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調 石井雅章 神田外語大学メディア教育センター 報告概要 大学と地域の連携が求められるなかで、地域連携授業の実践が増加している。地域連携 授業としては、地域が有する課題解決を目指したプロジェクト型授業が想起される(石井 , 2012 )。報告者も地域資源としての休耕地活用をテーマにしたプロジェクト型授業を継続 的に実施してきた(経済産業省 , 2014)。プロジェクト型地域連携授業においては、学生間 の協働学習と地域の様々な主体との関わりのなかで生じる状況学習の機会が得られやすく、 それが学生の汎用的能力の向上に与える影響は大きいと考えられる(石井, 2016)。 一方で、プロジェクト型授業の実施にあたってはプロジェクトの継続性など調整しなけ ればならない点が多く、授業時間外での活動の増加により学生への負荷も考慮する必要が ある。そこで、授業設計の工夫することで多様なかたちの地域連携授業が可能であること を、報告者が担当した「非プロジェクト」型地域連携授業の実践と成果について報告する。 授業概要 当該授業は、報告者が前任校において 2013 年度に担当した「地域イノベーション」と いう科目である。当該年度は 24 年次生合わせて 55 名が履修登録、 47 名が実際に受講 し、うち 42 名が前・後期ともに単位修得した。授業の目的は 「地域に向き合い、地域を 体 感 す る 」力 を 養 う こ と に 設 定 し た 。授 業 の 中 心 と な る の は 、授 業 の「 予 習 」と し て の「 地 域活動への参加」であり、授業時間内は地域活動への参加のための準備・振り返りなどの グループディスカッション(以下、GD)等を軸に構成した。 具体的な内容としては、①ジグソー法を活用した統計データ読み込みによる地域状況の 把握、②地域活動受入先による講演会、議事録作成ワークショップ(以下、WS)の実施、 ③学生自身の GD を通じた地域活動参加にあたっての準備、ルール、振り返り方法の構築、 ④地域と関わる「場」づくりとしての「コミュニティ・ラーニングコモンズ」(以下、 CLCの内容設計、⑤地域で活動する人々・団体を紹介するためのパネル制作、を実施した。 成果・結果 期末レポートの提出時に受講生への振り返り質問紙調査を実施し、 33 名の学生から回答 を得た。当該授業全体に対する満足度( 10 点満点)は、平均 8.12 で標準偏差 1.37 という 高い結果となった。 1 には、質問項目ごとの回答分布を示した。質問項目は、授業で実施した内容に意義 を感じているかという「意義」に関する側面と、授業を通じて自身の能力、関心、期待が 向上したと感じているかという「向上」に関する側面に大きく分けられる。グラフの分布 1日目 個人研究口頭発表 部会9 - 102 -

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Page 1: 「非プロジェクト型」地域連携授業の実践と 学生に …...「非プロジェクト型」地域連携授業の実践と 学生による振り返り調査の結果分析

「非プロジェクト型」地域連携授業の実践と

学生による振り返り調査の結果分析

石井雅章

神田外語大学メディア教育センター 報告概要

大学と地域の連携が求められるなかで、地域連携授業の実践が増加している。地域連携

授業としては、地域が有する課題解決を目指したプロジェクト型授業が想起される(石井 , 2012)。報告者も地域資源としての休耕地活用をテーマにしたプロジェクト型授業を継続的に実施してきた(経済産業省 , 2014)。プロジェクト型地域連携授業においては、学生間の協働学習と地域の様々な主体との関わりのなかで生じる状況学習の機会が得られやすく、

それが学生の汎用的能力の向上に与える影響は大きいと考えられる(石井 , 2016)。 一方で、プロジェクト型授業の実施にあたってはプロジェクトの継続性など調整しなけ

ればならない点が多く、授業時間外での活動の増加により学生への負荷も考慮する必要が

ある。そこで、授業設計の工夫することで多様なかたちの地域連携授業が可能であること

を、報告者が担当した「非プロジェクト」型地域連携授業の実践と成果について報告する。 授業概要 当該授業は、報告者が前任校において 2013 年度に担当した「地域イノベーション」という科目である。当該年度は 2〜4 年次生合わせて 55 名が履修登録、47 名が実際に受講し、うち 42 名が前・後期ともに単位修得した。授業の目的は 「地域に向き合い、地域を体感する」力を養うことに設定した。授業の中心となるのは、授業の「予習」としての「地

域活動への参加」であり、授業時間内は地域活動への参加のための準備・振り返りなどの

グループディスカッション(以下、GD)等を軸に構成した。 具体的な内容としては、①ジグソー法を活用した統計データ読み込みによる地域状況の

把握、②地域活動受入先による講演会、議事録作成ワークショップ(以下、WS)の実施、③学生自身の GD を通じた地域活動参加にあたっての準備、ルール、振り返り方法の構築、④地域と関わる「場」づくりとしての「コミュニティ・ラーニングコモンズ」(以下、CLC)の内容設計、⑤地域で活動する人々・団体を紹介するためのパネル制作、を実施した。 成果・結果

期末レポートの提出時に受講生への振り返り質問紙調査を実施し、33 名の学生から回答を得た。当該授業全体に対する満足度(10 点満点)は、平均 8.12 で標準偏差 1.37 という高い結果となった。 図 1 には、質問項目ごとの回答分布を示した。質問項目は、授業で実施した内容に意義を感じているかという「意義」に関する側面と、授業を通じて自身の能力、関心、期待が

向上したと感じているかという「向上」に関する側面に大きく分けられる。グラフの分布

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については各項目の左側が「意識」「向上」の感じ方が高く、右に行くほど低くなっている。

ほとんどの項目で 5 もしくは 4 という高評価の回答が多くなっているが、最高評価である5 と回答した頻度が高い質問項目を抽出すると、「意義」関連の項目としては「地域活動への参加」「議事録の取り方 WS」「地域活動への参加方法」「CLC デザイン」、「向上」関連の項目としては「能力向上(GD)」「能力向上(議事録)」「関心向上(地域)」「関心向上(他者)」という結果となった。 質問項目間の相関をみてみると、「授業全体の満足度」と最も高い相関があるのは、「地

域活動参加に対する意義」の項目で、r = .705 であった。一方で、「授業全体の満足度」は 全体的には「向上」関連のほぼすべての項目と比較高い相関(0.4 ≦ r ≦0.7)があることがわかった。本授業全体の満足度は「地域活動への参加」と学生自身の能力・関心度の

向上感と関連があることが考えられる。

謝辞

地域活動の受入及びマッチング等に御協力いただいた特定非営利活動法人鶴ヶ島第二小

学校区地域支え合い協議会、鶴ケ島市市民活動推進センターの皆様に感謝申し上げます。 参考文献

石井雅章 (2012) 「課題解決型教育(PBL)による地域課題解決への貢献」 日本地方自治研究学会『地方自治研究』 ,27(1):83-96 石井雅章(2016)「PBL 型ゼミにおける学生の社会人基礎力要素の変容分析」 教育学習支援情報システム(CLE) 2016-CLE-18(1) 1-8 経済産業省 (2014)「社会人基礎力を育成する授業 30 選」実践事例集 http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/25fy_chosa/Kiso_30sen_jireisyu.pdf

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

CLC

CLC

GD)

(CLC GD

( GD

( GD

WS

5 4 3 2 1

図 1 質問項目ごとの回答分布

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