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千葉大学教育学部(特別教科看護教員養成課程)卒業,明星大学人文学 研究科教育学専攻修了。東京大学医学部附属病院看護師,杏林大学医学 部付属看護専門学校,日本赤十字看護大学,東海大学健康科学部看護学 科助教授を経て,現在,川崎市立看護短期大学教授。主な著書に,『看護 過程・看護診断のわかりやすい教え方』(日総研出版,2019年),『看護過 程から理解する看護診断 改訂版』(丸善出版,2019年)がある。 川崎市立看護短期大学 教授 滝島紀子 連載 看護記録形式監査とは何か Q(編集者) :前回の復習になると思いますが,確認 させてください。看護記録形式監査とは,看護 記録方法の適切性の評価で,わかりやすく言う と,看護記録用紙への記録が自分の施設の看護記 録記載基準や看護記録記載マニュアルに記載さ れている取り決めにもとづいた記録になってい るかどうかを評価するということでよいですか。 T(滝島) :よいです。 看護記録形式監査を行うさいに 知っておく必要のあること :では,まずは,先生の本にあった看護記録形式 監査を行うさいに“これは知っておかないと” ということを教えていただけますか。 :まず,先ほど確認したように,「看護記録形式 監査」は,看護記録方法の適切性の評価,看護 記録用紙のどこに何を書くか・どんなことを書 くかという自施設の看護記録記載基準もしくは 看護記録記載マニュアルに記載されている看護 記録記載上の取り決めにもとづいた記録になっ ているか否かの評価です。「看護記録形式監査」 とはこのような評価であるということを十分に 理解していないと,次のような“うっかり評価” をしてしまうことがあります。 よくみられる“うっかり評価”例としては, 第1回(本誌Vol.29,No.4)で話したように, 「主訴」の欄に「だるそう」とか「眩暈」などと, 看護師の主観による対象の状態・状況が記載さ れていることがあります。また,かつて「主訴」 の欄に「ハ~,ハ~」と呼吸困難状態をリアル にあらわす呼吸音が記載されていることもあり ました。このような記載は,「主訴は患者の言 葉で書く」という自施設の看護記録記載基準も しくは看護記録記載マニュアルに記載されてい る看護記録記載上の取り決めにもとづいた記載 ではないため,看護記録形式監査の評価は「で きていない」という判断になりますが,「でき ている」と判断してしまうことがあります。 このような判断間違いが生じる原因の背景に は,“うっかりミス”もありますが,多くの場合, 自施設の看護記録用紙,すなわち,データベー スや看護記録のフォーマットへの記録における 看護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュ アルに記載されている看護記録記載上の取り決 めがわかっていないということがあります。し たがって,このような判断間違いが生じないよ うにするためには,〈看護記録形式監査とは何 か〉という概念とともに,自施設の看護記録用 紙への記録における看護記録記載基準もしくは 看護記録記載マニュアルに記載されている,ど こに何を書くか・どんなことを書くかという看 護記録記載上の取り決めを十分に理解しておく 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査を行うさいに 看護記録形式監査を行うさいに 知っておく必要のあること 知っておく必要のあること 第2回  看護記録形式監査 89 臨床看護記録 vol.29 no.5

第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

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Page 1: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

千葉大学教育学部(特別教科看護教員養成課程)卒業,明星大学人文学研究科教育学専攻修了。東京大学医学部附属病院看護師,杏林大学医学部付属看護専門学校,日本赤十字看護大学,東海大学健康科学部看護学科助教授を経て,現在,川崎市立看護短期大学教授。主な著書に,『看護過程・看護診断のわかりやすい教え方』(日総研出版,2019年),『看護過程から理解する看護診断 改訂版』(丸善出版,2019年)がある。

川崎市立看護短期大学 教授 滝島紀子連載

看護記録形式監査とは何か

Q(編集者):前回の復習になると思いますが,確認

させてください。看護記録形式監査とは,看護

記録方法の適切性の評価で,わかりやすく言う

と,看護記録用紙への記録が自分の施設の看護記

録記載基準や看護記録記載マニュアルに記載さ

れている取り決めにもとづいた記録になってい

るかどうかを評価するということでよいですか。

T(滝島):よいです。

看護記録形式監査を行うさいに知っておく必要のあること

Q:では,まずは,先生の本にあった看護記録形式

監査を行うさいに“これは知っておかないと”

ということを教えていただけますか。

T:まず,先ほど確認したように,「看護記録形式

監査」は,看護記録方法の適切性の評価,看護

記録用紙のどこに何を書くか・どんなことを書

くかという自施設の看護記録記載基準もしくは

看護記録記載マニュアルに記載されている看護

記録記載上の取り決めにもとづいた記録になっ

ているか否かの評価です。「看護記録形式監査」

とはこのような評価であるということを十分に

理解していないと,次のような“うっかり評価”

をしてしまうことがあります。

 よくみられる“うっかり評価”例としては,

第1回(本誌Vol.29,No.4)で話したように,

「主訴」の欄に「だるそう」とか「眩暈」などと,

看護師の主観による対象の状態・状況が記載さ

れていることがあります。また,かつて「主訴」

の欄に「ハ~,ハ~」と呼吸困難状態をリアル

にあらわす呼吸音が記載されていることもあり

ました。このような記載は,「主訴は患者の言

葉で書く」という自施設の看護記録記載基準も

しくは看護記録記載マニュアルに記載されてい

る看護記録記載上の取り決めにもとづいた記載

ではないため,看護記録形式監査の評価は「で

きていない」という判断になりますが,「でき

ている」と判断してしまうことがあります。

 このような判断間違いが生じる原因の背景に

は,“うっかりミス”もありますが,多くの場合,

自施設の看護記録用紙,すなわち,データベー

スや看護記録のフォーマットへの記録における

看護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュ

アルに記載されている看護記録記載上の取り決

めがわかっていないということがあります。し

たがって,このような判断間違いが生じないよ

うにするためには,〈看護記録形式監査とは何

か〉という概念とともに,自施設の看護記録用

紙への記録における看護記録記載基準もしくは

看護記録記載マニュアルに記載されている,ど

こに何を書くか・どんなことを書くかという看

護記録記載上の取り決めを十分に理解しておく

看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か 看護記録形式監査とは何か

看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに看護記録形式監査を行うさいに知っておく必要のあること知っておく必要のあること

第2回 看護記録形式監査

89 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 2: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

ことが重要になります。

 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

術をします”“治療をしましょう”,「本人の受

け止め」「家族の受け止め」の欄には“はい,

わかりました”“よろしくお願いします”など

としか記載していないことが多々あります。こ

れでは,“医師の説明を受けて,患者や家族は

どのように理解し,どのように思ったり感じた

りしたのか?”ということがわかりません。そ

もそも,「医師からの説明内容」欄や「本人の

受け止め」「家族の受け止め」欄があるのは,

そのデータから今回の入院における患者や家族

の受け止め内容がわかり,この受け止め内容を

念頭においてかかわることで,入院後の治療を

患者や家族の納得のうえでスムーズに効果的に

進めることができるようにするためです。も

し,「医師からの説明内容」と「本人の受け止

め」「家族の受け止め」にズレがあれば,看護

師は改めて患者や家族に今回の入院についてわ

かるように説明し,患者や家族が納得したうえ

で治療を受けることができるようにしていくと

いうことになります。また,そのさいに必要で

あると判断された場合は,何らかの精神的サ

ポートを行っていくということになります。

 以上のことから,「主訴」の欄においても「医

師からの説明内容」欄や「本人の受け止め」・

「家族の受け止め」欄においても,データ収集

欄には,そのデータ収集欄が設けられた意図が

あるといえます。では,この意図は,どこをみ

ればわかるでしょうか。「医師からの説明内容」

および「本人の受け止め」「家族の受け止め」

の欄を例に挙げてみていきます。

 このような欄を設けた意図は,看護記録記載

基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載さ

れている看護記録記載上の取り決めをみるとわ

かります。多くの施設では,「医師からの説明

内容」と「本人の受け止め」「家族の受け止め」

をつき合わせることによって,医師の認識と患

者や家族の認識のズレの有無がわかる記載内容

の取り決めになっており,施設によっては,「医

師からの説明内容」欄には「今回の入院につい

てどのような説明があったのか(患者・家族の

受け止めた言葉で書く)」,「本人の受け止め」

「家族の受け止め」欄には「医師の説明をどの

ように認識したのか(患者・家族の受け止めた

言葉で書く)」とされているところもあります。

 以上のことをまとめると,データベースに設

定されている各データ収集欄,すなわちデータ

収集項目には,必ずそのデータ収集項目を設定

した意図があるため,その意図にそったデータ

を収集し,収集したデータは,看護記録記載上

の取り決めにもとづいて記載する必要がありま

す。そのため,自施設の看護記録用紙,すなわ

ちデータベースや看護記録のフォーマットのど

こに何を書くか・どんなことを書くかという,看

護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュア

ルに記載されている看護記録記載上の取り決め

を,十分に理解しておくことが重要になります。

 繰り返しになりますが,看護記録形式監査を

行うさいは,「看護記録形式監査とは何か」と

いう定義,自施設の看護記録用紙への記録につ

いての看護記録記載基準もしくは看護記録記載

マニュアルに記載されている看護記録記載上の

取り決めを,その欄が設置されている意図とと

もに十分に理解しておく必要があります。

Q:“データ収集欄があるから,そのデータをとっ

て,そこに書こう”というような表面的な記録

にならないようにということですね。

T:そうです。今,“その欄が設置されている意図”

90 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 3: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

についての話が出ましたので,この意図につい

てもう少し詳しく話します。「看護記録形式監

査」を行うにあたって,改めて看護記録記載基

準もしくは看護記録記載マニュアルに記載され

ている看護記録記載上の取り決めを確認するさ

いは,“この欄”についてのデータを収集する

意図・目的も改めて確認するとよいです。意

図・目的がわかると,看護記録記載基準もしく

は看護記録記載マニュアルに記載されている看

護記録記載上の取り決めの理由がわかり,理由

がわかると,“その欄”についてのデータ収集

が取り決め通りにできるようになります。

 あと1つ,「看護記録形式監査」を行う目的も

知っているとよいです。繰り返しになりますが,

看護記録形式監査を行う目的は,「看護記録記

載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載

されている看護記録記載上の取り決めにもとづ

いた記録ができるようにしていくこと」です。

Q:ということは,看護記録形式監査を行うさいに

“これは知っておかないと”ということの1つ目

は,看護記録形式監査を行う目的と併せて〈看

護記録形式監査とは何か〉という定義,2つ目

は,看護記録記載基準や看護記録記載マニュア

ルに記載されている看護記録用紙のどこに何を

書くか・どんなことを書くかという取り決めと

いうことでいいですか。他に何かありますか。

T:そうですね。欲を言えば,これから話していく

「看護記録形式監査表」と「看護記録記載基準

もしくは看護記録記載マニュアルに記載されて

いる看護記録記載上の取り決め」の関係もわ

かっているとよいです。

 看護記録形式監査表(表1)は,“「主訴」には患者の言葉で記載されているか”“「既往歴」

には既往歴の有・無のいずれかに○がついてい

るか(○の場合,疾患名,発症年齢・転帰が記

載されているか)”などいくつかの項目で構成

されていますが,これらの項目の出所は,看護

記録記載基準もしくは看護記録記載マニュアル

に記載されている看護記録用紙,すなわちデー

タベースや看護記録のフォーマットのどこに何

を書くか・どんなことを書くかという看護記録

記載上の取り決め事項です。したがって,「看

護記録形式監査表」と「看護記録記載基準もし

くは看護記録記載マニュアルに記載されている

看護記録記載上の取り決め」の関係がわかって

いると,看護記録用紙に変更があった場合は,

看護記録形式監査表ばかりでなく,看護記録記

載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載

されている看護記録用紙のどこに何を書くか・

どんなことを書くかという看護記録記載上の取

り決め事項も変更する必要のあることがわか

り,看護記録用紙と看護記録形式監査表,看護

記録記載基準もしくは看護記録記載マニュアル

に記載されている看護記録用紙のどこに何を書

くか・どんなことを書くかという看護記録記載

上の取り決め事項に整合性をもたせることがで

きます。

自己評価 監査者評価監査項目

「主訴」には患者の言葉で記載されているか

「入院目的」には入院の目的が記載されているか

「入院までの経過」には症状発症から入院にいたる経過が記載されているか

「既往歴」には既往歴の有・無のいずれかに○がついているか有に○の場合:疾患名,発症年齢,転帰が記載されているか

データベース

表1●看護記録形式監査表〈評価基準〉できている:○ できていない:× 該当しない:/

91 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 4: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

Q:「看護記録用紙」「看護記録形式監査表」「看護

記録記載基準や看護記録記載マニュアルに記載

されている看護記録記載上の取り決め事項」の

3つは関係しているのですね。看護記録用紙の

見直しなどに備えて,この3つの関係性を知っ

ておくことは,確かに重要になると思います。

他に知っておいた方がいいことはありますか。

T:後はないです。

Q:では次に,実際に看護記録形式監査を行うさい

はどうすればいいのかを教えていただけますか。

看護記録形式監査を行うさいの監査者側の準備

T:まずは,看護記録形式監査を行うさいは監査者

側に準備が必要になります。先ほど話した看護

記録形式監査を行うさいに知っておきたいこと

と関係しますが,監査者は,監査を行う前に看

護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュア

ルに記載されている看護記録用紙,すなわち

データベースや看護記録のフォーマットのどこ

に何を書くか・どんなことを書くかという看護

記録記載上の取り決めを,改めて確認しておく

必要があります。

 なぜならば,臨床経験を積んだ看護師が監査

者になることが多いため,自施設の看護記録用

紙の“どこに何を書くか・どんなことを書くか”

はわかっているはずですが,経験を積むなかで

失念してしまっていることがあるからです。言

葉を換えると,経験を積むことでの慣れによっ

て“意識されないまま自己流の記載になってい

る”ことがあるからです。この“自己流の記載”

は意識されないことが多いため,自施設の看護

記録用紙における取り決めを確認しないまま看

護記録形式監査を行うと,間違った評価をして

しまいます。したがって,監査者として看護記

録形式監査を行うさいは,改めて,看護記録記

載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載

されている看護記録用紙のどこに何を書くか・

どんなことを書くかという看護記録記載上の取

り決めを確認しておくことが重要になります。

Q:これは,監査者の準備ということですね。確か

に,どんな仕事でも慣れによって原点を忘れ,

うっかりしてしまうことがあるので,このよう

な原点の確認は大切になると思います。ベテラ

ン看護師ほど,監査者になったことをきっかけ

に原点の確認を行うことは重要になるのかもし

れませんね。他に何か準備はありますか?

T:監査者の準備はこれだけです。次に,看護記録

形式監査を行うさいの手続きについて話します。

看護記録形式監査を行うさいの手続き

Q:“手続き”とはどのようなことですか。

T:わかりやすくいうと,手順,順序ということです。

Q:わかりました。看護記録形式監査はどんな手順,

順序で行っていくのかを教えていただけますか。

T:監査を受ける人を被監査者と言いますが,看護

記録形式監査を行うさいは,被監査者に“いき

なり”「看護記録形式監査をしてきてほしい」

というのではなく,次のような順序で行うとよ

いです。

①被監査者に看護記録の形式監査を行うことを

伝えます。

看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの監査者側の準備監査者側の準備

看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの看護記録形式監査を行うさいの手続き手続き

92 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 5: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

②①のとき,被監査者に看護記録形式監査表

(表1)のみを渡し,「まずは,この看護記録形式監査表の監査項目のなかで,どんなこと

を言っているのかがわからない項目,何をみ

ればいいのかがわからない項目はないかをみ

てきてほしい」ということを伝えます。この

さいは,“いつまでに”という期限を決めて

みてきてもらいます。

③被監査者が,看護記録形式監査表をみた結

果,どんなことを言っているのかがわからな

い項目,何をみればいいのかがわからない項

目がなければそれでいいです。しかし,もし

わからない項目があれば,その項目につい

て,看護記録記載基準もしくは看護記録記載

マニュアルに記載されている看護記録用紙,

すなわち,データベースや看護記録のフォー

マットのどこに何を書くか・どんなことを書

くかという看護記録記載上の取り決めを一緒

に実際にみながら説明し,わからない項目の

指し示していることがわかるようにしていき

ます。

Q:看護記録形式監査に先だって,わからない項目

はないかの確認を行い,わからない項目がある

場合,わかるようにしていくということですね。

目で見て,耳で聞いてなので,ただ聞くだけよ

りはわかりやすいのではないかと思います。

T:そうですね。聞くだけではなく,“目で見て”

という方法を用いると,わかりやすいだけでは

なく,もう1ついいことがあります。それは,

看護記録形式監査表の評価項目の出所がわかれ

ば,被監査者が今後“どんなことを言っている

のかがわからない項目,何をみればいいのかが

わからない項目”があるときは,看護記録記載

基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載さ

れている,看護記録用紙のどこに何を書くか・

どんなことを書くかという看護記録記載上の取

り決めをみればいいんだということがわかるこ

とです。

Q:しかし,このようなことが被監査者にわかるよ

うにしていくためには,「看護記録形式監査表

の監査項目」と「看護記録記載基準もしくは看

護記録記載マニュアルに記載されている看護記

録用紙のどこに何を書くか・どんなことを書く

かという取り決め事項」の関係を,監査者がわ

かっていないとだめですね。納得しました。こ

れに関してもう1つうかがいますが,看護記録

形式監査に先だって,被監査者にわからない項

目はないかの確認を行ってもらう意図はなんで

すか?

T:看護記録形式監査を行うときは,まずは被監査

者に自己評価を行ってもらいますが,これは,

自分が書いた記録を自分でみて,自分で自施設

の看護記録記載上の取り決め通りの記録ができ

ているところ,できていないところに気づいて

もらうためです。このような自己での気づき

は,他者からの指導によって気づいた気づきと

は異なり,以後の看護実践に容易に取り込んで

いくことができ,その結果,自己の力で看護実

践レベルを高めていくことにつながります。

 このような意義のある自己評価ではあります

が,その意義を十分に活かすためには,看護記

録形式監査表の各監査項目の指し示しているこ

とがわかり,妥当性の高い自己評価が行えるこ

とが前提になります。看護記録形式監査表の各

監査項目の指し示していることがわからない場

合は,妥当性の高い自己評価ができません。し

たがって,被監査者が妥当性の高い自己評価を

行うことができ,この評価で気づいたことを以

93 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 6: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

後の看護実践に取り込み,自己の力で看護実践

レベルを高めていくことができるようにするた

めには,このような手続きが必要になるのです。

 よって,被監査者にわからない項目はないか

の確認を行ってもらう意図は,看護記録形式監

査表の各監査項目の指し示していることがわか

り,妥当性の高い自己評価が行えるようにする

ためということができます。

Q:極端な言い方をすると,看護記録形式監査表の

各監査項目の指し示していることがわからない

まま被監査者に自己評価をしてもらっても意味

がないという理解でいいですか。

T:そういうことです。どうせならば,十分に監査

項目の指し示していることがわかったうえで自

己評価を行ってもらった方が,学習効果は高く

なります。

Q:確かにそうですね。よくわかりました。

T:では,話を進めます。このような方法を用いて,

被監査者が看護記録形式監査表の監査項目につ

いてわからないところがないという確認ができ

たら,次の④に進みます。

④被監査者が主となって担当した患者の看護記

録と看護記録形式監査表を被監査者に渡し,

この看護記録の形式監査をしてくるよう期限

を決めて提示します。

Q:患者には何人もの看護師がかかわると思うので

すが,被監査者に看護記録の形式監査を行って

もらう記録は,どのような基準で選択するとよ

いですか。

T:これは,よくある質問です。このさいの選択基

準は,被監査者がプライマリーナースになった

患者,入院時にデータベースの情報をとった患

者ということになります。なぜならば,プライ

マリーナースや入院時にかかわった看護師は,

データベースの情報をとり,看護問題を明らか

にして,初期計画を立案し,最低1回は計画に

もとづいた看護援助を行い,その看護援助につ

いての経過記録を記載しているかもしれないか

らです。また,そこまでいかなくても,日勤の

ときに可能な限りその患者を担当しているかも

しれません。もしそうだとすれば,その患者の

看護実践についての記録をする頻度が高くなる

ためです。

Q:“被監査者が,入院時にデータベースの情報を

とった患者”の記録を選択するのですね。

T:そうです。そして,被監査者に期限までに自己

評価してきてもらった看護記録形式監査を受け

取ったら,次の⑤に進みます。

⑤被監査者の評価結果をみずに監査者としての

看護記録形式監査を行い,その後で,被監査

者の評価と監査者の評価をつき合わせて看護

記録形式監査の最終評価をしていきます。

Q:なぜ,このような方法で行うのですか。

T:これは,看護記録形式監査の場合,看護記録質

監査ほどではありませんが,うっかりすると監

査者の評価が被監査者の自己評価にひっぱられ

てしまうことがあるからです。

 たとえば,冒頭で述べたように,「主訴は患

者の言葉で書く」という項目について被監査者

が「できている」と評価したものを目にした場

合,監査者はその「できている」という評価に

影響され,“うっかり”「できている」と評価し

94 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 7: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

てしまうことがあります。一方,監査者と被監

査者が別々に評価した場合,監査者は被監査者

の評価をみていないため,1つひとつ“自分で

判断”していくことになり,他者の評価したも

のを目にしたがための“うっかり”を低減する

ことができます。

 したがって,被監査者・監査者が別々に評価

を行って,次の段階でつき合わせるという方法

をとった方がよいということになります。

Q:厳重に行うのですね。先ほどもうかがいました

が,被監査者に自己評価を行ってもらう意図と

いいますか,目的をもう1度教えていただけま

すか。

T:これには,先述のように教育上,重要な意味が

あります。自分の看護記録を振り返り,できて

いるところ・できていないところに自分で気づ

くということは,被監査者の学びにおいて大き

な威力を発揮するのです。人(被監査者)から

言われて,できていないところに気づくのと,

自分で気づくのとでは,後者の方が身をもっての

学びになり,以後,意識的に活かしていくこと

ができるという点で,学習効果が高いからです。

Q:被監査者に自己評価を行ってもらうのは,看護

記録における学習効果の有効性と言う観点か

ら,“人に気づかせてもらうより,自分での気

づき”が重要になるからなのですね。

 改めて自己評価の重要性がわかりました。こ

のような被監査者の自己評価を受けて,監査者

が「看護記録形式監査の最終評価」をしたら,

次はどうするのですか?

T:次の⑥に進みます。

⑥最終評価が終わったら,被監査者に看護記録

形式監査結果を知らせます。このさい,被監

査者の評価と監査者の評価がすべて合ってお

り,かつ「できていない」という項目が監査

者と被監査者で一致していれば,看護記録記

載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記

載されている看護記録用紙のどこに何を書く

か・どんなことを書くかという看護記録記載

上の取り決めを見ながら一緒に“ここには何

を書くか・どんなことを書くかという取り決

めを確認”し,どのようなことを記載すれば

いいのかを話し合って,次回は看護記録記載

上の取り決めにもとづいたデータが収集で

き,取り決めにもとづいた記載ができるよう

にしていきます。

  また,被監査者の評価と監査者の評価が異

なっている項目があれば,その項目の評価の

妥当性を検討し,必要時“ここには何を書く

か・どんなことを書くかという看護記録記載

上の取り決め事項を確認”し,次回は取り決

めにもとづいたデータが収集でき,取り決め

についての記録ができるようにしていきます。

  この被監査者への看護記録形式監査結果の

お知らせは,すべての項目が「できている」

という評価の場合でも行い,被監査者に“す

べての項目ができていました”と伝え,“看

護記録の記載はこれでいいんだ”と自信がも

てるようにしていくとよいです。

Q:この場合,看護記録には他の看護師の記録もあ

ると思うのですが,この点で,何か工夫するこ

とはありますか。

T:特段の工夫はありません。もし,他の看護師の

記載した記録で,その記載が「できていない」

という評価になったとしたら,“あなただった

らどんなことを書く?”“どんなことを書いた

95 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 8: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

らいいと思う”などと訊くことで,記載内容が

わかっているか否かの確認を行うとともに,必

要時,被監査者と一緒に,看護記録記載基準も

しくは看護記録記載マニュアルに記載されてい

る看護記録記載上の取り決めを確認していくと

よいです。

 また,時には,他の看護師の記載した記録で,

その記載が「できている」という評価であって

も,改めて“このデータ収集欄が設定されてい

る意図はなんだろう?”“この欄に患者のデー

タを記載するさいの看護記録記載基準もしくは

看護記録記載マニュアルに記載されている看護

記録記載上の取り決めは何だろう”などと訊

き,記載内容がわかっているか否かの確認を行

うとよいです。

Q:とても丁寧なかかわりですね。確かに,このよ

うにすると,看護記録記載基準もしくは看護記

録記載マニュアルに記載されている看護記録用

紙のどこに何を書くか・どんなことを書くかと

いう看護記録記載上の取り決めがわかるように

なるのではないかと思いました。ところで,と

ても単純な質問なのですが,看護記録形式監査

の結果は「できている」「できていない」と書

くのですか。

T:言い忘れていました。ほとんどの施設では,「で

きている:○」「できていない:×」「該当しな

い:/」としています。

Q:「該当しない」もあるのですね。どんなときに

「該当しない」となるのですか?

T:たとえば,“一時的な問題は「T」をつけて記

載している”という項目の評価において,患者

に一時的な問題がなかったときは「該当しな

い:/」になります。具体的には,“入院時は

援助の必要性はなかったが,入院中に援助の必

要性が生じ,この援助の必要性を一時的な問題

と明示してかかわるというようなことはなかっ

たので,このような記録を行う必要はなかっ

た”という場合は,「該当しない:/」になり

ます。

 ここで明らかなように,看護記録形式監査表

の項目で患者に該当しないことは「該当しな

い:/」とすればよいのですが,そのような項

目に「できていない:×」をつける被監査者が

いるため,監査者は「できていない:×」と「該

当しない:/」の概念を区別できるようにして

おく必要があります。

Q:看護記録形式監査の方法はおおよそわかりまし

たが,看護記録形式監査はどのような看護師に

行うのですか。どんなときに行うのかという訊

き方をした方がいいでしょうか。

T:どんな看護師が看護記録形式監査の対象になる

のかというと,看護基礎教育を卒業したばかり

の新人看護師,中途採用の看護師で,自施設の

看護記録をはじめて使った看護師,言葉を換え

ると,自施設の看護記録用紙にはじめて記録し

た看護師です。なぜならば,看護記録形式監査

は,自施設の看護記録用紙ではじめて患者の

データをとってみて,わからないところはなかっ

たかを明らかにすることだからです。1度,“自

施設の看護記録記載上の取り決めがわかった”

と判断された看護師は,以後,頻回に看護記録

形式監査を受ける必要はありません。なぜなら

ば,自施設の看護記録記載上の取り決めは,1

度わかれば,わからなくなることはめったにな

いからです。したがって,1度OKになったら,

しばらくは,次回話す看護記録質監査のみを行

96 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 9: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

えばよいです。

 よって,どんなときに行うのかといえば,自

施設の看護記録用紙を活用してはじめて患者の

データをとったときに,タイムリーに行うとよ

いです。

Q:このような新人看護師,中途採用の看護師に対

して,先述(P.93)の②のように「この看護記

録形式監査表の監査項目のなかで,何を言って

いるのかがわからない項目,何をみればいいの

かがわからない項目はないかをみてきてほし

い」と言っても,看護記録形式監査表をみたこ

とがないということもあるのではないかと思う

のですが,看護記録監査についてのオリエン

テーションはどこかで行っているのですか。

T:そうです,いきなり「看護記録形式監査をして

きてほしい」と言われてもわかりません。した

がって,多くの施設では,看護師の入職時に,

自施設の看護記録用紙について,データベース

や看護記録のフォーマット,自施設の看護記録

記載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記

載されている看護記録用紙のどこに何を書く

か・どんなことを書くかという看護記録記載上

の取り決めの説明を行っています。また,この

さい,看護記録監査の概要の説明も行い,この

ときに看護記録形式監査についての説明を行っ

ているところが多いです。

 先ほどの「看護記録形式監査はどんなときに

行うのか」という話と関係しますが,看護記録

形式監査の時期は,このオリエンテーションを

受けて,はじめてデータベースを活用して患者の

データをとり,看護問題を明らかにして,初期

計画を立案し,最低1回は計画にもとづいた看

護援助を行い,その看護援助についての経過記

録を記載したあたりがよいです。説明を聞いて

わかったように思っていても,実際にデータベー

スを活用して患者のデータをとってはじめて,

わからないこと,曖昧なことがわかることが多い

ため,その直後に看護記録形式監査を行うと学習

効果があり,学習上,タイムリーだと思います。

Q:先ほどもあったように,自施設の看護記録用紙

の看護記録記載上の取り決めがわかるために

は,看護記録形式監査をタイムリーに行うこと

が大切なんですね。

T:そういうことです。

Q:他に何か,看護記録形式監査で話しておきたい

ことはありませんか。

T:こんなところです。

Q:では,最後に「看護記録形式監査」のポイント

をまとめていただけますか。

まとめ

T:ポイントは5つです(表2)。

 1つ目は,「看護記録形式監査とは何か」と

いう定義です。看護記録形式監査とは,「看護

記録方法の適切性の評価」「自施設の看護記録

用紙,すなわちデータベースや看護記録の

フォーマットへの記録が,看護記録記載基準も

しくは看護記録記載マニュアルに記載されてい

る看護記録記載上の取り決めにもとづいた記録

になっているかどうかを評価すること」です。

 2つ目は,「看護記録形式監査を行うさいに

知っておく必要のあること」として,「看護記

録用紙」と「看護記録形式監査表」と「看護記

録記載基準もしくは看護記録記載マニュアルに

記載されている看護記録記載上の取り決め」の

97 臨床看護記録 vol.29 no.5

Page 10: 第2回 看護記録形式監査第2 回 看護記録形式監査 臨床看護記録 vol.29 no.5 89 ことが重要になります。 また,「医師からの説明内容」の欄には“手

関係がわかっていることです。

 3つ目は,「看護記録形式監査を行うさいの

監査者側の準備」で,看護記録記載基準もしく

は看護記録記載マニュアルに記載されている自

施設の看護記録用紙への記録を行うさいの看護

記録記載上の取り決めを,そのデータ収集欄が

設定されている意図・目的とともに十分に確認

しておくことです。

 4つ目は,「看護記録形式監査を行うさいの

手順」で,①被監査者の自己評価,②監査者の

評価,③被監査者の評価と監査者の評価のつき

合わせ,④看護記録形式監査の最終評価,⑤被

監査者への看護記録形式監査の結果を知らせ

て,必要時,看護記録記載方法を一緒に確認す

る,ということです。

 5つ目は,「看護記録形式監査を行う対象・

時期」です。主な対象は,新人看護師・中途採

用看護師。時期は,デ-タベースを活用して初

めて患者のデータをとり,看護問題を明らかに

して,初期計画を立案し,最低1回は計画に基

づいた看護援助を行い,その看護援助について

の経過記録を記載したときであることです。

 今回は,看護記録形式監査についての話をうかが

いました。次回は,看護記録質監査についてうかが

いたいと思います。次回もどうぞよろしくお願いい

たします。

④看護記録形式監査の最終評価⑤被監査者への看護記録形式監査の結果を知らせる,必要時,看護記録記載方法の確認

看護記録形式監査とは何か 看護記録方法の適切性の評価=自施設の看護記録用紙のフォーマットへの記録が,看護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載されている看護記録記載上の取り決めにもとづいた記録になっているか否かの評価

看護記録形式監査を行うさいに知っておく必要のあること 「看護記録用紙」と「看護記録形式監査表」と「看護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載されている看護記録記載上の取り決め」の関係

看護記録形式監査を行うさいの監査者側の準備 看護記録記載基準もしくは看護記録記載マニュアルに記載されている自施設の看護記録用紙への記録を行うさいの,看護記録記載上の取り決めのデータ収集欄が設定されている意図・目的の理解をともなっての十分な確認

看護記録形式監査を行うさいの手順①被監査者の自己評価②監査者の評価③被監査者の評価と監査者の評価のつき合わせ

看護記録形式監査を行う対象・時期主な対象:新人看護師・中途採用看護師時期:デ-タベースを活用してはじめて患者のデータをとり,看護実践を記載したとき

表2 看護記録形式監査のポイント

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