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1/18 アレルゲン免疫療法とは アレルギー症状を緩和し、疾患の自然経過の改善が可能 まず、最初にアレルゲン免疫療法について、紹介致します。 アレルゲン免疫療法とは、アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲン に曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法であり、アレルギー疾患の自然経過を 改善させることが可能な治療法と考えられています。 対象疾患は、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などが一般的であり、施行法としては、注射による皮下 免疫療法と舌下投与による舌下免疫療法などがあります。 この治療を行う際には、皮膚反応テストまたは特異的 IgE 抗体検査等により病因アレルゲンを正確に 同定し、正しい回避指導を行うことができることが必要です。 アレルゲン免疫療法に対する世界保健機関(WHO)の見解 (WHO Position Paper) こちらでは、アレルゲン免疫療法に対する WHO の代表的な見解を列挙し紹介します。 1. アレルギー性鼻炎の治療法であるが、アレルギー性の結膜炎、喘息にも効果がある。 2. 治療には専門的な知識・技能が必要である。 3. 標準化抗原を使用することが望ましい。 4. 抗原量を漸増し、5~20μg の主要アレルゲン含有の維持量を目指す。 5. EBM はないが、治療期間は 3 年から 5 年がよいとされている。 6. アナフィラキシーなどの副作用の可能性がある。 参考:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2013 年版(改訂第 7 版), p54, 2013 アレルゲン免疫療法のメカニズム 有益な免疫学的変化が期待できます。 アレルゲン免疫療法の効果発現メカニズムは十分には解明されていませんが、アレルゲン免疫療法に より自然曝露より高い抗原量の抗原が体内に取り込まれると抗原提示細胞へ作用し、その結果、制御

アレルゲン免疫療法とは4/18 アレルゲン免疫療法の歴史 皮下免疫療法の代替法として、舌下免疫療法が登場しました。 アレルゲン免疫療法は、約100年にわたり皮下免疫療法を中心に行われています。一方で、より安

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アレルゲン免疫療法とは

アレルギー症状を緩和し、疾患の自然経過の改善が可能

まず、最初にアレルゲン免疫療法について、紹介致します。

アレルゲン免疫療法とは、アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲン

に曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法であり、アレルギー疾患の自然経過を

改善させることが可能な治療法と考えられています。

対象疾患は、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などが一般的であり、施行法としては、注射による皮下

免疫療法と舌下投与による舌下免疫療法などがあります。

この治療を行う際には、皮膚反応テストまたは特異的 IgE 抗体検査等により病因アレルゲンを正確に

同定し、正しい回避指導を行うことができることが必要です。

アレルゲン免疫療法に対する世界保健機関(WHO)の見解 (WHO Position

Paper)

こちらでは、アレルゲン免疫療法に対する WHO の代表的な見解を列挙し紹介します。

1. アレルギー性鼻炎の治療法であるが、アレルギー性の結膜炎、喘息にも効果がある。

2. 治療には専門的な知識・技能が必要である。

3. 標準化抗原を使用することが望ましい。

4. 抗原量を漸増し、5~20μg の主要アレルゲン含有の維持量を目指す。

5. EBM はないが、治療期間は 3 年から 5 年がよいとされている。

6. アナフィラキシーなどの副作用の可能性がある。

参考:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2013 年版(改訂第 7 版), p54, 2013

アレルゲン免疫療法のメカニズム

有益な免疫学的変化が期待できます。

アレルゲン免疫療法の効果発現メカニズムは十分には解明されていませんが、アレルゲン免疫療法に

より自然曝露より高い抗原量の抗原が体内に取り込まれると抗原提示細胞へ作用し、その結果、制御

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性 T 細胞(Treg)の誘導及び Th1 細胞の増加、Th2 細胞増加の抑制、抗原特異的 IgG 及び IgA の増

加等により、アレルギー反応を抑制するものと推測されています。

アレルゲン免疫療法の臨床効果

年単位にわたる治療により、様々な効果が期待できます。

年単位にわたる一定期間、正確にアレルゲン免疫療法を行った場合、症状の改善、アレルギー疾患の

対症薬物使用量の減量、治療終了後の治療効果の持続(いわゆる持ち越し効果)、アレルギー疾患の

自然史への介入として免疫寛容の誘導が期待されます。

また、他のアレルゲンに対する新規感作の抑制、小児アレルギー性鼻炎患者の喘息発症頻度の抑制な

どが、欧米において報告されています。

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アレルゲン免疫療法で懸念される重大な副作用

アナフィラキシーへの対応が重要です。

アレルゲン免疫療法で懸念される重大な副作用として、アナフィラキシーがあります。アナフィラキ

シーに対しては、適切な緊急時の対応が必要となります。

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アレルゲン免疫療法の歴史

皮下免疫療法の代替法として、舌下免疫療法が登場しました。

アレルゲン免疫療法は、約 100 年にわたり皮下免疫療法を中心に行われています。一方で、より安

全で簡便な投与経路の検討も行われ、有効性・安全性・使用性等の点で舌下免疫療法が皮下免疫療法

の代替法のひとつとして、現在、欧州を中心に広く行われています。

Canonica and Passalacqua J Allergy Clin Immunol 111(3) 437-448, 2003 改変

アレルゲン免疫療法の投与経路の選択

それぞれの特徴や患者背景などを考慮して選択されます。

皮下免疫療法は、医療機関通院時に医師の監督下で皮下注射により行われます。注射のための痛みが

ありますが、増量期は頻回な通院が必要となります。一方、舌下免疫療法は舌下投与のため痛みがな

く、初回投与時以外は自宅でも行うことができます。患者様自身が自宅で治療を行うため、治療に対

するより詳しい理解が必要となります。

投与経路の選択は、それぞれの特徴や患者背景などを考慮し、慎重に行うことが必要です。

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シダトレンによる舌下免疫療法について

詳しく紹介します。

STEP1 診断・治療

1. 対象患者様について。

シダトレンによる治療の対象は「スギ花粉症」の患者様です。

診断には問診が重要となります。毎年スギ花粉飛散期に、くしゃみ、鼻のかゆみ、鼻漏、鼻閉の典型

的鼻症状を有し、時として目のかゆみ等の眼症状を伴う場合、スギ花粉症である可能性が高くなりま

す。

また、現病歴のほか既往歴や合併症等も確認させていただきます。

患者さんの状態によっては、シダトレンによる治療が受けられない場合や、治療に際し注意が必要な

場合があります。シダトレンによる治療が受けられない患者様には、他の治療法を提案します。

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2. シダトレンの治療を受ける患者様の検査・診断について。

スギ花粉症は問診に加え、皮膚反応テストまたは特異的 IgE 抗体検査の結果を組み合わせ診断しま

す。

さらに季節中の鼻汁好酸球検査が陽性、あるいは誘発テストが陽性であればスギ花粉症と確定できま

すが、鼻汁好酸球検査は 1 回の検査では陰性になることもあります。

シダトレンの治療対象は、スギ花粉症患者であり、スギ花粉が病因アレルゲンである確定診断が必要

です。スギ花粉以外を病因アレルゲンとする患者様は、シダトレンによる治療対象ではありません。

検査においてスギ花粉症でないことが確定した場合、シダトレンによる治療を始めることはできませ

ん。

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3. アレルゲン免疫療法についての紹介

シダトレンによる治療対象と判断された患者様に対し、アレルゲン免疫療法を正しく理解していただ

くために、以下の「アレルゲン免疫療法:総論」を説明します。

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STEP2 治療説明

1. 治療の詳細について。

シダトレンによる治療の全体のスケジュールを紹介します。

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2. 患者様の意思について

シダトレンによる治療は、治療期間が長期にわたり、花粉非飛散期にも薬剤の服用が必要です。ま

た、すべての患者さんに効果が期待できるわけではなく、効果があって治療を終了した場合も、時間

の経過とともに効果が減弱する可能性も考えられます。

さらに家庭において服用されるため、副作用等が起きた場合は、患者さん自身による適切な対処も必

要です。

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STEP3 投与開始

1. 患者の状態について

シダトレン投与前には下記の様な場合がないか確認致します。

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2. 服用方法について

患者様がシダトレンを投与できる状態であれば、服用方法及び服用上の注意を説明します。

※シダトレンは添加物として浸透圧の高い濃グリセリンを使用しているため、患者さんによ

っては服用時にピリピリ感を感じることがあります。

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3. 初回投与・初回投与後の確認について

医師の監督のもと初回投与を行い、投与後少なくとも 30 分間は患者様を安静な状態に保たせ、十分

に観察します。

ショック、アナフィラキシー等の発現時に救急処置のとれる準備が必要となります。なお、アドレナ

リンを投与する際に注意が必要な薬剤と疾患があります。

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STEP4 治療継続

1. アドヒアランスを維持する(スギ花粉非飛散期)

来院時ごとに、患者様のアドヒアランスを確認します。

最後になりますが、シダトレンは治療に際し長い(少なくとも 2 シーズンの治療)期間を要します。

実際には、1 シーズン治療を続けた際の臨床効果はそこまで高いものでは有りません。場合によって

は、1 シーズン目に効果を殆ど実感出来ない患者様もいるかと思います。しかしながらまずは 2 シー

ズン頑張って服用して頂ければ、8 割以上の患者様が効果を実感出来る治療法です。辛いスギ花粉か

ら患者様が解放される事を切に祈っております。まずは、医師・スタッフまでお尋ねください。