圏ではこの生産性の低い労働集約型産業のシェアが高い

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-112-

Page 17: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

得循環構造を捉え,所得の流出入について分析している。次に,本稿で地域の1人当たりの所得を雇用者所得,雇用者所得以外,総所得の3つに分類し,全国,同一都道府県,人口が同規模の地域と比較する。そして,生産面において地域の稼ぐ力を分析する。ここでは得意な産業として修正特化係数,他地域からの所得の流出入,核となっている産業,そして,絶対優位を示す労働生産性について分析する。

Ⅳ-1.金沢市の分析結果金沢市の地域経済循環は結論としては上手く

いっておらず,膨大な観光等の収入がありながら,地域内で所得が循環しておらず,住民の所得も高くない状況である。

図13の所得循環図を見ると,分配面では2,908億円流出しており,地域経済は自立している。これを式(2)(3)から計算してみよう。まず,(2)式の雇用者所得の流入額は属人の分配雇用者所得である地域住民雇用者所得

(8,616億円)から,属地の雇用者所得である地域内雇用者所得(9,806億円)を引いた額であ

り,-1,190億円となる。流入額がマイナスであるため,1,190億円の流出ということになる。同様に,(3)式では雇用者所得以外のその他所得の流出額が1,718億円となり,合計で2,908億円の流出となる。そして,属地の地域内所得が20,380億円に対して,地域住民所得17,472億円であるため,地域住民の所得を地域の稼ぎで賄えていることになり,地域経済が自立していることになる。また,雇用者所得以外のその他所得の流出入では財政移転の額も把握している。地域住民その他所得の下部に財政移転割合19.0%の項目があるが,これは属人ベースの地域住民その他所得の内,他地域からの財政移転額の割合を示すものであり,金沢市の場合には財政移転によって1,682億円程度の流入となっている。その他所得の流出額が1,718億円であるため,企業所得や財産所得等の民間ベースでの所得の流出額は3,400億円(=1,718-(-1,682))にもなっており,民間ベースでの分配面の流出がかなり大きい。これは金沢市以外に本社等を置く企業の金沢市外への利益の流出等が考えられる。このように,分配面での所得の

図12 投資の流入と所得の関係

18

  Ⅳ.地域経済循環分析の概略 

前章で開発した地域経済循環分析手法(地域経済循環分析用データベースと所得の流出入推計等)

を実際の金沢市、富山圏域、石垣市で適用し、地域の地域経済循環分析をしてみよう。本章における

図 13から図 21は地域経済循環分析の概略を示している。概略はまず、地域の所得循環構造を捉え、

所得の流出入について分析している。次に、本稿で地域の1人当たりの所得を雇用者所得、雇用者所

得以外、総所得の3つに分類し、全国、同一都道府県、人口が同規模の地域と比較する。そして、生

産面において地域の稼ぐ力を分析する。ここでは得意な産業として修正特化係数、他地域からの所得

の流出入、核となっている産業、そして、絶対優位を示す労働生産性について分析する。

 Ⅳ-1.金沢市の分析結果 

金沢市の地域経済循環は結論としては上手くいっておらず、膨大な観光等の収入がありながら、地

域内で所得が循環しておらず、住民の所得も高くない状況である。

図13の所得循環図を見ると、分配面では2,908億円流出しており、地域経済は自立している。こ

れを式(2)(3)から計算してみよう。まず、(2)式の雇用者所得の流入額は属人の分配雇用者

所得である地域住民雇用者所得(8,616億円)から、属地の雇用者所得である地域内雇用者所得

(9,806億円)を引いた額であり、­1,190億円となる。流入額がマイナスであるため、1,190億円

の流出ということになる。同様に、(3)式では雇用者所得以外のその他所得の流出額が1,718億円

となり、合計で2,908億円の流出となる。そして、属地の地域内所得が20,380億円に対して、地域住

民所得17,472億円であるため、地域住民の所得を地域の稼ぎで賄えていることになり、地域経済が

自立していることになる。また、雇用者所得以外のその他所得の流出入では財政移転の額も把握し

ている。地域住民その他所得の下部に財政移転割合19.0%の項目があるが、これは属人ベースの地

域住民その他所得の内、他地域からの財政移転額の割合を示すものであり、金沢市の場合には財政

移転によって1,682億円程度の流入となっている。その他所得の流出額が1,718億円であるため、企

業所得や財産所得等の民間ベースでの所得の流出額は3,400億円(=1,718­(­1,682))にもなって

おり、民間ベースでの分配面の流出がかなり大きい。これは金沢市以外に本社等を置く企業の金沢

市外への利益の流出等が考えられる。このように、分配面での所得の流出入を把握可能にしている

1.78

2.15

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

投資が

流出している地域

投資が

流入している地域

夜間人口当たり雇用者所得(百万円/人)

(属人ベース、平均値)

3.59 4.10

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

投資が

流出している地域

投資が

流入している地域

夜間人口当たり総所得(百万円/人)

(属人ベース、平均値)

夜間人口当たり総所得

夜間人口当たり雇用者所得 夜間人口当たりその他所得

消費の流出・流入別地域構成(全国)

投資の流入は所得の増加に結び付く

投資の流入は特に、雇用者所得の増加に結び付く

(n=1416)82.4%

(n=303)17.6%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

投資が流出している地域投資が流入し

ている地域

1.82 1.95

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

投資が

流出している地域

投資が

流入している地域

夜間人口当たりその他所得(百万円/人)

(属人ベース、平均値)

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-113-

Page 18: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

流出入を把握可能にしているのが本稿の分析の特徴の1つでもある。

また,図13の支出面を見ると,1,093億円もの消費の流入があるものの,民間設備投資が90億円流出しており,分配面で得た所得が生産面に還流されていない状況である。この民間設備投資の流出とは当該地域で得た所得を用いて,地域外に機械設備や事務所,そして住宅を設置していることである。特に,機械設備等の地域外の設置は地域外の生産に寄与し,地域内の生産には直接的には寄与しない。

次に,図14の地域の1人当たりの所得を見ると,人口1人当たりの所得は全国よりもわずかに高いものの,石川県平均よりも低く,金沢市の街の賑わいを考えると決して高い水準とは言えない。雇用者所得は県平均と同程度で全国平均よりも低く,人口が同規模の地域よりも高い。この雇用者所得は地域の稼ぐ力を示しており,金沢市は稼ぐ力が大きいとは言えない状況である。その他所得を見ると,全国平均よりも高いが,県平均よりも低い状況である。これは能登半島等の経済規模が小さい地域では財政移

転も多いため,県平均でのその他所得を高くしているためである。

そして,図15は金沢市の生産面の分析結果である。まず,修正特化係数は地域の得意な産業を示しており,比較優位な産業である。その右は純移輸出であり,地域外から稼ぎを示している。そして,感応度係数,影響力係数の第1象限が地域の核となる産業である。この3つのみると,金融・保険が比較優位で,地域外から稼ぎ,地域の取引の核となっていることがわかる。また,卸・小売,サービス業,不動産業が比較優位で,地域外から稼いでいることがわかる。その結果,他地域と比較して絶対優位を示す労働生産性を見ると,第3次産業が全国と比較して若干高くなっているものの,2次産業がかなり低い水準であり,金沢市の生産面の全体として稼ぐ力は低い結果となっている。これは図13の支出面の投資の流出とも関連しており,設備投資等の流出が製造業を衰退させており,観光等で稼いだ所得が地域外に多く漏れており,地域経済の発展につながっていない。

このように地域経済循環分析を行うと短所と

図13 金沢市の所得循環図

億円

付加価値( )= 億円

第 次産業 万円

第 次産業 万円第 次産業 万円全産業 万円

従業者一人当たり付加価値

1 生産・販売の分析

地域内支出

地域住民支出

億円

億円

支出(合計)

3 支出の分析

地域内消費

地域住民消費

民間消費

億円

億円

地域内投資

地域企業投資

民間投資

億円

億円

地域内その他支出

地域住民その他支出

その他支出

億円

億円

2 分配の分析

地域内雇用者所得

地域住民雇用者所得

雇用者所得

億円

億円

地域内所得

地域住民所得

億円

億円

所得(合計)

地域内その他所得

地域住民その他所得

その他所得

億円

億円

財政移転割合

億円流出

億円流出 億円流出

億円流入 億円流出 億円流入

億円流入

域外からの所得移転に頼らない自立性の高い地域である。

観光収入が多く、民間消費が流入し、域外から所得を獲得している。

民間投資が流出し、稼いだ所得が生産につながっていない。

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-114-

Page 19: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

図14 金沢市の1人当たりの所得

20

  

図  14 金沢市の1人当たりの所得 

 (注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配

額である。 (注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が

含まれる。      

図  15 金沢市の生産面の分析 

億円

付加価値( )= 億円

第 次産業 万円第 次産業 万円第 次産業 万円全産業 万円

従業者一人当たり付加価値

1 生産・販売の分析

地域内支出

地域住民支出

億円

億円

支出(合計)

3 支出の分析

地域内消費

地域住民消費

民間消費

億円

億円

地域内投資

地域企業投資

民間投資

億円

億円

地域内その他支出

地域住民その他支出

その他支出

億円

億円

2 分配の分析

地域内雇用者所得

地域住民雇用者所得

雇用者所得

億円

億円

地域内所得

地域住民所得

億円

億円

所得(合計)

地域内その他所得

地域住民その他所得

その他所得

億円

億円

財政移転割合

億円流出

億円流出 億円流出

億円流入 億円流出 億円流入

億円流入

域外からの所得移転に頼らない自立性の高い地域である。

観光収入が多く、民間消費が流入し、域外から所得を獲得している。

民間投資が流出し、稼いだ所得が生産につながっていない。

1.86

1.91

1.85

1.77

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

金沢市

全国

石川県

同規模地域

(30万人以上50万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たり雇用者所得(百万円/人)

1.92

1.86

1.99

1.80

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

金沢市

全国

石川県

同規模地域

(30万人以上50万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たりその他所得(百万円/人)

3.78

3.77

3.84

3.57

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

金沢市

全国

石川県

同規模地域

(30万人以上50万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たり所得(百万円/人)

①夜間人口1人当たり雇用者所得 ②夜間人口1人当たりその他所得③夜間人口1人当たり所得(=雇用者所得+その他所得)

注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額である。注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が含まれる。

夜間人口1人当たり所得は、全国や同規模地域と比較すると高いが、石川県内では低い

全国よりも高いが、石川県平均よりも低い�財政移転分が少ない

夜間人口1人当たり所得は、全国や石川県平均と比較すると低い�稼ぐ力は小さい

(注1) 雇用者所得は,地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち,労働を提供した雇用者への分配額である。

(注2) その他所得とは雇用者所得以外の所得であり,財産所得,企業所得,財政移転(交付税,補助金等)等が含まれる。

図15 金沢市の生産面の分析

21

 (注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもと

に調整したもの。  Ⅳ-2.富山圏域への適用 

次に、概ね金沢市と経済規模が同規模の富山圏域(富山市、滑川市、舟橋村、上市町、立山町の5

市町村で構成)で地域経済循環分析をしてみよう。富山圏域の の規模は約2 2兆円と、概ね金

沢市と同程度であり、どちらも県庁所在地で、県内の中心的な地域である。

まず、図 16の所得循環図を見てみると、大きな構造は金沢市と同様であり、分配面では地域住民

所得(20 118億円)よりも地域内所得(22 113億円)の方が高く、地域は経済的に自立している。

そして、その流出額は式(2)(3)から金沢市と同様の計算をすると全体で1 995億円の流出で

あり、金沢市ほど流出しておらず、生産面で稼いだ所得が地域住民に比較的還元されている状況であ

る。特に、他地域からの通勤で所得を他地域に持ち帰る額が 537億円であり、比較的小さいために、

雇用者所得の流出が小さくなっている。つまり、富山圏域の方が金沢市よりも一体的な圏域となって

いることを示している。また、雇用者所得以外のその他所得の流出入では財政移転の額も把握してい

る。地域住民その他所得の下部に財政移転割合 17 7%の項目があるが、これは属人ベースの地域住

民その他所得の内、他地域からの財政移転額の割合を示すものであり、金沢市の場合には財政移転に

よって1 742億円程度の流入となっている。その他所得の流出額が1 457億円であるため、企業所

得や財産所得等の民間ベースでの所得の流出額は3 199億円( 1 742 ( 1 457))にもなってお

り、金沢市の3 400億円の流出と比較して若干小さい額である。これは富山圏域の方が金沢市と比

較して他地域の本社等の機能への利益の移転が少ないことを示している。

    

図  16 富山圏域の所得循環図 

農林水産業鉱業

食料品繊維

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械電気機械

輸送用機械

その他製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2

感応度係数

影響力係数

2.33

3.76

9.02

7.87

2.12

7.62

8.618.10

2.31

5.59

8.03

7.15

2.03

7.267.96 7.64

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

第1次産業 第2次産業 第3次産業 全産業

従業者

1人当たり付加価値額(百万円/人)

金沢市 全国 石川県 同規模地域(30万人以上~50万人未満)※地方圏の平均

-56 -62 -119-176-269-347-435-523-602-752-752-779

-1,076

3,093

1,8821,556

815515

125 62 47 4

-1,500

-1,000

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

不動産業

卸売・小売業

サービス業

公務

金融・保険業

繊維

一般機械

パルプ・紙

電気・ガス・水道業

金属製品

農林水産業

窯業・土石製品

一次金属

鉱業

石油・石炭製品

電気機械

運輸・通信業

その他の製造業

化学

輸送用機械

建設業

食料品

純移輸出(億円)

0.95 0.94

0.73 0.70

0.420.32 0.27 0.25 0.22 0.19 0.19

0.03 0.02 0.02 0.02

2.62

1.69 1.64 1.59

1.281.20

0.000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

不動産業

繊維

金融・保険業

卸売・小売業

サービス業

公務

運輸・通信業

電気・ガス・水道業

建設業

一般機械

金属製品

農林水産業

その他の製造業

食料品

パルプ・紙

窯業・土石製品

電気機械

一次金属

鉱業

化学

輸送用機械

石油・石炭製品

修正特化係数

①修正特化係数注)(付加価値額ベース)

注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの

③影響力係数・感応度係数

得意な(集積している)産業は、不動産業、繊維、金融・保険業、卸売・小売業等である

影響力係数と感応度係数がともに高い産業は、地域にとって核となる産業である。

④産業別の労働生産性(付加価値/従業者数)

②産業別の純移輸出額

製造業の感応度係

数が低い=域内への販売が少ない

多額の消費流入が製造業等に繋がっていない�市内で生産が極端に少 な い ( 全 国 で も

番目程度)。

全国平均より

低い産業

全国平均より

高い産業

域外から所得を稼いでいるのは、卸・小売、サービス業、金融・保険等である。

運輸・通信、金融保険が地域企業間の取引の核となっている。

第 次産業の生産性は高い 金沢全体として

稼ぐ力は小さい

(注) 地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について,全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの。

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-115-

Page 20: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

長所,そして,住民の所得水準が浮き彫りになり,地域経済対策を検討する材料となる。地域経済対策の基本は長所を活かして短所を連鎖的に補っていくことであり,短所を局所的に補っていくことは実務上有効ではない。金沢市の場合には膨大な観光客による消費流入を活かして設備投資の流出を抑制し,生産性を高めていくことである。そのためには,観光客向けの商品

(食品,土産等)を地域のモノを使って地域で製造していくことが重要になる。この製造過程で製造業が増加し,商品が売れることで,更なる設備投資がされていき,設備投資の流出を抑制することが可能となる。

Ⅳ-2.富山圏域への適用次に,概ね金沢市と経済規模が同規模の富山

圏域(富山市,滑川市,舟橋村,上市町,立山町の5市町村で構成)で地域経済循環分析をしてみよう。富山圏域のGRPの規模は約2.2兆円と,概ね金沢市と同程度であり,どちらも県庁所在地で,県内の中心的な地域である。

まず,図16の所得循環図を見てみると,大

きな構造は金沢市と同様であり,分配面では地域住民所得(20,118億円)よりも地域内所得

(22,113億円)の方が高く,地域は経済的に自立している。そして,その流出額は式(2)

(3)から金沢市と同様の計算をすると全体で1,995億円の流出であり,金沢市ほど流出しておらず,生産面で稼いだ所得が地域住民に比較的還元されている状況である。特に,他地域からの通勤で所得を他地域に持ち帰る額が537億円であり,比較的小さいために,雇用者所得の流出が小さくなっている。つまり,富山圏域の方が金沢市よりも一体的な圏域となっていることを示している。また,雇用者所得以外のその他所得の流出入では財政移転の額も把握している。地域住民その他所得の下部に財政移転割合17.7%の項目があるが,これは属人ベースの地域住民その他所得の内,他地域からの財政移転額の割合を示すものであり,金沢市の場合には財政移転によって1,742億円程度の流入となっている。その他所得の流出額が1,457億円であるため,企業所得や財産所得等の民間ベースでの所得の流出額は3,199億円(=1,742-(-1,457))

図16 富山圏域の所得循環図

億円

付加価値( )= 億円

第 次産業 万円第 次産業 万円第 次産業 万円全産業 万円

従業者一人当たり付加価値

1 生産・販売の分析

地域内支出

地域住民支出

億円

億円

支出(合計)

3 支出の分析

地域内消費

地域住民消費

民間消費

億円

億円

地域内投資

地域企業投資

民間投資

億円

億円

地域内その他支出

地域住民その他支出

その他支出

億円

億円

2 分配の分析

地域内雇用者所得

地域住民雇用者所得

雇用者所得

億円

億円

地域内所得

地域住民所得

億円

億円

所得(合計)

地域内その他所得

地域住民その他所得

その他所得

億円

億円

財政移転割合

億円流出

億円流出 億円流出

億円流入 億円流入 億円流入

億円流入

域外からの所得移転に頼らない自立性の高い地域である。

観光・商業等の収入が多く、域外から所得を獲得している。

設備投資が流入しており、域外から投資を呼び込んでいる 金沢市との大きな違い

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-116-

Page 21: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

にもなっており,金沢市の3,400億円の流出と比較して若干小さい額である。これは富山圏域の方が金沢市と比較して他地域の本社等の機能への利益の移転が少ないことを示している。

次に,支出面を見ると,民間消費の流入は金沢市と比較するとかなり小さいものの,民間設備投資は100億円程度流入している状況であり,金沢市とは大きく異なる。特に,民間設備投資の流入は他地域が稼いだ所得で富山圏域に機械設備等を設置していることになり,製造業の生産性の向上に寄与していると考えられる。

次に,図17の1人当たりの所得を見ていると,1人当たりの総所得(雇用者所得+その他所得)は県内や全国,そして,同規模の地方圏と比較しても高く,地域の経済政策が上手くいっていると言える。特に,雇用者所得が高く,富山圏域の稼ぐ力が強いことが反映されているものと考えられる。

そして,富山圏域の稼ぐ力を分析してみる。

まず,得意な産業を把握するための修正特化係数,地域外から稼いでいる産業を把握するための純移輸出,そして,地域の核となっている産業を見るための影響力係数・感応度係数が1.0以上の産業を見ると,得意な産業かつ地域外から稼いでいて,地域の核となっている産業は化学であり,製造業が地域の中核の産業となっている。また,得意な産業で,地域外から稼いでいる産業には電気・ガスやサービス業もあり,さらに,農林水産業が地域外から稼いでおり,第1,2,3の全ての産業が活性化している。その結果として地域の稼ぐ力を見る労働生産性を見ると,全ての産業で高い水準にあり,全体として稼ぐ力が高い地域と言える。これは図16の所得循環図の支出面でも明らかなように,地域の生産に還流される民間消費や民間設備投資が流入しており,地域経済が好循環な構造となっているため,その結果として,地域住民の所得が高い水準となっている。

図17 富山圏域の1人当たり所得

23

 (注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配

額である。 (注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が

含まれる。  

 

そして、富山圏域の稼ぐ力を分析してみる。まず、得意な産業を把握するための修正特化係数、地

域外から稼いでいる産業を把握するための純移輸出、そして、地域の核となっている産業を見るため

の影響力係数・感応度係数が 以上の産業を見ると、得意な産業かつ地域外から稼いでいて、地域

の核となっている産業は化学であり、製造業が地域の中核の産業となっている。また、得意な産業で、

地域外から稼いでいる産業には電気・ガスやサービス業もあり、さらに、農林水産業が地域外から稼

いでおり、第1、2、3の全ての産業が活性化している。その結果として地域の稼ぐ力を見る労働生

産性を見ると、全ての産業で高い水準にあり、全体として稼ぐ力が高い地域と言える。これは図 16

の所得循環図の支出面でも明らかなように、地域の生産に還流される民間消費や民間設備投資が流入

しており、地域経済が好循環な構造となっているため、その結果として、地域住民の所得が高い水準

となっている。

          

図  18 富山圏域の生産面の分析 

1.94

1.86

1.96

1.86

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

富山圏域

全国

富山県

同規模地域

(50万人以上100万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たりその他所得(百万円/人)

3.96

3.77

3.94

3.70

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

富山圏域

全国

富山県

同規模地域

(50万人以上100万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たり所得(百万円/人)

2.02

1.91

1.98

1.83

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

富山圏域

全国

富山県

同規模地域

(50万人以上100万人未満)※地方圏の平均

夜間人口1人当たり雇用者所得(百万円/人)

①夜間人口1人当たり雇用者所得 ②夜間人口1人当たりその他所得③夜間人口1人当たり所得(=雇用者所得+その他所得)

注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額である。

注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が含まれる。

県内及び全国として比較して高い�稼ぐ力が大きい。

全国よりも高いが、富山県平均よりも低い�財政移転分が少ない。

稼ぐ力が大きく、全国、県内と比較して高い水準である。

金沢市との違い金沢市との違い

(注1)雇用者所得は,地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち,労働を提供した雇用者への分配額である。(注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり,財産所得,企業所得,財政移転(交付税,補助金等)等が含まれる。

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-117-

Page 22: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

このような金沢市と富山圏域の比較は地域経済を検討する上で示唆に富んだ結果である。まず,1つ目は,観光政策を進めて多くの観光客を誘致して観光消費を拡大させても地域経済循環構造が整っていなければ地域住民の所得には還元されない。2つ目は地域企業の活躍が少なく,他地域の資本の企業が活躍している場合には,企業所得,財産所得が他地域に流出してしまい,生産面で稼いでも地域住民の所得に還元されない。3つ目として,設備投資と製造業の関係であり,設備投資が流入している場合には,地域の生産面の労働生産性向上に寄与している。富山圏域のように生産面で製造業が得意で,外から稼ぎ,地域産業の核となっており,労働生産性が高い地域は設備投資需要も高く,好循環構造が構築されている。そして,金沢市のように第3次産業が主要な産業となっている場合には,宿泊業やサービス業,介護・福祉等の労働集約型サービス業の生産性が他産業と比

べて低く全体の生産性を下げている可能性もあるため,製造業との組み合わせや労働集約型サービス業の生産性を上昇させる必要がある。

Ⅳ-3.石垣市への適用最後の事例分析として,沖縄県の石垣市を取

り上げる。図19の石垣市の所得循環構造を見ると,1,178億円の生産に対して,地域住民は1,604億円の所得があり,地域で稼いだ所得に対して36%の所得の流入がある。この分配面での所得の流入について詳しく見てみよう。離島でもあり当該地域からの通勤による所得の流出はほとんどない。地域住民のその他所得に占める財政移転割合は40%もあり,財政移転額は約371億円である。それに加え,財産所得,企業所得等で約52億円の流入となっている。このように,分配面での所得流入の9割弱が財政移転で,それが生産で稼ぐ所得の3割以上にもなっており,我が国の地方圏でよく見られる

図18 富山圏域の生産面の分析

24

 (注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもと

に調整したもの。  

このような金沢市と富山圏域の比較は地域経済を検討する上で示唆に富んだ結果である。まず、1

つ目は、観光政策を進めて多くの観光客を誘致して観光消費を拡大させても地域経済循環構造が整っ

ていなければ地域住民の所得には還元されない。2つ目は地域企業の活躍が少なく、他地域の資本の

企業が活躍している場合には、企業所得、財産所得が他地域に流出してしまい、生産面で稼いでも地

域住民の所得に還元されない。3つ目として、設備投資と製造業の関係であり、設備投資が流入して

いる場合には、地域の生産面の労働生産性向上に寄与している。富山圏域のように生産面で製造業が

得意で、外から稼ぎ、地域産業の核となっており、労働生産性が高い地域は設備投資需要も高く、好

循環構造が構築されている。そして、金沢市のように第3次産業が主要な産業となっている場合には、

宿泊業やサービス業、介護・福祉等の労働集約型サービス業の生産性が他産業と比べて低く全体の生

産性を下げている可能性もあるため、製造業との組み合わせや労働集約型サービス業の生産性を上昇

させる必要がある。

 Ⅳ-3.石垣市への適用 

最後の事例分析として、沖縄県の石垣市を取り上げる。図 19の石垣市の所得循環構造を見ると、

1 178億円の生産に対して、地域住民は1 604億円の所得があり、地域で稼いだ所得に対して 36%

の所得の流入がある。この分配面での所得の流入について詳しく見てみよう。離島でもあり当該地域

からの通勤による所得の流出はほとんどない。地域住民のその他所得に占める財政移転割合は 40%

もあり、財政移転額は約 371億円である。それに加え、財産所得、企業所得等で約 52億円の流入と

なっている。このように、分配面での所得流入の9割弱が財政移転で、それが生産で稼ぐ所得の3割

以上にもなっており、我が国の地方圏でよく見られる構造である。しかしながら、支出面を見ると、

消費、投資、その他(純移輸出)で流出している状況であり、分配面で財政移転等で得た所得が支出

面で漏れており、生産面への還流は少ない。これが図 2の悪循環のイメージの右側の図である。

農林水産業鉱業

食料品繊維

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品

窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械

電気機械

輸送用機械

その他製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2

感応度係数

影響力係数

2.52

7.55

8.968.34

2.12

7.62

8.618.10

2.53

7.25

8.307.74

1.82

6.94

7.907.51

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

第1次産業 第2次産業 第3次産業 全産業

従業者

1人当たり付加価値額(百万円/人)

富山圏域 全国 富山県 同規模地域(50万人以上~100万人未満)※地方圏の平均

-18 -36

-330-368-395-407-520-592

-815

1,713

1,061

680554 530 521

201 178 98 39 30 20 2

-1,000

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

化学

一般機械

電気・ガス・水道業

建設業

不動産業

電気機械

金属製品

パルプ・紙

繊維

窯業・土石製品

サービス業

農林水産業

一次金属

その他の製造業

公務

卸売・小売業

金融・保険業

鉱業

輸送用機械

石油・石炭製品

運輸・通信業

食料品

純移輸出(億円)

0.70 0.69 0.66 0.63

0.350.24

0.160.05 0.02

2.111.97

1.79 1.73

1.48

1.26 1.24 1.241.13 1.08 1.02 1.02 1.02

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

不動産業

化学

一般機械

繊維

電気・ガス・水道業

金属製品

公務

パルプ・紙

建設業

金融・保険業

窯業・土石製品

サービス業

卸売・小売業

電気機械

農林水産業

運輸・通信業

その他の製造業

一次金属

食料品

輸送用機械

鉱業

石油・石炭製品

修正特化係数

①修正特化係数注)(付加価値額ベース)

注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの

③影響力係数・感応度係数 ④産業別の労働生産性(付加価値/従業者数)

②産業別の純移輸出額得意な(集積している)産業は、化学、金属製品などの製造業と電力・ガス、サービス業等の 次産業となっている。

全国平均より

低い産業

全国平均より

高い産業

次、 次、 次の全ての産業で域外から稼いでいる。特に、製造業の稼ぎが大きい

影響力係数と感応度係数がともに高い産業は、地域にとって核となる産業である。

化学、一次金属、その他製造業が地域取引の核となっている。

次、 次、 次の全ての産業の生産性が高く、地域の稼ぐ力も大きい。

金沢市との違い金沢市との違い

金沢市との違い

金沢市との違い

(注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について,全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの。

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-118-

Page 23: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

構造である。しかしながら,支出面を見ると,消費,投資,その他(純移輸出)で流出している状況であり,分配面で財政移転等で得た所得が支出面で漏れており,生産面への還流は少ない。これが図2の悪循環のイメージの右側の図である。

次に,図20の住民の1人当たりの所得を見ると,1人当たりの総所得は342万円であり,全国と比較してかなり低いが,その他所得は全国や県内と比較してかなり高い。ただし,地方圏の同程度の地域と比較すると若干低い状況である。雇用者所得は全国平均よりも同規模の地域よりもかなり低く,沖縄県平均よも低い。このように石垣市は稼ぐ力は低いものの,財政移

転額で所得が大幅に増加していることがわかる。そして,図21の生産面の分析を見ると,得意な産業で,地域外からの稼ぎが多く,地域の核となっている産業は農林水産業,サービス業である。その結果,絶対優位を示す労働生産性は1次産業が高い水準にある。ただし,2次産業,3次産業の労働生産性は低く,石垣市全体で稼ぐ力は小さい。この石垣市の分析事例も全国の同じ構造の地域が多数存在する。このメカニズムは稼ぐ力が無い→財政移転が多い→支出が流出なのか,それとも財政移転が多い→支出が流出→稼ぐ力が無くなるなのか因果関係は不明であるが,結果として,財政移転の多い地域は生産性が低い地域となっている。

Ⅴ.まとめ

本稿では,地方創生や地域経済の活性化の対策を検討するために,まず,地域経済の特徴的

なメカニズムとして,地域の所得の流出入について4つの視点で列挙し,生産→分配→支出の

図19 石垣市の所得循環図

億円

付加価値( )= 億円

第 次産業 万円

第 次産業 万円第 次産業 万円全産業 万円

従業者一人当たり付加価値

1 生産・販売の分析

地域内支出

地域住民支出

億円

億円

支出(合計)

3 支出の分析

地域内消費

地域住民消費

民間消費

億円

億円

地域内投資

地域企業投資

民間投資

億円

億円

地域内その他支出

地域住民その他支出

その他支出

億円

億円

2 分配の分析

地域内雇用者所得

地域住民雇用者所得

雇用者所得

億円

億円

地域内所得

地域住民所得

億円

億円

所得(合計)

地域内その他所得

地域住民その他所得

その他所得

億円

億円

財政移転割合

億円流入

億円流入 億円流入

億円流出 億円流出 億円流出

億円流出

稼いだ所得に対して、の所得の流入

がある。

民間消費、民間設備投資、経常収支等の全てにおいて、所得が流出している。

所得流入のほとんどがその他所得である。

特に、設備投資の流出が大きく、製造業の生産に寄与していないと考えられる。

その他所得の大半が財政移転(億円)である。

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-119-

Page 24: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

図20 石垣市の1人当たり所得

26

 (注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配

額である。 (注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が

含まれる。  

図  21 石垣市の生産面の分析 

 (注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもと

に調整したもの。  Ⅴ.まとめ 

本稿では、地方創生や地域経済の活性化の対策を検討するために、まず、地域経済の特徴的なメカ

ニズムとして、地域の所得の流出入について4つの視点で列挙し、生産→分配→支出の三つの側面と

1.44

1.91

1.46

1.68

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たり雇用者所得(百万円/人)

1.98

1.86

1.83

2.00

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たりその他所得(百万円/人)

3.42

3.77

3.29

3.68

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たり所得(百万円/人)

注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額である。

注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が含まれる。

全国及び沖縄県平均よりも低い。�稼ぐ力が小さい

財政移転が多く、その他所得の水準は全国、沖縄県平均よりも高い

大きな財政移転はあるものの、稼ぐ力が小さく、所得は全国平均よりもかなり低い水準である。

①夜間人口1人当たり雇用者所得 ②夜間人口1人当たりその他所得③夜間人口1人当たり所得(=雇用者所得+その他所得)

農林水産業

鉱業

食料品

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品

窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械電気機械輸送用機械

その他製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2

感応度係数

影響力関数

-3 -4 -9 -9 -16 -21 -21 -29 -35 -42 -50 -56 -59-70 -75 -80

184

83

40

10 5 0

-100

-50

0

50

100

150

200

サービス業

公務

農林水産業

建設業

電気・ガス・水道業

繊維

窯業・土石製品

パルプ・紙

一次金属

食料品

運輸・通信業

金属製品

一般機械

鉱業

石油・石炭製品

電気機械

金融・保険業

その他の製造業

化学

卸売・小売業

輸送用機械

不動産業

純移輸出(億円)

2.17

4.73

5.835.30

2.12

7.62

8.618.10

2.30

5.32

6.796.33

2.17

7.967.44

6.92

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

第1次産業 第2次産業 第3次産業 全産業

従業者

1人当たり付加価値額(百万円/人)

石垣市 全国 沖縄県 同規模地域(1万人以上~5万人未満)※地方圏の平均

0.98 0.97 0.90 0.84 0.82

0.400.19 0.16 0.11 0.09 0.08 0.02

3.21

2.63

1.85

1.52

1.11 1.10

0.00 0.00 0.00 0.000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

農林水産業

公務

サービス業

建設業

窯業・土石製品

電気・ガス・水道業

不動産業

繊維

卸売・小売業

食料品

運輸・通信業

金融・保険業

鉱業

石油・石炭製品

金属製品

その他の製造業

化学

一次金属

パルプ・紙

一般機械

電気機械

輸送用機械

修正特化係数

注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの

得意な(集積している)産業は、農林水産業、サービス業、建設業、電気・ガス等である。

全国平均より

低い産業

全国平均より

高い産業

域外から稼いでいる産業はサービス業、農林水産業、電気・ガス等である。

影響力係数と感応度係数がともに高い産業は、地域にとって核となる産業である。

地域取引の核となっているのは、農林水産業、サービス業、金融・保険等である。

次、 次産業の生産性が全国、沖縄県平均と比較して、かなり低く、全体の稼ぐ力もかなり低い

農林水産業の生産性は高い

①修正特化係数注)(付加価値額ベース)

③影響力係数・感応度係数 ④産業別の労働生産性(付加価値/従業者数)

②産業別の純移輸出額

(注1) 雇用者所得は,地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち,労働を提供した雇用者への分配額である。

(注2) その他所得とは雇用者所得以外の所得であり,財産所得,企業所得,財政移転(交付税,補助金等)等が含まれる。

図21 石垣市の生産面の分析

26

 (注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配

額である。 (注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が

含まれる。  

図  21 石垣市の生産面の分析 

 (注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもと

に調整したもの。  Ⅴ.まとめ 

本稿では、地方創生や地域経済の活性化の対策を検討するために、まず、地域経済の特徴的なメカ

ニズムとして、地域の所得の流出入について4つの視点で列挙し、生産→分配→支出の三つの側面と

1.44

1.91

1.46

1.68

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たり雇用者所得(百万円/人)

1.98

1.86

1.83

2.00

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たりその他所得(百万円/人)

3.42

3.77

3.29

3.68

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0

石垣市

全国

沖縄県

同規模地域

(1万人以上5万人未満)

※地方圏の平均

夜間人口1人当たり所得(百万円/人)

注1)雇用者所得は、地域内の生産活動によって生み出された付加価値のうち、労働を提供した雇用者への分配額である。

注2)その他所得とは雇用者所得以外の所得であり、財産所得、企業所得、財政移転(交付税、補助金等)等が含まれる。

全国及び沖縄県平均よりも低い。�稼ぐ力が小さい

財政移転が多く、その他所得の水準は全国、沖縄県平均よりも高い

大きな財政移転はあるものの、稼ぐ力が小さく、所得は全国平均よりもかなり低い水準である。

①夜間人口1人当たり雇用者所得 ②夜間人口1人当たりその他所得③夜間人口1人当たり所得(=雇用者所得+その他所得)

農林水産業

鉱業

食料品

パルプ・紙

化学

石油・石炭製品

窯業・土石製品

一次金属

金属製品

一般機械電気機械輸送用機械

その他製造業

建設業

電気・ガス・水道業

卸売・小売業

金融・保険業

不動産業

運輸・通信業

公務

サービス業

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2

感応度係数

影響力関数

-3 -4 -9 -9 -16 -21 -21 -29 -35 -42 -50 -56 -59-70 -75 -80

184

83

40

10 5 0

-100

-50

0

50

100

150

200

サービス業

公務

農林水産業

建設業

電気・ガス・水道業

繊維

窯業・土石製品

パルプ・紙

一次金属

食料品

運輸・通信業

金属製品

一般機械

鉱業

石油・石炭製品

電気機械

金融・保険業

その他の製造業

化学

卸売・小売業

輸送用機械

不動産業

純移輸出(億円)

2.17

4.73

5.835.30

2.12

7.62

8.618.10

2.30

5.32

6.796.33

2.17

7.967.44

6.92

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

第1次産業 第2次産業 第3次産業 全産業

従業者

1人当たり付加価値額(百万円/人)

石垣市 全国 沖縄県 同規模地域(1万人以上~5万人未満)※地方圏の平均

0.98 0.97 0.90 0.84 0.82

0.400.19 0.16 0.11 0.09 0.08 0.02

3.21

2.63

1.85

1.52

1.11 1.10

0.00 0.00 0.00 0.000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

農林水産業

公務

サービス業

建設業

窯業・土石製品

電気・ガス・水道業

不動産業

繊維

卸売・小売業

食料品

運輸・通信業

金融・保険業

鉱業

石油・石炭製品

金属製品

その他の製造業

化学

一次金属

パルプ・紙

一般機械

電気機械

輸送用機械

修正特化係数

注)地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について、全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの

得意な(集積している)産業は、農林水産業、サービス業、建設業、電気・ガス等である。

全国平均より

低い産業

全国平均より

高い産業

域外から稼いでいる産業はサービス業、農林水産業、電気・ガス等である。

影響力係数と感応度係数がともに高い産業は、地域にとって核となる産業である。

地域取引の核となっているのは、農林水産業、サービス業、金融・保険等である。

次、 次産業の生産性が全国、沖縄県平均と比較して、かなり低く、全体の稼ぐ力もかなり低い

農林水産業の生産性は高い

①修正特化係数注)(付加価値額ベース)

③影響力係数・感応度係数 ④産業別の労働生産性(付加価値/従業者数)

②産業別の純移輸出額

(注) 地域の付加価値額の産業別構成比を全国の構成比で除した特化係数について,全国の産業別の輸出入をもとに調整したもの。

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-120-

Page 25: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

三つの側面と合せて分析する地域経済循環分析の手法を提案した。その中では地域経済循環分析の考え方,分析項目,所得の流入出の推計方法を示している。

分析の考え方では生産→分配→支出の所得循環の中で分配面の属人ベースの所得の把握が重要であり,従来の産業連関表だけを用いた分析ではこれらを把握することが困難なことを示している。そして,この考え方に整合的に分析項目を列挙し,地域経済循環分析のコアとなる所得の流出入の推計方法を示した。所得の流出入は分配面,支出面で見方が異なり,分配面では属人ベースで見た場合の流出入であり,支出面では生産面への還流を考慮して,属地ベースで見た流出入である。

そして,実際に本稿の分析手法を全国の市町村で適用可能とするために,地域経済循環分析用のデータベースの構築を行った。全市町村の総和が国民経済計算と整合した属人ベースの地域経済計算と属地ベースの産業連関表,そして地域経済計算では ISバランス式から財政移転額も推計しているが,これらはノンサーベイで作成しているため,分析結果は地域経済の概略を示すものである。

次に作成した地域経済循環分析用データを用いて,我が国の地域経済を分析した。生産面では企業と同様,規模の経済が発現していること,分配面では5万人未満の地域では財政移転があり,大都市圏では雇用者所得が多く,結果として10~30万人の地域で所得が低い状況に

なっていることがわかった。支出面では地方圏で消費の流入している地域ではサービス業の生産性は高いものの,サービス業の生産性そのものが他産業と比較して低く,特に地方圏では介護・福祉,宿泊等の労働集約型サービス業のウェイトが高いため,全体の労働生産性が低くなり,地域住民の所得も低くなっていることがわかった。

そして,最後に金沢市,富山圏域,石垣島市で事例分析を行った。その結果として,行政が積極的に観光政策を展開して観光消費を拡大させても,地域経済循環構造が構築されていないと地域住民の所得には還元されないこと,地域企業の活躍が少ないと生産面で稼いだ所得が外部に漏れてしまうこと,そして,製造業の生産性が高い地域では設備投資需要が旺盛で設備投資が流入していることがわかった。さらに,地方圏ではその他所得に占める財政移転の割合が高く,石垣市では所得の3割以上の額となっていることがわかった。このように本稿の地域経済循環分析手法を適用することで,これまでの地域経済分析とは異なる新たな視点で分析することが可能となった。

今後の課題は地域経済循環分析データの精緻化・詳細化を図ることであり,これによって分析結果も精緻化されていく。精緻化については,やはりデータ作成の際にサーベイ法を取り入れていく必要がある。特に,詳細化については産業部門数を増加させていくことで,地域の産業を詳細にみていくことができる。

参考文献

浅利一郎・土居英二(2016)『地域間産業連関分析の理論と実際』日本評論社

価値総合研究所(2015)「地域経済循環分析解説書」http://www.vmi.co.jp/reca/pdf/download-04.pdf

環境省環境経済ポータルサイト(2014)「平成26年度環境経済の政策研究地方公共団体に

おける地球温暖化対策実行計画等の実施に伴う環境・経済・社会への影響分析」 http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/index2.html

金融庁(2016)「平成27事務年度金融行政方針」金融庁(2016)「中小・地域金融機関向けの総合

的な監督指針平成28年6月」

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月>

-121-

Page 26: 地域経済循環分析手法の開発と事例分析 › pri › publication › financial... · キーワード:地域経済,地方創生,地域経済循環分析 JEL Classification:H71,

http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/chusho/index.html

経済産業省(2013)「商品流通調査」http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/ryuutuu/index.html

経済産業省(2006)「地域経済構造分析の手引き」小池淳司・佐々木康朗・山崎清(2014)「全国の

詳細な地域分割に基づく交通データ及び需要予測モデルを用いた効率的な地域別CO2削減割当ての検討」運輸政策研究,17(2):2-12

後藤康夫(2014)「中小企業のマクロ・パフォーマンス」日本経済新聞社

小長谷一之・前川知史(2012)「経済効果入門地域活性化・企画立案・政策評価ツール」日本評論社

佐野修久(2000)「地域の財政依存構造」『地域政策研究』Vol3日本政策投資銀行

菅幹雄(2015)「経済センサス-活動調査を用いた全市町村産業連関表の簡易推計」

土居英二・浅利一郎・中野親徳(1996)『はじめよう地域産業連関分析』日本評論社

東京都(2005)「平成17年(2005年)東京都産業連関表」http ://www . toukei .metro . tokyo . jp/san-ren/2005/sr05t1.htm#gaiyou

内閣官房(2015)「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」

中澤純治(2002)「市町村地域産業連関表の作成とその問題点」政策科学9-2,Jan. 2002

中村良平(2014)『まちづくり構造改革地域経済構造をデザインする』日本加除出版

地域経済循環分析手法の開発と事例分析―地方創生における新たな地域経済分析手法―

-122-