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1 作図不能問題任意角の三等分について 提出日 平成21年8月26日 氏名 ぱんな ぱあこ ギリシア時代の数学における作図不能問題のうち「任意角の三等分」が 定規とコンパスだけを使用して行うことができないことの証明を紹介す る。1837年にワンツェルは「任意角の三等分」問題を代数的処理に よって求められる解の問題ととらえ解決した。本論ではこの問題を3次 方程式の解法に帰着し、定規とコンパスの有限回の使用によってもとめ られないことを示す。 三大作図不能問題の条件「定規とコンパスを使用する」には誤解があるようだ。そのた めこの作図不能問題が解答できた、と称する凡例がいくつもある。例えば、以下に示すア ルキメデスの角の3等分法がそうである。 右図のように、任意角 x があたえられたとき O を中心に適当な半径 r の円弧を描く。定規を AB の長さが r となるように動かして、A を角 x の基線の延長上、B は円周上、にあるようにし て、図のように直線 AB を引く。このとき、 y = 1 3 x が成立して、角の3等分ができたことになる。(証明は二つの2等辺3角形に注目、内角の 和が外角になることを利用する。中学2年の証明問題として妥当であろう。) これはユークリッドの原論にある定規とコンパスの使用方法を厳密に守らない事からくる 誤解と言える。原論では、 定規 異なる2点を結ぶ線分及び直線を引く コンパス あたえられた点を中心としてあたえられた長さの半径を持つ円を描く 以外の使用方法を認めておらず、この方法を有限回行って出来る事は以下の4つになる。

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作図不能問題̶任意角の三等分について

提出日 平成21年8月26日

氏名 ぱんな ぱあこ

ギリシア時代の数学における作図不能問題のうち「任意角の三等分」が

定規とコンパスだけを使用して行うことができないことの証明を紹介す

る。1837年にワンツェルは「任意角の三等分」問題を代数的処理に

よって求められる解の問題ととらえ解決した。本論ではこの問題を3次

方程式の解法に帰着し、定規とコンパスの有限回の使用によってもとめ

られないことを示す。

三大作図不能問題の条件「定規とコンパスを使用する」には誤解があるようだ。そのた

めこの作図不能問題が解答できた、と称する凡例がいくつもある。例えば、以下に示すア

ルキメデスの角の3等分法がそうである。

右図のように、任意角 x があたえられたとき

O を中心に適当な半径 r の円弧を描く。定規を

AB の長さが r となるように動かして、A を角 x

の基線の延長上、B は円周上、にあるようにし

て、図のように直線 AB を引く。このとき、

!

y =1

3x

が成立して、角の3等分ができたことになる。(証明は二つの2等辺3角形に注目、内角の

和が外角になることを利用する。中学2年の証明問題として妥当であろう。)

これはユークリッドの原論にある定規とコンパスの使用方法を厳密に守らない事からくる

誤解と言える。原論では、

定規 異なる2点を結ぶ線分及び直線を引く

コンパス あたえられた点を中心としてあたえられた長さの半径を持つ円を描く

以外の使用方法を認めておらず、この方法を有限回行って出来る事は以下の4つになる。

2

1) 異なる2点を結ぶ直線を引く。

2) 2直線の交点を求める。

3) ある点を中心とする与えられた半径の円を描く。

4) ある円と他の円または直線との交点を求める。

数学において不可能性の証明は難しい。あらゆる場合を想定してもできないことを示さ

なければならず、無限の試行は不可能なので常にまだ試されていない解法が存在する可能

性を否定できない。そこで不可能性の証明は、問題の成立する背景に関する新しい見方を

発見し、その問題が解ける、ということはどういうことかを示した上で、不可能性を証明

する、という筋道をとることが多い。その過程で数学的に実り大きい成果が得られること

になる。5次以上の任意の方程式が代数的な処理によって解を求めることができない、と

いう不可能性の証明は群論という大きな成果をもたらした。

「任意角の三等分」が作図不能の証明には解析幾何学が適用された。すなわち、この 4

条件を守って作図を行うという操作と等価の代数的な処理を明らかにして、代数的に不可

能→作図不可能という手順をとる。デカルトの直行座標系において、直線は x と y の1次

式に、円は2次式で過不足なく表現される。よって、上記1)から4)までの条件を代数

的に言い換えると、

1) 与えられた2点を通る直線の方程式を求める。

2) 2直線を表す1次方程式を連立させて得た解が交点の座標を与える。

3) 中心の座標と半径があたえられれば、円の方程式が定まる。

4) 円と円、円と直線、の交点はそれぞれの方程式を連立させた解として示される。

となり、作図可能性は連立方程式の解の存在によって判断できることになる。

次に作図によって可能となる代数的な処理について示す。

ある長さ a、b が与えられたとき、その和 a+b、差 a-b、積 ab、商 a/b は定規を使って相

似三角形を利用することによって作ることができる。a,b を有理数とすれば、その処理の

結果は有理数の体となる。

さらにコンパスを使う事によって

!

aを求めることができる。

3

図のように半円の直径上に a と1を取り、

点 A を通る垂線を引き、円周との交点を

C とすれば、AC=

!

aとなる。

(△ABC∽△ACO から容易に示すことができる。)

この操作と先ほどの加減乗除を組み合わせると、p+q

!

kの形(p、q、k は有理数)の数

を生成することができる。さらにその数をもとにして、p‘+q’

!

" k の形の数を生成できる。

これらの数の加減乗除による答えは同じ形で表されるから体である。よってコンパスと定

規によって、これらの数体を次々と作ることができる。それを

!

F0

!

F1

!

F2・・・

!

Fnとすれば、

作図可能な問題とは、その解答が

!

Fnに含まれるような解を持つ方程式に変換できる場合で

ある。逆に作図不可能な問題とは、解が

!

Fnに含まれない方程式に変換される場合である。

そこで任意の角の三等分が不可能なことを証明する。そのためにはある角の三等分が不

可能な事を証明すれば良いから、ある角の例として60度をとり、その3等分が不可能な

ことを示す。cos の3倍角の公式によって、

!

cos3" = 4cos3" # 3cos"

であるから、上式に

!

" = 20°を代入して、

!

cos" = xとすると以下の方程式を得る。

!

4x3" 3x = cos60°

!

"

!

8x3" 6x "1= 0 ・・・①

①の解が

!

Fnに含まれなければ、題意は示されたことになる。計算の簡略化のために、

!

2x = zと置換すると

!

z3" 3z "1= 0 ・・・② この解が

!

Fnに含まれないことを示

す。背理法により、②が

!

Fnに含まれる解を持つと矛盾するが生じることを示す。

ⅰ)②が

!

F0に含まれる解、すなわち

!

z =q

pを持つとする。ただし p、q は互いに素な整数。

代入して、

!

q3

p3" 3

q

p"1= 0

!

"

!

q(q2" 3p

2) = p

3 ・・・③ p、q の条件より

!

q = ±1

すなわち、③

!

"

!

p3

+ 3p "1= 0 または

!

p3" 3p +1= 0

いずれも定数項が1なので

!

p = ±1 以外の解を持たない。これが不適なのは明白である

から、②すなわち①は

!

F0に含まれる解を持たない。

4

ⅱ)②が

!

Fkに含まれる解を持ったとする。この k を最小のものに定めることができる。

!

z = a + b w

!

(a, b, w " Fk#1 w $ F

k#1) ・・・④ これを代入して

!

(

!

a + b w

!

)3" 3

!

(

!

a + b w

!

) "1

!

= (a3

+ 3ab2w " 3a "1) + (3a

2b + bw " 3b) w

!

= " a + " b w = 0

より、④から

!

" b = 0 (

!

Q " b # 0なら、

!

w = "# a

# b となり、

!

w " Fk#1 かつ

!

"# a

# b $ F

k"1となっ

て矛盾する) よって

!

" a = 0

この場合

!

a + b w

!

= z1とする。次に

!

a " b w = z2 が②の解であることを示す。

!

(

!

a " b w

!

)3" 3

!

(

!

a " b w

!

) "1

!

= (a3

+ 3ab2w " 3a "1) " (3a

2b + bw " 3b) w

!

= " a # " b w = 0

!

( " a = " b = 0より) よって

!

z2は②の解である。

残りの解を

!

z3とすると、②の解と係数の関係より

!

z1+ z

2+ z

3= 0 すなわち、

!

z3

= "(z1

+ z2) = "2a

以上より、

!

z1, z

2" F

k かつ

!

z3" F

k#1 となる。

k=1 の時、ⅰ)により

!

F0の中に解は存在しないから、

!

F1の中にも解は存在しない。以下、

数学的帰納法によって、任意の正なる整数 k に関して、題意は示された。

以上をまとめると,60 度の三等分が定規とコンパスの有限回の使用によって作図不可能

なのは、

!

cos20°の値が数体

!

Fnすなわち、

!

z = a + b w

!

(a, b, w " Fk#1 w $ F

k#1)

の形で表現できないからである。

一般化すれば、定規とコンパスの有限回の使用によって作図可能となる図形とは、有理

数係数の 1次方程式と 2次方程式を連立させて得られた解を x-y 座標上にもつ、と言える。

作図不能問題は、この他に「2 倍の体積をもつ立方体の 1 辺を作図する立法倍積問題」、

「円と同じ面積の正方形を作図する円積問題」があるが、前者については、ワンツェルが

!

z3" 2 = 0 の解を評価することに帰着して示し、後者は1882年にリンデマンが

!

"が超

5

越数であることを使って不可能性を示した、といわれている。

感想 世界の基礎数学①の最後の方に歴史的展望があり、そこに作図不能問題が載ってい

た。P.400 の欄外、プラトンの項である。作図不能問題は小学校の頃より知っていたが、

19世紀になって証明されたのは知らなかった。どんな証明なのか興味を抱き、さっそく

ネットで検索した。ネットの情報は不確実なものが多いので,複数のサイトや書籍によっ

て裏をとった。参考文献の3)で参考文献2)の存在をしり、ただちに Amzon に注文した

ら、2日で来た。この本の内容をほぼ踏襲したが、証明については自分で考え直して再構

成したつもりである。ワンツェルの証明については京都大学の先生のものを参考にしたが、

実際どんなものかわからなかった。機会があれば確認してみたい。小学校時代からの謎で

あった問題の解決を知る機会を与えてくれた数検コーチャーの課題に感謝したい。

参考文献など

1)世界の基礎数学① 身近な数学 2008 年 一松 真監修 数検財団発行

2)数学とは何か 2001 年 I・スチュアート改訂 守口繁一監訳 岩波書店

3)作図不可能問題に関わる話題の紹介 北海道算数数学教育会高等学校部会研究部

http://izumi-math.jp/F_Yasuda/omoi/sakuzu.pdf

4)定規とコンパスによる作図 ウィキペディア

http://ja.wikipedia.org/wiki/ 定規とコンパスによる作図